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30日目(後編)

ふふ船!?
イイトコ島行きの船が来てるのっ!?
なななにそれ!!!!


ウェッデルちゃんは興奮しながら言った。

「そこの海岸に船が来てるの!
さっきそばに行ってみたらイイトコ島の匂いがしたの!
絶対にイイトコ島から来たのよ!
あの船に乗ることができたら」


「ああ、どうしよう!
どうやったら乗せてもらえるのかしら!」

とりあえず、海岸に行ってみることにした。

ウェッデルちゃんは
「早く行かないと船が帰っちゃうかも!」って言って
すっごく頑張って走った。
そりゃそうだよね。
だってここにイイトコ島の船が来るなんて
そんな奇蹟、もう一生無いかもしれないし。

俺も一緒に、必死で走ったよ。
でも必死で走りながら、心のどっかで
「船がもう帰っちゃってたらいいのに」って
うっすら思ってたんだ。

すごいやな奴だなぁ俺って…(涙)





ああ…あるね……(凹)

でもニンゲンが乗ってない。
どっかに行ってるんだな、きっと。

ウェッデルちゃんが
「ニンゲンが戻ってくるまで、ここで待ってる」
って言った。
俺は「うん、そうしよう」って言うつもりだったのに
口から出た言葉は逆だった。



「今日は誰も戻ってこないよ!俺にはわかるんだ!
知らないと思うけど
ペンギンって予知能力があるんだよ!」

自分でもビックリするような
とんでもないデタラメが口から出て来た。
なんだよ予知能力って(涙)

そんなにウェッデルちゃんを船に乗せたくないのかな俺。
最低だよホント(涙)


でもウェッデルちゃんは


あああ…他人を疑うことを知らない
こんないいコをだまそうとするなんて…
俺ってほんと…(涙)


それからちょっと困った顔をしながら
ウェッデルちゃんは言った。
「ペンゾー君のこと信用してないわけじゃないんだけど
でも私、ここで待ちたいんだ」

そりゃそうだよな。
待ちたいに決まってる。

俺は何も言えなくなって
ウェッデルちゃんと一緒にニンゲンを待つことにした。
ニンゲンをビックリさせないように
岩場に隠れながら。



だめだなぁ俺。
ウェッデルちゃんの夢を邪魔するよーなこと言って。
邪魔する気なんてないのに。
ないはずなのに。

俺、自分のことキライになりそうだよ…


31日目

昨日は結局
いくら待ってもニンゲンは戻ってこなくて
俺達は岩場の影に隠れたまま一夜を明かし、朝を迎え
そしてまた午後になった。


ウェッデルちゃん、疲れちゃったんだな。
全然元気なくなっちゃったもんな。

俺はウェッデルちゃんに
「大丈夫?なんか元気ないみたいだけど…」
と声をかけた。

ウェッデルちゃんは言った。
「大丈夫。
元気がないのは疲れたせいじゃないの。
あのね、ペンゾー君。
私、一晩考えて、わからなくなってきちゃったの」

ウェッデルちゃんが話を続けようとしたその時
聞き慣れない足音が響いてきた。
なんだ?





俺は頭の中が真っ白になった。

でもとなりのウェッデルちゃんを見たら


どどどどーしたのっ?ウェッデルちゃん!
早くニンゲンに声かけないと船が出ちゃうよっ?
(出ちゃっても俺はいいけど!!)

ウェッデルちゃんは震える小さな声で言った。
「ああ、どうしたらいいのかしら…
私、本当にわからなくなっちゃったの。
この船に乗った方がいいのかどうか…

この船でイイトコ島に帰れるんなら
それはすっごく嬉しいんだけど…
でも、それって
もう二度とペンゾー君に会えなくなるってことよね?」





俺はびっくりした。
こんな大事な時に、ウェッデルちゃんが俺のこと考えて
寂しがってくれてるなんて!!

