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 鍋にマロニーちゃんは欠かせない。鍋の半分がマロニーちゃんでも構わない。そして、おでんには欠かせないのはシラタキだ。半分シラタキだったらかなわんが、結んであるシラタキは真っ先にほぐして麺のように啜り上げる。基本的に麺が好きなのだ。啜りたいのだ。ならば蕎麦でもラーメンでも食えばいいだろうが、酒の肴が欲しいのだ。こう寒い日が続くと焼酎の湯割りが旨い。ならば、鍋だろう。おでんだろう。
 その夜の鍋ときたらどうだ。
 俺は鍋をつつく、マロニーちゃんを探して菜箸を操る。そして、箸に絡みつくそいつを摘み上げればエノキダケだった。俺は眉間に皺を寄せてそいつを鍋に戻す。
 「お父さんっ!」
 女房の声が響き、続いて、娘らの視線が突き刺さる。俺は渋々エノキダケを椀に移し、勢いよく啜りあげた。ポン酢が飛び散り、末息子の茶碗に飛び込んだ。
 「きったねぇな、おっさん」
 「こら、お父さんになんてこと言うの!」
 よくできた女房が声を荒らげた。しかし、マロニーちゃんがないのは如何なものか。仕事から帰ればまずは風呂。鍋の主役はマロニーちゃん。この二つに例外はない。
 俺は銀鱈をつつきながら湯割りを一杯。そして、早々と席を立った。
 「あらもういいの?」
 「ああ、なんだか食欲がないようだ」
 飯に関して文句があっても表明はしない。義父さんの遺言だ。俺は湯飲みに二杯目の湯割りを拵えて書斎へと引っ込んだ。
 Steve Earle の Train a Comin' を回しながらリクライニングチェアに身を委ねる。嗚呼、至福。腹五分目くらいでチビチビ啜る焼酎も悪くはない。ダイニングからは女房と末息子の声が聞こえてきた。
 「あんたのせいでお父さん機嫌悪くしたんじゃないの?」
 「知るかよ」
 俺は鼻で笑い飛ばす。実際のところ 末息子のせいではない。
 マロニーちゃんがないからだろう!
 大声を上げながらダイニングへ戻ったらどうだろう。唖然とする家族の顔を思い浮かべて再び鼻を鳴らす。くだらない親父。つまらない親父。いつの間にか板についてきたものだ。
 さらには面倒くさい親父というのもある。自分で言うのもなんだが、俺はあまり家族に面倒をかけたことがない。日々に必要な銭だって些細な額であれ毎月口座に落ちている。
 俺は思いたったように立ち上がる。そして、ストックされたA4プリント用紙を一枚デスクに広げると、衣紋掛けに吊されたスーツの内ポケットからParkerのボールペンを抜き取った。MaruBatsu Labor Unionと刻まれたそのペンは会社で支給されたものだ。
 ひとまず星野哲朗の詞を書き出してみる。そいつを読み直し、一行加えた。

 

 一緒に死ぬのも愛ならば
 離れて見守る愛もある
 あなたのために別れを選ぶ
 私の誠がわかるなら
 さがさないで 私をさがさないで下さい

 

 でも やっぱり探してください 父

 

 書き綴った用紙を掲げ、口角を持ち上げる。我ながら何とも面倒くさい親父だ。俺はいたく満足し、まず携帯電話の電源を切って引き出しにしまう。そして、ロングのダウンコートに身を包み誰にも気づかれないよう家を出た。

