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別れと再会

 

「あのさ、結依…。」

「えっ?何?」

ランチを食べに、彼氏とフレンチカフェに来たはずの結依は、この日もまた、ぼんやりと何かを考えていた。

「さっきの俺の話、聞いてた?」

彼は、残っていたパスタを一気に口の中に詰め込む。彼女とのデートを楽しんでいるようには、見えなかった。

「あ…。ごめん、ちょっと、私、ぼーっとしちゃってて…。」

ガシャン! と、故意に派手な音を立てて、彼はフォークを置いた。

「…この頃、俺と会っててもいつもそんな感じじゃん?」

そう言って、彼は深くため息をついた。

苛立った彼の表情が怖くて、何も言い返せずに、結依は半分ほども料理が残っている皿の端にシルバーを寄せる。

「話しかけても上の空でさ。…一体、俺以外の誰のこと考えてるの?」

「誰…って、別に、そんな!」

まさか浮気を疑われてるとは思わなくて、結依は慌てて胸の前で両の手のひらを広げた。

「さっきも、言ったんだけど。ね?最近の結依のこと見てて、俺より好きなヤツ、できたんじゃないかと思ってたんだ。」

彼の目は、もう、怒ってはいない。呆れていた。

「いや、ホントに。別に…好きな人なんて…。」

「結依はさ、俺といて楽しい?」

「……うん?」

「俺はなんか…デート中もぼやっとしてる結依見てると、浮気してんじゃないかとか嫉妬ばっかして楽しくねぇよ。こんなデート、本当に楽しいの?」

「…わかんない。」

「…なんだよ、それ。」

彼は目を伏せて、2、3度頷くと吐き捨てるように言った。

「なぁ、俺たちもうダメだよな?今日で終わりにしよ。じゃ!」

結依に反論の余地も与えず、彼はテーブルに五千円札を叩きつけて足早に店を出て行ってしまった。

 

後を追いかけようとは、考えなかった。

目の前で起きたことにただ呆然として、たった今、男に振られたんだと理解するまで、数分かかった。

不思議と、悲しみは感じない。

また、頭の中がぼんやりしてきて、どこか遠くで、声が聞こえた気がした。

 

『コレデヨカッタンデショ?』

 

結依は、反射的につぶやいていた。

「わかんない…。」

 

 

アパートに帰ってからも、結依はひとり、壁に寄りかかって呆けていた。

外がだいぶ暗くなった頃、バッグにしまったままだった携帯を取り出し、電話帳から、今日振られた彼のメモリを消した。彼の画像が入ってたピクチャーフォルダも、彼のメールが残ってたメールボックスも、まとめて全消去した。

 

なんだか、すっきりした気分だ。幼馴染にメールしてみようか…。

結依は地元で予備校に通う浪人生の友達にメールを打ち始めた。

『元気?聞いてよー、私、今日ね、付き合ってた彼に振られ…』

そこまで打って、しばらく考えた後、結依は文章を全部消して、もう一度、始めから打ち直す。

『メール、久々だね。元気にしてる?私、夏休み長くて退屈になってきたから、ちょっと、実家にかえろっかなー。歩未んちに、遊びに行ってもいい?また、海とか眺めたくなった。』

 


歩未の変化

 

大学進学とともに、この春上京した結依は、9月に入って初めて帰省した。電車を乗り継いで、4時間半。生まれ故郷の小さな田舎町に近づくと、見慣れた海辺の風景を窓から見下ろすことができた。波がキラキラと太陽の光を反射して…結依は自分のふるさとを初めて、「美しい」と思った。

 

歩未とは何度かメールを交わし、週末の夕方に泊りがけで家に遊びに行くことに決めた。

 

当日。

『久しぶりだし、夕食は一緒に食べましょ』と、言う歩未の母親の言葉に甘えることにして、東京土産を持って夕方の6時半に歩未の家を訪ねた。本当に久しぶりだ。チャイムを鳴らすとすぐ、ドアが開く。

