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帚木(29)

 すぐに、全ての者が──源氏以外の全ての者が寝静まった──。

 女との間を遮っている襖障子に掛かっている掛け金を外し、試しに襖障子を引いてみれば、何の抵抗もなく開いてしまった。

──向こう側の掛け金が掛かっているものだと思っていたが──。

 女どもは、予想以上に不用心であった。

──それとも──。

 襖障子を開けると、すぐ目の前に几帳が立ちはだかっていた。

 几帳の向こうには、芯を押さえた灯が仄かに立っているだけで暗いが、闇に慣れた源氏には、それで充分だった。

 脚の付いた唐櫃のような箱がそこかしこに置かれ、足元がごたごたしている。

 静かに、音もたてず、廂間にいる女房たちに気づかれぬよう──しかし、女には分かるように、源氏はその中を踏み分けていく。

──女が──いた──。

 伊予の若妻であろうことは一目で分かる。

 西側の母屋に独り、小柄な感じで臥し──そして、美しい。

 ほのかな明かりに浮かぶその寝顔は、かつては入内を目指した女の、美しさをもっていた──。

 源氏は伊予の若妻の横にしゃがむと、女の上にかけてある煩わしい衣を傍に押しやってしまう。

 夏の最中、若妻の上にかかる衣は少なく、それを押しやると身につけた薄い衣は暑さのために艶めかしくはだけ、女は裸同然になってしまった。

 女がやっと、はっと気づく。

 足音には気づいていたものの、その方向がはっきり分からず、それは女房の中将が帰ってきたのだと思っていたのだ。

「『中将』をお呼びになっておられましたので──。

 貴女のことを、人知れず御慕いしていた甲斐がございました」

 女は何が起こったか分からず、反射的に上体を起こしたが、源氏がすぐに女の上体を後ろから抱きすくめ、伊予の若妻の動きを止めてしまった。

 あまりの出来事に、さすがに目を覚ましたのだろう。

──そして、気付く──。

──今夜、この邸にいる男の『中将』と言えば──近衛の中将──かの光君しかおらぬではないか──。

 何かに押さえつけられたような衝撃が伊予の若妻の体中を走ったことを、抱きすくめる女の震える両肩と汗のにじむ首筋から、源氏は知った。

「や……」

 怯えたように、女は初めて声を出したが、後ろから抱きすくめる源氏の袖衣が女の口を塞ぐようになっていて、人の耳に届くものではなかった。

「不意に思いついた出来心でこんな事をしているのだと、お思いになっても致し方のないことですが、私のこの決意は、そんな出来心などのようなものではありません。

 長年、貴女を御慕い申し上げておりました私のこの思いを、貴女に直接申し上げたくて、こうして我が身を省みず参上した次第です。

 私が、こうして貴女とお近づきになる機会を、今か今かと待っておりましたこの苦心からも、私の貴女への思いが、決して気まぐれで浅はかなものではないことを、聡明な貴女なら分かっていただけるはずですが──」

 源氏はもの柔らかに──嘘をつく。

──鬼神さえも感じ入ってしまうほどの美しい光君が──自分を抱きすくめている──しかも、これまでに感じたことのない優しさで──。

 その事実と、また自分のこの裸同然で男に抱きすくめられている状況を考えれば、むやみに、

「ここに……誰か人が」

 などと騒ぎ立て、不用意に周りの者を起こすこともできない。

 伊予の若妻は、心内侘しく、困惑の色を隠せない。

(──このようなあるまじきことを──これでは不倫──そのようなあさましいこと──)

「お……お人違いでございましょう……?」

 伊予の若妻は、それだけをやっと言葉にし、源氏の腕から抜け出そうとするが、その女性的な源氏の腕は思いのほか力強い。

 消えてしまいそうほどに取り乱した女の様子が、痛々しいほど可憐で、

──いい──。

 源氏は、女を抱くその腕に力を込めた。

「間違えるはずがありましょうや?

