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9月26日のおはなし「谷間の老人(なぞなぞ2)」

 谷間にその人は住んでいて、行けばいつでも受け入れてくれる。ただしいつもその谷間にたどり着けるとは限らない。同じ場所にあるはずなのに、どうしても見つからないことがある。だから時として糸電話に頼ることになる。糸電話はその人とぼくを結ぶ生命線だ。これなくしてはぼくは何も書き進められない。ここのところどうしても谷間に近寄ることができず、だからぼくは糸電話をはじいた。

「何を持っている?」
 糸電話越しにもこちらが見えているようなことを言う。
「いただいた手紙です」
「知らんな」
「詩のようなものが書き記されています」
「そこにはなんと書いてある?」
「『いにしえより知られた名器』。どういうことでしょう」
「想像してごらん」
「想像を。
 怒りでもなく悲しみでもなく、
 とらえどころなくつのるやるせない想いを封じ込め、
 その想いを宝石に変えてしまうという言い伝えで、
 古くから知られた器」
「何でできている?」
「恐らくガラス製」

 糸電話の向こうでふうっと息をつくのが聞こえる。
「悪くない。次には何と書いてある?」
「『潔く心固め、粋』」
「想像を」
「ともするとちりぢりばらばらになりそうな想いを
 一見何の変哲もないガラス器の内にとじ込め、
 深く哀しく光を放つ石に、あるいは意志に、
 固めてしまう潔さをよしとしようというところ?」
「それをもって粋と呼ぶのだな、その続きは」
「『まだ見もせぬ君のため生き』とは、
 会ったことはない運命の人のために生きる、
 ということでしょうか。
 想いを固めた意志の宝石を胸に、
 いつか会うと定められた人のために」

 悪くない、悪くないと呟く声が聞こえる。
「まだあるのか。ならば聞かせてくれ」
「『されば誓いのかた明記』」
「どういうことだ。想像してみろ」
「その誓いを、運命の人との出会いを胸に
 これから生きるのだという誓いを書きつける。
 いわば運命に向けての誓約書をつくり、
 いよいよ覚悟を固めるわけです」
「それから」
「『我知らず重ねるため息』。
 ああ。でもどうしてもやるせない想いにため息がもれる。
 そのため息をこの器に集めるんですね。
 古代戦士の妻が涙を溜めたという涙壺のように。
 するとそこに宝石が生まれる。
 ついたため息の数だけきらきらと光る意志となる」

 ふたたび糸電話越しにふうっとため息をつくのが聞こえた気がする。
「なかなか悪くなかった。しかしそれはなぞなぞだよ」
「なんですって?」
「最後の1行が答だ」
「どういうことでしょう」
「もう一度、声に出して読んでみろ。
  いにしえより知られた名器
  潔く心固め、粋
  まだ見もせぬ君のため生き
  されば誓いのかた明記
 どうだ。知らず知らず“ためいき”を重ねているだろう? それで
  我知らず重ねるため息
 と来るわけだ。どうだ楽しかったか」
「いったいどういうおつもりです」
「書きあぐねたのであろう。いまお前が想像したその話を書けばいい」

 というわけで、この作品は谷間の老人の導きで書かれた。しゃくなのでこのいきさつを全部まとめることにする。ふうっ。

(「ため息」ordered by えりちゃん-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

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 現在、連日作品を発表中です。2011年7月1日から2012年6月30日までの366日(2012年はうるう年)に対して、毎日「1日1篇のSFP作品がある」という状態をめざし、全作品を無料で大公開しています。→公開中の作品一覧

 SFP作品は、元作品のクレジットをきちんと表記していただければ、転載や朗読などの上演、劇団の稽古場でのテキスト、舞台化や映像化などにも自由にご活用いただけます。詳しくは「Sudden Fiction Project Guide」というガイドブックにまとめておきました。使用時には、コメント欄で結構ですので一声おかけくださいね。

 ちょっと楽屋話をすると、7月1日にこのプロジェクトを開始して以来、日を追うごとにつくづく思い知らされているのですが、これ、かなり大変なんです(笑)。毎日1篇、作品に手を入れてアップして、告知して、Facebookページなどに整理して……って、始める前に予想していたよりも遥かに手間がかかるんですね。みなさんからのコメント、ツイート(RT)、「いいね!」を励みにがんばっていますので、ぜひご協力お願いいたします。

 読んでくださる方が増えるというのもとても嬉しい元気の素なので、気に入った作品を人に紹介して広めていただけるのも大歓迎です。上記Facebookページも、徐々に充実させてまいりますので、興味のある方はリンク先を訪れて、ページそのものに対して「いいね!」ボタンを押してご参加ください。

 10月からは「1日1篇新作発表」の荒行(笑)を開始し、55作品ばかり書き上げる予定です。「急募!お題 この秋Sudden Fiction Project開催します」のコメント欄を使って、読者のみなさんからのお題を募集中です。自分の出したお題でおはなしがひとつ生まれるのって、ぼくも体験済みですが、かなり楽しいですよ! はじめての方も、どうぞ気軽に遠慮なくご注文ください(お題は頂戴しても、お代は頂戴しないシステムでやっています。ご安心を)。

 こんな調子で、2012年6月30日まで怒濤で突き進みます。他にはあんまりない、オンラインならではの風変わりな私設イベントです。ぜひご一緒に盛り上がってまいりましょう。

奥付



谷間の老人(なぞなぞ2)


http://p.booklog.jp/book/34702


著者 : hirotakashina
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/hirotakashina/profile


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