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目次

こちらには、あやまり堂の書いた短編小説などが並んでいます。

 

多次元ジョー申告所

http://p.booklog.jp/book/35143/chapter/152520

てきすとぽい「並行世界の片隅で」企画参加作品

 

川柳

http://p.booklog.jp/book/35143/chapter/132319

第8回てきすとぽい杯(2013.8)に触発されて


記憶した初恋の惑溺
http://p.booklog.jp/book/35143/chapter/56111
テキスポ「天と地と」バトル参加作品
「地」部門受賞

スイーツ侍
http://p.booklog.jp/book/35143/chapter/56112
テキスポ「百文字文学賞」参加作品

砕けるロックマン
http://p.booklog.jp/book/35143/chapter/56113
テキスポ1周年記念「ロックマン大賞」参加作品

超人アルマス
http://p.booklog.jp/book/35143/chapter/84633
テキスポ「似非くいっくばとるリベンジ」企画参加作品



烏賊の降臨

 

それは奇妙な烏賊だった。
烏賊であるのに赤く、丸みを帯びていて、しかもそれは、足が8本であった。

「何と奇怪な……おぞましい烏賊ではないか」
「なぜこのようなイカが、この、さびれた辺境の漁村に」
「海神さまの、祟りであろうか」

猟師たちは恐れおののき、島の東南海でそれを釣り上げた老漁師の因藤歌雅衣(うかひ)は、人々の結論を待たずに自ら、公民館の傍らにある、鯨堂に蟄居した。

神の裁きが下るのを待つためである。

村おさが呼ばれた。
八十歳になる村長、押尾宙貴(ひろき)は、村で誰より海のことを知っていたが、この奇妙な烏賊については、真っ白な髪を小刻みに震わせるばかりで、何事も述べることはできなかった。

因藤の妻、蝉川露央沙(ろおさ)は困り果て、ツイッターを通じて人々に助けを求めた。
あまりに不気味なる烏賊ゆえ、写真を撮ることさえ憚られたが、夫の命には替えられないからと、深夜、離れたところから4K対応アイフォーンで撮影、フォロワーに拡散したところ、

 

「それはタコである」

 

旨、即座に意見が届いたが、露央沙は一笑に付した。

 これは烏賊也。蛸に非ず。
 夫を救い給え。

露央沙は憫笑とともに発言主をブロックし、なお助けを求めた。

3日、議論を続けた猟師たちは、早朝、結論に達した。
そしてその神意を問うべく、朝食もとらずに鯨堂に参集、烏賊を釣り上げた張本人、因藤歌雅衣とともに三時間余りも黙祷を捧げたが、やがて神意に叶った旨、押尾宙貴から告げられた。

押尾は静かに、

「いざ、食おうぞ、皆の衆」

そのように告げ、すなわち長箸と、村伝来の日本刀――乱藤四郎が運ばれ、古い包丁式に則り、奇妙な烏賊が捌かれることになった。

白衣に身を包んで現れたのは、龍ケ崎瀬士琉(せしる)。
村唯一の料亭のあるじだが、二日、精進潔斎をしてこの儀式に臨んだ。

「…………」

やがて、固唾を飲んで見守る人々の前で、

 ぶつ。

と、乱藤四郎の切っ先が、その奇妙なる烏賊の、丸く赤い頭部を突き刺したときであった。

「――あ、あの、みなさん!」

ばたんと、鯨堂の扉が開かれ、因藤の妻が、真っ青な顔をして飛び込んできたのである。
無論、神聖なる儀式、鯨堂は女人禁制であったから、村長は嚇怒して、

「こら、女っ! 今が何のときか、分かっておるだろう! 神事の穢れ、直ちにすされ!」
「あの、済みません。でも、あの……あんた、ほら、外、見て」

血の気を失って訴える露央沙に、夫が、よろぼいながら、格子越しに海を見て、すっとんきょうな悲鳴を上げた。

「ばけものじゃあ!」

これを聞くと、居並んだ人々も、今は窓にかじりついたり、濡縁へ出たりして、愕然とした。

「何だ、あれは……」

それは奇妙な蛸であった。

しかも、島の港湾を塞ぐほどに巨大な、あまりに巨大な蛸なのであった。
色白く、ピンと尖った細長い蛸の巨体から、十本はあろう、長大な触手がうごめき、それが次々と漁船へ絡みついては、粉砕している。

