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標識

男は果てしない道のりを旅してきた。ひび割れ忘れ去られた道を、腐食し消えかけた標識だけを頼りに。瓦礫が道を分断し、標識だけがぽつねんと立っていた。男は標識の指す方へ爪先を向けた。生温い水が足首を浸し、三歩で膝にかぶる。男は水平線まで続く水溜まりの前で立ち尽くした。

死人

死人が歩き始めて一年。片腕がなかったり、目玉が飛び出していたりする死人(否ゾンビ)が町を歩く光景にも違和感がなくなってきた。満員電車はさすがに腐臭がきついけど、労働基準法に引っかからない労働力として企業は重宝してる。何より働くために生きなくなったことが嬉しいね。

永遠の夏休み

現実の時間では一瞬、精神世界でほぼ永遠の時間を過ごすという「永遠の夏休み」。飽きるまでそこで過ごせる代わりに、飽いたらまた現実に戻らなければならない。だが不思議と、現実を生きるうちにまた夏休みに戻りたくなるらしい。夏休みは人生でただ一度きりなのに。

世界一周

生身で世界一周に挑戦した少年がついにゴールするというので、富士山麓には沢山の人とカメラが集まった。今か今かと待つ人々の間を秒速7.9kmの風が駆け抜け、斜面を登り、ゴールの山頂から遥か彼方に飛び出していった。人々はにこにこしながら少年を待ち続けた。

灰色の空の下、車窓から白い物質で覆われた凸凹の建造物が見える。「あれは?」「しばらく使われないから、封をされているのさ。街は放って置くとすぐ風化するから」どんな街だろう。「あそこに人はいるの」「ああ」連れは事もなげに答えた。「私が生きている間に封が解かれるかな」

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