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地表付近の空気中の水分が凝結して地上におちて、霜になる。

 

 霜は朝になり、お日様に暖められて、冬の朝は白く輝く

水蒸気で満たされる。

今朝の気象予報士さんがそんな事を言っていた。

 

 あの日、父さんと母さんはゆっくりと話し合って、

正式に別居する事を決めたそうだ。

 

 父さんは単身赴任でお盆と正月ぐらいしか帰ってこないから、

いまの僕の生活にはあまり変わりはない。

 

 父さんがソーセージ並みに詰まった新幹線に乗って

帰らなくてもいいというぐらいの差でしかない。

でも、もうこの家には帰ってこないのだ。

 

“離婚じゃなくて別居なの、母さん。”てきいたら、

 
「母さんも父さんも、お互いの事が嫌いになったわけじゃないの。
 むしろ、いまでも好きだけど、もうお互いの一番ではなくなって
 しまったの。

 父さんも母さんも、一緒に暮らす事よりやりたい事が出来ちゃったのね。

 そのほかにも、離婚すると景ちゃんの親権の問題とか、この家のこととか、

 いろんな問題が出て来るっていうのもあるんだけどね。

 何より、離婚しちゃうともう三人一緒に暮らすチャンスが未来にも

 なくなってしまうのよ。

 だから、今は別居っていう事にしておこうって決めたの。時間がたって、

 いろんなことが変わったときにまた考えようって。」

 

 

 そういう話が終わっていたんだろうな、ボクが帰ってきたときには。だから、

おだやかに二人で話していたんだ。

 

 その水蒸気が輝く中を、ボクが初めて見る女の子が歩いてきた。
 そんなに急がなくてもこの時間なら学校には間に合うのに、小走りにボクの前を
通り過ぎ・・・ないの?

 

 

「おはよう、景クン。」 

 

その声、うそだろ!

 

「千冬?どうしたのその髪。」

「切っちゃったの。」

 っていいながら、かろうじて肩の辺りまである髪の先を、指で後ろに流した。

「背中まであったのに!」

「あれ、景クン長いの好きだったの・・・失敗したなあ。」 

 

いやそういう事じゃなくって。

 

「どうして?」

「そうね。ちょっとした“宣戦布告”っていうのは物騒かな。

 いままでお父さんお母さんの言う事には、はいはいって素直に従ってきたん

 だけど、もう本当にイヤになったの。

 だから、手始めに髪を切ったの。一番わかりやすいでしょ。髪を切るって。」

「わかりやすいって言うより、誰だかわからなかったよ。」 

 

 ぷっ、て、自分で笑うかな。

こんな所で立ち話しててもしょうがないか。

学校へ行こう。

 

「なんで親に逆らおうって思ったの?」

「一つ目、景クンと一緒に帰っちゃダメだって言われた。

 二つ目、せっかく堀内さんが誘ってくれたのに、

 サッカー応援しに言ったらダメって言われた。

 三つ目、お正月、景クンは女の子と楽しそうにデートしてるのに、

 わたしは着物なんか着せられて親と一緒に初詣。

 もういやになっちゃったの。」 

 

ああ、すれ違ったとき。

 

「千冬のお母さん、若くてキレイだよね。まだ二十代に見えるくらい。」

「ごめん、それ言わないで。お願いだから。」 

 

 なにか複雑な親子関係なのかな。実の親じゃないとか。悪い事言っちゃったな。

 

「初詣の時、見せつけられちゃったなぁ。

 アノコ、丘野さん?、と付き合ってるんだ。」 

「そうじゃないよ。」

「だってすごく仲良さそうだったよ。手なんか繋いでさ、

 見てるこっちが恥ずかしくなるよ。」

 

冷静になれ景。

大人はこんな時、かっかしちゃダメだ。

 

「ミズエとボクの関係を、そんなふうに呼びたくないんだ。付き合うとか

 そういうんじゃなくて、一緒に大人になろうって約束したんだよ。」

 

一度口にすると、朝靄が薄れていくように、ボクの頭がすっきりと晴れてきた。

 

「ミズエとボクは、二人とも一人じゃ乗り越えられない心の問題を抱えていて、
 でも二人だったら何とかなるんじゃないかって、思い始めている。」

 

