閉じる


<<最初から読む

4 / 27ページ

P 3



 

しばらくして、イモムシが通りかかりました。

「ねえねえ、みどりのとまとちゃん。枝から落ちて困っているのは分かるけど、こんなところに一日中じっとすわっていたら、腐ったトマトになっちゃうよ。」

「そっか。」

ともちゃんは、すくっと立ち上がりました。

でも枝から落ちてしまったともちゃんは、いったい何をしたらいいのかわからず、なつかしいトマトの茎によりかかり、土をけっているだけでした。

 

 

 

そこへ、アリが通りかかりました。

「ねえねえ、みどりのとまとちゃん。トマトの枝が懐かしいのもわかるけど、そこにいつまでいても、大きくも赤くもなれずに、ひからびたトマトになっちゃうよ。」

「そっか。」

 

 

 

ともちゃんは、(大きくてまんまるでつやつやした真っ赤なトマトになる方法を見つけなきゃ)と思い、そろそろと歩き始めました。

初めて歩く土の上は、ちょっと冷たくて、湿っぽくて変な感じがしました。

でも、自分の足で歩き始めたともちゃんは、前より少し大きくなってみえました。

 


P 4

 

 

ともちゃんは、とぼとぼと畑のあぜ道を歩いていきました。

いつも農家の人が通る道です。

そこへ、カメが通りかかりました。

「ねえねえ、みどりのとまとちゃん。この道はかたくて広くて歩きやすいけどね、人が通ったり、犬がかけまわったり、危険がいっぱいさ。こんなところを歩いていたら、つぶれたトマトになっちゃうよ。自分の行く道は自分で歩いて作っていくものさ。」

「そっか。」

ともちゃんは、ちょっと考えてから、あぜ道から外れたぼこぼこの土の上を歩き始めました。足元を良く確かめながら、ぬかるみにはまらないよう、穴におちないよう、石につまずかないようにしっかり歩いてきました。

ちょっと後ろをみると、カメの言ったとおり、ともちゃんが歩いてきたところに小さな足あとがてんてんとついた、小道ができています。

ともちゃんは、それを見たらふと力がわいてきて、体が少しずっしり重く、強くなっていくような気がしました。

ともちゃんは、また前を向いて歩き始めました。

 

そこへ、年をとったネコが通りかかりました。

「おや、まあ、みどりのとまとちゃん。あなたのようにころころ丸くてはじけそうなみどりのトマトははじめてみたわ。みどりのトマトもかわいいものねえ。」

それを聞いたともちゃんは、ちょっと照れて、ポッとほっぺたが赤くなりました。

そのとき、体がうっすらとオレンジ色にかわったのを、ともちゃんはちっとも気づきませんでした。

 


P 5



 

しばらくいくと、ウサギがピョンピョンと跳ねながらやってきました

「ねえねえ、そこのとまとちゃん。何でそんなに難しい顔をしてるんだい。」

「私、大きくてまんまるでつやつやした真っ赤なトマトになりたいの。」

「そんなに難しい顔をしていたら、赤くなるものも赤くらないよ。いつでも楽しいことを考えてなきゃ。」

ウサギは、ともちゃんの目の前で、ほらね、というように、青い空にすいこまれそうなくらい高いジャンプを一つして、行ってしまいました。

ともちゃんはそのこっけいなジャンプにクスッと笑うと、ウサギの言ったとおり楽しいことを考え始めました。

 

太っちょで真っ赤なパパとのにらめっこ。

細長でつやつやなママとのひなたぼっこ。

まだ小さくてみどりのちびトマトたちとの、枝のブランコ。

 

そんなことを思い浮かべているうちにしだいに心がうきうきし、ともちゃんの顔に自然と笑みがこぼれてきました。

ともちゃんは、自分の体の内側からポカポカ温かくなっていくのを感じました。

 


P 6





 

すると突然、                      

「誰か~!助けて~!」

という声が聞こえてきました。

ともちゃんは、はっとしました。聞き覚えのある声です。

ともちゃんは全力でその声のするほうに走っていきました。

声の主は小さな小鳥ちゃんでした。

ともちゃんが前いた畑の上で、毎朝歌を歌ってくれていた小鳥一家の末っ子です。

昨日の嵐で、木の枝が折れて、太枝の下敷きになってしまったのでしょう。

「今助けるからね。」

ともちゃんは、折れた枝の端を力いっぱいもちあげました。

「うーん」

でも、びくともしません。

もういちど、もっと力をいれて、

「うーん」

それでも、太枝はびくともしません。

ちっぽけなわたし一人じゃ無理かもしれない。

ともちゃんは、少し泣き顔になってきました。

 

ふと目をおとすと、小鳥ちゃんは体をくねらせ、羽をばたばたさせて、必死に抜け出そうとしています。

体はすり傷だらけ。周囲には抜けた羽がいくつも落ちています。

それでも、小さな体で、自分の何倍もの大きさの枝の下から抜け出そうともがいているのです。

 

ともちゃんは畑にいたときのことを思い出しました。

小鳥の透き通るような歌声が響く、畑のさわやかな朝。

小鳥ちゃんの歌が聞けなくなってしまったら、一日中枝にぶら下がったきりの畑の野菜たちはどんなに悲しむことでしょう。

 


P 7


 

この小鳥ちゃんを助けられるのは、今ここにいるわたししかいない。

 

ともちゃんは、気をとりなおして、もう一度大きく深呼吸をしてから、力いっぱい枝を持ち上げました。

汗が顔中からにじみでて、体が炎のように熱くなるのがわかりました。

それでもともちゃんは、全身の力をふりしぼります。

枝が、ギギギッと少し浮きました。それと同時に、すっと風を切るように、シューンと小鳥ちゃんが抜け出し、空に舞い上がったのです。

小鳥ちゃんは、うれしそうに何度も何度も空中旋回して、

「ありがとう。本当にありがとう。」

といって、今までより、うんと高い声で、「チュン、チュン、チュチュチュン」、といつもの歌を歌いながら森の向こうに消えていきました。

 

まだほてったままのともちゃんの体が、汗のしずくできらきら光っています。

「よかった。」

ともちゃんはへとへとでしたが、とてもすがすがしい気持ちでした。

 



読者登録

Rosemaryさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について