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あー、ちょっと息が納まってきた。

 

「景クン聞かないの?」

「何。」

「なんで中学校の制服着てるんだって。」

 

「千冬が話したければ聞くし、そうじゃないなら聞かない。」

変わって無いなー、そういうとこ。

 

「私、一年間病気してダブっちゃったの。」

「そうかぁ、いまはもう大丈夫なの?さっき走ったりしたの、

 良くなかったんじゃないのか。」

「大丈夫、主に心の病気だったから。」

「そっか。・・・でも、なんか得した気分だ。」

「どうして?」

「千冬の中学生姿がみられたから。」

「それ、危ないおじさんみたいだよ。」

 

 でも、そういうふうに言われるとうれしい。つらいことも、

言葉一つで魔法のように楽しく変えてくれる。

変わってないよ全然、景クン。

 

「景クンに連絡とろうか随分迷ってて、さっきの子たちにもダブって

るって話はしてないの。」

 

「よしわかった。

 千冬とボクは昔近所に住んでいたけど、ボクがいじめっ子だったから

 それがトラウマになってて、逃げてしまったと。

 でもそれは子供にヨクアル、好きな女の子につい逆の行動をとって

 しまうという迷惑千万な愛情表現の一種で、今この再会の瞬間、

 過去は水に流して二人は和解した。」

「すばらしくご都合主義で、超うそ臭いね。」

 

「いいじゃん、嘘なんだから、どうせ。」

「誰も信じないよ、きっと。」

 

 

 

「へーそうだったんだ。すごーい。」

おいおい君達。

それで世の荒波を乗り切っていけるのか。

 

「千冬も良かったねー、満更でもなかったんでしょ。

 顔見たら分るよー。」

そんなあっさりと信じられてもなあ。

 

「コーヒー持っててくれてありがとう。」

「あ、どうぞ、どうぞ。ちょっとぬるくなってますよ。」

「大丈夫、大丈夫。走って、のどかわいちゃった。」

 

ごくっとな。

 

「ちょっともらっていい?」

はいよ。

 

「千冬、砂糖入りの紅茶じゃなかったっけ。」

「今は何でもいいの。のど、からからだから。」

 

“ひえー、目の前でかんせつキスだよー”

そっか、こいつら中坊だったんだ。ちょっと刺激がきついか。

 

「ありがと。」

すましてやがんの。ごくっとな。

 

「君らも飲む?」

「いえ、いいです。いいです。」

 

いてー!蹴られた。

 

「ちょっと、私の友達にそういうこと言わないでくれるかなー。

 私が恥かくでしょう。」

“上叢さん性格まで変わってない?”

「あ、ヤクシ。今のみなかったことにして。わたし、その、

 ちょっとって言うか、かなり舞い上がっちゃってるんだ。」

 

「千冬はどっち方面に帰るんだ。」

「景クンとは反対の方。だから一緒なのは駅までなの。

 でも、一度蒲生の方にも行って見たいな。

 短かったけど、すっごい想い出一杯だから。

 あの桜の木とか。今年も綺麗に咲いたかな?」

 

 ボクは頷いた。

 

 あれから毎年、桜の季節になると、ボクは一人であの桜を

見に行った。

そして一年一年の桜を、ケイタイに記録し続けた。

いつか千冬と再会することがあったら、それを見せてあげたいと

想っていた。

 

  彼女の友人達は、気を使って先に帰ってしまった。中には無理やり

引きずられるように帰っていった子もいる。

 ボクもついこの間まで中学生だったんだけど、随分違う世界に

来てしまった気がした。

 

「その制服は?」 

「有鄰館高校。」

「あ、進学校なんだ。」

「東京の大学に行こうと思って。」

「わたしも来年、そこ受けようなあ。飛び級とか無いかな。」

 

千冬頭良かったもんなあ、楽勝とか思ってるんだろうな。

 

「・・・ミズエちゃんは?」

早いな、もうちょっと近況の話とかしてからでどうですか。

 

「橘花女学院。」

「そうじゃなくて、どうなのって聞いてるんだけどなあ。」

やれやれ、。

「三月にふられました。」

「よしっ!」

 