 いまボクの隣を歩いているショートヘアーの女の子は、ボクがこの夏、両手に

タールをつけて心に塗りたくった黒を、いつの間にか白く消し去ってくれた

不思議な女の子。

 

 その子がいま、寂しそうな顔でボクの隣を歩いている。彼女に消えて無く

なれなんてこと言えるわけないんだ。

 

「わたしがいたら、丘野さんおこるよね、、、、きっと。」

 

 ミズエは、一人で教室の窓の外に座っていたボクを呼び入れてくれて、

木彫り人形だったボクの呪いをといてくれた。

 

「うれしくは無いと思う。でも、千冬とはクラスが一緒で、

 帰る方向も一緒で、千冬がボクのことを優柔不断で煮え切らない、

 最低のヘタレって思ってるんだったら仕方が無いけど・・・、

 そうじゃないんだったら、不自然な付き合い方できるほど、

 ボクは器用じゃない。」

 

「不自然な付き合い方?」

 

「顔をあわせても“やぁ、元気”なんて当たり障りの無い挨拶して、

 “じゃね”って分かれる。千冬の話が聞きたいのに。」

「よくばり。優柔不断。八方美人。」

 

言われたー。でも普通そうだよね。

 

「そうなんだ。でも、もう誰との糸も切りたくないんだよ。」

「糸かぁ、なんか分る気がする。私たち転勤族だもんね。

 何かあったの?景クン家(ち)。」

 

「・・・うん。両親が別居するって。」

「やだね、大人って身勝手で。転勤、別居、り・・・。」

「離婚。」

 

 ボクと千冬はその言葉で顔を見合わせて、しょうがないなって感じで
苦笑しあった。

 

 校長先生はこの寒いのに今日も校門立っていて、千冬が髪を切ったのに気付いた

みたいだったけど、いつもとかわらずにっこりとして、

「おはよう。」っていった。

 

 

 今日は三学期の始業式だから、午前中には全部終わっちゃう。

もうしばらく、半日授業が続かないかなぁなんて思いながら、

階段を上がっていった。

 

とんでもない騒ぎが持ち上がっていることを知らずに。

 

「上叢さん。“おめー”。」

「おめでとう、堀内さん。」

 

堀内さん、なんか目が光ってる。何だろう。

 

「ねぇ聞いた?中森と二組の丘野さん、お正月に神社でデートだったん

だって。」

あらあら、

「わたし見たよ二人で歩いているところ。同じ頃初詣に行ってたもの。」

「なーんだ。知ってたのかツマンナイの。じゃあ、心穏やかじゃないでしょ。

 ・・・あれ、ちょっと待って。

 上叢さん、髪の毛切ったの!ひょっとして敗北宣言!

 かわいそう、上叢さん。」

 

むかっ!

 

「違う!堀内さん。それ以上根も葉もないこといったら、上履きにゴキブリ

 突っ込むわよ。」

「ひいーーー。それだけはご勘弁をーーー、って。なーんだ違うのか。

 まあいいや。それでね、二組の男子が中森君のこと狙ってるらしいよ。」

「狙う?」

「なんてったって、“二組のアイドル丘野”を略奪しちゃったんだよ。」 

 

なんだか、美容院においてある週刊誌みたい。

 

「そんな略奪だなんて、彼にそんな度胸無いわよ。」
「それだけじゃないの。去年の三組VS二組のサッカー最終戦。」
「アー、せっかく誘ってくれたのにごめんねー、わたし、本当は行きたかっ

 たんだけどなー。」

ほんと腹立ちますって、うちの親には。

 

「負けた腹いせに、中森君を“ぼこす”っていってるらしいの。」
「どうして、中森クンが狙われてるの。彼、サッカー下手だって言ってたのに。」
「それは、わたしもわからない。」

 

 景クン大丈夫かなぁ。喧嘩とかも弱そうだし。

 うーん、あの横顔を見る限り、彼なーんにも知らないって感じ。教えてあげた

方がいいよね。

 

「心配そうね、上叢さん。」
「だって、クラスメートが誰かに狙われてるって聞いたら、

 心配になるでしょう。普通。」

「わたし、ならないもーん。」

この、女狐めー。

あ、先生きちゃったじゃない。あーん、言えなかったよー。

 

「それじゃあ、今日のホームルームはこれで終わり。

 みんな気をつけて帰れよ。」
「せんせいさーならー。」

 

“あー終わった終わった。休みあけはきついわ。”
“おーい、日和佐。塾の前にコンビニよって、昼飯買っていこうぜー。”
“えー、塾やすみてーなあ。”

 

 みんな好き勝手なこと言い合ってる。このがやがやしたところが、

久しぶりの教室って感じ。子供っぽくて笑えるわ。


 

「おい、ナカモリっているか?」

え、誰?