地獄絵図が展開されようとしていた。


「何だ、これは」
「ばけものじゃ」
「これこそが鯨神の祟り……」

茫然とする人々の間で、不意に、神前に置かれていた烏賊が、動き出した。
八本の足を動かし、むくりと起き上がったのである。

「あ、ああ……!」

その時にいたり、島の上空に、無数のUFOが飛来して、その瞬間から、地球侵略が開始されたのである。

 

 

 


多次元ジョー申告所


「ああたが、受付の人?」
 と、四十がらみの日に焼けた、黒髪ちりちりの、帽子をかぶった男がやってきた。
 右手に怪我をしているようで、そこをせっせとこすりながら、
「ああたが、この、多次元ジョ、ジョ、ジョ、ジョ、ジョー申告所の受付の人?」
「……担当官」
 じろり、と女担当官ナオミ・ベンケレシアは、銀縁眼鏡の奥から冷たい眼光を飛ばした。
 長い髪をかきあげ、相手を値踏みするように睨み、そして溜息交じりに、
「多次元ジョー申告所担当官ナオミ・ベンケレシア。ここはさまざまな次元において『ジョー』と呼ばれてきた人たちを管理把握する場所です。あなたは、前世において、ジョーと呼ばれた存在でしたか?」
「え、え、え、何です。ああた、申告所の人でしょう。つまりああたが、受付の人でしょう?」
「担当官。あなたがジョーであったのなら、ここで申告してください。あなたは前世でジョーでしたか? ……念のため説明しておくと、別に、ジョーそのものでなくても対象になります。城島とか、丈太郎とか、九条とか。はい。あなた、名前は?」
「そうです」
 男は理解できていない。
「ああた、受付の人?」
「……いや、だから私は担当官。受付の人でもいいけど、で、あなたの名前は? 前世の名前。ジョーだったの」
「私の友だちがですか?」
「いやいや、違う。あなたの名前。何なの、大丈夫かしら、この人。つまりここは前世でジョーという名前だった人が申告する場所。多次元ジョー申告所なのだから、あなたもジョーだったんでしょう。違うの?」
「ジョーは、私ですか?」
「そうよ。あなた、ジョーだったんでしょう」
「そうです」
「それならいいじゃない。ジョー・何?」
「そうです。ジョー・何です」
「いや、だから、ああ、もう面倒くさい。あなたの氏名は。ジョーは氏名の名でしょう?」
「銘ですか? 座右の銘。色即是……」
「違います。だから、あなたはジョー・何ですか?」
「そうです。ジョーなんです」
「ちょっと。何これ。私が聞いてるのはファミリー・ネーム。あなたのファミリー・ネームを聞いてるんだけど」
「ファミリーですか?」

