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ストーカー

“プルルル…”

「はい、日之瀬探偵…。あぁ!沢木さん。…いえいえ、ご無沙汰してます。唯ちゃんはどうですか、その後。…そうですか。良かった。まったく、ウチの娘ときたら、家に帰すのが目的とはいえ荒い仕事っぷりで、本当に申し訳ありませんでした。…いえいえ…。ところで今日は…。はは…。そうですか、わかりました。お待ちしてます。」

“ガチャ”

「たっだいま~。はぁあー。疲れたー。お父―。もう、やだよ。身辺調査~。つまんないよ。もう飽きたー。」

凛はドサッと自分のデスクに座った。

「何言ってんだ。得意だろうが、ストーキングは。唯ちゃんの時なんかほぼストーカーだったぞ、お前。」

「だって、唯ちんのは、本当に私ストーカーだったんだもん。」

「開き直ったか。」

「お母死んで、お父ンとこ越してから、ずっと週末様子見に通ってたんだよ?ライフワークと言っても過言じゃないね。」

「なんで声かけなかったんだ?小さい時は良く遊んでたじゃないか。」

「だってさあ、なんか素直に育ってて、友達多いし、私なんか忘れてそうなのに、改まってなんて声かければいいんだよ?実際、会っても全然気がつかないし、一緒に撮った写真見ても、『それ妹?似てなーい、妹のがかわいー』とか言って。それ自分だっつーの。確かにかわいいけど。」

デスクの写真立てを取る。

「拗ねるな。気付かれないように騙してたのはお前の方だろうが。」

「嘘は言ってないもんねー。歳以外は…。しかも、小さい時の私、男だと思ってたんだよ。ひどいよぉ。」

「そりゃ、髪短くて、常にバット持ち歩く悪戯好きが女に見えるわけないだろ、唯ちゃん四つか五つくらいだったんだから。」

「だってバット好きなんだもん。あーあ、あげるんじゃなかったー。」

「戻ってくるかもよ。」

「え?なんつったの?」

「いや、ちょっと買い物行ってくれるか。」

「はいはーい。何買えばいいの?」

「なんか、お客さん用に果物とか、適当に。」

「了解~。」


サイゴニ

 私がバスを降りると、見覚えのある女が買い物袋を方手にバス停を通り過ぎた。その女がふと立ち止まり、振り返る。私は二度見してそれが凛だと気が付いたと同時に、凛も私が私だと確信した。

「あ」

二人とも、口を半開きにして人の往来の中を立ち尽くす。私が一歩踏み出した途端に凛は身を翻して走り出した。

「ちょっ…待てー!」

物凄い勢いで逃げる凛。しかし途中で私が追いついた。

「早っ。」

「今日は荷物無いから!」

喋りながらも止まろうとしない。負けたくないのはお互い様のようだ。商店街を抜けて公園に辿り着くと、二人とも座り込んだ。

「はぁはぁ…、に、逃げるな!」

「だって、お…追いかけるんだも…。」

「お前は犬か!」

「トムとジェリー。」

「それはネコとネズミ。」

「…で?どこまで分かった?」

「全部。」

「野球少年じゃないよ、あたし。」

「あんなの女と思う方がおかしいから。」

「全部ばれちゃってる?」

「ばれました。あんた、スズキが通り魔なのも知ってたんでしょ?」

「うん。毎日仕事帰りにゆいっちが襲われない様に、バット持って後付けてて、なんかもう一人ゆいっちの後付けてる奴がいると思ったら、常連のスズキでさぁ。暇つぶしにあいつの後付けてみたら殺人犯なんだもん。そりゃあもう驚いたね。」

「…通報しろよ…全く。…あ、後、工作料の代わりにうちのクリニックで豊胸したことも聞いた。」

「そんなとこまで!?」

「あ、ひとつわかんないのが…。」

「なになに?」

「歳、ほんとは、いくつ?」

「それは…。いくつに見える?」

「…。教えないとバット捨てるよ。」

「ご、ごめんなさい…。」

私は地べたに寝転がって、田舎の青空を見た。ここの空は、何にも拘束されていない。視野の端まで空が続いている。

「ま、いいけどさっ。」

歳を言おうか迷っている凛に笑いかけた。

 今になって思う事がある。逃げるのも戻るのも、負けたと思う事も悪い事じゃない。その途中、何に気付くかで人生は決まる。


この本の内容は以上です。


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