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宝石

外科手術で身体に隠された宝石を求めて、一族郎党幼妻友人他人は骨と皮だけになった老人に群がり、疑心暗鬼と牽制の末、目出度く老人は寿命を全うした。遺言に従い弁護士は書類上存在しない宝石の相続に、公平なる籤を用意した。「では一切れずつお食べください」特大のミートパイ。

古本

奥の棚で埃を被っていた古い本を買った。活字を目で追いながら、次の頁に指を潜らせるとがさがさした感触が指をくすぐる。古い本だから汚れているのかと思い頁を捲るが何もない。そしてまた次の頁でがさごそと。正体を求めて最後まで頁を繰り、私は自問した。何か見つけただろうか?

霧雨の中のハイビーム。泣きぬれた夜の街燈。天窓から差し込む月光。遠くの丘のサーチライト。空っぽのスポットライト。ここに届かない光はない。こちらに向かって、この胸を貫いていく、必ず。

部屋の床の湿ったところから苔むしていく。やがて芽吹いた緑は夏の間成長し続けた。天井を突き破り雨が降り注いで、ぶよぶよした床が抜けたあとは、一階の娘と一緒に水没したベッドで眠った。秋は落ち葉の上掛けを得た。そして、冬にぼくは崩壊した部屋を出た。だから夏は嫌いだ。

このまま眠り続けて死ぬ

眠くて身体が重い鉛になり、倒れたら地面にめり込んでしまって、そのまま脳みそが溶け出して地下水に染み込み、湧き出して蒸発して上の空でふわふわ漂い、雨になって落ちて地面に叩きつけられ、泥になって横たわり、そしてこのまま眠り続けて死ぬ。

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