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『知識デザイン企業』


 長らく、失われた二〇年と呼ばれる停滞の時期が続きました。高度経済成長期は、その成長によって得られる収益の分配ということが問題とされてきました。そのため政治も、利益誘導型の進め方をされてきたのだと思います。その仕組みの精算ができないまま、ずるずると先延ばししてきた結果が、この二〇年だろうと思います。


 しかし今後、日本は大きな成長はとても望めません。その現実を、より一層強く突きつけたのが今回の震災でしょう。利益誘導により一部の人がいい思いをする仕組みなどではなく、被災された方々の痛みを、国民全体で受け止めるような、共感、共有という新しい社会構造が必要になるはずです。


 これを契機に、さまざまな業界で企業や事業の統廃合などが加速し、新しい事業へとリソースが再分配されていくでしょう。「この事業は本当に必要だろうか」というゼロベースからの判断が行われるのです。言い方を変えれば、これは大規模なリソースのたな卸し作業であり、そのリソースを使って何をするのかということを問うていくことになります。


 こうした状況はさらに、ビジネスにおける意識の変化をもたらします。それが、サイエンスからアートへのパラダイムシフトです。


 過去のデータを分析して答えを導き出すサイエンスは、資源のたな卸しはできたとしても、予測のできない複雑な世の中にあって「その先、何をやるべきか」を導き出すことはできません。リソースを組み合わせることでイノベーションを生み出すアートの作法が必要となるのです。


 英語タイトルとして『ART COMPANY』とつけられた本書は、そのアートの作法について、事例を交えながら紹介しています。そしてそれは知識デザインというコンセプトにつながっていきます。


 ルーティン作業をまわしていくことで利益を上げる忙しさ(Busyness)を競っていた時代から、優れた知識をどのようにデザインしていくかということが問われる時代になったのです。サイエンスからアートというパラダイムシフトはそのまま、ビジネスからデザインへの移行でもあるのです。


 ここで私は、アメリカにいた頃に掲載された、ビジネスウィーク誌のある記事のことを思い出します。「BからDへ」と題されたその記事は、ビジネススクール(B)よりもデザインスクール(D)の学生のほうが重用され始めているとし、いくつかの有名企業の事例を紹介していました。重用されなくなったビジネススクールを卒業した私は、大きな衝撃を受けたのを覚えています。


 サイエンスとアートの違い、ビジネスとデザインの違いは、突き詰めていくと「再現性」に行き着きます。事象の再現性がなければ、それはサイエンスと呼べません。ビジネススクールで学ぶケーススタディも、その根本には、「同じことが起こっても対処ができる」というその方法のもたらす効果が再現されることを前提としています。


 しかし、アートやデザインはそうではありません。それは再現性など求めてはいません。一回しか起こらないことを、いかにマネージするか。そういう手法なのです。先の予測できない混迷の時代には、一回生の出来事と向きあうことが、企業に求められるのです。


 そのための思考方法として、本書からひとつ、「アブダクション」というキーワードを取り出してみましょう。これは帰納、演繹に続く第三の思考形式であり、創造的飛躍を伴う仮説推論です。過去のデータに基づいて導き出される帰納でもなく、ある法則を当てはめて答えを導く演繹でもない、仮説推論思考という方法。ここに、デザイン・リーダーシップの本質があるのだと著者はいいます。


 仮説を立て検証し、そこからまた仮説を立てて検証する。そうした試行錯誤で進めていく思考が求められるのです。これからの時代は、このアブダクションの思考がますます求められていくでしょう。


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最終更新日 : 2011-08-26 21:36:01

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