 なんだ、そのガッツポーズは。むかつく。

 

「帰ってきてよかった。三年待ったかいがあったわ。」

「三年間、なにもなかったの?あっちにもいろいろと男子はいたでしょ。」

「男前のウッシーはいたけど。言葉が通じなかったの。

 しくしく・・・・。」

 

ボクは牛と同レベルか。

 

「ちなみに、あれは全部メス牛だぞ。」

 

駅が近くなってきて、ますます人が多くなってきた。

 

 この前に二人で歩いたのが、蒲生のすっごい田舎道だったから、

こうやって二人で、しかも制服なんか着て歩いてるのって、

すっごい違和感がある。

 

「えーっと、わたし映画とかみたいなー。“空とサンダルと猫” 

シネコンでやってるのです。」

 

はぁ? 突然なに?

 

「次の土曜日は、ヒマヒマなんだけどなあ。中学生は一人で

 出歩いちゃいけないって言われてるし。

 こっちに来て買ってもらったおニューのブラウス。

 1回も着ないうちに夏になりそうなんだなー。」

 

はいはい。

 

「何時?」

「え、付き合ってくれるの、悪いね景クン。

 例え独り身だといえ、景クンもいろいろ用事有るだろうし。」

独り身は余計だっつーの。

 

「じゃあ十時にマルエイ前の広場で!それでいいか?」

「やだー、景クンなんか怒りっぽい。昔はほんとに優しかったのにぃ。」

「千冬こそ、なんだか言葉に険があるんじゃないか。」

「そんなことないよ。・・・いやあるかなぁ。あるかも。

 さっき言った心の病気の話ね。

 あれ、こっちに帰りたい病だったの、ジツワ。」

 

 コッチニカエリタイビョウ?

 

「ちょっとした登校拒否なんだ。

 蒲生に帰りたい、帰れないなら学校行かない。

 そういうことやってたら、本当に身体の調子がおかしくなって、

 一年間棒に振っちゃった。

 大変だったけど、帰って来れて良かった。蒲生じゃなかったけどね。

 この辺りが微妙な確執と妥協なんだよ。おかあさんとの。」

 

大変さだけはわかった。多分。それ以上は当事者しか無理。

 

「そこまでして帰ってきたのに、景クンてば冷たいんだもの。

 “千冬逢いたかったよ”とか言うかと思えば、

 “今度消えるときは、完全にふってからにしてくれ”だって。

 それじゃあ私、帰ってきた意味無いよ。」

 

「悪かった。」

「それだけ?」

「あーそのー。千冬に逢えて嬉しい。」

「もう一声。」

 

ボクは、ケイタイを取り出して、写真を呼び出した。

 ボクが小学校の黒板の前でポーズを取って、タケダに

写してもらった写真だ。

 

「はいこれ。」

 

 千冬はその写真をじっと見て、

「このときが始まりだったんだ。多分。」と言って、

目尻をそっとぬぐった。

 

「そうだ。」

と彼女は言って、カバンに手を突っ込み、奥の方から何か取り出すと、

「じゃーん!」

といってボクの目の前につきだした。

 

「ケイタイじゃん。」

しかもオレンジ。なんでオレンジ?

 

「買ったの。」

「おー、すげっ。ねぇ彼女ー、番号教えてくれない?」

「んーとね。」

 彼女は、どっちかって言うとぎこちない手つきで、

操作を始めた。

 

うー、うー、うー、え、ボクのケイタイ?