 これほどの貴女への思いを道しるべとしているのに……。

 この私の思いをお疑いですか──?

 そんなに好色めいたことをしそうに見えますか?

 先程から、私のほうをご覧になってくださらないのに──。

 私はただ、この思いを貴女に聞いていただきたいだけ……」

 そう──そして──貴女が欲しい──。


帚木(30)

 源氏は、そのあまりに小柄な女を軽々抱き上げてしまう。

 女は拒絶する暇もない。

 抱き上げられた伊予の若妻は、薄明かりのなかに初めて、源氏の顔を見た。

──何と──美しい──。

 源氏の芳顔に見入ってしまっている自分に気付いていたが、その視線を源氏から離すことができない。

 衣のはだけた裸同然の淫らな姿も源氏に見つめられている今では──。

 快く体の局所が熱くなるのを感じながら、しかし、女の理性がその思考を現実に引き戻した。

──私は何を──いけない──光君だからこそ──。

 女の思いを知ってか知らずか、源氏は女を抱き抱えたまま向きを変えた。

 源氏は自分が出てきた障子から、東側に女を連れ出そうとした、まさにその時、さきほど伊予の若妻が「中将」と呼んだ女房が帰ってきたようだった。

「これ」

 源氏は、大胆にも中将を呼んだ。

 中将も変に思ったに違いない。美しい声ではあるが──男の声なのだから。

 今まで明るい所にいたのだろう、薄明かりしかない部屋のなかを手探るように歩いてくる。

 そして、源氏の着物の薫りが顔にくゆるほどになって初めて、事の重大さに気付いた。

 目の前に、自分の主人を抱き抱えた男が──その美しさや衣装から一目で世にも名高い光君と分かる男が立っているのだから──。

 思いがけない出来事に、

「これは……どういう……え……」

 動揺するばかりで、言葉が出ない。

 相手が並の男ならば、女ながらにも手荒に力ずくでも主人を取り返しもしよう。

 しかし、ここに主人を抱いているのは、かの光君なのだ──。

 かの光君が──。

 ただでさえ人に知られては困るもの──まして──。

 中将のあわてぶりも意に関せず、源氏は、東側に伊予の若妻を連れていこうと歩きだす。

 中将も、他にすべきことを思いつけず、ただその後をついていこうとすると、源氏は平然と寝所へと足早に行ってしまう。

 それについていこうとする中将の前に、源氏は立ちはだかるように障子を引き立て、中将の動きを制し、西側に戻るよう命じた。

「夜明けになったら、お前のこの女主人を迎えに参れ」

──それまでは、私のものだ──。

 源氏は、女主人を抱いて、闇の中へと消えてしまった──。


帚木(31)

