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バット2

「外に食べに出るのは、いいよ。」

「うん。おいしいねココ。」

「でも、これは…。」

下瞼をひく付かせている私に、凛はきょとんとしていた。

「変装じゃなくてコスプレですから!」

人の多い普通のカフェで、二人共捕まらない程度におかしな格好をしている。

「怒ったー。あ、鼻から麺出てるよ。」

「えっ」

「うっそ~。いあやぁ、似合ってるよ~。やっぱ天然美人は違うね~。羨望の的!」

「目立ってどうすんじゃい!」

「おお~。張るねぇ、声。」

「何これ!?めっちゃ座りにくいんですけど!」

背中に付けさせられた、針金と透ける布で出来た物体を引張る。

「羽。だって妖精さんなんだもん、私。しかもなんだかんだ言ってここまで着てきたじゃ~ん。それにこれ、ゴスロリとロリだよ。コスじゃない。」

「なんでウチまで…。全くあんた幾つだと…。あんたねぇ、ニキビと吹き出物の違いってわかる!?」

「え、何、なに?」

「二十歳を境に呼び方変わるの!コレも二十歳過ぎたら立派なコスプレ!学校卒業したのに制服着るのと一緒!…ちょっと!なんで私の食ってんのよ!」

「いーじゃーん。同じ釜の飯~。オナカマ~みたいな。」

「意味が分からん!荷物持ってきて良かった。着替えてくる。」

席を立ちかけて、私の体は止まった。

「…あ。」

私は凛の後方、店の外に怪しげな男を発見した。ゆっくり座りなおす。

「?なに…。」

振り返ろうとする。

「動くな!!」

顔を隠しつつ言う。

「…トイレ。」

「いっといれ。」

くだらない駄洒落は完全無視して、凛の手を掴んだ。

「一緒にいくの!」

「やだなぁ、連れション?やっぱあたしのこと好きなんじゃーん。」

「煩い!いいから、荷物持って。」

「えー。」

「早く!」

ぐずぐずする凛を無理矢理つれて、トイレに入る。

「外に変な奴が居る。」

「まじで!?ゆいっち変なの集めるの得意だね。」

「チッ。」

凛のお気楽さかげんに舌打ちする。

「きっと警察だって。」

「じゃ、逃げるの!?」

「当たり前でしょ!?」

「よっしゃ!まかせんしゃい!!」

「どうするの?」

「普通に出る。」

「はぁ!?」

「今着てるの、脱いで。交換する。」

衣装を換えると、本当に普通に店を出る。しかし、私だけがまた店内へ戻り、出入り口で隠れて待機している。凛がダッシュで路地に入ると、怪しい男はその後を追った。ちょっと、どうする気?私は自分の前を男が通り過ぎてから覗き見る。と、男が路地に入った瞬間、凛が走って出て来た。

「行くぞ!」

と、私の手を引く。

「えぇ!?」

引っ張られつつ走り出す。角を曲がったところでタクシー拾い、乗り込む。

「どうなったの!?」

「武道は得意なんだけど、今回はこれで…。」

薄いピンクにフリルとリボンがふんだんにあしらわれた可愛い袋。しかしなんだかやけに長細い。こんな晴れた日に傘なんて…。と私が思っていると、凛が袋の上からチラッとバットを覗かせた。

「またかよ!傘じゃないんかい!あぁ、もう。罪状が増えてる気がする…。」

「私は大丈夫。」

と言ってスカートをひらつかせる。さっきまで私が着ていた服だ。

「そっちのが似合う~。…って、これじゃ私がやったことになってんじゃん!ダメじゃん!」

「やっぱ東京は危険だな。逃げるか。いい?」

「…他に、ないでしょ。」

「すいませーん。やっぱり東京駅丸の内口までお願いします。」

「い、いきなり行くの!?」

「いいって言ったじゃん。家に置いてきた分の荷物は諦めて。」

「じゃなくて、この格好で!?」

「だめ~??」

「ダメ!!」

アンゼン

大阪に着くなり夕飯ををねだる凛に根負けし、私達はお好み焼き屋に入った。広島のとは違うけど、懐かしい味がした。東京にもお好み焼き屋はあったけど、家出してからなんとなく口にするのをためらっていたものだ。

「やっぱコレだよねぇ。」

「ねー。うま。っつーかさぁ。」

「なになに?」

「それ、バット、いつまで持ってんの?」

「このコと私は一心同体なの。」

「なんか…逸話でもあるわけ?」

「逸話ってゆーか、まぁ竹馬の友っつーか、ん?竹じゃないから…」

「意味間違ってるし、そんなことは聞いてないし。」

「いや、だからね。憧れつつも、違う生き方になってしまってるとこがミソ。」

「はぁ?」

「うーんと、打つために作られたコイツは、つまり、自分から物にぶつかって跳ね返すために作られてるわけね。だから、ぶつかってくのに必要なものだけで出来てんの。すごくない?考えた末に超シンプルなわけよ。そーゆーとこが、いらんもんばっか身に着けてって、ぶつかってかない自分とは正反対で、なんだか手放せないんだなぁコレが。」

