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○野原真由美の住む1Kアパートの玄関先。

真由美、男と対面している。

男、荷物を多めに持っている。

真由美「なんで、なに?どうして?」

番「びっくりした?」

真由美「う、うんだいぶね。…元気そうだね、急にどうしたの?」

番「なんかさ、急にマユのこと気になって。まだここに住んでっかなーってポスト見たら、野原だったからさ。あ、いるんだと思ってピンポン押しちゃった。ダメだった?」

真由美「ごめん、今ちょっと忙しいんだ、あたし。これから仕事だし、また今度ゆっくりお茶でもしよう。じゃあ」

真由美、玄関のドアを閉め寝室へ行く。ベッドに腰かけ、乾きかけの髪の毛をタオルでもむ。玄関の方から物音がしたのち、新聞受けから紙が滑り込む。やぶったノートである。番だ。

真由美「くそう、帰ってなかったのかよ」

真由美が手にした紙には、『分かった。待ってる』と書かれている。

真由美はその紙を持ったまま、そっとのぞき穴から番の姿を探す。

真由美は下の方に塊があるのを確認する。

真由美(心の声)「錦谷田番のかたまり。おいおい、待ってるってなんだよ、なんか話でもあるのかな。ほんっと何でまた現れた?まさかまた番とやり直すのか?ええ?まじで?いやありえんでしょう、今さら」

係1「今さら?」

真由美の耳に声が届く。部屋の中に誰かいないか見る真由美。

係1「探しても姿はない」

真由美(心の声)「え?誰?」

係1「かかりだ」

真由美「か、か、り?」

係1「番くんとずーっと一緒にいられますように、係」

 


真由美「は?」

真由美、自分の頭の中で反復する。

真由美「あ」

真由美(心の声)「あれから何年たってるんだろう…二十四、五歳だったよなあたしまだ。ってことは」

係1「苦節六年」

真由美「六年か。で、あんた誰?」

係1「か、か、り!」

真由美「意味分かんないし、今さらジローラモだし」

係1「好きに呼べ!」

真由美「は?」

係1「叶うだけありがたいと思え野原真由美」

真由美「あたしおかしくなった?」

係1「喜ばないのか?」

真由美「うわ、まじでなんなの。もう!」

インターホンが鳴る。

番がドアをノックする。

番「マユ、大丈夫?怒ってるの?」

真由美、玄関のドアを開ける。

番「酔ってる?」

真由美「酔ってないよ。ごめん今は話せない」

真由美(心の声)「ちょっと、係の人、あたしこの人、ね、あたしの目の前にいる錦谷田番ね、この人。この人とはもう、とっくに終わってんの。そんな昔の願いごと今になって叶えられても困る!」

係1「身勝手だねー。わっしの存在価値はどうなるんだよ」

番「ねえ、マユちゃん。誰と話、してんの?」

真由美「え?…あたしさあ、頭おかしくなりそうだからさ、言っていいかな?」

番「ああ、言ってみなよ、言っちゃいな。あがっていい?」

真由美「あん、いいよ。…とりあえず適当に座って」 

番、自分から一番近いイスに座る。

真由美、もう一つの方のイスに座る。真由美、体の一部をぎゅっと掴んでいる。


真由美「番はさ、今彼女いる?」

番「おお。いきなりな質問だねえ。彼女?…は、いない」

係1「ほら、チャーンス、いけ、真由美、いけー」

真由美「あー、もう、うるさい係、ちょっと黙ってて」

番「かかり?」

真由美「そう。なんかさあ、係が今さら来た。おせーっつうの」

番「(小声で)取りたて屋とか?…いるの?」

真由美「ちがうから」

係1「結構大変だったんだよ、錦谷田番をここまで連れて来るの」

   番、何かに納得した様子で頷く。

真由美「だから余計なお世話なんだよ」

番「あのさマユ、オレがその係の人と話って出来ないの?」

係1「ざーんねーん。わっしは聞こえるけど錦谷田番にわっしの声は聞こえないんだね」

真由美、係が言った通りに番に伝える。

真由美「言っとくけど、番、泊めないかんね」

番「ああ、いいよ」

真由美「‥今家ないの?」

番「いや、あるけど女の子の家ってなんか泊まりたくなるんだよね」

真由美「オプションが大事なんでしょどうせ」

番「マユちゃん最近セックスしてないでしょう?なんか荒んでるよ」

真由美「はー、相変わらずだね番。やばい。あたしさ、そろそろ出ないと罰金だから出かけるね」

番「うん」

真由美「着替えたいんですけど…」

番「あ、ごめん。トイレ貸して。いいよーって言ったらでるよ」


○真由美の勤務先、クラブシンフォニー。

店内の客席に真由美を含めて5人の女性が待機している。それぞれに携帯電話を操作したり、名刺の用意をしたりしている。

真由美(心の声)「本当、係なんていんのかよ。他の願いごとの係もいるってのか。だったらなんで今あたしこんなんなんだよもう。番はアリ?いやナシでしょう。ああー、今日帰ってまだいたら、やっちゃうんだろうなー」

客席の酔客「やっちゃえやっちゃえー」

真由美「(小声で)おまえも係か」

店のボーイ「リサさん、お願いします」

リサ(真由美)「はーい」

リサ(真由美)、席を立ち客が待つ席へ向かう。女性が席を立ち代わりに客の向かいに座るリサ。

店のボーイ「リサさんです」

リサ「リサでーす、おじゃましますぅ。はじめまして、ご一緒にいただきまーす」

客1「どうぞどうぞ。あ、あなたリサさん。お顔をもう一回見せて」

リサ「え?」

客1「ああやっぱりね。子供がいるね」

リサ「やだあ、いませんよ。もうやめてくださいよ」

客1「私ねえ、霊感強いんですよ。水子かな?」

リサ「いませんって」

客1「おかしいなあ。ちょっと手、見せて」

リサ少し面倒臭そうに手を出す。

リサ「私手相って良いこと言われたことなくってなんか抵抗あるんですよ」

   客1、リサの手を触り、見ている。

客1「あらあら。やましいことがいっぱいありますね。ギャンブルも随分やるし。お金もあちらもルーズなのかな?」

リサ引きつった笑顔で客1の顔を見る。

リサ「いーやーあん。わかっちゃいますう?」

客1「いいよね、お金もらって、酒飲んで、占ってもらってさあ。うらやましいよ」

   リサ、客1と自分の水割を作る。

リサ「すみませーん。幸せ者でーす。今日は飲んじゃっていいですか?」

客1「いいよ。そのボトルだったらいくらでもどうぞ。リサちゃん、アドレス教えてよ。休みの日にさ、ゆっくりごはんでも食べに行こうよ」

リサ「いいですよ。行きましょ行きましょー」


○クラブシンフォニー(閉店時間)

客2「ほら、リサちゃん帰るよ」

リサ、ふらつく足取りでロッカールームへ向かい着替る。

店の外で客2が待っている。

○クラブシンフォニー1階エントランス。

真由美「ありがとうございました。私今日はまっすぐ帰ります」

客2「大丈夫?送って行くよ」

真由美「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」

客2「遠慮しないで、方向一緒だし」

真由美「…はぁ、でもですね、」

通行人、怪訝な顔で真由美を見て通り過ぎる。

客2の姿は、はじめからない。

係1「お客なら帰ったよ。送っていくのはわっしだ、よーん」

真由美「くそ、てめえー」

真由美、空を殴りながら歩く。

水を買い、がぶがぶ飲む。

係1「よしよし。帰るよ」

真由美、タクシーに乗る。



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