──源氏の捨て台詞を、中将はどう受け取ったろう──。

 伊予の若妻は、そう思う自分が馬鹿げてみえた。

──間違えようがないではないか──

──男が女を抱きかかえ「夜が明けたら」などと言うのを聞いて、他に何と解釈しよう──。

 そう思うと死ぬほど切なく、汗を流すほどに気分も悪くなる。

 女の肌に触れた源氏の手に汗が伝わり、その流れを追うように動く源氏の指に、女は過敏に反応した。

 そんな女の様子が愛おしい。

 源氏は──どこからそんな言葉が生まれてくるのか──次々と優しい言葉を女にかける。

 女は、源氏のその美しい声と優しい言葉に、感じ入り、身を任せてしまいそうになるのを、必死に堪えていた。

 気を緩めれば、そのまま自分から源氏の首に腕を回してしまいそう──。

──私が──光君などと──。

 その思いが、女にはまだ強い。

「現実とも思えません。

 このような下賤の私ですが、このような事をなされた貴方様のお気持ちを、どうして『あさはかなこと』と思わずにおれましょうや。

 私のような身分の者には、その身分に相応しい『際』というものがあります。

 ですから、貴方のような方と──」

 源氏の我を通した行為に、女は困惑していた。

──伊予の若妻となった自分が光君と関係をもったとなれば──。

──そして、それが、夫の伊予の介や世間に知られるようなことになれば──。

 そう思うと、この源氏の情の無いなされ様が悲しい。

 そして、源氏はそんな女の様子が愛おしく、さすがに引け目を感じた。

 そんな女を──そして自分を慰めるように、源氏は言の葉を紡ぎだす。

「そういう『身分の違い』など、私には分かりません。

 こんなふうに女性に思いの丈を伝えるのなど、初めてなのだから。

 それをかえって、そこら辺の浮気者と同じように思われるのなんて……ひどいですよ」

 床に寝かせた女の頬に、いたわるように指先で触れる。

「私の噂なら、今まで何かとお耳に入っているでしょう?

 ならばご存じのはずです。
 私が今まで『何が何でも』と無理に好色な振る舞いをしたことなどなかった、と──

 そう、『何が何でも』と思わせる女性などいなかった──。

 でも、貴女は違う。

 何かの前世からの因縁でしょうか──本当に、こうして貴女に非難されても仕方のない行為をしてしまうほどの狂おしいこの思いを、自分でも不思議で、どうすることもできない──」

 源氏は、真面目にいろいろと話すが、女はなかなか心を開かなかった。

 或いは──おそらく──女は源氏の嘘を見破っていたのだろうか──。

──『何が何でも』と思った女が──狂おしいほどに思った女が──自分が初めてなどではないことを──。

──伊予の若妻である自分などよりも、もっと以前から──もっと狂おしく思っている女性が、源氏の心の奥にいることを──。

──自分が、「中の品の女」という、只の「人身御供」でしかないことを──。

──どうして私は──。

 伊予の若妻は悔やむ。

──どうして私は──光君の姿を見てしまったのだろう──と。

──あの姿を──あの神々しいまでに美しい御姿を──。

──あの姿さえ見なければ──もっと強く拒むこともできように──。


帚木(32)

 女は、全て身をまかせることも──かといって、強く拒むこともできず、事実、その躰は、理性とは反して、源氏のそれを卑しく求め──目を閉じ、細い手で顔を覆った。

──光君の姿を見ぬように──そして、自分の止めることのできぬ、溢れ出る淫欲な感情が顔に出るのを見られぬように──。

 女は、人妻である自分が、どうしても己の肢体を源氏に許してしまっていることが辛い。

──人妻でなければ──。

──そう──私が人妻でなければ──。

──こんなに苦しい思いをせずすんだのに──。

──しかし──もう遅い──。

 女は、胸元に感じる源氏の吐息と、局部に感じる源氏のそれの熱さに溺れそうになりながら──思う。

──こうなれば──。

──そっけのない、いやな女と思われようとも──。

──情けを解さぬ──話の分からない堅い女として、押し通そう──。

──自分が「求めている」と感じ取られないようにしなければ──。

 女は、源氏の話しかけにも答えず、つれない。

 もともと、おしとやかな性格である女が、強いて心を張り詰めている様子は、細く、しなやかな「なよ竹」のよう──。

 さすがに、すぐには折れそうもない。

 女は人妻である自分が、源氏の優しさの溺れそうになるのが心やましく、源氏の我を通したこのされ様を、「いふかいなし」と思って悲しむ様子は、本当に「あはれ」と源氏に思わせた。

──だが──。

──こんなにか弱げな貴女を見れば、心苦しいけれど──。

──だからこそ──そんな貴女の美しさを目にして、何もせずにいたら──私はきっと悔いを残すことだろう──。

──汝をもらおう──中の品の女よ──。

 女は、源氏の美しい肢体が、自分の体を透かしたように思えた。

──可哀相なことをしてしまったろうか──?