 いやに星の多い空。こんな夜はひどく寒い。さて、どうして時間を潰そう。近所に行きつけの呑み屋があるでもない。駅前の本屋にでも足を運ぼうか。交差点を渡りコンビニエンスストアを横切る。「酒」の文字を見るとまだ少し呑みたい気分だ。冬のコンビニでいつも思うことがある。非常に簡単でヒット商品間違いなしのアイデアだ。
 ホットドリンクの棚にワンカップを並べて置く。こんな寒い日にひや酒は飲めんだろう。もしくは、ワンカップを買い求めるおじさんに一言笑顔で尋ねて欲しい。
 「温めますか?」
 フタをとってしまえば、レンジでチンできないこともないだろう。とは言え、コンビニでワンカップなど買ったことがない。ひょっとしたらやってくれるのかもしれない。
 そんなことよりあれだ。俺は臭いに誘われコンビニへと入っていく。
 目当てはもちろんおでんである。主役は緩く結ばれたシラタキだ。俺は発泡スチロールの容器とオタマを手にとり、迷わずシラタキとたっぷりの汁を装う。そして牛すじと大根だ。練り物はあまり好まない。シャキシャキのゴボウやニンジンの入った野菜天は旨いが、それがこれらのどれに該当するのか、やる気の感じられないアルバイトに確認してまで食いたいものではない。
 レジを済ましてふと気づく。家出中の身だ。何処で食べよう。末息子と同年代と思われる小僧どもが店の前でカップ麺を啜っているが、混ぜてもらう訳にもいくまい。末息子と言えば10年も昔に一緒に遊んだ公園があった。あそこならばベンチがあったはずだ。俺はおでんが冷めぬよう足早に公園へ向かった。
 静かな夜の公園でベンチに腰掛け、はじめにシラタキを解く。そして、牛すじの串を抜く。最後に、大根を八等分に刻んで軽くかき混ぜた。最近、コンビニ飯に少々手を加えて食すチョイ手間料理という文化があるそうだが、俺にとってこのコンビニおでんの食い方は昔からスタンダードだった。俺はすじ肉と刻んだ大根を上手いこと絡めながらシラタキを一気に啜り上げた。夜の公園の澄んだ空気を振るわせながら静寂を破る。日本の啜り食い文化に万歳。
 最後の一滴まで汁を飲み干すと、幾分身体が暖まった。湯割りの酔いもすっかり抜けた。そして、自分が残していった置き手紙を思い返した。はじめに気がつくのはやはり女房だろう。書斎をノックして俺がいないことを知ると、首を傾げて辺りを見回す。デスクには不可解な置き手紙。女房は頓狂な声をあげながら裁判後の勝訴報告さながら紙を掲げてダイニングへと駆け戻るだろう。子等は唖然とし、娘がつぶやく。
 「なんなのこのおじさん。ウザすぎる」
 それはおそらく三女だ。俺は鼻を鳴らす。
 「由季のおとうさんッスよね?」
 不意に声をかけられ俺は振り返る。娘の名を気安く呼び捨てにするこの小僧は何だ。
 「どなた?」
 「由季のクラスメイトッス。さっきコンビニにいましたよね?」
 「ああ、入り口でカップラーメン食べてた子か。よくおじさんのこと誰か分かったね」
 「由季の携帯でお父さんとお母さんの写真見たんスよ。仲良いんスよね。由希が言ってましたよ」
 否定することではないが、見知らぬ小僧にそんなことを言われては返答に詰まる。そして、おそらくただのクラスメイトではないと踏む。
 「由季にメールしたら、お父さんに伝えてくれって」
 俺の目は月明かりに浴びながら泳ぎはじめた。そして、恐る恐る尋ねる。
 「なんだって?」
 「小さいのでいいから牛乳買ってきて欲しいそうッス」
 「ギュウニュウ?」
 「なんかお母さんからみたいッス」
 俺は何かに突き動かされるように立ち上がる。すると風呂上がりのそれのように目眩がした。そもそもの問題は何だったのか。一気に時間を遡る。その場でフラフラと立ち尽くす俺に不安を覚えたのか。小僧が駆け寄ってきた。そして、俺は小僧の両肩を強く掴んだ。
 「マロニーちゃんがないからだろう!」
 冷たい空気がビンビンした。

動物公園日和

 ズーはいいじゃないか。
 長年連れ添った女房と出向いた動物公園、俺は素直にそう思った。

 