 

うわっ、入り口に立ってるの、二組の子じゃないかしら。

ということはひょっとして。

「あちゃー、黒部だ。さいあく。」
「堀内さん知ってるの?」
イヤそうな顔で、頷くなあ。たち悪そう。

 

「おーいナカモリー。」 

返事しちゃダメ。

 

「なにー。」
「おまえかー、ちょっと顔かせや。」

景クンぼーっとしてないで、逃げなさい・・・。あらら、中に入ってきちゃった。

 

「ちょっと学校の裏手につきあえや。」

 

「ことわる。」
「何だよ、びびってんのかよ。この根性無し。」
下卑た、イヤな笑い方。

 

「何の用か言ってもらわないと。ボクはこれから家に帰って、

 洗濯とか晩ご飯の買い物をしないと行けないんだ。結構忙しいんだよ。」

「洗濯?なんでおまえが。」
「母さんが仕事で忙しいの。」

「お前んとこのオバサンが忙しいとか、そんな事知ったこっちゃねー。

 来いっていってるんだよ。」
「だから用事は何? ここでも言えるだろう。」
「イヤ、ここではちょっと。」
「もう、わけわかんないよ。誰か他にいないの話の通じるヤツ!」

 

うわー、景くん無茶苦茶言ってる。

 

あ、一人、もう一人入ってきた。やだもう、いかにもって感じ。

二組って一体どういうクラスなのよ。

 

「お前か、ナカモリって。」
「なんか、今日午前中だけで、すっごい有名人になって行くみたい。

で、何の用?」

 

「お前さ、二組のオンナに手ぇ出したろう。そういうのむかつくんだよな。

 サッカーも、好きかってしてくれたじゃねーか、へたくそは外で大人しく

 してりゃいいのに。

 お前がいると、面白くねぇんだよ。二三発なぐらねーと気がすまねー。

 冬休みが終わるのが待ち遠しかったぜ。さあ、ここで殴られるか、

 外で殴られるかどっちがいい。」

 

誰か男子、止めなさいよ。

 

「あいつらやばいよー、いっつも三人掛かりだから。」 
堀内さん詳しいねーそういうの。

「わかった。わかったから帰る。そんなつまらない事に

 付き合う気はない。」
「何だとてめーごらー!わざわざ三組まで出張ってやったのによー。」

あーもう、男子のばかー! もう我慢できない!

いけー、上叢千冬。

 

「景くーん、お待たせー、一緒に帰ろう!」
そんなびっくりした顔しなくても良いじゃない。

どさくさに紛れて腕組んじゃえ。 

「上叢・・・。」
「買い物行くんでしょ、スーパー・マキノに。つきあったげよか。

 わたしのお薦め教えてあげる。」

 

早く立ってよ、こわいよ景クン。
「何だーこのオン・・」、 

 

「なにやってんのよー!」

 

あれ、丘野さん。
うわー怒ってる。こっちに向かってくる。丘野さんが一番こわい。

 

「ケイくん、この人誰。ちょっと、誰に断って、わたしのケイくんと腕

 なんか組んでるの。」
「わたし、上叢。」 


「え・・うそ!マジ?」
「髪切ったの。」
「ホントだ、もったいない。綺麗な髪だったのに。」

「色々訳ありで。誰かさんに神社で見せつけられちゃったりとかしたし。」

「で、どうして腕なんか組んでるわけ。しかも教室の真ん中で。

 わたしでもした事無いのに。」

「一緒に帰るの。丘野さんこそどうして三組に?」

「ケイくんと、一緒に帰ろうかなーって思って。」
「あー残念、私の方がちょーっと早かったかなあ。

 それに丘野さん、全然方向違うじゃない。」

というか、私たちクラスの注目浴びて、いったい何やってるのかしら。

 