俺は、ウェッデルちゃんの手をつかんで
この海岸から走り去ろうかと思ったよ。

でもそんなことしていいのか?
ウェッデルちゃんは後悔しないのか?
俺は後悔しないのか?
ウェッデルちゃんの夢をここで終わらせちゃって
本当にいいのか?


ニンゲンはもう、船出の準備を始めていた。
もう時間がない!

俺は一瞬で心を決めた。

ウェッデルちゃんを見送ろうって。

だって
ウェッデルちゃんの夢に通じる道が
いま目の前にひらけるって時に
俺がそれを壊すなんて!
そんなこと出来るわけないじゃないか!!

俺にできることは
ウェッデルちゃんの、このめでたい出発を
「おめでとう」ってお祝いしながら
笑顔で見送るってあげることだけなんだ!

俺は夢中でウェッデルちゃんに叫んだ。



「俺、絶対すぐ飛べるようになるから!
そしたら毎日イイトコ島に遊びに行くから!
だから、これでお別れなんかじゃないよ!
早くニンゲンに声をかけなよウェッデルちゃん!
ほら、もう船が出ちゃうよ!」

ウェッデルちゃんは、涙をいっぱい浮かべて俺の顔を見つめた。


そしてすぐに
ニンゲンに向かって一目散に走っていった。

俺は岩場に隠れながら
ウェッデルちゃんが必死になってニンゲンに
「連れってって」と頼んでいる姿を見つめていた。

もちろんウェッデルちゃんの言葉は通じてないんだけど
気持ちが通じたのか、ニンゲン達は
ウェッデルちゃんをすんなり船に乗せてあげて
船から落ちないように網をかぶせてあげてから
すぐに出発した。




ウェッデルちゃんは
ありがとう、って何度も何度も叫んだ。

俺もいっぱい叫んだ。
「おめでとう」とか「頑張れよ」とか
「すぐ会いに行くよ」とか。
一生懸命、笑顔で叫んだ。

でも俺、ほんとはわかってるんだ。

たとえ俺が飛べるようになっても
イイトコ島なんて遠すぎて
行けやしないってこと。



あっというまに船は見えなくなった。

笑顔で見送ることができたと思ってたのに
気が付いたら俺の顔は
涙でぐしゃぐしゃになっていた。

きっとすっごい顔になっちゃってるよ。
ウェッデルちゃん、見ちゃったかな。

でも見ちゃったかどうかなんて
もう聞けないんだ。
もう話もできないんだ。
もう一緒に遊ぶことも
一緒にお魚を食べることも
あの笑顔を見ることも
なんにもできないんだ。



俺は
いっぱい泣いた。
おかしくなっちゃったかと思うほど
いっぱい涙が出て
止まんなかった。

ウェッデルちゃんが船に乗れたことを
喜んであげなきゃいけないのに
そんな気持ちには
全然なれなかった。


ごめんな、ウェッデルちゃん。

ほんとにごめんな。




32日目(前編)



泣いても泣いても涙が出てくる。
目が壊れちゃったみたいだ。


午後になってアニキが来た。
すごくあわててるけど、どうしたんだろ。


「あのアザラシ、海岸に停めてあった船に乗ったのか?」
と、アニキはすごい顔で叫んだ。

ウェッデルちゃんがその船に乗って
イイトコ島に行ったというウワサを
アニキは今日どこかで 耳にしたらしい。

俺が「うん、乗って、行っちゃいました」と言うと
アニキはますます怖い顔になってこう叫んだ。
「バカ!あれは」






なにそれ。

え?
動物をさらって
殺して
皮を剥いで売っちゃったり
お肉にして売っちゃったりする
ニンゲンのこと?
へぇー

…って



なんで「イイトコ島」なんて名前のくせに
そんな悪いニンゲンが住んでるんだよーっ!
くっそー!名前にだまされたーーーっ!(涙)

ウェッデルちゃんを助けにいかなくちゃ!
でもどうしたらいいんだ!
泳いで行くにはイイトコ島は遠すぎるし!

