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5月18日のおはなし「歴史的演説」

 毎度たくさんのお運び、御礼を申し上げます。いつも通りにおかしな噺をせっせとさせていただくんでございます。昨今、Facebook革命だなんだってよく耳にしますが、あれはどういうものなんでございましょうね。ああいう民衆の運動がありますと、「なになにの春」なんて名前をつけたりする。「なになにの夏」の方が活気がある気がするんですが、やっぱり「その前が冬の時代だった」ってことなんでしょうかね。

 何十年にも及ぶ独裁者の圧政を退け、世界の方々でカイロの春、アラブの春、ウォール街の春というような具合で、民衆の力が炸裂してまいります。外国だけじゃあない。あたしどもの方でも、そうか、それが流行りか、世界の流行に乗り遅れちゃなるめえてなもんで、押っ取り刀で駆けつけて、江戸の春、までいかなくても、戸越の春、41歳の春、立川志乃春、なんて具合にめいめいに流行を取り入れようといたします。

 こういう時はヒーロー、ヒロインが生まれてきますな。家柄も仕事も学歴も懐具合もとりたててどうってことのない人が、いきなり中心人物になったりする。子育てに熱心なごく普通のおかあさんですとか、成績はぱっとしないが人好きのする学生さんですとか、仕事ぶりが誠実で仲間内の信頼が厚い働き者ですとか、それまで何でもなかったような人が、脚光を浴びてぱあっと中央の舞台に飛び出してきたりする。ことにこう、しゃべらせてみると弁の立つ手合いは注目を浴びますな。

 そんな具合で、あっちでもこっちでも人気者がどんどん出てまいりまして、群雄割拠と言うんでしょうか、賑やかなことになる。どこからともなく「世直しをする十八の英雄が出てくる」なんて噂もあがってまいります。自分がそれになれるんじゃないかと欲を出す輩も出てきます。神輿担ぎでもお囃子でも大神楽でも裸祭りでも、とにかく前に出て目立つのが大好きな魚屋の松吉、略して通称トトマツってのが早速やってみることにした。とんだ失敗をするのかと思っていたら、これが結構教養があるんですな。

「明るい明日の明という字は日に月と書くのだ! お日様とお月さまが陰陽それぞれ照らしてくれるような明るい明日をつくろうじゃねえか」
 なんてどこで仕入れたか洒落たことを言って、お、トトマツの奴やるじゃねえかなんてことになります。

「天命の天という字は一にして大なりと書くのだ! 一つにして大いなるもの、それはおれたち無名の民衆のことだ。天は我らのモノだ」
 なんてうまいことを言います。そうだ!そうだ!なんて歓声が上がり、トトマツの人気もうなぎのぼりになってまいります。

「松竹梅の松という字は十八公と書くのだ! おいら松吉は、すなわち選ばれし十八公の一人なり」 
 なんてちゃっかり自分を売り込んだりもします。民衆はもう熱狂しておりますから、あまり深く考えもせずに、そうだ!そうだ!なんて盛り上がる。

「忠義の忠は中の心と書くのだ! おいらが忠義を尽くすのは、あんたたち無名の民衆だ。まん真ん中の心でつとめてみせよう」
 なんて選挙演説みたいなことまで言う。こうなるともう早い話、何を言っても盛り上がるようになってきますな。イエス、ウイ!キャン!なんてよくわからずに叫ぶ奴も出て来る。 

「硯という字は石を見ると書くのだ!」 
 もうわけがわかりません。群衆の方も「あれ? 何かな?」てなもんですが、とにかく盛り上がってますから、そうだ!そうだ!なんて叫びます。何が「そうだ!」なのかも、さっぱりわかりませんが。言ってるトトマツの方だって、もう何を言ってるのかわけがわからなくなっております。

「椿という字は木の春と書くのだ!」 
 なんとかの春と聞いただけで独裁制からの解放を連想するのか群衆はいやがうえにも盛り上がりに盛り上がってもう地響きのようなどよめきがあたりを覆い尽くします。
こうなるともう、ただの漢字雑学王の世界ですが群衆はなんでも良くなっております。「鰆という字は魚の春と書くのだ!」「鯵という字は魚が参ると書くのだ!」回転寿司の湯呑み茶碗みたいなことになってまいります。 

「マグロという字は魚が有ると書くのだ!」 
 そうだそうだ! 金は無いが魚は有る! てなわけでみんなしてトトマツの店にマグロを買いにきて、こうしてトトマツは民衆の英雄ではなく、お江戸初の販促キャンペーンの成功事例として広告史に名前を残すことになります。マグロ大尽、魚屋松吉のさわりでございます。

(「マグロという字は魚が有ると書くのだ。」ordered by atohchie-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

新作スタート。お題募集中。

2011年10月1日。
Sudden Fiction Projectの新作発表が始まりました。

1日1篇ペースをめざしていますが、これはどうなるかわかりません。
毎日、その日のお題を見て、いきなり書き始めていきなり書き終わる。
即興的に書くSudden Fictionをこれからお楽しみください。

お題募集中です。
急募!お題」のコメント欄で受け付けています。
どなたでも気軽にご注文ください。初めての人、大歓迎です。

(お題の管理上、TwitterやFacebookでは見逃しがちなので、
 どうか上記コメント欄をご利用ください)

それではこれからしばらく新作のシーズンをお楽しみください。

※発表済みの作品をご覧になりたい方は
 をご活用ください。

奥付



歴史的演説


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著者 : hirotakashina
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/hirotakashina/profile


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