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SF

流れ星1

巨大な星が流れて、地上の人々はその引力に巻き取られて空に昇っていった。残されて初めて僕は、自分に質量がないことに気づいた。幽霊なんだ。そう思った途端、体が透けて地球の公転軌道上に取り残されてしまった。黒々とした虚空で涙を溜める。さよなら、みんな。さよなら、地球。

知的生命体

地球に知的生命体が生まれた。木星人は仲良くしようと言った。土星人は奴隷にしようと言った。火星人は滅ぼして移住すると言った。月星人は放って置けと言った。議論は紛糾し、最終的に木星人の意見が採用され船団が向かったが、その間1億年が経過し、地球人は既に滅びていた。

標識

男は果てしない道のりを旅してきた。ひび割れ忘れ去られた道を、腐食し消えかけた標識だけを頼りに。瓦礫が道を分断し、標識だけがぽつねんと立っていた。男は標識の指す方へ爪先を向けた。生温い水が足首を浸し、三歩で膝にかぶる。男は水平線まで続く水溜まりの前で立ち尽くした。

死人

死人が歩き始めて一年。片腕がなかったり、目玉が飛び出していたりする死人(否ゾンビ)が町を歩く光景にも違和感がなくなってきた。満員電車はさすがに腐臭がきついけど、労働基準法に引っかからない労働力として企業は重宝してる。何より働くために生きなくなったことが嬉しいね。

永遠の夏休み

現実の時間では一瞬、精神世界でほぼ永遠の時間を過ごすという「永遠の夏休み」。飽きるまでそこで過ごせる代わりに、飽いたらまた現実に戻らなければならない。だが不思議と、現実を生きるうちにまた夏休みに戻りたくなるらしい。夏休みは人生でただ一度きりなのに。

世界一周

生身で世界一周に挑戦した少年がついにゴールするというので、富士山麓には沢山の人とカメラが集まった。今か今かと待つ人々の間を秒速7.9kmの風が駆け抜け、斜面を登り、ゴールの山頂から遥か彼方に飛び出していった。人々はにこにこしながら少年を待ち続けた。

灰色の空の下、車窓から白い物質で覆われた凸凹の建造物が見える。「あれは?」「しばらく使われないから、封をされているのさ。街は放って置くとすぐ風化するから」どんな街だろう。「あそこに人はいるの」「ああ」連れは事もなげに答えた。「私が生きている間に封が解かれるかな」

節電

「地上の光が消えてくよ。こんな暗い夜は久しぶり」「光るためのエネルギーが足りないんだって。節電というらしいよ」「ぼくたちも節電した方がいいかな?」「私はソーラー発電だからいいんだよ」「ぼくは核融合発電でいずれ超新星爆発するけど安全対策すべきかな?」「無理だろ」

ロボットの心

心の代わりにロボットの胸に楽器を組み込んだ。単調なリズムがたどたどしいメロディを刻み始め、徐々に深みを増す旋律に人々は耳を澄ました。決して美しい音楽ではない。それがなんだというのか? だが、プロのヴァイオリン奏者の演奏を聞いて以来、ロボットは奏でるのをやめた。

クラッシュ

人がクラッシュする瞬間は衝撃的だ。脳がショートして、煙が出てぶっ倒れる。昔の人間(本当のという意味の)は壊れたまま動いて災いを起こしたから、派手に壊れる回路をわざわざ付け足したらしい。とはいえ、そんなレトロな死に方は嫌だから、解除コードをダウンロードするけどね。

光のヴェール

金色の光のヴェールに包まれて、気づいたらベッドにいたわ。外からわかるような傷は何もなかった。でも、わかるの。あの瞬間、輪切りにされたわたしが、光になって遠くの星に運ばれたのを。わたしは銀色の船の中を無重力で漂いながら、銀河の中心に引き寄せられるのを感じているの。

どこでもドア

世界中の「どこでもドア」が故障した。目的地以外に飛ばされ、会社に辿り着けない人が続出、電話が殺到してケータイもストップ。仕方がないから僕は、海岸線沿いの駅のホームで、二時間後の列車を待ってる。カモメが空を漂い、白い砂浜に波が打ち寄せる。とても清々しい朝だ。