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introduction〜はじめに〜

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 このページをご覧のみなさんへ。
 このページは無料でご覧いただける「試し読み」のページです。
 本編は、ご購入いただいた方にお届けいたします。予めご了承ください。
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 ようこそ「Sudden Fiction ProjectのTOP5セレクション④ 息せき切って and other stories」へ。ここには8月16日から31日までに発表した15作品のうち、ダウンロード数が多いTOP5を集めています。巻末の「self liner notes」では、各作品にまつわるエピソードやいただいたご感想、閲覧数のベスト5など、作品をめぐるあれこれをご紹介します。

 以下は毎回共通のご挨拶。

 これまでSudden Fiction Project(以下SFP)作品を読んでこられた方の中には、なんで有料なの?と疑問に感じる方もおられることでしょう。だって、全部公開済みの作品ばかりなんですからね。なんでわざわざお金を出して買わなきゃいけないの?と思う方も多いでしょう。そうなんです。そこのところはちょっと説明しておきたいんです。実はこの「TOP5セレクション」はズバリ「おひねり・投げ銭」の企画です。

 その説明から参りましょう。

 現在、Sudden Fiction Projectでは、2011年7月1日から2012年6月30日まで、1日1篇ずつ超短編作品を連日公開していきます。ここまでチャリティ参加作品の「ぼくが今ここにいる意味」以外は、全作品無料で公開しています。これはもう、そういう方針でやると決めたので、1年366日分(2012年はうるう年)全て無料でどどーんと公開します。「みんなが自分の誕生日のSFPをひとつ持っている」というのはなかなか悪くないでしょう?

 ところで、ここまでのところ、なかなか読んだ方からのコメントをいただけず、少々さびしい思いもしています(Pubooの無料作品はログインなしで読めるからなんでしょうね)。読んだ方からのリアクションがどんな形でもいいのでほしいというのが本音です。一方で「無料はもったいない」「お金をとってもいい」というありがたい意見をいただいています。でもぼくとしては全作品を無料で公開したい。とはいえ、もしもSFP作品がいくらかでも売れればずいぶん励みになる。これもほんと。

 そこで思いついたのが「お代は見てのお帰りで」という「おひねり・投げ銭」方式です。全作品無料で公開しますが、もしも「気に入ったよ」「応援するよ」という方から投げ銭をいただけたら、これはすごくありがたく嬉しいこと。残念ながらPubooには「投げ銭」みたいなシステムがない。じゃあ、自分でそういう仕組みをつくるしかない。どんなのがいいだろう? というので始まった企画がこの「TOP5セレクション」という有料作品です。

 作品そのものも、ダウンロード数もみなさんご覧いただける通りなので、ここにはさほど新しい情報はありません(巻末の「セルフ・ライナーノーツ」の作品解説と、非公開の「閲覧数」によるTOP5は新しい情報ですが)。ですから、「この本を買う」というよりも、1年間1日1篇公開するプロジェクトへのエール、hirotakashinaこと高階經啓の無謀なる挑戦への応援としてご購入いただけると幸いです。

 あるいは、これはミニアルバムみたいなもの考えていただいてもいいでしょう。5曲入りのミニアルバム。中には「連日アップされてるらしいけど、全話に付き合うのはとても大変だ」なんて方もいることと思います。そんな方にとっては、1作品ごとに読みに行かずとも、手軽に人気作品をゲットできる便利なセレクション。そんな感じで楽しんでいただければ幸いです。

 これからいろんな価格を試すことにします。これはおひねりに最適な金額を探る実証実験でもあります。
つまりこれは「本の価格」ではなく、「SFP応援おひねりの金額」だとお考えください。前回100円だったので、今回は150円。今後、毎号50円ずつ変えてみる予定です。あくまで「おひねり」ということで、納得行く金額の号を投げ銭にご利用ください。
 
 趣旨をご理解いただいた上で、おひねりを投げて(ご購入)いただけると、物心両面で大変支えになります。
 どうぞよろしくお願いいたします。

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もくじ

introduction〜はじめに〜              1

もくじ                         2

ロスタイム                     3

デッドリンク                    4

お伽草子                        5

暗黒面通信                       6

ネゴシエーター                     7

息せき切って                    9

self liner notes〜夏風のいたずら〜          10

奥付                       11


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ロスタイム

 店内の大画面を見るともなく見ていると“みしぇる”が「わたしサッカー嫌い」とつぶやいた。ワールドカップが近いせいか、以前ならサーフィンの映像とかを流していたような店でも、みんな「W杯名勝負集」みたいな映像を流すようになっている。その方が話が弾んだりするんだろう。よくわからないけど。