「あらあら、結依ちゃんたら綺麗になってー!あゆはね、ちょっと家庭教師の先生との勉強が長引いてるみたい。ここで、座って待っててね!」

歩未の母に促されて、リビングのテーブルに着くと、ものの数分で歩未が2階から降りてきた。

「ユイー。久しぶりー。おまたせー。」

「わー。歩未変わってないね!」

「ユイはすっかり垢抜けちゃったねぇ。すごーい。」

歩未の母は忙しく動いて、テーブルの上にはすぐに料理が並びだした。

「さっ、食べましょ。」

と、勧められて…結依は小さな疑問に気がついた。

「あ、あの。」

「どしたのー?ユイのお箸、ここにあるよ。」

歩未は、もうお味噌汁をすすっていた。

「いや、歩未の先生って、もう帰ったの?」

「は?」

「家庭教師の先生。今、勉強してたんだよね?」

歩未は、結依が口にした疑問に納得し、口の中の物を飲み込むと、頷きながら答えた。

「あー。んとねー。先生はね、うちに直接は来ないの。」

「…どうゆうこと?」

「授業は、パソコンでネット回線を使ってスカイプでやるから、先生は自宅とかセンターからつないでるわけ。」

結依はちょっと考えてから口を開いた。

「スカイプ、ってチャットだよね?声だけで授業?」

「そー。チャットだけどねー。お互いライブカメラ使ってるから…、ま、興味あったら後で見せたげるよ。ん、この唐揚げ美味いよー。ほらー、食べて、食べてー。」

「あ…いただきます…。」

最初は遠慮がちに食べていた結依も、昔のように次第に打ち解け、歩未の母に勧められるままおかわりまでしていた。

 

夕食を終えて、一息ついた後、二人は歩未の部屋のある2階に上っていった。

「えへへー。あんまり片付かなくって。ごめんねー。」

前置きをしてから、歩未は自分の部屋に結依を通した。

「うわ!でかいパソコン…って、何で3台?」

「んー?パソコンはひとつだけど?…あ、モニター?」

「…うん。」

歩未の部屋はなんだか、女の子らしい、という感じの部屋ではなくなってしまっていた。

「んとー。右のが、TV。CSで講義見るからねー。あと、真ん中の一番でかいのがメインで、左のはサブモニタだよ。」

「えー。CS見れんの?いいな。」

結依はのんきに呟いた。

「いやいやー、予備校のサテライト見るためだよ。」

歩未は、疑問だらけの様子の結依に、なるべく簡潔に説明をした。

「んー。予備校って言ってもね、私が入ってるとこはデジタルスクールだから、普段の授業は学校には行かずに家でCS放送を見ながら勉強するの。」

そう言って、歩未はTVをつけてみせた。

「ほら、夜とか休日とかは再放送してんの。」

内容を見ると、女の先生がホワイトボードを使って、漢文の授業をやっていた。

「へぇー…。この部屋にいるだけで、勉強できちゃうのか…。」

「模試とかがある時は、仙台の本校まで行って受けるんだけどね。」

バカでかいデスクと、その上の3台並んだ、これまたでかい液晶モニター、いろんな色のよく分からないコード類…。

結依には、それらは無機質なオブジェに見えた。

「ねー。浪人中の私の話なんて大して面白くないでしょー。」

歩未は、ベッドの上に勢いをつけて倒れこむ。

「ううん、なんか、びっくりした。パソコンとか、詳しいんだね、歩未。」

結依は、歩未の隣にちょこんと座った。

「んー。そんなに。ただの引きこもりだよー。それよりさぁ、ユイの事教えてよー。大学楽しい?」

急に体を起こした歩未は、目を輝かせて聞いた。

「…うん、まぁまぁね。…あっ!」

「え?」

結依は、窓をの外を見て、声を上げる。

「夕日!すごい赤い!ね、ベランダに出てもいい?」

「あー。何かと思ったー。いいよー。」

 

二人は、順番にベランダに上がった。

 

 

 


潮風の吹く ベランダで

 

「きれーい!夕日が海に沈むとこって、感動するよね!」

「あー。ユイは久々かぁ…。」

ベランダの真っ白な手すりから、結依は身を乗り出すようにして海を眺めた。

「このベランダいいよね!前にも一度、ここで夕日を見せてもらったっけ。懐かしいな…。」

潮風が、栗色に染めた結依の長い髪を乱した。

寄せては返す、波の音だけが、人気のなくなった浜辺を包む。

赤く染まった夕日は、静かに水平線の向こうに消え、二人は無言で最後までオレンジ色の光を見送った。

 

