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帚木(1)

 源氏が、まだ近衛の中将であった頃の話だ──。




 世間では「光源氏」と敬意を持って呼ばれている一方、浮世を流す男として、様々な噂が立っていた。

 一人の女性に歌を送ると、それがただ単に挨拶程度の歌であっても、すぐに世間の噂を呼び、人に伝わるたびに話が大きくなっていった。

 実際のところ、源氏は大変「世の評判」というものを憚り、常日頃から「真面目に」と心掛けていたから、色めいた風情漂う話など、そうそうあるはずがなかった。

 十七歳の男児としては頑すぎるほどで、

「某の物語で有名な『交野の少将』に笑われてしまうかな」

 と、源氏自身も思えるほどであった。




 葵の上との夫婦生活も六年目となっていたが、二人の間では打ち解けた夫婦らしい会話もない。

 近頃では、明るい光の下、葵の上の笑顔どころか姿さえも御簾や几帳に隔てられ、見ることがなかった。

 宮中だけが居心地良く、左大臣邸には、たまに通うだけとなっていた。

──春日野の若紫の摺り衣
    しのぶ乱れの限り知られず──

 春日野の若い紫草で摺った忍摺りの乱れのように
 あなたを思う私の心は限り知れぬほどの乱れ様──

 って、伊勢物語にもあるけどさ、光君が『忍の乱れ』でも起こすような女が、他にもできたんじゃないの?」

 などと左大臣方には疑う者もいたが、源氏にはそんなふうな浮気っぽい、ありふれた行き当たりばったりの浮気というのは、どうにも性が合わない。

 あちらこちらに次々と──ということは決してなかった。

 ただ、ひたむきに、いつもとは違って悩み多い恋を心に思い詰めるというような変わったところがあって、芳しくない行いが無いわけではなかったが──。

──私は──あの人を──。

 源氏はその思いを、未だ心に秘めていた。

 そんなある日──。

 源氏、十七歳の雨多い頃──。

 宮中では、帝の凶事の具合が悪く、宮中全体での物忌みが何日も続いていた。

 もともと宮中にいることが多い源氏であったが、このようなわけだから普段より一層長く宮中に滞在することになる。

 左大臣も、なかなか邸に通うことのない源氏と葵の上との仲が気掛かりで、またそんな源氏を恨めしく思いながらも、長い物忌みでは不便なことも多いだろうと、源氏の様々な身支度を何かと目新しく新調し、源氏の不自由の無いように整える。

 また、

「寂しくないように」

 ということなのだろうか、源氏の下に子息やその友人たちを向かわせた。

 葵の上の実兄で、かつて「蔵人の少将」であった左大臣家の子息は、この数年の間に、蔵人においてはその長たる蔵人「頭」に、近衛においては「中将」にそれぞれ昇進し「頭中将(とうのちゅうじょう)」と世間で呼ばれるようになっていた。

 頭中将は、宮中でも特に源氏と親しく、他の者たちよりも気安く付き合うことができた。

 左大臣の嫡男であり右大臣家の婿でもある頭中将にとって、右大臣の姫たる四の君のいる邸に行くのは、億劫なものであった。

 源氏と同様、舅である右大臣の待遇に不満があるのではない。

 ただ、権勢門家の姫としての自負や誇りが強すぎる四の君との夫婦仲が芳しくなく、そのせいもあって、頭中将の浮気っぽい道楽とでも言おうか、数知れぬ女性に対する色男ぶりはかなり有名であった。

 頭中将は、実家の左大臣家でも自分の部屋の装いをしっかりとし、源氏が来訪するときには、いつも供をし、昼夜を問わず学問、遊びを一緒にしたが、その何気ない知識、遊びにおいても、かの光君を相手にしても何らひけをとらない頭中将は、やはり只者ではない。

 世広しと言えども、源氏とここまで親しく、その側にいても全く少しもひけをとらない男は、この人だけであろう。

 この二人とも、それぞれ夫婦仲がいいわけではない。

 葵の上の実兄である頭中将としては、源氏と葵の上との冷えた関係が気にならないではなかったが、自分の事を考えれば源氏の気持ちも分かるし、人の事を言えた義理もない。

 そんなわけであるから、いつも競い合うように親しく一緒にいたので、自然、他人行儀な遠慮もなくなった。心内に思うことも隠さず打ち明ける仲になっている。

(本当にそうかな?)

