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 恒例の二年参りということで、近所の神社に向かった。いつもは、家族代表ということで、一人で新年を境内で迎えるのだが、今年は息子の高校受験の神頼みがあるからと妻は息子を連れていくように強く促した。
 神社までの十分ほどの夜道をひさしぶりに並んで歩いた。ふだんあまり話さない息子がちょっと緊張しているのがわかった。
「ぼくさ、夏休みまでは志望校への合格は絶対無理って担任の先生に言われてたよね」
 そう、あれは夏休みを前にした学級担任との面談でのことだった。
 
「息子さんは、最近特に集中力が続かないようです。ご両親が希望されている学校への受験が重荷になっているのではないでしょうか」
 ストレートに言えば、うちの子は、志望校合格は無理だということだ。
「はい、家族とよく相談してみます」
 
 その夜、私は息子と話し合うのではなく、「上司」と話し合った。
「事情はよくわかった。我々の地球リーダー育成プロジェクトは、計画通り次のステップに進むことにしよう。よろしく」

 

「ぼくね、夏休みの直前に変な夢を見たんだ。宇宙人がね、僕に話しかけてきたんだ」
 息子よ、それは私だ。と心で応えた。
「それでこう言うんだ。ぼくに勉強のし方を教えようって」
 「宇宙人」とはこんな話をしたそうだ。
 
「君は地球にやって来られる科学力を持つ我々と、地球からせいぜい月までしか行ったことのない地球人の違いはなんだと思うかね」
「ええと、脳が大きいとか、人間としての歴史が長いとか……」
「いや、違う。我々と地球人との違いは、ほとんどといってない。ただ一つだけ違うことがある」
 そういって、両手を降参するようにあげた。すると、後ろから照らされる光の具合なのか、五本の指のうち、二本が薄く透けて見えた。
「わかるかな。地球人と我々との違いは、指の本数だけなのだ。我々の文明はこの三本の指のために地球より早く進化したといえる」
「そんな、指の本数だけのことで?」
「そうだ。地球人も我々も、ものを数える時、指を折って数える。地球人は両手を使って、十まで数える。十のかたまりでものごとを進めてゆく。ところが我々は、両手を使っても、六までしか数えられない。だから、我々の世界では、五の次は、位が上がって十になるのだ」
「それって数学の時間に習ったことがある。十進法とかいう……」
「人は、なにかを計画しようとすると、一時間、一日を単位とすることはよくある。その次の単位を、十日としよう。我々の場合、さっき言ったように、十日とは六日のことなのだ。これで、地球人より四日短縮して目的は達成できることになる。ありえないと思うかもしれないが、人の感情とはそんなもんだ。我々の文明は、六進法で、地球人に差をつけたのだ。短い期間で結果を出せたのだよ」
「じゃあ、どうすればいいの」
「もうわかっているのではないかな。六進法の世界では、五の次は十。地球人の一カ月は三十日だが、我々になっては五十日にもなる。地球人の一年は十二カ月だが、我々は二十カ月だ。我々のスピードで受験勉強を計画し、実行するだけでいい。だまされたと思ってやってみなさい」
 
 息子はにわかには信じることができなかった。しかし、志望校の合格が絶望的な現実の前では、とりあえずそのやり方で学習を進めることにしたそうだ。息子にとってそれはよい決断だった。そして、今はもう合格を確信できる成績に到達している。

 妻は、私たちに気合を入れるつもりでか、私たちが出かけている間に着物に着替えていた。二年参りを終え、玄関の扉を開けると、妻が晴れ着で出迎えてくれた。しかも上り口に正座し、いつもと違う仰々しい態度で挨拶した。
 
「あけましておめでとうございます」
 息子も、つられて丁寧に挨拶した。かなり驚いている。
「あ、あけましておめでとうございます」
 
 わたしはといえば、正座して「三つ指」をついて挨拶する妻の秘密を息子が気づきはしないかドキドキしていた。

この本の内容は以上です。


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