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1

200X年-。
大学生のハルは、生まれてこのかた女と接点の皆無な人生を送ってきた一浪経験のある23歳。
一際変わった性格ではあるものの、醜男でもなく、可愛い子からアピールを受けることも少なく無い。
だが彼は、ことごとくその機会を自ら潰してきた『超ムッツリスケベ』。

この物語は、そんな彼の恐ろしくも儚い、とある1年間の体験である。





四月-。

世間が就職や入学などで新しい人生をスタートさせる、気分一新の時期である。
ハルが通うN大学も、華々しい入学式を行っていた。
式が終わり、スーツ姿の新入生を待っていたとばかりに、在学生はサークルのチラシを配り始める。
ハルも、自らが所属するサークルのチラシを一枚一枚新入生に手渡した。


「ふぅ…もう四年かぁ」
ハルはそう呟きながら、煙草の火をつける。すると、一人の男子がハルを呼びながら走り寄ってきた。


「おーい!調子どーだ?」
「おー、レン。まぁぼちぼちかな」
「そっか。いや~、今年は可愛い子多いな~♪」
レンはそう言いながら、まだ高校生の雰囲気を残す新入生(美少女限定)を凝視していた。


「ったく…好きだな~」
「ハル、そーゆーお前も今年はサクラ咲かせてーんだろ??」
ハルは「うっ…」とたじろいだ。

「ハル…ちったぁお前も妥協しろよ」
「いや…」
レンはハルに諭すように言った。

「そんなことだから、お前女できねーんだよ」
「るさい」
ハルは悩みがましく言い返した。
そんな彼にレンの説教は続く。

「んなんだから、スズもお前のことあきらめねーんだよ」
「ざっけんな」
「だったらはっきり言ったらどーだ?『お前みたいな汚ギャルは興味ねー』ってよ」
レンは意地悪っぽくハルを見据える。

「…いや」
そぅ…ハルはいざ女を前にすると興味無い人物でも逆らえないのである。
レンを代表する彼の友人達は、そんな彼に呆れさえ感じていた。


「とにかくよ、チラシは配ったんだ。誰か来るかは明日以降のお楽しみだな」
レンは煙草を吸いながら楽しみそうに言った。


その夜、ハルは考えた。
『俺は…やっぱり女に縁は無いのか…』


結局……毎夜彼を慰めるのは酒と成人男子向けのDVDやパソコンサイトだった。


『レン達をなんだかんだ言いながら…俺は女の子をこんな風にしか見れないなんて…』
ハルは歯ぎしりをしながら、自らを慰む行為に走る…。


「あぁぁ~……」
右手にパソコンのマウスを持ち、利き腕でない左手で自分を一生懸命慰めた。
中学時代から約10年、『サウスポー』も手慣れたものである。

「俺は……一体何をやってるんだ……」


翌日、そんな彼に転機が訪れる。




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1-1


大学の入学式の翌日、ハルは自らが所属する旅行サークル『フェアリーティル』の部室にいた。

「ふ~」
ヘビースモーカーであるハルは、暇さえあれば煙草をくわえた。
おかげで部室は煙で充満しきっている。


「おつ~!うぉっ、煙っ」
部室に入ってきたのはレンだった。

「ハル、誰か来た?」
「いや……」
レンの質問に、ハルは首を横に振る。
だが、レンはニコニコしていた。

「どうした、嬉しそうな顔して」
「美少女……一人ゲット~☆」
レンの感嘆にハルはなぬっ!?と言わんばかりに立ち上がる。

「入っといで~」
レンがドアを開けると、一人の少女がいた。
ルックス・スタイルはアイドル級で、地味と思える黒いスーツもスマートな着こなしをしていた。

「初めまして」
「新一年生のマユちゃん、彼女旅好きなんだと♪」
ハルの目は彼女に奪われていた。

「よ、よろしく……」
「まゅです、ょろしくお願ぃしますぅ」
ハルはマユの上から下まで舐めるように見つめた。


『こ、こ、こ……交尾したいなぁ……』


ハルの中で性欲まみれの生々しい雑念が渦巻く。
その時、ドアがコンコンと鳴った。

「はーい」
レンがドアを開けると、二人の少女が立っていた。

「あのぉ、チラシを見たんですけどぉ……」
身長がとても小さい方の少女が言った。

「あ、どうぞどうぞ」
これが、運命の出会いだった。






「チラシ見てくれたんだ!さ、中入って」
レンは気さくに二人を部室の中に入れた。

「入会で?」
「あ、はぃ」
レンの質問に小さい方が答える。
もう一人の子はこくこく頷く。

「二人、お名前は?」
「あ、私はサチと申します。こっちの背の高い子はユキ」
「サチちゃんとユキちゃんね、俺はレン!こっちで煙草ふかしてるのがハル。ヨロシク!」
自己紹介するレンに、サチとユキはペコリと頭を下げる。