 頭中将は、意地の悪い疑問を自分に投げかけていた。

 源氏は、何かを隠している。

 日頃からそう感じていた。

──何かは分からない。

 まあ、自分にも話さない事なのだから、他の誰も知らないことなのだろう。

 他の誰かが知っていて、私が知らないとなれば恨めしくも思うが……。

 私が知っても構わないなら、すでに話してくれているはずだし。

 誰にも言えぬ恋でもしているんだろうか。

 誰にも言えぬ恋か──あの光君のことだからな、ありえないこともない。

 誰だ?

 かの光君が思いを詰める女など──

 そんな女など、宮中にもそうそういるものではないはずだけれど──。

 頭中将は、奥底の思いを打ち明けぬ源氏が不思議でならなかった。


帚木(2)

 五月雨が、徒然に降り続くうちに日も暮れて、しめやかな宵の雨の中、侍臣の詰所である殿上の間は人も少なく、源氏がいる宿直所も普段より長閑な感じがする。

「人がいないっていうのは、こんなに長閑なものだったかな」

 源氏は独り呟くと、明かりを近づけ書物などを読み始めた。

 そこにちょうど殿上の間に入ってきた頭中将は、入ってくるなりいきなり、源氏の側に無防備に置いてあった本箱らしきものの中に入っていた、色とりどりの紙に書かれた文を引き出して読もうとした。

「ちょっと、もう。

 入ってくるなりそんなことをするなんて、大人気(おとなげ)ないですよ」

 源氏は、優雅な様子で本を読むのをやめ、頭中将から手紙を取り上げると、箱の中に丁寧に戻した。

「何が入っているのか、ちょっと見たかっただけなんだけど」

 と言って、頭中将はしきりにそれらの手紙を読みたがる。

 源氏はこの有能な年上の友の子供っぽさが、どうにも憎めなかった。

「差し支えないものなら、少しはお見せしますけど……。

 中には貴方に見られては困るものもあるし」

 と意味ありげに微笑んで、条件を付けて許した。

「そんなぁ。

 そういうふうに貴方が

『人に見られては困る』

 って思ってる文こそ、こっちは見たいって思うんだよ。

 普通のありふれたものはたいてい、私みたいにつまらぬ男でも分相応に女とやりとりして見ることができるのだし。

 女たちがそれぞれ、男のことを

『恨めしく思っております』

 とかさ

『貴方の訪れを心待ちにしている夕暮れ時に』

 みたいなことが書いてあるものこそ、見所があるってものだよ」

 と、頭中将は子供っぽい恨み言を言った。

 もともと、源氏のことであるから、本当に大切で絶対に人に見せられないような文を、こんなところに置いてあるはずがない。

 この箱のなかにある物が、二流に気の置けない──大したことのない物であると分かっているから、頭中将もこんな無理をいうのだ。

 結局、源氏のほうが折れ、名前や場所が分かってしまうようなところはさすがに手で隠しながら、見せることになった。

「へぇ、よくもまあ、いろんな手紙を持っておられる」

 頭中将は、半ば感心し半ば冷やかしながら、

「これはあの人じゃないの?」

「この字は見たことがあるな。たしか──」

「ああ『桜たち散る』って、こんな言い回しをするのは──あの女でしょ?」

 と、その文の主を聞いてくる。

 中には言い当てているものもあり、とんでもないいい加減なものもあって可笑しかったが、

「さあ、どうですかね」

 と、源氏は言葉少なにして何とか誤魔化した。

 一通り読み終わり、源氏が手紙を片付けだしても、未だに頭中将はなんとか名前を言い当てようと頭をひねっている。

「貴方こそ、こんな文を私よりも沢山お持ちでしょう?