「サッカーが嫌いだって? うっそだあ。4年前はユニフォーム着てスクランブル交差点で知らない人と抱き合ってたじゃない」

 ツッコミを入れても“みしぇる”は笑いもせず、「だって嫌いなんだもん」と手元にぽとんと声を落とす。また始まった。十中八九これは愚痴の始まりを告げる合図だ。それも恋愛ネタの。それもさほど深刻でない。つまり聞いている側からすると最も盛り上がらない話だ。聞かされたくないのでわざと相づちを打たない。でもそんなことにめげる“みしぇる”ではない。

「“どろしー”のところはどうなの」
「どうなのって、何が?」
「うまく行ってるの? ほら“きーす”とさ。イケメンギタリスト君とさ」

 いつから日常までハンドルで呼び合うようになったんだろう? 名前だけ聞いていたらどこの国の人たちかと思うがばりばりドメスティックな日本人ばかりだ。だからわざと本名で呼んでやる。

「『みづえはどうなの?』って聞いてほしいんだろうけど聞かないよ、あたしは」
「そうかうまくいってるんだー。うちはダメだなあ。だいたい『気分で言えば3トップ』って何?」

 効き目ナシだ。もう愚痴大会始まってるし。しかも何を言っているのかさっぱりわからないし。

「『今晩は気分で言えば3トップなんだ』とか言われてあたしはどうすればいいわけ」

 それを聞かれたわたしはどうすればいいのかを聞かせて欲しい。

「47歳なわけよ」
「はあ」
「2つ上なわけ」
「そうだよね」
「それをさ、『この辺の1、2歳はロスタイムみたいなもんだからぼくはまだ45歳さ』とかいうわけ」
「ははあ」
「そういうのって頭に来ない?」
「頭に……意味わかんないし」
「いちいちサッカーで喩えんじゃねーよ!って思うわけ」

 ああ。そういうこと。それでサッカーが嫌いなんだ。

「まあ、わかんなくもないんだけど」
「気が利いてることを言っているつもりなのよ、あいつ」
「気が利いてなくもないんじゃない?」
「頭に来るのよ、そういうのが!」
「じゃあ何で付き合ってるのよ」いい加減いらいらしてきてわたしは遮る。「そんなに頭に来るなら別れたらいいじゃない」

「そいつはおかしいな」たったいままで眠っていたはずの“いのの”がむっくり起きあがり言い放つ。「おれたちがみんな45で死ぬことになっているならまだ意味がある。45より先はない世界ならロスタイムを足す意味がある。でもおれたちはフツーに46にもなるし50にもなる。なあにがロスタイムだ」
「屁理屈はいいから」とわたし。「“いのの”は寝てな」
「でしょでしょう?」と“みしぇる”。「なあにがロスタイムだ!よねえ」

 “いのの”説に食いついてしまった。ちらりとわたしはケータイの時計を見る。確か2時間で追い出されるはずなのに、まだ店員から声がかからない。時間はもうとっくに過ぎてるのに。ロスタイムなのに。きっとお客が少ないんだろう。

「そういうにわかサッカーファンに限って!」と“いのの”が吼える。「イエローカードとかレッドカードとかやたら口走るんだ」
「そうそうそうなの」と“みしぇる”ははしゃぐ。「ねえどうにかしてよ、あいつ」
 どうにかしてほしいのはこっちだよ。早くロスタイム終了しないかな。

(「ロスタイム」ordered by helloboy-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

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デッドリンク

 1997年に初めてパソコンを買った。インターネットをやるためだ。当時のパソコンはとっくに使わなくなっていたが、捨てるに忍びなくて(なにしろ自分で買った初めてのパソコンなのだ!)、納戸の奥の奥のずーっと奥の方にしまいっぱなしになっていた。それがいよいようちが狭くなって何とかしないことには、いかんともしがたくなってきたので、納戸の中のものもすべて出して片づけることになった。

 ぼくにとって最初のパソコンは、心情的には手放したくなかったものの、どう考えてももう使いようがない。OSはあまりに古く、対応するソフトは存在しない。クロック周波数はあまりにも
遅い(天文学的にという表現はおかしいかもしれないが、天文学的桁数で遅い)。CD-ROMなんて誇らしげに4倍速なんて書いてある。4倍速だって?とツッコめばいいのか、CD-ROMだって?とツッコめばいいのか。もちろんトレー式だ。メディアはフロッピーディスクだし、中に何かデータが残っていてももはや取り出すすべがない。

