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源義経

季節はもう秋だというのにひどく蒸し暑い日ではあったが、東海道を往来する旅人たちで日向大神宮は賑わっていた。

 大文字山を背にしたこの地は東海道、中仙道を抜ける京の玄関口であり、交通の便が良く、参拝者が多いと聞く。吉次信高も道中の安全を祈願した。

 

「伊勢神宮への代参として名高いと聞いています」

 

旅を共にする若者が手を合わせながらそういった。

 そのようですな―― そう応えながら吉次は若者に目をやった。

 顔はまだ幼く上背は小柄である。

 だが、ひとつひとつの動作に気品が漂う。とても昨日まで山籠りをしていたとは思えぬ佇まいである。

 

 若者の名は源義経といった。

 

 吉次は奥州で産出される金を京で捌く商いを行っている。昨日、思いのほか早く仕事が片付き時間をもてあましたため鞍馬寺へ参拝した。その地で出会ったのがこの若者であった。

 聞けば、源頼朝公の弟君であるという。

 

 京には平家の一行がある。源氏の者は都には顔を出すことは難しい。そこで鞍馬に籠り剣術の稽古に励んでいるとのことであった。

「天狗に剣術を習っていたこともありました。」

 冗談を言うにしてもまったく充邪気なこの若者を吉次はすっかり気に入った。


「力をつけ、平家を討ちたいのです。」


 平家の世である。

 他のものが言えば、一蹴されるか笑われるだけの言葉である。
 が、この若者には不思議と説得力があった。
「ならば共に奥州へ参りませぬか」
 傲慢な平家の態度には嫌気がさしていた。
 この源氏の若者を奥州に連れていくことが、あるいは時代を変えるきっかけとなるのではと思った。
 藤原秀衡の納める奥州ならば平家の手の及ばぬ地である。
 兄である頼朝との面会もあるいはかの地で可能となろう。
 牛若と名乗った若者は、奥州に向かう決意を固めたのであった。
 そこからの行動の早さは目を見張るものがあった。
 即日中に元服をし、名を義経とした。
 翌日には旅装を整えており、さっそく行動を共にした次第である。





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