 夫婦は子供に恵まれず、一匹のセキセイインコと静かな日々を送っていた。会社勤めをはじめてから一体何度目の盆休みだろうか。何処へ行くでもないが、盆休みの前後に有給休暇を加え、いつもより長い休みを取ることにした。
 「旅行でも行くんですか?」
 俺の休暇がそんなに珍しいのか、若い連中は口を揃えて聞いてくる。悪気がないのは分かっているが、予定などないことを知りながらわざと尋ねているのではないかと僻み根性がこみ上げる。皆が出勤しているのを余所にのんびりとしてみたかった。それだけのことだ。
 そんな休みに限って冴えない天気が続く。予報では盆休みの最終日(俺にとっては最終日の前日)から晴れ間が見え出すとのことだった。それにもかかわらず、
 「結局、今日も雨ですね」
 女房は茶を啜りながら呟いた。俺は新聞に目を通しながら「ああ」と応える。何処へも行かないにしろ雨には鬱々させられる。からりと空が晴れたなら、散歩がてら図書館に出向いて、雑誌でも捲ってから、その足で缶ビールを買って帰ろう。しかし、こんな天気に出歩くのは億劫だ。一日家で過ごした夜のビールも大して旨くない。
 「何処か行かれるんですかい?」
 お天道様にもからかわれているようだ。
 「明日は、晴れますよ」
 陰鬱な心持ちを察して女房は言う。
 「そんなこと言われんでも、こいつに書かれてある」
 俺は新聞の天気欄を指先で弾いた。
 「そうでしたか。それは余計なことを言いました」
 女房は五家宝を摘み、茶を啜る。続いて何を言うかと思えば、俺のささくれた心に追い討ちをかけてきた。
 「明日、何処かへ行かれるんですか?」
 俺は絶句して立ち上がる。そして、その場を立ち去ろうとした矢先、意外な言葉を繋いだ。
 「動物公園にでも行こうじゃありませんか」
 俺は阿呆のように口を半開きにして、女房を見下ろした。
 「そんなつもりで休みをとった訳ではない」
 「分かっていますよ。でも、いいじゃないですか」
 あいつは言い出したら聞かないところがある。インコを飼うとなった時もそうだ。どことなくあの時と近いものを感じる。動物とのふれあいは子供がいないことへの慰めなのだ。そう思うと何も言い返せない。いい歳をしてからおたふく風邪などにかかってしまったのは俺なのだ。
 「好きにすればいい」
 再び座り込むわけにもいかず、そう言い残して自室に籠もった。
 二人揃っての外出となれば、随分と久しぶりだ。お義母さんや足の悪い義姉さんの面倒を見ながら女房も大変な日々を過ごしていることだろう。ここらであいつの好きなように休日を過ごすのも悪くない。
 俺はコンピューターの電源を入れ、動物公園を検索した。都内だけでも思いのほか在るものだ。俺はその内容や所在地などから二つの選択肢に絞り込んだ。
 パンダをとるか、コアラをとるか。
 俺は女房の顔を思い浮かべる。円らな瞳、不恰好な鼻、小さな体、どれを取ってもパンダよりコアラのほうがお似合いだ。思わず鼻が笑う。そして、遠足前夜の少年さながらワクワクしはじめた。

 ふと思い立ち、押入れに頭を突っ込んだ。奥の方で眠っていたそれを引っ張り出して指先でほこりを拭う。ハァと息を吹きかけて着物の裾でレンズを磨いた。
 それは、父親から随分昔に譲り受けた双眼鏡だ。両の目にあてて窓の外を眺める。まだ使えそうだ。一緒に見つけた麦藁帽子も取り出し、それを被って双眼鏡を首から下げてみた。夏休みが何より待ち遠しかった少年の成れの果て。窓ガラスに映る姿に苦笑した。
 双眼鏡と麦藁帽子を押入れに戻そうとした時、部屋のふすまがノックされた。
 「ちょっと待て」
 言うと同時にふすまが開かれた。そして、女房は俺が手にしたものを見るなり、口元を緩めた。
 「あまりその気でなかったら止めにしようかと思いましたが、そうでもなさそうですね」
 俺は無言で両手にしていたものを押し入れへ放り込んだ。
 「あら、そんなことなさらずに」
 女房は小走りに歩み寄ると、押入から麦藁帽子を取り出して頭の上に乗せた。
 「あなたが要らないのなら、私がかぶります」
 「好きにすればいい」
 女房から目を逸らせば、コンピューター画面にコアラが映し出されていた。見れば見るほどよく似ている。俺は女房に向き直った。
 「明日はコアラの動物園に行くことにした」

