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5月22日のおはなし「パンクおとぎばなし」

 大徳治朗は天下の誉れ。並ぶ者なき夢想の輩(やから)。天下夢想た、やつのこと。今日も今日とて京都にのぼる。のぼる道筋なじみの村の、いかつい親父の構える小店(こだな)、峠の団子、渋茶を脇に、語らううちに一大事。山ン中に潜みたるへんでろ毒の大蛇(おろち)がぬたり、ぬたりぬたりと姿を見せる。

「あれま、どなたか助けてくりゃれ」絹を裂くよな女人の叫び。押っ取り刀で駆けつけて、大徳治朗が見たるもの、頭だけでも背丈を超えて、雪隠小屋ほどかさがある。長い身体はいまだ山中、尾は尾だけにはるか尾根筋、早い話が山一つ、上から下まで一つに結ぶ、これぞまさしく山の神。

 うわっくと開いたるその口の、中を見通す遠近法、遥か奥には何年も、前に行方が知れなくなった、村の娘の姿も見える。それを見かけて大徳治朗、思わずふらりと足踏み出す。それもそのはずその娘、大徳治朗の想い人、懸想の気持を伝えたら、「嬉しやうちも同(おな)いやし」、想い想われ添い遂げん、矢先に行方知れずになった。

 意想外にも元気な笑顔、見れば治朗に手招きもする。光当たらぬ大蛇の腹で、ますます色白娘の肌は、腹の闇でもぺかりと光る、この世のものとも思われぬ、壮絶異界の美しさ。「やあやあ娘いざ久し、我の腕(かいな)にかき抱かん」大音声に呼ばわった、おのれの声聞きふと我に、返るはさすが大徳治朗。

 これぞへんでろ毒のまやかし、なんの騙されるものかはと

「ねえそんなんじゃなくて」
 ふとんの中から娘が言う。不満げに目を見開いている。ちっとも眠れなさそうな顔だ。
「なんだ」
「おもしろいお話しして」
「おもしろいお話じゃないか」
「そういうんじゃなくて、楽しいの」
 なかなかむずかしい。明日は幼稚園の運動会。なかなか寝付けぬという娘にせがまれて、お話をしているのだが、どうも楽しくないらしい。
「楽しいの、か」
「うん、楽しいの」
 この話、おれはけっこう楽しいんだがな。まあいいか。楽しい話、楽しい話と。おれは宙を睨んで少し考える。そしてふと楽しそうな設定を思いつく。
「じゃあ」
「うん、なになに?」
「貯金箱の中からでてきたおかしなやつの話をしてやろうか」
「うん!」
「それじゃいくぞ」

 じゃらんじゃりじゃり黄金(こがね)の山を、踏み分けいでたる男(おのこ)がひとり……

(「貯金箱の中からでてきたおかしなやつの話」ordered by atohchie-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

新作スタート。お題募集中。

2011年10月1日。
Sudden Fiction Projectの新作発表が始まりました。

1日1篇ペースをめざしていますが、これはどうなるかわかりません。
毎日、その日のお題を見て、いきなり書き始めていきなり書き終わる。
即興的に書くSudden Fictionをこれからお楽しみください。

お題募集中です。
急募!お題」のコメント欄で受け付けています。
どなたでも気軽にご注文ください。初めての人、大歓迎です。

(お題の管理上、TwitterやFacebookでは見逃しがちなので、
 どうか上記コメント欄をご利用ください)

それではこれからしばらく新作のシーズンをお楽しみください。

※発表済みの作品をご覧になりたい方は
 をご活用ください。

奥付



パンクおとぎばなし[SFP0325]


http://p.booklog.jp/book/36492


著者 : hirotakashina
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/hirotakashina/profile


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公開中のSudden Fiction Project作品一覧

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運営会社:株式会社paperboy&co.



この本の内容は以上です。


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