「上叢さんだって、いつも遠回りさせて。」
「え、遠回りだったの?」
「知らないの?」
「だって、わたしあの道以外知らないから、通り道だと思ってた。」
「あきれた・・・、で何で腕なんか組んでるの、わたしに断りもなく。」
「だって、この人たちが、・・・」 

丘野さんが二人を睨んでる。

 

「クロベ、シンジ・・・。あんたたち何してるの。」
「なにって・・・。」

「わたし、つまんない噂聞いたんだぁ。うちの男子がケイくん狙ってるって。

 冗談かと思ってたのにマジだったの・・。最低ね、全く。

 タケダもタケダよ。いるんでしょその辺りに。」
「よんだかー、ミズエ。」

 

「あんたね、あんたが蹴り入れたらこいつらなんか一発でしょう。なに高見

 きめこんでんの。」

 

そうだ竹田くん。私なんかが出しゃばらなくても、彼がいるじゃない。

 

「いやー、ケイがどうするか見ものだと思って。」
「あんた、それでも友達?」


「それをいうならケイに言ってくれよ。

 中学でも一緒にサッカーやろうって誘ったのに、断るんだもんな。

 友達甲斐無いヤツなんだよ。」
「ボク下手だし。」
「確かにいまは下手だけど、この間の試合、あの試合はお前の試合だった。」
「ゴールしたのはタケダじゃないか。」

「決めたのはオレだけど、試合を作ってたのはケイだ。

 あの二点目のパスなんてさ、ケイがへったくそなドリブルで左を上がって

 きたとき、あの時間帯で二点目が入ったらもう終わりだって誰でもわかるんだよ。

 だから二組の連中がみんなでケイを押さえにいったから、オレがパスを受けに

 行こうとしたら、ケイが目で右にあがれって言うのよ。

 で、ケイがへなちょこラストパスをポーンとあげて、あとはもうオレ、

 フリーで押し込むだけだった。  

 やったぞーってケイの方見たら、ぶっ倒れたまんま拳を突き上げてやがんの。

 それみてオレ鳥肌立っちゃったよ。あの状況でオレにパス出したら、絶対

 決めるって信じてぶっ倒されたんだって。

 オレ、もっとケイとサッカーやりたいのに、ケイのヤツやらないって言うん

 だぜ、ありえねーよ。まったく。」

 

「へー、すごいなケイ。」
「わたし見てたけど、そこまでわかんなかった。」
「でもタケダのゴールもすごかったよなー、二本だぜ二本。」
「なんか、ドッカヘ飛んでったのもあったけどな。」

 

 いいなー行きたかったなー。楽しそう。一緒に騒ぎたい。

 ん、ケイくんどこ行くの。シンジくんの腕なんか掴んじゃって、

外に出ちゃった。

なんだろ。

 

廊下で話してる。

 


「・・・オマエさあ、殴り合いしたいんだったら付き合ってやるけど、

ボク弱いから相手にならないぞ。そんなの殴って面白いか。」

「オレは。お前みたいなのが嫌いなんだ。」

 

「ボクを殴ってぼこぼこにしても、丘野はオマエのこと軽蔑するだけだぞ。

 それは相手がボクだからじゃなくて、弱い相手を殴って憂さ晴らし

 するってことに軽蔑するんだ。

 丘野は可愛いだけのお嬢さんじゃないんだ。それぐらいわかるだろう。」

 

「じゃあどうすればいいんだよ。お前むかつくんだよ!何でも分ってますって

 顔して、おいしいとこもっていきやがる。それをどうすればいいんだよ。」

「オマエがむかついてるのは、ボクじゃなくて、自分だろ。」

「くっ・・・。」

 

「そういうのは、もがいて苦しんで、逃げンのやめるしかないんだよ。」

「うるせー!オマエになんかわかるか!くそったれ。」 

 

・・・行っちゃった。

「もう、ばかなんだから。」 

丘野さん、いつの間に・・・。

 

「ほっとけばいいのに、あんなヤツ。」
「ほっとけないんだよね、あいつ。」
「そうそう・・・。で、自分が傷ついて。」
「私たちって、大変だ。」
「私たちじゃなくて、わーたーし。」

 

やなオンナ。

 

「まあいいわ、今日はゆずっとく。助けてもらったし。」
「ゆずっとくって、あなたねえ・・・上叢さんて、ああいう性格だったの?

