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ナツ

「兄ちゃん、ナツが来るよ。さよなら言わなきゃ」海神の嫁に行く娘が小さな筏に正座して川を流されていく。着飾ったナツに僕は見とれた。だが兄は目を閉じて震えるばかり。青白い女達が仰向けに泳ぎ、筏を運ぶ。来年はその中に見覚えのある顔が混じる年齢になることに僕は気づいた。

化け物

網の隙間から藻の様に髪を揺らめかせた裸の背中に、波が打ち寄せる。無意識なのかその度に魚の尾が飛沫を跳ねる。「逃がそうよ」「バカな。こいつは人を海に引きずりこんで喰う化け物なんだぞ」「でもどうするの。殺すの」「喰うのさ」「だとしたら変わらないよ。僕らも、化け物さ」 

お菓子の世界

蜂蜜が流れる黄金色の小川に沿って、キャンディの実る細工飴の草原を歩く。半壊したチョコレートの城を目指して、ホイップクリームの街路樹に挟まれたスポンジケーキの階段を上がる。灼熱の太陽をパラソルで遮り、どろどろに溶けていく世界を赤い靴でスキップする、砂糖菓子の人形。

案山子

案山子よ、おまえの仕事はふらふらすることだよ。ふらふらと一本足で懸命バランスを取ること。鴉を追い返すのは、そうしないと困るからで、それは本質じゃない。鴉が腕に止まったら、左右のバランスが崩れる。おまえが地面ごとひっくり返って天と地があべこべになったら困るだろう?

言霊1

「ありました」隣の発掘現場に呼びかける。博士がレコーダーの準備をする間、手持ち無沙汰に問いかける。「どうして昔の人は地面に言霊を埋めたんでしょうか」「それがわかれば大発見なんだけどね」しっ、と人差し指を唇にあて、博士がスコップを動かす。\王様の耳はロバの耳/

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