「ああ、豊胸とか、無駄なもん付けてるもんねぇ。」

「ゆいっち、キツイなぁ。」

「そんな事、いつから考えてんの?」

「うーん、小学生の時はすでに。」

「へぇ。そういう事考える小学生だったんだぁ。」

「すごい!?」

「暗い!!」

「ぎゃふん。」

「あんた友達少ないでしょ?っつーかいないでしょ?」

「そんなことないもん!」

「じゃあ言ってみ。」

「・・・・・・・・・・・・ゆいっち。」

「ほらね。私は友達じゃないから。いないってことじゃん。」

「しどーい。」

「どーせ、家にずっといて、漫画とかゲームしてたりばっかなんでしょ?」

「ぇえ!?すごい、ゆいっち、なんでそんなことまで。でもそれだけじゃ…」

私は目の端に何かを捕らえた。

「見られてる…。」

「やだなぁ、ゆいっち自意識過剰―。」

「チッ。違うわ!男だよ!カフェの!こんなとこまで…。」

「あらら。うーん。まだ食べきってないのにぃ。」

「もう駄目か…。」

「まぁ、まかせて。じゃ、今度は(いにしえ)のコント形式で。」

私達はレジに向かい、店を出た。男はすぐにレジへ行くが、すぐに出られずレジ係と揉めてもたついている。私達は近くの電信柱の影からそれを覗いた。

「おお。大成功。」

「これって、微妙に手の込んだ食い逃げじゃぁ…?」

「まさか私も本当に『あそこにいるお父さんが払うんで…』が、通じるとは思わなかった…。」

「思ってなかったんかい!」

「日本の安全神話は健在か。…さて、先を急ぎますか。」

「どこに…ってか、どうやって行くの?電車はまたつけられるかも。」

「ヒッチ。」

「なに?」

「ヒッチハイクで、博多まで行くか!」

「か!って…、車つかまるの?」

「うん多分。」

「女二人でヒッチなんて、危なくない?」

「危ないけど、ある意味今の私達のが危ない奴だし、他に足のつきにくいのって、徒歩かチャリくらい。…歩きたいの?」

「うっ…。仕方ないか…。」


トモダチ

 いくつかの車を乗り継ぎ、二人は岡山県内のサービスエリアまで来ていた。深夜の為か車は少ない。凛がトイレに行っている間に唯はコーヒーを買いに行き、財布の中身を確めた。

新幹線に乗ったせいで後3万ちょっとか。でもあのコほんとに貧乏そうだし…コーヒーくらい買ってやるか。

「おまたせ~。」

「はい。コーヒー。私もトイレ行くから、持ってて。」

「ありがとう!ゆいっち最高!」

缶コーヒーごときでこんなに喜ぶなんて、どんだけ貧乏なんだか、ただの馬鹿なのか…。多分ただの馬鹿だな。嬉しそうにコーヒーを飲み始める凛を残してトイレに向かう。私が個室に入ると、手洗い場で女二人が話しているのが聞こえた。

「そういえば、あの通り魔ってどーなったか知ってる?」

「あー、よくわかんないけど、もう大体の見当はついてるらしいよ。」

足音が遠ざかるのを待って、人気を気にしつつ私は急いでトイレを出た。

「やばいって!」

「ぅおぅ!は、早かったね。」

「驚きすぎじゃない?」

「空想中で…。」

「またくだんないこと考えて…。それより、さっきトイレで通り魔のこと話してる人が…。」

「どこの通り魔?」

「はぁ?あんた、本人でしょ!?」

「だから、どこって言ってた?」

「…。」

「ゆいっちー、ここ岡山だよ?通り魔なんてどこでもいるって、やっぱり自意識過剰~。」

「…ムカつく言い方。」

と言いながらも、少し安心して凛の隣に腰を下ろした。凛が私の分のコーヒーを手渡す。

「いい夜だねぇ。店いた頃は夜空なんかまともに見なかったよね。」

「確かにねぇ…。」

見上げると星空が広がっていた。

「ね、小さい時は夜外に居ると、なんだか怖くならなかった?」

「ああ。怒られて外に出された時とか最初は怖かったなぁ。でもすぐ慣れてそのまま遊びに行っちゃって、更に怒られたりしたよねぇ。」

「それはない。」

「すみませんでした…。」

「あ、良くある話だけど、幼稚園入るか入らないかくらいの時にかくれんぼしてて、遠くに行き過ぎて迷子になっちゃったんだよね。どんどん辺りは暗くなるし、まじでこのまま死んじゃうんじゃないかと思ったりして…。」

