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(1)~(5)

(1)『寒いにゃん』

真冬の寒さが戻ってきたのか、墓の掃除を終えて戻って来た僕の手がかじかんでいる。
思わず息を掛け暖めようとして広げた掌に、死んだ筈の猫のミーコが肉球の手を置きながら言った。
「お風呂が沸いてますにゃん、お入りにゃん」
湯殿に立ち込める湯気を見て、僕の背中に再び寒気が走った。


(2)『今朝の僕』

僕が目覚めに想像でバタートーストと珈琲味の空気をお腹いっぱいに吸い込むと、脳がウォーキング!と命じて来たので布団を抜け出し歩き始めた。
辿り着いたスーパーマーケットでカレールー持ってレジに立っていると、子供が僕を指さして叫んだ。
「ねぇママ、あのお兄ちゃんパジャマだよ~」


(3)『赤い謎』

グルグルと廻るコインランドリーの洗濯槽をボーッと眺めていると、見覚えの無い赤い物が僕の青い縞模様のパンツと一緒に踊っているのに気が付いた。
「赤パン?なんて持ってないぞ」
乾燥まで終わった合図が鳴る。
僕は何故か人目を忍んで赤い物を取りだした。
「赤いブ・ブラジャーだ……」


(4)『アンラッキー』

一つでもコタツ、なんてギャグを言いながら郵便受けを覗くと、手紙の代わりに牛乳が入っていた。
ラッキーと思いカフェオレを作って、ロスタイムのラストプレーでシュートが入ったサッカーの試合を観た後、急に腹が痛くなってきた。
そう言えばあの牛乳、一体誰が置いてったんだ?


(5)『面白い形の雲』

雨の音が止んだので外に出てみると、空はすっかり青空が広がり、面白い形の雲が一つ浮かんでいた。
僕は清々しい気分になって、あぁ~と大きな口を開け伸びをした。
と、一滴の生ぬるいものが舌に乗っかったと思ったら、バサバサと大きな音がして、雲が遠くへ去って行くのが見えた。


(6)~(10)

(6)『転がった男』

寒いと言っては一枚、寒いと言っては二枚と服を着込む男が居た。
一度着こんだら脱ぐのが面倒で、暖かい日でも着込んだまま過ごしていたが、汗がじんわりと滲んできたと思ったら、汗が冷えて今度は悪寒がして来た。
寒い寒い。
男は手当たり次第に服を着込み、遂に床に転がったのだった。



(7)『ドゥンガドゥンガと唱えよ』

守りの神サボラーヌに念を集中しているジルゼンは、ヨーロッパ一の美男と讃えられながらも、美女どもの熱狂する声は龍耳の如く届かない。
吾が身の宝の剣を神に捧げ、丸腰になって一心不乱に祈りを奉げるジルゼン。
遂に戦いは勝利! 
彼の国を守る心が天に通じたのだった。



(8)『日月の音』

ある日突然、僕の両肩から芽が出て右に紅い花、左に白い花が咲いた。
僕は花を肩から抜くと庭に植えておいたが、翌朝庭を覗くと両方とも花が無くなっている。
不思議に思っていると玄関のチャイムが鳴った。
「お届けものです!」
中には太陽と月の絵が描かれたオルゴールが入っていた。



(9)『赤い月』

一定のリズムを刻む雨音を聞きながらPCのキーを打つ僕の手の甲に、赤い毛玉が乗っているのに気付いた。
僕は吹き飛ばそうと口をすぼめて近付けると、赤い毛玉が先に動いた。
「あれ?蜘蛛だ!」蜘蛛は僕の指伝いに降りるとMのキーで止まった。
「M?Moon?Red Moon なんてね」



(10)『眠れる僕の彼女』

「初心に帰れの初心とは何時か?それは朝だと言った人を心から尊敬するわ。毎日葬式して生まれ変われば良いのだと。死んで生まれてまた死んで。そしてまた生まれようって。じゃあ明日の朝に……生まれたての私よ」
彼女は一気にこう語ると、毛布を独り占めして寝入ってしまった。


(11)~(15)

(11)『もっちーくん』

12月が始まると同時に冷凍庫に貯め込んでいたそれを食べることにした。
厚さ3センチに切られたそれは、これから綴られる日記帳の1ページ目のように白い。
私が親しみを込め「もっちーくん」と呼ぶと、鍋の中のもっちーくんも私の涎と感嘆の声を誘った。
「いや~ん、やわらか~い」



(12)『古本屋』

「ごめんください」
「そんなに数はありませんよ」
「あ、いえ、あそこにある本が欲しいのですが」
「あら、お面はいらないの?」
「いえ、本を……」
「それは残念。最後の一面がなのに」
「え?じゃ、じゃあ、ついでにそれも本と一緒に……」
手に取ると、何故かお面は僕の顔にソックリだった。



(13)『天辺』

人生のハードルを全て越えた時点で、予想外にも毛が抜けてしまった。
「おい、毛じゃなくて気が抜けたんだぞ!」
もう一人の俺に詰め寄ったが返答は無い。
おまけに頭皮が異常に柔らかくなっている。
「いっその事、頭の形を変えてやれ!」
俺は決して登ることの出来ない山を頭の天辺に作った。