完全に日が沈んだのを見計らうように、歩未が口を開いた。

「ねーえ?こういう事さー、聞いてもいいかな?」

結依は苦笑して、

「こういう事って何よ?わかんないよ。」

と返した。

「あのねー。映画とかで、えっと…口をはむはむ動かしながらさぁ、キスしてるのあるじゃん?」

「ハハ。…はむはむって、…わかるけど。」

「あれってー、…オトナのキス?」

結依は思わず、ぷっ、と吹き出してしまった。歩未は昔から、こういうところは変わってない。

「えー。ちょっとー。わかんないから聞いてんのにっ!」

歩未は、可愛らしく唇を尖らしてほっぺたを膨らませた。

「いや、うん、ごめん。確かに、そうだね。えっと、はむはむはディープキスしてるよね。」

ベランダの手すりに頬杖をついて、歩未はちょっと考える仕草をした。

「あれー?」

「ん?」

「ってことはさー、…うーん?オトナのキスの事を、ディープキスって言うの?」

また吹き出しそうになりながら堪える結依。歩未は真面目だ。真剣に聞いているんだ。

「う…ん。そう、だよ。」

首を傾げたまま、さらに、質問を続ける。

「んーと…。ユイは色々知ってると思うから、どんどん聞いちゃうけどー。」

「色々って、何さ…。」

歩未の真似をして、結依も頬杖をついてみた。なんだか変な展開になってるな、と思いながら。

「普通のキスとはさー、どう違うのかなぁ?」

「うん…。や、あれは…いわゆる、ベロチュウ?」

「あ?舌?」

「そ、そうそう。」

ベランダに吹く潮風は、少しずつ冷たくなっていく。

反対に、結依の心臓は不思議に熱くなっていき、変な汗が出始めた。

手のひらを自分のスカートで何度か拭った。

「…でー、舌を…どうすんの?」

「うー。何ていうか…、だねぇ。」

「うん、うんっ!」

どうしても、歯切れの悪い答え方しかできない。結依は、頭を抱え始めた。

にもかかわらず、歩未の方は、ひときわ目を輝かせて結依の顔を覗き込んでくるのだ。

「…で?」

「…。ま、彼氏とかできたらさ、わかるんじゃない?」

結依は説明を放棄して、乾いた笑いを浮かべる。

答えを待っていた歩未は、急に不機嫌になった。

「えー。何それー。彼氏いる人の余裕の発言?…バカにしてんでしょ…。」

「あ…ごめん!馬鹿にしてるわけじゃないってば…。」

「だって!」

歩未はいったん言葉を切り、明後日の方を向いて呟いた。

「ユイは、もう、経験あるんでしょ?」

答えに困る鋭い質問ばかりで、口ごもる結依。

「そりゃ、まぁ…、ハイ。」

「ずるーい。私にも教えてよー。」

「いや、教えてって…。」

 

その時、結依にちょっぴりのいたずら心が生まれた。

歩未の肩に手を乗せて、自分の方に引き寄せた。

柔らかな猫っ毛の歩未の前髪を、すぃ、と、耳にかけてやる。

結依は薄暗くなったベランダで、何の抵抗もしないのをいいことに、歩未のファーストキスを奪ってやった。

ふっくらとした瑞々しい唇の感触を、惜しみながらあごを引いた。

初めての女の子相手のキスは意外に嫌な気分ではなく…。 

「…ねー?」

「ん?」

吐息がかかるほどの距離で、歩未が囁いた。

「オトナのキスは?」

ここまできたら、と、結依は腹をくくった。ねだる歩未が悪いのだ。

歩未の背中と首の後ろにきつく腕を回して、再び、唇を重ねる。逃がさない。

ぴったりと、口をふさいだ後、少し斜めに唇をずらし、舌の先で、歩未の唇の輪郭を軽くなぞっていった。

「…ん、ふっ…。」

甘い声が漏れるとともに歩未の口元が薄く開くと、その隙に舌をもぐりこませる。

結依は逃げようとする舌を、強引に絡め取った。

「…ふぅ。」

一度、腕を緩めると、歩未は虚ろな瞳で息を吐いた。

「ダメ。歩未からも。」

そう言って、結依は誘うように、今度は軽く唇を触れさせた。

意味を理解した歩未は、自分からそっと口を開いておずおずと舌を差し出した。

入ってきた歩未の舌を味わうように優しく吸ってやる結依。

「ん、あ…ぅん…。」

うっとりとした目で、小さく喘ぐ歩未はいつになく色っぽく見える。

何度か繰り返すうちに、歩未は結依の真似をしてくるようになり、二人は長い間、オトナのキスを交わした。

「…あっ…?」

「どした?ちゃんと、分かった?」

結依はいたずらっぽく笑った。

「あのー…。」

歩未が妙に可愛らしくもじもじしている。

「ん?」

「いやー、ちょっと…変…。」

そう言って、歩未は慌てた感じでベランダから部屋に降りていった。

さすがに風が冷たくなってきたので、結依もベランダを降り、鍵をかけて歩未のそばに戻った。

 

 

 


女の子と女の子

 