 もっとおしとやかで、和風の人かと思ってた。」
「親はそうしたいみたい。」
「あーなるほどね。で、髪切ったの。ご両親よくゆるしたよねー。」

 

「最初自分できったら、失敗して、その頭で美容室行くからお金頂戴って

 言ったら、母さん青ざめてた。だから、予定より短くなっちゃった。」
「ご愁傷様。」

「でもいいんだー。だって景クンの、あんなにびっくりした顔見られたから。」

なんてね。どお、丘野さん。・・・あれ?

 

「三組の皆さーん。うちの“ばか”がお騒がせしちゃってごめんなさいねー。

 あとで、ちゃんと説教しておきますから、ゆるしてねー。」

 

「おかのさーん、また遊びに来てねー。」
「うん!くるくる。じゃあね―。」 

恐るべし、オカノミズエ。


あー、半日だったのにいつもの倍は疲れた。

しかも今日はさらに遠回りだし。

 

朝晴れてたのに、曇ってきたよ。

洗濯しても乾かないだろうなあ。

乾燥機ってさあ、まさに地球温暖化マシーンだよね。 

 

 ボクとミズエはミックスサンドイッチとチョコマーブルとアップル・デニッシュと

暖かい缶コーヒーとミルクティを買って、公園に行った。

 

「なんか寒くなってきたね。」
「朝より低くなってないかなぁ。」

 

 まあ、公園も誰も歩いてませんわ。

 犬の散歩の人をよく見かけたりするんだけど、これだけ寒いとね、犬も家で

じっとしてたいでしょ。

 

「あの、トンネルの中に入ろう。ちょっとはましだよ。」
「だねー。」

 

コンクリート製の大きな滑り台。

 

 台っていうよりは丘?の下に小さい子供なら、立って歩けるぐらいのトンネルが

通っていて、遊んでて突然雨が降ったときなんかに、ここでよく雨宿りをする。

 

 そういうとき、トンネルの外の世界は”水煙“(で、いいんだっけ。最近

読んだ本の中に出てきたんだ。)の中で、雨以外に動くものがなく、灰色の

水浸しの中に沈んでいく。

 

 つい無口になって、だれかがスニーカーを動かして、それが底に溜まった砂を

鳴らす音だけが耳に聞こえてくる。

 なんとなく、みんな無口になるんだ、そういう時って。

 

ああ、寒いはずだよ。 

「雪だ・・・。」
「ホントだ。つもるかなあ。」

 

 しばらく、雪が落ちてくるのを黙ってみてた。

 

 ミズエが、カラになったサンドイッチのケースと、パン袋をていねいに片付け

てくれた。

 ぜんぜん、わがままな女の子なんかじゃない。

 そのあと、せまいトンネルの中で、「さぶ・・・。」って小さな声で言って。

腕を持ってボクの身体にくっついた。

 

「このまま寝ちゃってぇ、朝起きたらトンネルごと雪に埋まっててぇ、捜索に

きた誰かに発見されたときには、二人は身体を寄せ合って眠りながら凍死してるの。

 ロマンチックー。」

げー、何言ってんの。もっと、人生楽しんでから死のうよー。

 

 雪が、だんだん激しくなってきた。

 

 ミズエはまだ渋っていたけど、もう夕方に近かったし、北西の方の雲がすごく

黒くてこれから本格的にふってきそうだったから・・・っていっても言うこと

聞きやしない。

 

 最後に、帰ったらケイタイするからと言ったら、それはそれでまた嬉しそうで、

ようやく公園を出て行くことが出来た。

 

 結局その夜、たまたま母さんが帰ってて、久しぶりに話したりしてたから

ミズエにケイタイしたのは十一時を過ぎてからだった。

 

彼女、怒ってた。

 


ボクは時々夢を見る。

誰だか知らない人から引き離される夢。

 

でも状況からすると、それは母親のような気がする。

声が聞こえるのも以前と変わらない。

 

「ごめんね。」って言う声。

 

その時のボクには何の感情も無い。

なにも分からずに引き離される夢。

 

でも、母さんとは違う人のような気がする。



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