「あと他に、ケイって男の人と、ナオとミクって女の子もいるから!」
部長であるレンは、その場の紹介等を円滑に進める。
意外にも??初日で女の子が入ったことで、サークルは盛り上がりを見せ始めた。

「いやーよかった!ケイさんも喜ぶぞ~」
「そうだな……」
ハルは静かに呟いた。

「ハル、お前も♂ならもっと素直に喜べよ」
「いや、これでも喜んでるんだが……」
ハルは微かに口元をニヤつかせていた。

「ま、とにかく今週末に新歓やるからさ。マユちゃん来るの楽しみだな~☆」
ハルはホントは大の女好きだ。
しかし、超ムッツリの為、レンのようにオープンにいかず、女の子からは一部『妖しい人』と言われていた。
これが、汚ギャル・スズを誤解させ引き寄せる原因ともなっていた。


そして、サークルはその週末に新入生歓迎会を開くことになる。




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1-2

週末の『フェアリーティル』の新入生歓迎会の日になり、その夜一同はU駅前の居酒屋『腹黒木屋』に集まった。
新入生とOB一人を含めた、計11人である。

「全員集まったか?」
「一年生のマユって子とサチって子がまだです」
レンの呼び掛けに、2年男子のカズが答える。

「やぁレン、今年はサークルいい感じになりそう?」
「えぇ、トロさんも期待しててよ。なっ、ハル☆」
「……るさい」
ハル達が話してると、駅改札からマユが慌ててやってくる。


「すぃません、遅れちゃってぇ(汗)」
マユは、ピンクのキャミソールに白いショール、グレーのミニスカートと言うCanCam系のモテカワファッションで登場。
男性陣はそんな彼女にくぎづけになる。

「いゃいゃ、大丈夫」
それまで黙っていたハルは、何故か積極的になる。

「ホント、やーね男の子って」
3年女子のナオが呆れ半分で呟いた。
「ハルさん、あたしたちが入学した時より嬉しそうですね」
2年女子のミクがからかうようにハルに詰め寄った。「いや……そんなことは無いつもりだが……」
ハルはたじたじになる。


「あとはサチだけだな。ユキちゃん、遅れる連絡は?」
「多分もうすぐだと思います」
レンの質問にユキが答える。
すると、間もなくサチが現れた。

「お待たせ致しましたぁ」
駅改札から、ぶかぶかのニットにチェックのミニスカート姿のサチが走ってくる。

「すいません遅れちゃってぇ」
サチは息を切らせながらレンに言った。
「よし、全員揃ったな。じゃあ店に行こう」
一同は腹黒木屋に足を運んだ。


「乾~杯~(^O^)/」
酒の入ったグラスを交わし、それぞれ料理をつまみながら会話に入る。

「活動で、来週末に軽井沢に……」
「マユちゃん今は彼氏は……」
「レンさんって、今は……」
「カズー、それとって~」
「ミク、ヨッパだし~☆」


…………………………。

飲み会が始まり一時間が経過し、席替えなども行われ、雰囲気はマッタリになっていった。

「マユちゃん、大丈夫か??」
「はい…まゅ、お酒慣れてないんで…すいませんレン先輩ぃ…」
マユは顔を赤らめながら、レンに寄り掛かる。
レンもマユの背中を摩る。

「あー!レンさんマユちゃんとくっついてる~♪」
酔いが回ったナオとミクが二人を囃し立てた。

「おいおい」
当のレンも満更でない。


『レンめ…』

一方、ハルの中で嫉妬の炎が燃え上がっていた。
そして、酔いとともにマユへの欲情も萌え上がる。
また一方、ユキとトロが仲良く話す脇で、サチもハルと同じところを見つめていた。