ああ、この前作った翼がもっとしっかりしてりゃ
飛んで行けるのに!

って、作ったの俺だけど!



「まだ休養中だけど仕方ねぇ。
こういうのは、ほっとけねぇ性分だからよぉ」

アニキ!アニキ!アニキ!
やっぱアニキは最高だ!
俺、一生アニキの子分でいさせてもらいます!

よし!
大急ぎで出発だーっ!

32日目(中編)



アニキ速い!
さすが伝説の鳥っすね!
ちゃんとつかまってないと落っこちそうっすよ!
このご恩は一生忘れないっすよ!

ペンサク!俺の体とおまえの体
ちゃんと縄でしばっとけよ?
おまえ腕力なくて落っこちそうだからな!


くそー
俺が『ニンゲンに声をかけなくちゃ!』なんて言わなかったら
ウェッデルちゃんは船に乗らなかったかもしれないのに!
俺のバカ!
ぜんぶ俺のせいだ!

待ってろウェッデルちゃん!
絶対に絶対に助けだすから!
俺が行くまで、どうか無事でいてくれ!




おお!あれがイイトコ島か!
こんなに速く着けるとはっ!
全速力で飛んでくれて感謝っすアニキ!



え?
もう少し先にミツリョーシャのアジトがあるんスかっ?
さすがアニキ、物知りッスね!!!

あっ!
あれッスか!?








あーーーーーー!!!
大変だーーーーー!!!
ウェッデルちゃんがーーーーーっ!!!


は、早く助けないと
毛皮とお肉にされちゃうぞ!
アニキ早く!着陸!着陸!


ううっ!そ、そっか!
相手はミツリョーシャだもんな…
特にアニキは珍しい鳥だから、見つかったら大変だ…

でででも、このままじゃウェッデルちゃんがっ!
でもアニキまで危ない目に遭わせるわけにはっ…

ううーーーーっ
どうしたらいいんだーーっ!


32日目(後編)

えーい
こうなったらもう


とめるなペンサク!
長距離飛行で疲れてるアニキや
ケンカの弱いペンサクを
ミツリョーシャに近付けるわけにはいかないんだっ!

俺は一人で大丈夫だ!心配するな!

よしっ!飛ぶぞ!
さん、にー、いち

とおおおおおおおっ!!



あっ!ペンサクの縄ほどくの忘れてた!ごめん!
って、もう遅いけど!


















ああ、無事でよかった!
また会えてよかった!
ほんとにほんとによかった!


こんなに嬉しかったのは
生まれて初めてだよ
本当に

本当に







ウェッデルちゃんのショックとアニキの疲れを
癒してるうちに夕方になり
そしてすぐに夜になった。

今日はもう帰れないから
今晩はみんなで、このへんで寝ることにした。


明日の朝になったら俺達は帰るけど
ウェッデルちゃんはこのイイトコ島に残るんだよな?

またお別れか…寂しいなぁ…
俺、ウェッデルちゃんともう
離ればなれになりたくないなぁ…


でも、そんな言葉を口に出したら
ますますお別れが辛くなっちゃいそうだから
何も言わないでおこう。

今はただ
こうしてまたウェッデルちゃんと一緒にいられるシアワセを
ひたすら噛み締めていよう。


ウェッデルちゃんは、よっぽど疲れたのか
横になってすぐに眠ってしまった。

俺も疲れてるはずなんだけど、全然眠くならなくて
一晩中、隣で眠るウェッデルちゃんの大きな背中を
ぼんやり眺めていた。





結局、一睡もできないまま夜が明けた。

眠っていたはずのウェッデルちゃんが
急にハッキリした声で「ペンゾー君」と言った。

あれ?眠ってなかったのかな。

ウェッデルちゃんはゆっくり立ち上がり
俺を見つめてこう言った。
「私、一晩中考えて、決めたわ」

え?何を?

「あのね」




え?



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