 少し見せてよ。

 その上で、この箱の中の物も全て快く開いて見せてさしあげますよ」

「光君が御覧になるような価値のあるものなんか、ほとんどないでしょうよ。

 貴方に見せられるような、きらびやかな恋愛なんかしたことがないもの。ただね──」

 頭中将は、そう言って話を変えた。


帚木(3)

「ただね、『これなら大丈夫』とこちらが思えるような、非の打ち所のない女というのはいないものだな、と最近になってようやく分かってきましたよ。

 表面だけの繕(つくろ)った風情──そうだな、例えば字をすらすらと書いて、その折々の男が送った歌に相応しい返歌を『心得て』送るといったことなら、それなり人並みにできる女ぐらい多いと思いますけれど。

 一つのことに対する技量に注目して女を選ぶとなると『絶対脱落しない』っていうのは結構難しいものでね。

 女が、自分が『心得て』できることだけを、各々が得意気に鼻高々になって、他の女を『自分よりも劣る』って勝手に決めつけて馬鹿にする、みたいな笑止千万なことの多いこと、多いこと。

 娘に親が付きっ切りに大事にして

『楊家に有り初めて長成れり、養はれて深窓にあれば人未だ識らず』

 っていうのを真似してさ、輝かしい将来が約束され、楊貴妃のように深窓のなかで箱入り娘として育てられる間は、その娘の未熟な僅かな才芸を伝え聞いた若い男が、心動かされるということもあるでしょうけどね。

 それはそうでしょう?

 ただでさえ

『良家のお嬢さんで世間に出ることもない』

 というのだけでも『奥ゆかしく』思える上に、人づてに『~が得意らしい』って聞けば、もっと見たい知りたいって私でも思うもの。

本当のところはどれだけ上手いのか、男には分からないしね」

 頭中将は、自分や源氏が『良家のお嬢さん』を妻としていることを忘れたかのように話を続けた。

「まあ……女性っていうのは、お姿が可愛らしくておっとりしていて、男もいなくて暇を持て余している若い頃なんかは、ちょっとした芸事でも

『人がやるなら私も』

 ということで、心を入れて稽古することもあって、自然と一芸をなんとか人並みにこなすこともありますよ。

 でも、その娘を直接知っている側付きの女房などは、他人に話すときはその他の劣った面を隠すものだし、『それなり』といった程度のことは実際以上に取り繕って、男に伝えるものです。

 男のほうは本当のことを知らないのだから

『それは嘘だ』

 って勝手に馬鹿にすることもできない。

 だって、本当だったら失礼でしょ?

 それに本当であるほうが男には嬉しいことだしね。

 ということは、実際のところは自分で確かめるしかない。

『できる人』だということを信じて。

 願って。

 まあ、『本当かな』と期待をして行って『がっかりしない』っていうことはまずないと思うけどね」

 いっきにそう話して息をついた。


帚木(4)

 今の頭中将の話が、全部が全部というわけではないが、思い当たることもあったのだろう。

 源氏は、

「今の話みたいな『未熟な才芸さえもない女』とかってさ、いるものかな?」

 と笑った。

「さあね。

 ただ、そんな酷い女がいたとしても、どこの誰が人に乗せられて、のこのこ通って行くっていうの。

 いくら私でも、ね?

 そこまで間が抜けてるつもりはないよ。

 それにね、全然取り柄がない駄目な女も『優なり』と思えるほど素晴らしい女っていうのも、どちらも滅多にいるもんじゃない。

 女が身分高く生まれると、多くの者にかしづかれ『人目につかぬ点』というのも多くなって、奥ゆかしく思えてしまい、自然と端からは素晴らしく見えるんでしょう。

 やっぱ、神秘的っていうのは、一番の魅力だからさ。

 でもね、中流の女こそ、それぞれの心、気質、標榜する個性的なところが明瞭で、各々の女一人一人が、他から際立つ点を色々と多く持っているものです。

 それより下の身分の女となると、格別気も引かれなくなりますしね」

 と、頭中将がいやに詳しく説明してくれるのが、源氏にはおもしろく、意地の悪い質問をしてみたくなる。

「その『身分』というのがね、いまいちさぁ、分かりにくくない?