 

 翌朝、俺は窓を眺めてため息をついた。雨天ではないにしろ、決していい天気とはいえなかった。下駄でも放って占っているか。まったく天気予報というものはあてにならない。
 女房は鼻歌交じりに弁当をこしらえている。今更、中止にするとは言えまい。たっぷりのミルクと砂糖を混ぜた珈琲を水筒に注ぎ、弁当を鞄に詰めると準備は整った。
 雨が降っていなければ傘は持たない。用心深い女房が傘を持ち、俺は水筒と鞄を抱え、家を出た。
 京王線・高尾山口行き。このまま高尾山まで行ってしまうのも悪くない。しかし、今日は女房の好きなようにすると決めたのだ。高幡不動で下車し、動物公園行きの専用車両に乗り換えた。
 盆休みは明けたというのに、小さなホームには我々と同じような格好の人々が多く見受けられた。学生諸君にとってはまだまだ夏休みなのだ。
 やがて動物公園行きの列車が現れた。その外装にはゾウやらキリンやらの絵が描かれており、なんとも子供じみた車両だ。ホームを見渡せば、青っ洟をたらした子連れや、若いカップルばかりではないか。俺は場違いなところに向かっているのではないかという不安を覚えた。
 「まぁ、かわいい」
 女房はその列車がお気に召したようだ。列車は緑一面の山際をすり抜け、あっという間に人気のない停車場へ滑り込んでいった。
 我先と飛び出す子供たちを見送り、シートから腰を上げた。動物公園を目の前にすると大きなゾウの像が待ち構えていた。ゾウのゾウ。厄介な代物だ。
 料金を払って門をくぐると、女房は真っ先にコアラが見たいと言い出した。
 「せっかくだから、疲れてしまう前に見ておくほうがいいだろう」
 「コアラに期待しながら、他の動物たちを見るのも失礼ですし」
 なるほど。それも道理だ。俺たちはまずコアラのもとへ足を運ぶことにした。途中、ちょっとした発見があった。随分五月蠅い子供たちがいるものだと顔を顰めれば、その声の主はヤギを眺める子供ではなく、ヤギそのものであったのだ。そこで、ごく当たり前のことにひどく納得させられた。ヤギは「メェ」と鳴くのだ。それは実に見事に「メェ」で、カタカナで書けば「メェ」、平仮名で書けば「めぇ」としか表記しようのないほどの鳴き声だった。