耳につけて待ちかまえている。

 

「もう、見てないで、早く出てよ。」

「イヤ、ちょっと可愛いなと思って。」

“もう”、なんていいながら、満更でもなさそうだ。

 

「ハイ、中森です。」

「“景クン。”」

「ハイ。」

 

「”景クン、景クン、景クン、景クン。“」

「わかったって。」

 

「“ずっと、そう呼びたかったんだから・・・。”」

 

「お姉ちゃん。」

 

「なに?」

「また誰かに見られてる気がする。」

「気にしないの。」

「お姉ちゃん、よく二年間も耐えたよね。」

「馬や、牛に見られても別に気にならないわ。ずっと本読んでるし。」

 

 快速に乗っている間は、女性車両だからまだいいんだけど、

鴨田から蒲生までの普通に乗ってる間が気疲れするんだよなぁ。

 

「そんなに気になるんだったら、ケイくんにガードしてもらえば

 いいじゃない。」

「それはだめ。」

「あなたまだ仲直りして無いの?」

「もちろん。今度という今度は徹底的にやるの。今までとは違うって事、

 思い知らせてやる。」

 

「よくわかんないなー。徹底的にやるって別れるってことじゃないの、

 でもあなたの言ってるニュアンスってただの痴話げんかでしょ。

 知らないよー、誰か別の人にさらわれたって。」

「彼はそんな人じゃないもの。」

 

「まあ、そうね。どっちかって言うと地味だし。自分から女の子に

 声をかけるタイプじゃないし。

 遊びなれてる感じもしないし、イケメンてほどでも無いしね・・・。」

 

「そんなことないですぅ。ケイくんのよさは付き合ってみないとわかん

 ないんですぅ。

 すっごいやさしいんだから。」

「そこまでいっといて、別れるかなあ普通。」

「別れてないもん。」

「なんて言ったの。」

 

「・・・ケイのバカ、だいっ嫌い、二度と会わない・・・。」

 

「それで、独身を通してくれると思うほうがよっぽどおめでたいわ。」

 

はーあ、そうだよなー。

カンナとタケダは地元の高校に行っちゃったし、休み暇だなー。

 

高校に行ったらもっと華やかで楽しい生活が待ってると思ってたのに。

 なんていうのか、声かけられるのも、最初は面白かったけど、

もうウザったいんだよね。

 ねぇ、彼女ーとか。お茶しない、とか、みーんな同じなんだもの。

一緒に地球を守りませんか、ぐらい言ってみろって。

 

「ねぇお姉ちゃん。今度の休みさー、葦原行って遊ぼうよう。

 せっかく通学定期あるんだし。」

「そんなに退屈なの。しょうがないねえ、じゃあお茶ぐらい

 おごんなさいよ。」

「ぇえーそんなぁ。」

 

ハハといいアネといい、妹に容赦ないわ。

 

彼が東京の大学を目指しているのは知っていた。

その理由もうすうす感じていた。

だから私は彼に追いつこうと、行きたくも無い塾に通っていた。

 でも、彼は私が背伸びする以上に高いハードルをクリアしてしまい、

進学校に合格してしまった。

 

私は一人取り残された気がして、つい彼に八つ当たりしてしまったのだ。

 

でも、・・・私が選んだのは彼の学校と同じ駅にある高校だった。

 ここならまたいつか、せめて行き帰りぐらいをともに出来ると

思ったのだ。

 

 中学のとき、煮え切らない彼の態度にいらいらして、何度も絶縁を宣言して、

 ちょっと寄り道をしたりして、結局彼のところに帰っていった、

その延長のつもりだった。

 

私は過信していた。

彼が好きになれるのは、私と、そしてあの上叢千冬だけ。

 

そして彼女は、いまは遠い北海道にいる・・・と。


 こんなふうに、千冬が来るのを待っているのは、

あの春の別れの朝以来だ。

 

千冬はボクの姿を見つけると、以前のように小走りに駆け寄ってくる。

前髪の乱れを気にしながら、ちょっとうつむき加減に。

そんなにじっと見ないでとでも言うように、目をくりくりさせながら。

 

そしてボクはやっぱり、そんなに急がなくてもいいのにって苦笑する。

三年もの月日がたっているなんて、信じられない。

 

「お待たせ。」

「昔のまんまだね。」

 

 “空とサンダルと猫”は、実も蓋も無い言い方をすれば、

思春期の恋愛映画で、ボクは普段こういうのは見ない。

 

 とある海辺の町にすむ中学生の男の子と女の子。

二人は幼馴染でお互いが好きだった。

 