 どういうのを基準に上、中、下というふうに三つの品に分けるんです?

 もともとは身分高く生まれながら、今はその身落ちぶれて、位低くなり貧乏しているのと、普通の──例えば四位、五位の者が三位以上の上達部などにまで出世して、得意気に邸を飾りたて人に劣らずっていうのとは、どちらを上で、何方を下にして区別をつけたらいいんですか?」

 源氏が頭中将に詰め寄っていると、左の馬の頭、藤式部の丞の二人が、ちょうど物忌みにこもるために参ってきて、話に加わってきた。

 左の馬の頭は、左右ある馬寮の左方の長官。

 藤式部の丞は、宮中の礼式、文官の勤務評定、選叙を司り、大学寮を管轄する『式部』省の三等官の『丞』で、『藤』の字を姓にもつ名家の出である。

 二人とも、頭中将とさほど変わらない年齢でありながら、五位、六位相当の地位についているのだから、かなりの出世株である。

 また、二人は当代切っての粋人で、常日頃、女性相手に鍛えられた弁舌をもつ者たちだったので、源氏も頭中将も歓迎し、四人でこの『女の身分』について意見を交わすこととなった。

 しかし、頭中将、左の馬の頭、藤式部の丞という、浮名を流すことに関してはあまりにも有名なこの三人が集まっての、しかも女の話であるから、耳をふさぎたくなるような話も多かったが。

 源氏は、この年上の友人たちがどんな話をしてくれるのか、正直楽しみだった。

 自分のことは話すつもりのないのが、源氏の意地の悪さだ。


帚木(5)

 馬の頭が、まず話を切り出した。

「いわゆる『成り上がり』でも、それが元々ふさわしい家柄でない者は、世間の人々の心証も、やはり違うものです。

 また、もとは高貴な家筋の人でも、権勢門家とのつながりが薄いことで世間を渡る手づるに乏しく、時勢に埋もれ落ちぶれて、名声も地に落ちてしまうと、気位だけ高くてもいろんなことで思い通りにならず、いろいろみっともないことも出てくるでしょうしね。

 それぞれ判定をつけて、間をとって『中の品』っていうのが妥当だと思いますよ。

 国主たる『受領』として中央から離れ、地方国に関わり為政し『中の品』と決まっているような中にも、またいくつも段階があり『中の品でも、かなりな者』というふうに選ぶような御時勢ですからね。

 そこいらの上達部より、大弁とか兵衛の督とか蔵人頭とかみたいな『非参議の四位』などのほうが、巷では結構尊敬されて、もともとそれほど家格の低くない者が『あくせくせずに、のんびり』っていう雰囲気なのは、いかにも爽やかですよ。

 家のなかに足りないものがたとえあっても、そんなものはほっておいて、その分のお金をけちらず賭けて眩いばかりに育てられた娘で、結構立派に成長しているっていうのも多いですしね。

 その中には宮仕えに入内し『思いもかけない幸福』を手に入れる女もいるんだよ」

「それじゃ結局は、お金があれば『品』なんてものはどうにでもなるって、そういうことですか」

 源氏が茶化すと、

「貴方らしくもなく、思いがけない言いようだね。

 意地悪だなぁ」

 と、頭中将は笑った。

「そうだな──」

 馬の頭は、あごに手をやり、考えをまとめながら話を再び始めた。

「もともとの家柄と、金や実績で得た現在の信望とが二つとも高くて、一致して『やむごとなき』っていう家の姫の、実際の振る舞いや雰囲気が『劣っている』のを知ってしまうと、

(なんでそんなふうに育てられちゃったの)

 ってがっかりするのは、言うまでもないですね。

 それに、家柄がそれなりに高い姫君が『優れている』っていうのは当たり前すぎて、逆に……ねぇ?