──いや──

──ここでこの人に何もしないですましていたら、私はきっと悔いを残していたろう──。

 源氏は、そう自分に言い聞かせていた。

 横にいる伊予の若妻は、気持ちの晴らしようもなく、憂しなる様子でいる。

 結局この女は、その感情を、顔を覆った手の内に隠してしまった。

 さすがに抑え切れずに漏れ聞こえる女の喘ぎ声も、泣いているようにさえ聞こえた。

「何故に、それほどまでに、私を嫌っておられるのですか?

 思いがけずこのようなことになってしまいましたのも、かえって、私たちのあいだに浅からぬ前世からの因縁があったからだとお思いになれませんか?

 貴女が『男女の事』も知らぬ生娘のように、思い沈んでいらっしゃるのが、私は辛くてなりません」

 源氏は、自分の恨み言がきつい口調になっていることに気づき、言いすぎたかと思った。

 女も、そんな源氏の様子に気づいたのだろう。微かながらに言葉を漏らす。

「このような身でなく──

 『介』の妻などに定まっておらぬ『ありしながらの身』──そう、昔のままの娘の身で、貴方様のこうしたお情けにあずかるのでしたならば──

 自惚れででも、『いつかは浮気ではなく、お気が変わって本気になってくれるかも知れない』と、自分を慰めることもできましょうが……」

 女は、

──とり返すものにもがなや世の中を
       ありしながらのわが身と思はむ──

 あの頃の二人に戻りたいわ。
 私はあの頃のまま、と思ってみたいもの

 という歌に因って、話したのだった。

 女は続ける。

「でも──でも、今は違います。

 これが、一時のかりそめの逢瀬だと──

 美しい水鳥が水の上に休む『浮寝』と変わらぬことを、私は分かっているのです。

 だからこそ、私はどうしようもなく悲しく……。

 仕方ございません。

『今は見きとなかけそ』──今となっては、逢わなかったものと、どうか私をお忘れくださいますよう……」

 女は、

──それをだに思ふこととてわが宿を
       見きとな言ひそ人の聞かくに──

 せめて、私を思ってくださいますなら、
 私を逢ったということを誰にもおっしゃらないでください。
 人が聞くでしょうから──

 という古今集の歌に準えて言い、また悲しみに沈む。

──ほんとに、この人は「理なり」──。

 源氏は、並々ならず行く末を約束すること、少なくなかった。


帚木(33)

 鳥も啼いた──。

 人々が起きてくる。

 日はまだ上がっていない。

 いまだ、暗闇が天空の多くを包み込んでいる。

「ひどく寝坊しちゃったな。

 光君の車を引き出してこようぜ」

 供人たちが会話を交わし、源氏の帰り支度を始めている。

 人々の動きに、紀伊の守も起きい出てきたようだ。

 いろいろと指図を与えている。

「女性の方違えならともかくさぁ。

 こんな暗いうちにお帰りになることもないでしょう?」

 源氏の供人か、紀伊の守の家の者かは分からないが、そんなことを言っている者もいた。

 源氏の腕のなかには、まだ女がいる。

 心は未だ許していないようであるが──こうして体を源氏に預ける女がいじらしい。

 女の頬に再び触れると、女ははっと身を縮めた。

 供人たちが騒いでいるのを気にしているのだろう。

 たしかに、このようなところを見られては、この女にとっては大変なことに違いない。

 といって、すぐにこの女を離してしまう気には、源氏はどうしてもなれなかった。

──この人とは今度はいつ会えるだろう──。

──もう一度、こんな機会があろうはずもない──。

──わざわざ用もなく紀伊の守や伊予の介の邸を訪ねるわけにも行かぬ──。

──文のやりとりなど、とても無理だ──。

 この女とのつながりが切れてしまいそうなことが、源氏にはとても辛い。

 寝殿の中央で東西に分けている襖障子が静かに、わずかに開いて、その向こうから──もとの女のいた西側の母屋から、伊予の若妻につく「中将」が顔を出す。

「あの……外の者たちも起きはじめました。

 人目につきます前に、どうかご主人様をお返しくださいませ……。」

 中将の声は、困惑に満ちていた。

 伊予の若妻を抱いていた腕を離し、女を自由にはしたが、少ない衣を胸に抱いて向こうに消えようとする女の腕を再び引き寄せた。

「これからは、どう貴女にお便りしたら宜しいのですか?