「そう、ファミリー・ネーム」

「それならあれです、私は実は親父が五十六のときの子で」
「ああ! もう、だから、ジョー……、私なら、ジョー・ベンケレシアとか。ジョー・マルクスとか、ジョー・デ・トレドとか。あったでしょう? あなたのファミリー・ネームを聞いてるんですけど」
「ああ……それ。それですか。それなら、アルモナシドです」
「アルモナシド? ……イヤに気取った名前じゃない、そんななのに。じゃあつまり、あなたは、ジョー・アルモナシドだったのね」
「私ですか?」
「そうよ。ここはジョーだった人が申告するところなんだから、あなたの名前は、ジョー・アルモナシド。それでいいのね」
「私の名前がですか?」
「そうよ! 他に何を聞いてるの。ああ、もう、なんで名前ひとつ確かめるだけで、こんなに時間使ってるの! あなたの名前。なー、まー、え!」
「私の名前」
「そう!」
「ホセです。ホセ・アルモナシドです」
「……ええ?」
 担当官は目を剥いた。
「あんたジョーじゃないの? ジョーじゃないのにジョー申告所に来たの? あんたここが何をする場所だって知らないで来たの? 何で。何しに来たの。何なのあんた! いい加減にしてよ。あなた何しに来たの!」
「そうです」
「あ?」
「そうなんです、それなんですけどね。ウヘヘヘ」
 と、ホセはさも愉快そうに笑って、相手に寒気を起こさせると、
「あれですよ、ああた、私ね、こうして死んだわけですけど、最初は申告なんてことは全然、こっから先も考えてなかったんですよ。ところがね、それ、こっちに来てみると、ふわふわしていい気持ちで、私ね、あなたも知ってるか分からないですけどこんな性格だから、こりゃおもしろい場所へ来たな。あれはどうなってるんだろう、あっちはおもしろそうだって言いながら、あっちへふわふわ、こっちへふわふわって、色々遊び回っていたんですよ。そしたら、アハハ、そこの川縁のところでね、私の友だちの、マルコ・マスカラケにばったり出会ったんですよ! ね! すごい偶然でしょう。ああたも知ってるでしょう、物知りマルコ」
「知りません」
「え? いや、ほら、おでこの真ん中に大きなほくろがあって、頭なんて脳みそがうにゅにゅにゅって飛び出してるみたいな、坊主頭で、背中からはこう、光が差し込んでるようなマルコ」
「だから知りません」
「ああ、そうですか。じゃ今度紹介してあげますよ。いい奴で、本当に物知りですからね。あなたも彼のところへ行けば、いい男紹介して貰えますよ。あなた、独身でしょう」
「放っといてください!」
「まあ、ともかくね、そのマルコが言うには、おいおまえ、死んだらしいな。殺されたらしいな。え、どうだ、どうなんだ。前世での悪業が積み重なって、とうとう殺されたんだろうってね。私のこと言いますのでね、じゃあおまえはどうなんだ。おまえはちゃんと死んだのかって言うとね、そらおまえ、こんな場所にいるんだから、あんまりまともな死に方はしなかったけどって言うから、何のかんのとおまえも悪業が重なったんだな。諸行無常だなあって」
「何の話ですか」
「それでね。その物知りマルコがね、おいおまえ申告所行ったか、申告所行かなきゃいけないぞ、申告しなきゃいけないぞって言うのでね、おい何だ申告所ってって聞くとね、おいおまえ申告しておかなきゃ、来世うまいところへ生まれ直すことができないぞ、早く行け、やれ行けそれ行けって急かすものだから、ああ、そんなものがあるのか。そりゃ行かなきゃいかんぞってね、それでこうして、慌てて来たというわけなんですよ」
「ああ、そう。でもあなたはホセでしょう」
「でへへへ。そうです、私はホセ・アルモナシドです!」
「いやだから、ここは前世でジョーだった人が来るところですよ?」
「そうです」
「あなたジョーじゃないでしょう!」
「私の友だちですか?」
「だー、かー、らー!」
 と、ナオミ担当官が、頭をかきむしりながら絶叫していると、ガタンと入口の開き戸を押して入って来た男がある。
 坊主頭で、背の高い、瞳の青い、大きな男。背後からぱっと光がさして、おでこには大きなほくろ――ではない、白毫だ。長い長い毛が丸まったものを持っていた。
「おう、マルコ!」
 と、ホセが手を挙げた、それに笑顔で答えたまぶしい男マルコは、静かにカウンターへ歩み寄ると、
「ホセとはすなわちヨゼフでありヨゼフはすなわちジョセフでありすなわちジョーである。汝、疑うことなかれ。ああ善哉、善哉」
 そのようにナオミ担当官へ教え諭すと、そのまま出ていった。

 ナオミ担当官、あまりのまぶしさにひれ伏したまま何も言えない。
 今のところ、ナオミ担当官は、目の前にやって来た男の、前世での名を知っただけである。


                                                                          (了)


お題:金魚

風呂上がり小僧は金魚に餌をやり

窓の外金魚鉢を見る猫二匹

金魚なる魚を見せよと室町殿

水槽の金魚の尾に糞が付き

酸欠の金魚は口をパクパク

曲芸の金魚呑みたまに腹下し

夜の金魚覗き込めば泳ぎ出す

らんちゅうを取り損なって猫が落ち

コンピューターおばあちゃんは金魚飼い

ピッコロとじゃじゃ丸来たぞと金魚逃げ

じゃじゃ丸のポロリにピッコロ赤面し


追想1 (かおる子)

 
 心が苦しくて仕方がないから、仕方ないから、おかしな日本語で、情けない結末に至った僕の初恋を語ろうと思うのは、つらくて、心乱れて、まともな日本語を語ることができないくらいのことで、昨日は僕は学校へ行くことだった。やめた。

 先に言っておくけど、僕は普段はまともな日本語を語ることができるのは、僕の国語の成績は五段階の5だけど、今日は思いきって、おかしな日本語なのだ。それくらい、つらいことが理解しろ。
 


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