歩未はうつむいたまま、ベッドの上に腰を下ろしていた。

なんだか気まずくて、少し、間を空けて結依が座った。

「アハハ。彼氏ができたときのための予行練習にしては、ちょっと頑張りすぎたかな?」

わざと茶化して言ってみても歩未は笑ってはくれず、結依の手を取ると、自分の太ももに押し付けた。

「えー…と。」

「どしたってば?」

歩未は真っ赤になって、必死に何かを伝えようとしていた。

「あ…熱くなって、ね。ぬる、ぬる…って、いう…。」

不安げな顔で握った手に力を込めてくる歩未の様子に、状況が分かった結依も、つられて赤面した。

「これは…、変、なの?」

「あ、いや…。別におかしいことじゃ…。」

言いかけて、結依は、女の子同士だったら、おかしいのだろうか、と、ちょっと疑問に思った。

「えっ…だって、あの、こんなに、ね…。」

泣きそうな表情で、手を引かれ、結依は歩未のワンピースの裾からそっと右手を忍ばせた。

胸が高鳴って、心臓の真ん中から、体に熱が広がるように感じた。

女の子を抱きたくなった男の子も、こんな感じになるのだろうか。

腕を伸ばして、下着の奥に触れてみた。

中指を少し曲げると、ぬるり、と滑って第一間接を超えるほどまで指先が沈み、柔らかく、温かな感触に包まれた。

「そこ…変じゃ、ない?」

歩未は上ずった声で、結依の腕にしがみつくようにして訊ねてくる。

そんな歩未がたまらなく愛しく思えた。

「うん…大丈夫。気持ちいい証拠だから。ね?」

「あぁ、…そっかぁ。」

ちょっとずつ指を動かしていくと、歩未のそこは、どんどん濡れて溢れてくる。

湿らせた人差し指でまさぐっていると、固くなった大き目の粒が見つかった。

結依は爪の先に少し力を入れるようにして、それを指で弾いた。

「んうっ…ん!」

ひときわ高く喘ぐと、歩未の体は、びくんっ!と大きくしなる。

「え?…な、何!?」

今度は、指に絡まるとろりとした液を、たっぷりと指先ですくい、ぷっくり顔を出した粒に塗りつけるようにくすぐってみる。

「や!えっ?だ、ダメ!それ、ダメぇ…!」

全身をがくがくと震わせて、歩未は、軽くパニックに陥っていた。

結依が、下着の中から手を抜いて両腕で、ぎゅうっ、っと歩未を抱きしめ、そして、耳元で囁いた。

「ね、歩未?もっと、…知りたい?」

歩未は、上気した頬を染めて、完全に体を預け、コクリ、と頷いた。

 

 

 


女の子の秘密

 

淡い色のワンピースの上から、うっすらと、ピンクのブラが透けて見えている。

正面から抱きしめて、服の上から、水風船のように張りのある歩未の豊かな胸に顔をうずめてみた。

「わぁ…。」

「ん?ユイ?」

「おっぱい、ふっかふかだー。」

「きゃあー!」

女の子の体に触れてゆく時の、宝探しのようなワクワク感を、結依は初めて知った。

「じゃ、シワになるから、脱ごうねー。」

返事を聞かないうちに、背中のジッパーが、一気に一番下まで下ろされてしまった。

「あ…。」

ピンクのブラのフロントホックも、素早く外され、支えを失った歩未の乳房が、ぽよんとはみ出る。

「ふふっ、脱いじゃえ!」

「えー。ユイも脱いで!全部脱ぐの!」

少しだけ考えて、ベッドから降り、結依は、わかった!と、頷いた。

靴下、ブラウス、ミニのプリーツスカート、キャミソール…次々と勢い良く脱いで、床に落としていく。

「うぉ…。」

半分脱がされたまま、結依のストリップショーを眺めていた歩未が、妙な声を上げた。

「…何?」

「エロい下着…。」

「ぶっ!」

ワンピースの袖と、ブラの肩紐をするりと自分で下ろした歩未は、ベッドの上に膝立ちになって結依の胸に抱きついてきた。

黒地に、ピンクのレースとリボンが映えるセクシーなブラに頬擦りして、うっとりと呟く。

「綺麗な谷間…。」

胸の膨らみと、膨らみを重ねて押してみると、はね返ってくる弾力が面白い。二人は何度も、感触を楽しんだ。

そのうち、歩未の手が結依の背中に回ると、ホックが外され、ブラがずり落ちていく。

「あっ!…ちょっと…。」

胸の辺りから、何か重さのある物体が、ぼとっ、と、落ちた。遅かった。

「…あれ?」

落ちた物体は、肌色のビニール素材に包まれて、中の半固体がぶよぶよしている。

「おっぱい…半分落ちたよ…ユイ。」

渋い顔で、結依は潔くブラを外して見せた。

覗いてみたブラの中身は何重にもパッドが重なっていて、奥にさっき落ちた「偽おっぱい」が仕込んであった……。

「…これは…詐欺なような…?」

「…。詐欺、言うな。」

ノーブラになった結依の胸は、少々残念な事情だった。

「えっと、ちっちゃくてもカワイイと思う。」

「うるさいよ…。」

歩未のフォローが全然フォローになってなくって、やけになった結依は、ベッドに歩未の体を押し倒した。

「…襲うよ?」

「きゃー。」

余裕を見せ始めた歩未の唇に容赦なく喰らいつく。

女の子の体の全部を食べたら、甘い味が、するのだろうか。

 

 

 



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