 男女の仲にはないような貴女のその御心のつれなさも、あはれも──浅からず私の心に残る二人の思い出は、そうあるものではない──」

 源氏は、女の手を取り泣いてみせる。

 そんな源氏の様子も、この世のものと思えぬ美しさ──。

 女は、自分の腕を握りしめる源氏の力が緩んでしまいそうになるのが、何故か不安に思え、自ら源氏の手をつなぎ止めようとしてしまう。

 鳥が、再び啼いた──。

 人の動きもいっそう騒がしくなる。

 人影が近づくたびに、女は落ちつかない。

 源氏も、さすがにこれ以上女を引き止めるわけにはいかなくなった。

──つれなきを恨みも果てぬしののめに
       とりあへぬまでおどろかすらむ──。

 貴女のつれなさに恨み言もいい果てぬまま夜は白み──、
 どうして鳥は、取りもなおさず私をせきたてるのでしょう──

 源氏が女に歌いかける。

 しかし女は、自分を見つめる源氏の美しさを見るにつけても、不似合いな感じがする。

──伊予の介の後妻となった自分の境遇、年齢、容貌──。

 そんな自分の身のありさまを思うと、本当に不似合いで恥ずかしい。

 こんな惨めな自分への、身に余るほどの源氏のもてなしが、何とも言えず──嬉しい。

 伊予の介の下に嫁いでどれくらいになったろう。

 自分は、いい妻ではない。

 そんなことは知っている。

 特に、嫁いだ時分は、

「参内を目の前にしていた自分がこのようなところに──」

 そう思っていた。

 伊予の介も、普段はそっけなく、自分のことを気に食わないらしく馬鹿にしている。

 だが──。

 だからといって──いや、だからこそ、あの夫がこのようなことを許すとは思えない。

 夫のいる伊予の国が思いやられた。

 ある人について思い悩むと、自分の魂が体を離れて、その人の夢に現れるという。

 これほどに夫のことを不安に思えば、自分が夫の夢に現れるかもしれない。

 そうなれば、なにかあったのではないかと、夫が怪しむに違いない──。

 そう思えば、空恐ろしく気が引ける。

──身の憂さをなげくにあかであくる夜は
          とり重ねてぞ音もなかれける──

 私の身の情けなさを嘆き飽きないうちに、明ける夜には、
 鳥の声にとり重ねて、私も声をたてて泣けてきます」

 女は、再び顔を覆った。




 中からでも分かるほどに、外はどんどん明るくなってきていた。

 源氏は、女を障子口まで送った。

 内も外も、人騒がしくなり、女が西側に渡るとすぐに、障子を閉めて別れた。

 女が障子の向こうに消えてゆき──心細く──その障子が二人を隔てる逢坂の関のように思えた。

 汗に濡れた寝衣を脱ぎ捨て、平常服である直衣に着替え、南に面した簀子の欄干で、暫くのあいだ、外を眺めていた。

 西側にいた少なからぬ女たちも、源氏が外に出てきたのが分かったのだろう、西のほうの格子が慌ただしく、しかし僅かに開いて、その間から女たちが源氏の姿を覗き見ている。

 東西を分けている簀子の低いついたてからの上から僅かに見える、源氏の類稀な美しい容貌をぞくぞくする思いで眺めている。

「すきものの女たちが……」

 源氏は、冷たく女たちの視線を無視した。

 あの女は──見てはいまい。

 格子の奥で、恐れを抱いていることだろう──。

 自分の冒した罪に──

 そして、それを受け入れてしまった自分に──。

──私は、貴女を手放しはしない──。



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