(14)『食ってやる!』

過激に掃除をしたせいか、ラーメンを食べながら睡魔が襲ってきた。
「あと3本……」
しかし箸が転がり遂に闘いに負けてしまった。
夢の中では残り3本の麺が鰻のように逃げる。
「くそ!麺のヤツ」
麺を追いかける。
「ははは、やっと捕まえたぞ!」
と思った瞬間、丼ぶりに顔を突っ込んだ。



(15)『絶世の美友情』

若きバルサミコサとインテルハイッテラは蹴り合いの喧嘩をした後でヒッシと抱き合う程の大親友だった。
ある日ケイブルティヴィヴィと名乗る絶世の美女が現われた。
「私が欲しければ二人で決闘をしなさい」
ところが二人は顔を見合わせ言った。
「欲しいものは今腕の中にあるのさっ!」


(16)~(20)

(16)『卵焼きとゆで卵な二人』

「お菓子を食べながらTVを観ましょうか?」
「やだ!TVを観ながらお菓子を食べるの」
「でも卵を割らないと卵焼きは作れないよ」
「うそ!ゆで卵は割らなくても作れるもん」
「じゃあ、お菓子を食べてからTVを観ましょうか?」
「やだ!TVを観てからお菓子を食べるの」



(17)『眠れぬ夜』

犬のような声で深夜に男が吠えた。
なんだ?酔っぱらいか?
もう一度吠えた声で例の犬だとわかった。
犬だって悲しい気分の夜はあるよな。
犬とも人間とも分からない叫び声。
「ウォイ!」
「どした?おまえの話を今夜は聞いてやろうじゃないか」
「ウォイ!」
「そうか、おまえも眠れないのか」



(18)『日に干されたい』

好天なので洗濯物と一緒に日に干されたい気分になって、日が一番当る二階の窓辺にフックを二つ掛けた。
一つは僕の靴下たち。
もう一つは僕の背中。
昨夜から背中が疼くから日に当てると痛みが和らぐような気がするんだ。
僕は背中だけを取り外しフックに掛けた、なんて想像をしてみた。



(19)『壺売り』

午後2時。
空気が冷たくなって来ると腰の痛みが増してきた。
「今日はここらで切り上げるとするか……」
売れ残っている壺を背負い家路についていると、男が突然呼び止め人さし指と中指の先を揉みほぐし始めた。
すると腰の痛みが消えて来た。
「ここがツボですよ」
男がニッコリとほほ笑んだ。



(20)『大袈裟に生きるコツ』

鏡を見て石川五右衛門が甦った朝。
釜茹でにでもされた夢を見たんじゃない。
ただ俺の髪の毛が異常に盛り上がっていただけのこと。
何かしらの圧力が髪の毛の一本一本に掛かっていたに違いない。
決して寝ぐせだと思わないところが俺流。
誰か俺を見て石川五右衛門の名を叫んでくれ!


(21)~(25)

(21)『究極』

あるダンサーのアンさんのファイナルアンサーはダンナさんとのパートナー解消だった。
「これで私たちは究極のダンスパートナーになれるわね」
「アン、もう君の寝ごとも聞かなくて済む」
「そしてあなたの歯ぎしりも聞かなくて済む」
「ダンスを踊る君を愛すよ」
「ダンスを踊るあなたを愛すわ」



(22)『昼夜逆転劇』

日が昇り月が昇り僕の興奮は一気に急上昇。
細胞の隅々まで喜々として血液の早急な流れを歓迎する時。
僕の肉体はどの空間に存在しようとも魂は自由自在に駆け巡る。
何処までも転がる球を追いかけ、天には無数の星が昼夜を分かたず輝き続ける。
日も月も沈まぬ世界で僕の逆転劇は続く。



(23)『パンの行進』

「プ・プ・パ~ン!プ・プ・パ~ン!」
ママにブドウパンを買って来てと頼まれた坊やがオリジナルの行進曲に合わせパン屋に向かった。
「パンくださ~い」
「何のパンが欲しいのかな?」
「う~んと、ぜんぶください!」
「全部は無理だよ」
坊やは回れ右をすると行進して帰ってしまったとさ。



(24)『ダイエット』

昨夜徹夜で作った食パンの着ぐるみを試着してみた。
「うん、美味しそうだわ。耳がこんがりと焼き色に仕上がってる」
鏡に自分の姿を映し、ビンの底にこびり付いていたインスタントコーヒーに熱湯を注ぐよ、香を鼻から存分に吸い込んだ。
ジワジワと滲み出て来る汗。
「きっと痩せるわ」



(25)『雨音に狂う』

夜明け前に聞いた雨音。
時計の針が正午を回って同じシーンが甦る。
同じ音じゃないのに同じ音を聞いている感覚。
薄暗さも合わせて同じだと錯覚を起こす。
どんどんと時間軸がぶれて行く。
慌てて握りしめた軸がバキッと音を立てて折れた。
「もう夜なんだか朝なんだか分からないじゃないの!」


この本の内容は以上です。


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