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人魚

水中を漂う女は、わたしが溜め息をつくたび、肺に水を吸い込んで水底に沈むんだって。だからわたしは、なるべく浅く息をする。けれども女は、わたしが笑うと膨れ上がって水面に浮き上がり、網にかかって陸に打ち上げられるんだって。だからわたしは、水中を密かに泳ぐように生きる。

傍観罪

傍観罪が適用されてから誰もが人助けに躍起になったが、助けられたくない人間もいて自殺が急増した。私はやめろの大合唱を振り切って屋上から飛び降りた。何の非難も受けずに死ぬ方法が人を助けて死ぬ事だとは。潰れた二三人の上でヨロヨロと立ち上がり、また私は誰かを殺しに行く。

宝石

外科手術で身体に隠された宝石を求めて、一族郎党幼妻友人他人は骨と皮だけになった老人に群がり、疑心暗鬼と牽制の末、目出度く老人は寿命を全うした。遺言に従い弁護士は書類上存在しない宝石の相続に、公平なる籤を用意した。「では一切れずつお食べください」特大のミートパイ。

古本

奥の棚で埃を被っていた古い本を買った。活字を目で追いながら、次の頁に指を潜らせるとがさがさした感触が指をくすぐる。古い本だから汚れているのかと思い頁を捲るが何もない。そしてまた次の頁でがさごそと。正体を求めて最後まで頁を繰り、私は自問した。何か見つけただろうか?

霧雨の中のハイビーム。泣きぬれた夜の街燈。天窓から差し込む月光。遠くの丘のサーチライト。空っぽのスポットライト。ここに届かない光はない。こちらに向かって、この胸を貫いていく、必ず。

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