「大丈夫か?」
「ぅ~…」
カズが酔った一年男子のトモをトイレで看病する中、ハルはモンモンしながら用を足していた。


『マユちゃん、可愛いなぁ……。ハァ……ハァ……』


ハルがいかがわしい想像をしながらトイレを出ると、彼を待っていたかのように、サチが立っていた。

「ハル先輩」
「うん?」
「レン先輩は彼女はいるんですか?」
「まぁ、いないが……」
サチの質問に、ハルは再び顔を歪める。


『…何でレンばっかり…』
ハルは心の中で呟いた。
テーブルに戻ると、レンにニャン♪としながらくっつくマユの姿があった。
キャミソールが少しはだけて、胸の谷間が露になる。

「ぅっく…」
ハルは思わずニヤけた口元を手で隠した。
その時、同じようにサチはレンを見ていた。



一時間後、一同は店を後にした。

「これから二次会だぁ~☆」
「ミクったら~」
ナオとミクを先導に、一同はカラオケに向かうことになった。


「わーい(≧▽≦)まゅ、レン先輩の歌きくの~♪」
「まったく……」
レンもまんざらではない感じでため息をつく。


「俺は…遠慮しておく…」
ハルがボソッとそっと言った。

「そっかぁ……じゃ、お疲れ様です!」
「ハル、おつ~!」
一同は、カラオケに向かった
……ハルともう一人を除いて。



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1-3

「さて…」
飲み会が終わった後、ハルはひとり飲み直そうと、行きつけの店へ足を運ぼうと考えた。

「ハル先輩」
「うん?」
ハルの3メートル背後には、いたって145センチのサチが彼を待つように立っていた。

「先輩は今から帰るんですか?」
「まぁ、一人で飲み直そうかと……。君はカラオケ行かないのか?」
ハルが質問すると、サチはやや下を俯き呟く。

「……ハル先輩に相談したいことがあるんですが、私もご一緒してよろしいですか?」
ハルはキョトンとしながら首を縦に振った。
サチもペコリと頭を下げる。
二人は、彼の行きつけの居酒屋『縁起屋』に行くことにした。


20分後、二人はテーブルにて飲み直していた。
ハルが最初に切り出す。

「で…相談とは…?」
「……」
サチは俯きながら黙る。

「何なんだい…?」
再び聞き返すハル。

「あのぉ…」
サチが口を開く。


「レン先輩とマユちゃんは…その……できちゃうんでしょうか…?」
ハルは思わず酒を噴きそうになる。
「……??」
「レン先輩明るくてカッコイイし、その……私なんかじゃダメなんでしょうか?」
「いや……そんなことは無いと思うが……」
ハルの言葉に、サチは目を見開いて彼を見つめながら言った。


「私……今までの恋が、実ったこと無いんです。だから……!」
サチの言葉に、ハルは違和感を見せる。


「その……君はレンが好きなの……か?」
「ぁ……」
サチはハッとして俯いた。
わずかながらコクッと頷く。


『本当に…なんでレンばっかりなんだ…!』
ハルは心の中で再びグチを囁いた。


「でも仕方ないですよね…」
「えっ?」
サチが口を開いた。
「マユちゃん可愛いしスタイルいいし……。私みたいなチビで胸も無いブスなんて男の人に見てなんて貰えないですよね……」
「……」
それ以降、サチとハルは酒のグラスを口に運びながら、深い沈黙を続けた。



2時間後-
二人は縁起屋を出て、駅に向かって歩いていた。


「……」
「……」
ずっと黙ったままの彼らを、駅が静かに迎える。


「じゃあ、お疲れさん…」
ハルはサチにそう言いながら手をフッと上げ、駅に背を向ける。






「……」






「ハル先輩っ!!」






ハルは後ろを振り向いた。


それはもう遅かったのだろうか。



気がついた時には、数メートル離れていた彼とサチとの距離は既に無くなっていた。



『なっ…』



彼女の手はハルの腰や背中に絡み、顔は胸に埋めていた。
微かに烈しい吐息が聞こえる。



次の瞬間、背伸びした彼女は彼の唇に自らの唇を突然重ねた。



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2-1


「ん…ぅん……」

ハルは時間が止まったかのように固まった。
自分より30センチは背が低いサチから無理矢理顔を抑えられ、唇を密着させられた彼の眼は大きく開いたまま。
その間サチは、みずみずしいフルーツを食べるかの如くハルの口を吸い寄せた。