『そんなの当然』

 って思うと、珍しくとも何ともなくて心も動かされない。

 上流中の上流にいる女のことは、誰かさんたちと違って、私には手の届かぬ世界の話ですから、今回は置いておくことにしまして──」

 馬の頭がそう言ったのは、上流中の上流に属する源氏や頭中将に対する、彼らしい皮肉だった。

「『この世にあり』と人に知られることもなく、寂しく荒れ果て、人の出入りもなく葎が生え絡まって開かなくなってしまった門の中に、思いがけず可愛らしげな女の人が閉じ込められるようにして居るのは、凄く美しく見えるものです。

 ほら、

『人気のない陋屋に美女を見つける』

 っていうのは昔から定番でしょ?

『どうしてこんな所にこんな美しい人が?』

 っていう意外さに、不思議と心留まれるものなんですよ。

 例えば、父親が年老い、むさ苦しく太りすぎて、兄の顔は憎らしげでさ、その男家族どもを見ていると

『その家の女じゃ、たかが知れている』

 って思ってしまうものですが、その家の閨の奥に、気品高い娘が、何かちょっとしたことだけで『たしなみ』というものが滲み出るっていうのは、ね?

 それがたとえ生半可な才芸だとしても、『思いのほか』じゃないなんてことある?

 絶対、意外で趣深いよね。

『完璧な女じゃないとだめ』

 っていうならしようがないけど、普通は結構捨て難いものだよ」

 そう言って馬の頭は、藤式部の丞の方を見てにやりと笑う。

 藤式部の丞には妹がいて、その妹の美しさが相当なものだという評判があるのを知っていて、馬の頭は話題に出したのだ。

 馬の頭がにやりとしたのを見て初めて、藤式部の丞は自分のことを言われているのだと気付き、そっぽを向いてしまった。

「兄の顔は憎らしげ」と言われてむくれた藤式部の丞を見て、馬の頭と頭中将は笑った。

 その三人を横目に、源氏は独り思いを巡らす。

(馬の頭はああ言っているけれど、実際はどうなんだろう──。

 上流の女でさえ『優れた女』なんかそうはいないもんだ。

『中の品の女』に、そんな素晴らしい女がいるものかな──?)

 未だ若い源氏は、「中の品の女」というものを知らない。

 普段から内裏に侍ることが多く、巷に広がる噂ほどには、女性遍歴が頭中将たちのように華々しいわけではない。

 上流の女はそれなりに知っている。

 が、「中の品の女」などと知り合う機会も、つもりも、今まで無かった。

 藤壺に似る人を求めて──同じように高貴な女性を求めて、上流の女ばかりに気を取られていたが──。

(『中の品の女』か──)

 源氏の、心の声にも現さぬ、密かな決心だった。

 独り物思いに耽る源氏に、頭中将は気付いた。

 源氏の、白い下着衣が柔らかく、その上には直衣だけを袴である指貫も履かずに少し乱れ様に着こなし、直衣の襟を止める入紐もささず、枕によりかかって楽な姿勢で寝そべり、燭台の火に浮き立つ姿は、何とも言えず美しい。

「女なら、さぞ……」

 と、不埒な考えをして、頭中将は独りほくそ笑む。

(このように美しく、奥ゆかしい婿殿を持っては、親父も気苦労の多いことだろうな……。

 葵が気恥ずかしく、頑に心を閉ざすのも分かる気がする──)

 頭中将の率直な感想だった。

(この人には『上流中の上流』っていう女でも不十分だろうな──。

 その光君の方が思いを寄せる女など──誰だ?)

 頭中将は、そんな奥底の見えぬ──見せぬ源氏を、気に入っていた。



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