 と諦めかけていたが、ふと気がついた。違う違う。このマシン、インターネットに接続できるのだ。メールさえ使えば何でもやりとりできる。1997年には重すぎてメールに添付するなんて考えられなかったものがいまならすいすいやりとりできる。それどころか! 1.3MBか1.4MBしか入らないフロッピーディスクでは扱えなかったようなデータでもいまならメールに添付してやりとりできる。

 そう。ぼくは起動ボタンを押した。何年ぶりだろうか、個人的初代パソコンを起動し、その懐かしい起動音に耳を傾け、起動画面を見つめ、そして何年か昔の作業環境に入っていった。それは実に不思議な経験だった。まるで何年か前の自分の脳みその中味を覗いているような。デスクトップは今よりもずっと整然としており、フォルダーの数も少なく、ファイルも無駄のないように気を使っている様子が分かる。

 仕事のファイルなどはのぞいてもあまり楽しいものはなかったので、すぐに見るのをやめた。ふと思い立って古い古いネットスケープを立ち上げてみる。笑ってしまうのだが、ほとんど何も表示できない。あまりにスペックが古すぎるのだ。ブックマークを丹念にチェックして回る。すると思いがけない発見がある。大学の研究室で立ち上げたサイトなどを見ると、20世紀にタイムスリップしたようなテキストだけのサイト(現役のサイト!)をいまでも見ることができるのだ。

 でも残念ながら多くのウェブサイトはデッドリンクになっていて、もはや跡形もない。仕事の資料でブックマークしたページ。友だちが始めたホームページ。「無法地帯だ!」と興奮して叫びながら見ていたアダルトサイト。後でじっくり読もうと思ってとりあえずブックマークしたページ。タイトルを見ただけではもう何だか検討もつかないページ。どれももう見ることはできない。電脳空間のどこかにそれらは消え去ってしまったのだ。

 そういえばあの素っ気ない書体の404 Not Foundという文字列も最近はあまり見なくなった。初めてインターネットに触れた頃は事情がわからずその文字列を見るたびにとまどったものだ。そういうタイトルのホームページがいたるところにあるのかとまじめに思っていた時期もある。月極駐車場というのが日本中にあるのを見て「ゲッキョク」という駐車場チェーンがあると思うようなものだ。

 などなど昔を懐かしがりながらブックマークをたどっていると、不意にあるページが開く。当時そのままの姿で。掲示板を覗くと1999年まで更新された形跡があるが、そこまでで終わりだ。50件ほどしか表示されない掲示板の書き込みの中に自分の書き込みを見つける。生まれて初めて書き込んだ掲示板。自分が書き込んだ後、どんなレスがつくかドキドキして一日中気になっていた日々。電話料金が安くなる時間帯を待ちきれずアクセスして、どんどん通信料がかさんだこと。そして管理人と直接メールのやりとりをするようになり、実際に出会い、一瞬にして恋に落ち、嵐のように付き合って別れた。

 忘れていたわけではない。でもできるだけ表に出てこないように心の深いところに抑えこんでいた記憶だ。不意にぼくは思いついて掲示板に何か書き込むことにする。「ご無沙汰しています」とタイトルを入れ、本文のスペースに、今日、どうしてここにたどり着いたかを書きつける。おしまいに「いまは2011年の8月です。次に誰かがこれを読むのはいつでしょう。」と記して書き終える。

 それから送信しようとして手を止める。しばらく文面を読み返してから送信をやめ、ブラウザを終了し、システムを終了する。

(「リンク」ordered by はかせ-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

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お伽草子

 貧しくも心優しき夫婦利して
 まぶしく明滅するその光ごと
 語り継ぐべき大いなる物語を書く巣
 聞けいにしえの教えにならい刀研ぎそうだ

 けれど時代はくだりバット50振りして
 父は誓う。受け渡すのだ、しっかり子と
 妻と友に。バットにふさわしき棹か楠
 技芸におぼれる男、その名も都議左右田

 昼はEC、ポータル、ブログ、スマホでアプリして
 夜は3つ星レストランでついエスカリゴと
 言い間違え誤魔化すため、まくおがくず
 奇計案ずる手はいまにも米とぎそうだ

 現れたるは能楽なんか知らんふりシテ
 ワキに並べる、ベル、まさかり、琴、
 まじないの力で目に見えぬ錬金術師を捕獲す
 義兄よ、これは架空の地に生い茂るお伽草だ

 関係ない話をしてるフリして
 これは他人をあざむくはかりごと
 言葉遊びにまぎれて身を隠す
 
偽計ばかりか、これぞホントの偽計と偽装だ

(「偽計と偽装」ordered by はかせ-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)
 


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