 そこへ、昔近所に住んでいて東京に出て行った、推定二十代の

お姉さんが帰ってきて、男の子はついふらふらと憧れてしまうわけだ。

 

 お姉さんは子犬でもあやすようにその男の子と戯れるのだけど、

まあ幼馴染の女の子にとっては面白くないわけだな。

 

 で、お姉さんはやっぱり田舎にはいづらくて、近所のおばさんとか・・・、

来たときと同じような荷物を持って、どこかに去っていってしまう。

バイバイ、ままごとに戻りなさいって言って。

 

 それでハッピーエンド?そんなわけは無い。もう二人の関係は、

もとには戻れないんだよ。

 

 女の子の穢れない、黒い瞳が男の子の不実を責めている、

ように男の子には(観客にも)みえるんだな。

 ここから先は映画には無いんだけど、ま男の子か女の子は

いずれここから出て行くと(お姉さんと同じように)

いう暗示を残して、終幕。

 

 この“空”と“サンダル”と“猫”っていうのは、海辺の町によくある

アイテムらしくて、どれが三人の誰を指しているのかは具体的ではなくて、

誰もが立場をかえればその、サンダルだったりするってとこだろうか。

 

 千冬は、途中で籐の手提げからハンカチを出して、

鼻をすする音をさせていた。エンドロールの間中、

彼女はボクの肩に頭を乗せてまだ少しぐすぐす、

そして“はあ”と溜め息をついた。

 

エンドロールが長い理由を始めて知ったよ。無意味に長いのもあるけど。

 

このあと、ボクたちは少し遅い目の昼食に向かう。

 

「地中海料理のすっごくおいしい店、知ってるんだけど、

 そこでいいかな。」

「どうして、景クンがそんなおしゃれな店知ってるの。」

「ま、いいからいいから。」

 

 ボクと千冬は葦原のアーケード街を歩いて、少し細い路地に入り込み、

アーケードと平行に並んでいる裏通りに出た。

 

「ここだよ。」

 

  ぼくは店を指さした。午後の高い日射しがまともに当たっている。

中は少し暗くて見えにくい。

観光客なら絶対入らない店。

 

「景クン。なんか“かき氷始めました”って書いてあるけど。」

「ホントだ、季節だねえ。」

 

「それに“よしず”まで、たててあるしどうみても地中海料理の店って言うより、

海の家って感じなんだけど。

 多分浮き輪やビーチボール貸します、って看板がおいてあって、

麦わら帽しかぶったおじさんがうちわで焼き鳥扇いでて、ねえ、

私、担がれてない?」

 

あー、上手いこと言うな。さすが“文学少女”。

 

ちょっと違うか?


「マスターこんにちは。」

「おう、中森くん。いらっしゃい。今日はお嬢さんづれかい。

 すみに置けないねー。」

 

マスター年いくつ? すっごい古典的。

 

「カウンターでいいよね。」と景クンは、彼のS席にわたしを誘った。

「うん。」ちょっとわくわく。

さすがに麦わら帽は被ってないか。

 

「メニューは後ろ。」

へ、後ろって、わあ、黒板にチョークで書いてある。

 

「マスター、ボク、フレッシュトマトとベーコンのスパゲッティ。」

「あいよ、お嬢ちゃんは何にする?」

「私、パエリアお願いします。」

「ちょっと時間かかるけど、いいね。今日はムール貝のいいのが無くって、

アサリと手長エビだ。アサリ大丈夫?」

「はい。」

 

わぁ、ちゃんとお米から炒めるんだ。カウンター面白い。

ぜーんぶみえる。

ワォー、フライパン燃えた。もう一回やってくれないかなぁ。

 

「このスープとサフランが決めてだァ。」

「すっごくいい匂いです!」

「だろー。」でも、景クンどうしてこういうお店知ってるんだろう。

 

ねぇ景クン。

 

「ずっと前にね、夕方お店の前を通ったら、ニンニクのすごくいい匂いがして、

 その日はどうせ一人だったから、たまには食べて帰っちゃえって思って。

  外から見たら、焼きそばかなんか出てきそうだけど、

 ちゃんとしたスパゲッティが出てくるし、マスターはこんな人だし。

 いっぺんで気に入っちゃって。」

 

「時々、食べに来てくれんだよなー。ほい、スパゲッティお待たせ。

 お嬢ちゃんはもうちょっと待ってね。お焦げは好きかい。」

「ハイ、大好きです。」

 

わーい。

 

「ねぇ景クン、さっきの映画どうだった?」

どうでもいいけど景くん、スパゲッティ巻き取るのちょっと下手くない?