ちゃ…ぴちゃ…


人気が無いU駅前に、生々しい音が奏でる。
するとサチはスッと身を離した。


「突然こんなことしてすみません。私、どうにかなりそうで……」
サチはハルに頭を下げ、「お疲れ様でした」と一言告げると、駅の中へと消えていった。


「……」
ハルはそのまま20分程立ち尽くした。





一ヶ月後-

ゴールデンウイークも過ぎ、あれからサチは何も無かったようにハルに接した。
ハルは未だ動揺を彼女に隠しきれないままだ。


「ハル!」
「ん……」
レンの一言で気付く。

「元々だけど、お前最近変だぞ?」
「そ、そんなこと無いぞ」
「ふーん。まーそれより、今度サークルの軽井沢旅行だけど、ハルと俺が車出しゃいいよな?」
「あぁ…」
不思議がるレンに、ハルは溜息混じりに返す。
彼の頭は、あの日の出来事で侵されていた。



5月末日-
旅行サークル『フェアリーティル』の軽井沢旅行の日を迎える。
この旅行が、ハルの運命を大きく揺るがしていくとも知らず……。





『フェアリーティル』の一同は軽井沢の白樺林道の沿いにあるロッジに到着した。
白木をベースに建てられたオシャレなロッジの周囲は、樹木に茂りはじめた新緑が涼しい初夏の訪れを告げている。


「うぉ~!軽井沢ー!」
車から降りたレンは、はしゃぎながら叫ぶ。

「うん、ちょっと肌寒いけど空気がうまいわ~!マイナスイオンすごいやんな」
サークル4年のケイも深呼吸しながら感嘆を漏らす。

「レンさんケイさーん、荷物を中に運んだらどうしますか?」
「あぁ、早速みんなが行きたい駅前のアウトレットに行こう!」
ナオの質問に、レンも待ち切れずとばかりに答えた。

「レン君早よ行こうや。俺めっちゃ腹へったわ~」
ケイも隠し切れない空腹を訴える。
一同は一旦ロッジに荷物をまとめると、軽井沢駅前のアウトレットに移動することにした。


土日と言うこともあり、アウトレットは家族連れやカップルで溢れかえっていた。

「じゃあ、これからEastSideの、予約したイタリアンレストランに行くから!」
レンが一同を誘導する。


「わーい(^∇^)まゅ、イタリアン大好き☆」
「ミクも大好き~♪」
女性陣はいきなりお洒落なレストランに行けると言うこともあり、かなり盛り上がっていた。


『俺は蕎麦屋がいいんだがなぁ』
ハルは心で呟いた。


「わっ、すっごーい!」
ナオが綺麗な店内を見て驚く。
一同はそれぞれ席に着き、喜びに浸った。


20分後、パスタなどの料理がテーブル上で並ぶ。
「おいしそ~☆」
全員が料理を口に運ぶと、「美味しい!」の声が一斉に上がる。

「レンさん、いいとこ見つけましたね!」
「だろ!」
カズが料理を頬張りながら喜びの表情を見せる。
レンもよかったとばかりに、自慢げに腕を組む。


「先輩、まゅがピザ取りますね☆」
「Thanks!」
マユはるんるん気分でレンに料理を取る。

「ねーミク、レンさんとマユちゃんってもうできてるのかな?」
「ぽいよねぇ。マユちゃんかわいいし、あんなにアピられたら男はたまらんでしょ」


「……」
ナオとミクが話す中、サチは神妙な顔つきでその二人を見ていた。


「ズズズ~」
「ちょっとハルさん。パスタを音たててすするのやめてください!ラーメンや蕎麦じゃないんですから」
ナオが不機嫌そうににハルに言い寄った。

「あ、すまん……」
「そんなだから彼女できないんですよ」
「ぅ……」
ハルはたじろいだ。

「そや。だから変なサイトのサクラに2時間も市役所の駐車場で待たされるんや」
「ケイさん、それは言わないで……!」
ケイの言葉をハルが表情を苦くしながら遮る。
一同が笑いで溢れる中、サチだけは神妙にハルを見つめた。


ハルは『Merry-Rings』と言うサイトに以前登録し、出会いを漁って幾度と騙されていた。
その話は、サークルの中では大きい笑い話となっていた。


そして、その夜-





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