「あー、疲れてもう歩けないしね。」

「そうそう。」

「そのうち寒くなってきたりして。」

「うんうん。」

「…で、死んじゃった。」

「死なんわ!生きとるっちゅーねん!」

「お化けが怒る~。怖い~。きっとくる~。」

げらげら笑う馬鹿を睨む。

「んで、どーしたの?」

「……。」

「も~、ごめんってばぁ~。ちゃんと聞くから~。」

凛が体を摺り寄せてくる。黙っていると更に鬱陶しい事になりそうなので、私は話を続けた。

「はぁ。…それで、泣き始めたら、草むらから男の子が出てきて、見つけて助けてくれた。」

「オトコの子?」

「そう。その頃近所にいた野球少年。ひーくん…だったっけ?まいーや。十歳くらいの子で…。あー思い出した!よくピンポンダッシュとかしてた。一緒に。」

「…ふーん。楽しそうだね。」

「うん、あ、でも、知らないうちに引っ越してたんだよね。確か。今どこにいるのかなぁ。結構かっこよかったんだよなぁ。」

「…こんなんなってるかもよ?」

と、自分を指す。

「あんた女じゃん…え!?オカマ!?」

「女の子だもん!おっぱいあるもん!」

「ニセモンでしょ?」

「…。じゃあ…」

凛が下を脱ごうとする。

「やめんか!いい!もうわかったから。はいはい、女の子。わかってます。」

「サジ投げるー。」

「ぁあ!もう、面倒くさいなぁ、あんたは!ほら!車来たよ!さっさと動く!!」

「はーい。ゆいちーん。待ってよー。」


ワスレモノ

 広島県内に入ると、またもよおした凛のせいで、サービスエリアで下ろしてもらう事になった。

「ありがとうございましたー!」

「あ。」

実家の近くだ…。体が微かに緊張した。凛が振り返る。

「何?」

地元…なんて事言ったら面倒な事になりそうだから止めとこう…。

「あ、あと少しだね。」

「うん。」

「結構かかるもんだよね。」

「うん。」

「博多って初めてかも。」

「うん。」

「あんた、トイレ行かないの?」

「うん。」

凛が下を向いたまま答える。

「どうしたの?なんか具合悪いの?あんたお菓子ばっか食ってるから。」

「うん。」

テンションが低すぎる。明らかに様子がおかしい。

「…ちょっと、ほんとにどうしたの…?」

「ねぇ。博多着いたら、どうするの?」

「え、…別に考えてないけど…?」

「じゃあ…、また、ふらふらして、風俗?」

「何、それ…。」

「その時良けりゃいいんだ?ああ、またホストに捉まるとか?」

全身の毛穴が開く感じがした。仲間だと思い始めていた相手にいきなり攻撃され、私は傷付くのを通り越して切れた。

「ちょ、だから、なんなの、その言い方!?何にも知らないくせに…。」

「見ればわかる。どーせただの家出でしょ?逃げたんでしょ?夢があって東京来た奴はもっと違う。大体夢があったって、しっかりやれてる奴なんて少ないのに。」

「はぁ!?何が言いたいのよ!?」

「だから、そんなまんまどこ行ったって、結局変わらないってこと!」

「ちょっと!そういうあんたこそ、やりたい事やったツケが払えなくて、結局風俗でしょ!?二十五にもなってふらふらしてんのはそっちじゃない!!」

「二十四!!まだ二十四です!!」

「いーわよそんなことどっちだって!大体、あんたのせいでここまで追われる羽目になったんじゃん!迷惑!ほんっと迷惑!!…あー、もう嫌だ。どっか行って。」

「ほんとにいーの?一人でヒッチは危険なんだからね!?」

「煩い!良いも何も、喧嘩吹っ掛けたのはあんたでしょ!あーほんとどっか行って!早く消えてよ!」

「わかりました!さようなら!」

凛が走って駐車場に消える。

「まじむかつく!…あ…」

目線を落とすと、バットがぽつんと残っていた。


スリ

 そのまま残って数時間、夜も明けてきたが凛は戻ってこない。怒りはもう冷めている。確かに考えてみれば、凛の言う通りだった。でも、なんで急に…。

「…もう!結局探さなきゃいけないの、私?」

ぶつくさ言いながらサービスエリアの隅々まで探しても、凛は見つからない。

「何?マジでいないの?最悪…。」

ここまでは凛に付いてきただけで、いざ自分がやるとなると、どうしていいか分からない。まわりの車を見る。

「一人でヒッチは…危険、だよな…。」

途方にくれるって、正にこれって感じ。そんな事を思っていると、なぜかタイミングよく、タクシーが通りかかった。ああ、良かったぁ…。走ってタクシーを止める。

「すいません。博多までって、いくらぐらいですか?」

「ええ!?お嬢ちゃんそりゃアンタ、十万はかかるよ。」

「そうですか…。あ、ちょっと待ってくださいね。」

有り金で行けるトコまで行くしかないな。確か3万はあった筈…。と、財布を覗くと、3万が消え3千円のみが残っている。

「うっそ…!やられたー!!」

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