 

「うん。考えてたんだけど、あの配役さ、男と女が逆だったら、

あの美しさって成り立たないんだろうなーって。」

「どういうコト、それ。」

 

「だから、少年って穢されるべき存在で、少女は犯すべからざる存在じゃない。

 少年は汚れることで、その短く儚ない時間をより美しく見せるけど、

 女の場合って、汚れてるのは大人の女性だよね。

 汚れた少女ってオヤジの願望で、痛々しくて美しくないよ。」

 

ほーっ、まさかそんな答えが返ってくるとは思ってなかったわ。

だって、彼ったら、フフ。

 

「こらー、何で笑うんだよ。真面目に応えたのに。」

「いまの説明って、すごいなと思って。私びっくりしちゃった。

 だって、初めて図書室であったとき、作家の顔でどれ読むか

 決めてるんだって言ってたのよ、景クン。」

「それで、中也勧めてくれたんだよね。小学生には無理かも

 知れないっていいながら。

 確かに無理だったけど。」

 

彼って昔のこと、良く覚えてるんだ。

 

「中森君は面白いね。

 普通は料理って、飲んで、くって、腹一杯になって、勘定払って

 終わりなんだが、中森君は、なんでこんな味が出るんだ、

 いま入れたのは何だ、どうして弱火にするんだとか、

 いちいちうるさいのよ。

 だからさあ、こっちも気合い入れて作らないと、

 おっさん、腕落ちたとか言われたらたまんないからね。

 はいお嬢ちゃんパエリア。おまたせー。」

 

「すっごくきれいな黄色。エビの朱色もキレイ。」

「だろー。よし、気に入った。アフターのコーヒーはサービスだ!」

「あの、・・・紅茶にしてもらえますか。」

 

 景クンが、おいおいって顔してわたしを見た。

 

 昼食時を過ぎていたので、店はそれほど忙しくもなく。

 ボク達は彼女のいた北海道の話や、ボクの中学生活の話やなんかを、

 再会した友人達が、それこそ普通に、当たり前にするように話し込んだ。

 

 マスターは、本当は二時から五時半までは昼寝と夜の仕込みで

店を閉めているんだけど、準備中の札だけぶら下げて、

「まあ好きなだけいていいから。」

とボクたちに居場所を提供してくれた。

 

「・・・でねー雪がすっごくて。冬なんかどこへも行けやしないの。

 映画なんて百キロぐらいクルマをとばしていかないと見れないの。

 信じられないけどそれが現実だったのよ。」

「百キロか、いいな。それ。」

「・・・・・なにが?」

 

「いつかどこまで走れるか、やってみたいと思ってるんだ。」

「陸上やってたっていったよね。景クンが部活やってるところって、

 想像できないな。」

 

「そっかー?ちょっと、家に帰らない口実にしてたって所もあるんだけど・・、

 でも、長距離はボクに向いていると思った。

  何にも考えずに、ただ空や風や鳥の声や自分の足音と心臓の響きと、

 それだけに耳を傾けて走り続けるっていうのが、ボクにとっての究極の

 ランニングなんだ。百キロ走ったら、七十五キロぐらいからそれが

 現実になりそうな気がするんだよ。」

 

「どうして四十二・一九五キロじゃダメなの。」

「あれは、どうしても他人との勝負のイメージがついて回るから。」

「ふーん。色々考えてるんだね。小学生の頃の印象しか無かったから・・・。」

「何だよ、淋しいとか言うなよ。」

 

「ううん。嬉しい。いろんな言葉を聞けるから。景クンがどんな人に

 なってるか楽しみだったから。」



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