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ネット規制に法律は不要! 同和地区マップを巡る行政・プロバイダの攻防

 筆者は今から2年前の2009年9月4日、「鳥取県内の同和地区(被差別部落)」という同和地区マップをインターネット上の地図共有サービスであるグーグルマイマップに掲載した。同和地区マップと言っても、実際は市町の条例や規則に書かれた、同和対策施設(隣保館、地区会館など)の場所を地図上に示しただけのものである。この地図を掲載した動機は、はっきり言って大したものではなかったのだが、これが思わぬ事態を招いてしまったようだ。
 私の手元に、鳥取県に対する情報公開請求により得た資料がある。これによれば、2010年6月28日、「グーグルマップへの不適切事案の掲示についての意見交換会」という会議か県庁で開催された。会議は2時間半、参加者は鳥取県、鳥取市、米子《よなご》市、倉吉《くらよし》市、岩美町《いわみちょう》、智頭町《ちずちょう》から合計13人である。さらに同年11月8日には同じく県庁で解放同盟と県との意見交換会が行われた。同年11月18日にはJR倉吉駅近くにある倉吉市|上井《あげい》公民館で、「人権問題についての意見交換会」という会議が行われ、鳥取市、米子市、倉吉市、境港《さかいみなと》市、岩美町、智頭町、八頭町《やずちょう》、北栄町《ほくえいちょう》、湯梨浜町《ゆりはまちょう》、琴浦町《ことうらちょう》、日吉津村《ひえづそん》、大山町《だいせんちょう》、伯耆町《ほうきちょう》、日南町《にちなんちょう》と、図書館公文書館を含む県の各部局から合計28人が参加した。3番目会議は同和地区マップ対策のためにだけ開いたものではないようだが、それでもメインの話題は同和地区マップだったようだ。
 まず思ったのは税金の無駄遣いだ。少なくとものべ41人の職員が会議に関わっている。その人件費と、さらに全県から集まるので、交通費もかかるわけである。会議の資料作成などの準備にも手間がかかっていることだろう。金額に換算すれば、少なくとも何十万円か、ひょっとすると何百万円かが費やされたかも知れない。これらの会議に、費用に見合う価値があっただろうか。
 県の当面の目的は、同和地区マップをインターネット上から消させることにあるようだ。県が公開した資料によれば、経過は次のとおりである。
 県人権局が電話での通報により同和地区マップの存在を確認したのが2009年9月11日。人権局の対応は素早く、同月16日には「同和地区に関係した施設の所在地を「鳥取県内の同和地区(被差別部落)」という標題のもとに地図に示し、あたかもそこが同和地区であるかのように表現することは、一般の閲覧者に誤解や偏見を与えます。早急に削除していただくようお願いします。」という削除要請をメールによりグーグルに送った。しかし、グーグルからの回答はなく、地図はそのまま放置されたため翌年1月28日に再度「投稿者が記載しているような、県行政が「公認の差別対象地域」というものはありません、また、「この近くに住むと就職や結婚を断られる」と説明し、住所を貼り付けることは、閲覧者に差別心や偏見を与え、人の心を傷つける、差別を助長する行為です。早急な削除を求めます。」という文面がグーグルに送られている。さらに同年11月11日、2011年2月17日、同3月31日にはグーグルに対し県人権局長名の文書で削除要請ないしは、削除しない理由についての照会を求めている。しかし、結局同和地区マップは削除されていない。グーグルからは2011年3月5日に一度だけ「規約への違反があるとは判断できなかった」旨の回答が、メールにより県に対してなされただけである。
 はっきり言って異常なことである。「要請」という形をとっていることから分かるとおり、法的な根拠なく、県が削除を強制する権限は全くないのである。にも関わらず削除要請は合計5回にも及んでおり、「何とかして削除させよう」という意思が見て取れる。相手が従う意志がないのであれば、強制力がないことをやらせようとしても、単に労力の無駄ということになるのだから、通常は役所がこのようなことはしない。
 会議には「鳥取ループ」が何をしてきたかという資料が提出されているが、やたら丁寧である。拙著《せっちょ》「同和はタブーではない」(8月15日に「部落ってどこ? 部落民ってだれ?」と題した書籍版を発売予定)や本誌の「滋賀県同和行政バトル日記」で解説してきた、滋賀県での同和地区の情報公開を巡るせめぎ合いが時系列でレポートされている。また、筆者は大阪市の同和地区マップを同様に掲載して大阪法務局から削除要請を受け、その後の法務局との電話でのやりとりを録音して公開したのだが、その会話の要点も分かりやすくまとめられている。筆者としては別に構わないのだが、それにしても税金でやるようなことだろうか。
 筆者が同和地区マップを掲載したことについては賛否両論あるだろうが、その意味合いについて詳しく解説していこう。


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シリーズ「自演」 立花町連続差別ハガキ事件 第3回

 我々が見た熊本《くまもと》和彦《かずひこ》は怪物でも何でもなかった。ただ少しだらしないだけの、普通のおじさんだった。しかし、彼が前代未聞の自作自演事件を起こしたことは間違いのない事実だ。部落解放同盟福岡県連合会(福岡県連)は「差別ハガキ偽造事件」についての「最終見解と決意」で、こう総括《そうかつ》している。

私たちの運動の中に、あるいは同盟員の中に、「糾弾(会)で行政に圧力をかけ、屈服させ、自分たちの要求をのませる」という発想や風潮、体質がなかったのか、もし一部にでもあったとすれば、これを徹底して排してきたのかという問題であります。今回の件は、まさにそのような悪《あ》しき体質が、ごく一部とはいえ、厳然として存在していたことが明らかになったということであります。

 これを読むと、まるで立花町《たちばなまち》では解放同盟が町を糾弾して利権を漁ってきたかのように思えてしまう。我々も最初はそう思っていた。むしろ、そういったドロドロとした実態を見たいがために、はるばる立花町までやってきたのである。しかし、実際はそうではなかった。
 いや、少なくとも熊本はあの事件で行政から利益を得たではないか、立花に限らずそのような人間が組織の中にいたことが問題なのだ、と言われるかも知れない。しかし、熊本が得た利益は、あれほど大胆な行動の見返りにしてはあまりにも小さすぎるのではないかと思う。関西で相次いで明るみになった同和行政にからむ不祥事では何千万円、何億円という金が動いた。しかし、立花の事件の場合はせいぜい何十万円といった話だ。はっきり言ってあまりにもセコい。
 同和事業とお金にからむ不祥事がマスコミで大きく取り上げられる度に、部落解放運動家の中で反発が起こる。「マスコミは騒ぎすぎだ」「まるで解放運動や同和行政そのものが悪かのように言っている」と。しかしどうだろう。部落解放運動の当事者である解放同盟でさえ、マスコミや、世間でさんざん言われてきた批判の受け売り程度の見解しか出せていないではないか。部落解放運動が「行政に圧力をかけ、屈服させ、自分たちの要求をのませる」ために利用されたのは、なにも今さら始まったことではない。対立する人権連などからも、型通りの批判としてさんざん言われてきたことのはずだ。
 人間は金のためにだけに動くわけではない。そのことは「自分は金のために運動しているわけではない」と自負している部落解放運動家なら、よく理解しているはずだ。だから、金以外の目的で不祥事を起こす人がいても不思議ではない。では、熊本が自作自演事件を起こした動機に金以外のものがあるとすれば何なのだろう。それを理解するためには、八女・立花地域の解放運動について理解する必要がある。


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