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 電車はしばらくして、名もない無人駅で止まる。

 鳥が鳴く。鳥が鳴いている。

 空は澄んでいる。入水直後の湖のように。澄んでいる。

 少年が駅に立っている。黒目の大きい少年が。

 駅は黒目に沈んでいる。曲面の奥に沈んでいる。

 電車は消えた。

 消えた。

 それはなんなのだろうか。何を目論んでいるのか。

 本当に出口はないのか。

 本当に繰り返すのか。

 踏み切りはない。黄色はない。

駅はない。無人はない。

構築すべきイメージの終着点はどこだ。

見つかるはずもなく。

少年が歩く道は細く。アスファルトの硬さを見る。

なだらかな高低差の香り。熱の上昇関係。

地面が揺れている。木々の呼吸にそって。

木々は果実を生む。蜜柑なのかもしれない。

香り高い果実の表面に。

虫は巣食っているのだろうか。

それは美しいのだろうか。

それは照り光っているのだろうか。

少年は触ってみたい。

指で撫でてみたい。

耳で舐めてみたい。

口で言ってみたい。

もう道を歩いている。

もうそこを歩いている。

太陽はやはり海で生きている。

街は砂に埋もれている。

砂漠の快適を淘汰する。淘汰。

砂漠の爆破を感化する。感化。

砂漠の衝動を累加する。累加。

何を罵倒することもできない。

光の流れに流れを流すことしかできない。

無為な競争主義を隠す。

隠す光の流れに堕ちる。

それも仕方のないことだろう。

仕方のないことばかりだろう。

少年が砂浜を歩く仕草さえ秒針。

波の無理解に愕然。

オレンジジュースの缶のやわらかさ。

やわらかい砂の獣。

光を遮ってほしい。

夜は証明すらできない。

手紙は朝来たようだった。

宛名は書かれていなかった。

文字すら書かれてなかった。

書かれてすら。いなかった。

開くのは簡単だけれども。

簡単はありふれているけども。

海は海として青く光り。

鴎は鴎として鳴き続く。

もう帰るべき場所もない。

電車は消えてしまったのだから。

果実は美しいだろうか。

果実は照り光るだろうか。

街は健やかに成長する。

何度見ている凹凸か。

構築は自然に組み込まれる。

手を動かしてみたい。

言葉を噛んでみたい。

少年は入水を願う。

そんなこともあったような気がする。

リズムを引っ掻く才能。

黒猫の自殺未遂。

何事も犬の交通。

顔に被さった新聞紙。

眠っているのか。

眠っているのだろうか。

もうどうやったとしても。

働く他ないのかもしれない。

人生とは働くものであり。

働くとは存在証明であり。

結局そんなことはない。

繰り返しが過ぎる気がするだけ。

過ぎ去った人々の群がり。

群がりの中の微笑み。

暗闇の中の微笑み。

もうどこに行くこともない。

雲が波の起点へ帰る。

潮風の合流地点の先。

色鉛筆の妄想感覚。

撃ち落とされた太陽の場所。

責任を置いて焦燥して。

 豪気な視線を建ってみせて。

 翻訳を画策させて。

 省略を弁証させて。

 紹介して。修正液を。

 もう勝手にここから出る。

 出たくなくても出ざるを得ない。

 外に立ち上がる一層の慚愧。

 癲癇を欲したいの。

 丁寧に熟したいの。

 夢境を煽りたいの。

 叙情的な叙事が還る。

 写像の空論家。

 磁石式の内証方法。

 雑多な鼓動を聾し。

 光暈を振り払って。

 波の固定を逡巡して。

 頭髪の襞に名付けて。

喬木を折り畳んで。

 あるいは解決させて。

 あるいは悦楽させて。

 少年は砂浜を歩いて。

 歩くという言葉をたどって。

 下手な自問自答はやめて。

 この写真をとって高揚。

 来るさ欠くか造作もない。

 もうこのレールは朽ちた。

 雨風によって朽ちた。

 交流は鳥が食べた。

 鴎の幼稚が食べた。

 駅を降りて果樹園を抜け。

 防波堤を乗り越えて溜め息。

 砂浜のオレンジジュース。

 求め続ける。求め続ける。

 波が反射する間隔。

 後悔を追い求める風圧。

 もう会うことすら出来まい。

 この空海山は狭い。

 酸素がなくなってきて。

 手足も伸ばせやしなくて。

 この小さな空間で。

 何をすることもできない。

 この小さな部屋のなかで。

 声を上げることもできない。

 だから少年は防波堤にのぼり。

 横たわって眠る。

 眠りにつくのだ。そう。

 もう眠りにつかなければ。

 今を終わらせるためにも。

 静かな眠りにつくのだ。

 

 

 

                         了

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の小説はこれで終わるだろう。

 それがベストなのだ、きっと

                            

 

 そして僕は書くのをやめる。

 もう二度と、会うこともあるまい。

 


この本の内容は以上です。


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