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サイゴニ

 私がバスを降りると、見覚えのある女が買い物袋を方手にバス停を通り過ぎた。その女がふと立ち止まり、振り返る。私は二度見してそれが凛だと気が付いたと同時に、凛も私が私だと確信した。

「あ」

二人とも、口を半開きにして人の往来の中を立ち尽くす。私が一歩踏み出した途端に凛は身を翻して走り出した。

「ちょっ…待てー!」

物凄い勢いで逃げる凛。しかし途中で私が追いついた。

「早っ。」

「今日は荷物無いから!」

喋りながらも止まろうとしない。負けたくないのはお互い様のようだ。商店街を抜けて公園に辿り着くと、二人とも座り込んだ。

「はぁはぁ…、に、逃げるな!」

「だって、お…追いかけるんだも…。」

「お前は犬か!」

「トムとジェリー。」

「それはネコとネズミ。」

「…で?どこまで分かった?」

「全部。」

「野球少年じゃないよ、あたし。」

「あんなの女と思う方がおかしいから。」

「全部ばれちゃってる?」

「ばれました。あんた、スズキが通り魔なのも知ってたんでしょ?」

「うん。毎日仕事帰りにゆいっちが襲われない様に、バット持って後付けてて、なんかもう一人ゆいっちの後付けてる奴がいると思ったら、常連のスズキでさぁ。暇つぶしにあいつの後付けてみたら殺人犯なんだもん。そりゃあもう驚いたね。」

「…通報しろよ…全く。…あ、後、工作料の代わりにうちのクリニックで豊胸したことも聞いた。」

「そんなとこまで!?」

「あ、ひとつわかんないのが…。」

「なになに?」

「歳、ほんとは、いくつ?」

「それは…。いくつに見える?」

「…。教えないとバット捨てるよ。」

「ご、ごめんなさい…。」

私は地べたに寝転がって、田舎の青空を見た。ここの空は、何にも拘束されていない。視野の端まで空が続いている。

「ま、いいけどさっ。」

歳を言おうか迷っている凛に笑いかけた。

 今になって思う事がある。逃げるのも戻るのも、負けたと思う事も悪い事じゃない。その途中、何に気付くかで人生は決まる。


この本の内容は以上です。


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