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心を失った人々は劇場に列を成した。劇場に行くお金のない人々は、路上の歌い手の前に集い、僅かながら心を満たした。劇場から溢れでてくる笑いあう群衆に紛れて、彼らは密かに頬をゆるめ、胸のうちに授かった熱が逃げぬよう、コートをかきあわせ、俯きながら帰路についた。

愛の歌

あの娘の心は音楽の中にある。そう気づいた僕は音響係を買収して愛の歌を流させた。そういえばこの店では愛の歌を聴いたことがない。首尾よく二人きりになると娘は僕に夢中になり、手に手をとって逃げ出した。ずっと君のために歌い続けるよ。例え君が僕のいない静寂の中、心を閉ざしたとしても。

墓守

「穴を掘るのに飽きた」というと、供え物を拝借しにきた浮浪者が種をくれた。その晩、夢を見た。墓に埋めた種が芽吹き、棺桶を突き破って、腐った肉の養分を吸ってすくすく育つのを。緑に包まれた墓を見て所有者が俺を訴えた。管理を怠ったと。俺はゲラゲラ笑いながら砂漠に逃げた。

ナツ

「兄ちゃん、ナツが来るよ。さよなら言わなきゃ」海神の嫁に行く娘が小さな筏に正座して川を流されていく。着飾ったナツに僕は見とれた。だが兄は目を閉じて震えるばかり。青白い女達が仰向けに泳ぎ、筏を運ぶ。来年はその中に見覚えのある顔が混じる年齢になることに僕は気づいた。

化け物

網の隙間から藻の様に髪を揺らめかせた裸の背中に、波が打ち寄せる。無意識なのかその度に魚の尾が飛沫を跳ねる。「逃がそうよ」「バカな。こいつは人を海に引きずりこんで喰う化け物なんだぞ」「でもどうするの。殺すの」「喰うのさ」「だとしたら変わらないよ。僕らも、化け物さ」 

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