 動物公園は広大なうえ起伏が激しい。また、コアラともなれば公園の上座と言うべき一番奥まったところにいるようだ。やっとの思いでそれらしき所にたどり着くと、もう休憩にしたい気分だった。しかし、女房の活き活きとした表情を見せられると、そうとも言い出せない。俺は辺りを見回す。案内板によると確かにここなのだがコアラの檻が見当たらない。
 「あちらのようですね」
 女房の向かった先にはコンクリート作りの建造物。さすがは公園の主役だけあって檻の中で野ざらしにされている訳ではないようだ。警備員までもが立てられたその施設には、何やら物々しい雰囲気が漂っている。
 女房は躊躇なくその内へ踏み込んで行った。しかし、直ぐにご対面とはいかない。はじめの部屋にはコアラの生態に関する展示があり、事前に彼らに関する予備知識を身につけなくてはならないようだ。気持ちよさそうに居眠りをするコアラの写真には注釈がされている。その一文を読んで俺は唖然とした。一日に二〇時間は寝ているのだという。この後の面会で彼らは起きているのだろうか。
 不安を胸に奥の部屋へと進んでいくと、案の定、眠っているようだ。一匹目の彼は本当にコアラなのかと疑うほど、ただの毛玉と化していた。二匹目はかろうじて耳が覗ける。三匹目のそれは鼻だろうか。四匹目も同様。こんな調子で終わってしまうのかと半ば諦めていたところ、俺は雄叫びを上げながら目を見開いた。WOWOW。五匹目の彼は活動しているではないか。
 背を向けたままであるが、確かに木の葉に手を伸ばし、それを頬張っているようだ。起きていただけでも良しとすべきか。しかし、せっかくここまで来た女房のために、一目だけでもこちらを向いてくれないだろうか。そんな思いも露知らず、彼は黙々と葉を頬張る。
 「かわいい」
 薮椿が花を落とすように女房の口元から言葉がこぼれた。慈愛に満ちたその表情に、俺は胸をなでおろした。
 コアラに手を振ってその場を後にすると、場面は急展開。ゾウやライオンといった見ごたえのある動物に続いて、昆虫館にたどり着く。ムカデやゴキブリまでも展示されており虫唾が走る。足早にその場を後にすると、女房は「お腹が空いた」と言いだし休憩所にて弁当を広げはじめた。
 何も虫だらけの館の脇で飯を食うこともないと思うが、確かに腹が減った。空腹にはかなわず、昆虫館に背を向けながら丸テーブルに肩を並べた。
 握り飯を二つ平らげたところで、女房は紙コップに珈琲を注いだ。曇り空の下、気持ちがいいとは言えないが、炎天下よりはよかったかもしれない。深緑を揺らす風を吸い込めば、ほのかに獣の臭いが飛び込んでくる。都心の外れにこんなところがあったのだ。
 「あと、レッサーパンダは見たいですね」
 俺は園内マップを広げて絶句した。昆虫館とは真反対の最果てにあるという。今日の女房は随分と活力にあふれている。俺は重い腰を持ち上げ、食後の腹をゆったりと揺らしながら再び歩きはじめた。
 道の途中、俺はレッサーパンダの姿を思い出そうとするが、どうもうまくいかない。脳裏に浮かんでいるのはアライグマのようだ。レッサーパンダは川原でリンゴなど洗わないだろう。洗わないアライグマ。続いてタヌキが連想される。
 「レッサーパンダとはタヌキの親戚か?」
 「さぁ?パンダの親戚でしょうか」
 「すると、クマか?」
 混乱した頭のままレッサーパンダに辿り着くと、カメラをかまえた子連れがガラス張りの檻の前を右往左往していた。何をそんなに慌てているのかと覗いてみれば、随分と活発にタヌキ、否、レッサーパンダが駆け回っていた。コアラとは異なる旺盛なサービス精神に思わず見入ってしまう。その上、よくできたぬいぐるみのようだ。

 一匹連れて帰りたい。

 そんな思いさえこみ上げるほど実に愛くるしい。

 しばらくレッサーパンダに見とれていると、弛緩しきった俺の顔を女房が覗き込んでいた。俺は咳き込み顔を修正した。
 「そろそろ帰るか」
 女房は満足そうに頷いた。
 レッサーパンダの檻からはしばらく何もいない遊歩道が続いた。緑に囲まれた緩やかな坂道は我々二人のケモノ道といった風情だ。小雨が振り出し、女房が赤い傘を開く。俺はその傘を手にとり、二人寄り添い歩いた。
 「こんなところで、逃げたライオンにでも出くわしたらひとたまりもないな」
 「やめてくださいな」
 意地の悪い俺は、頬を膨らませて顔をしかめる女房の少女性を楽しんでいる。久々にこうして歩くのも悪くない。先の見えない緩やかなカーブ。もう少し続けばいいと思う。
 ズーはいいじゃないか。

 

 補足しておく。パンダはネコ目パンダ科、レッサーパンダはネコ目レッサーパンダ科、アライグマはネコ目アライグマ科、タヌキはネコ目イヌ科、クマはネコ目クマ科だそうだ。ネコ目は食肉目とも呼ばれ裂肉歯(読んで字のごとく肉を裂く歯)を持つものとされている。
 パンダとレッサーパンダは完全草食なので安心していただきたい。


奥付



Puzzzle文集3


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著者 : puzzzle
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