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1

みゆきは、気の進まない合コンに付き合わされていた。

友人の純と梓に頼み込まれて、嫌だと断りきれなかった。

男3人。女3人。

確かに2対3では都合が悪いのはわかるが、みゆきはこの場で彼氏を見つけようとは全く思っていなかった。

男は皆医師だと言う。嘘ではなさそうだが、お世辞にもイケメンとは言えない。

もちろん人を外見だけで判断するつもりはないが、みゆきは自慢話が出たあたりから白けていた。退屈な話が続き、彼女は露骨につまらなそうにするから、隣の席の純に、先ほどからエルボーを食らっている。

「みゆき、スマイル、スマイル」

小声で言う純に、みゆきはため息をつき、サワーを飲んだ。面白くないのに笑えるほど人間はできていない。

みゆきと純と梓は、同じネットカフェで働いていた。皆23歳。合コンをやる必要がないほど客にモテている。ファンも多く、彼女たちを目当てに来る客も少なくない。

3人ともルックスがいいだけあって理想は高く、特定の彼氏はいなかった。黒髪の純に茶髪の梓。みゆきはやや染めた長い髪を、お洒落に束ねていた。アバウトなポニーテールが見事に決まっていて、いわゆる「イイ女」だ。

「ふう・・・」

みゆきが退散するタイミングを見計らっていると、不破野という30歳の男が話し出した。

「梓チャン。何で俺がそんなにモテるか教えてやろうか」

「聞きたい」梓は顔を輝かせた。

「あたしも聞きたい」純も笑顔で身を乗り出す。

みゆきは一人、白けていた。友人たちの順応性には参っていた。

「正直、女ってさあ。どこかでわかるのよ。テクニシャンかどうかが」

みゆきは自然に睨む顔になっている。不破野が語る内容も喋り方も気に入らない。

「ふわのさんはテクニシャンなの?」純が聞く。

「試してみる?」

「ヤらしい」

笑顔の純をみゆきは怖い顔で睨む。梓は隣からみゆきの脚に軽く膝蹴りをかます。みゆきが梓を睨むと、梓は小声で呟いた。

「頼むから怖い顔はやめて」

 

 

 


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2

不破野は得意満面で話す。

「まあ、俺のテクニックにかかれば、女はみんなイチコロだけどね」

「嘘」純は笑顔で質問する。「じゃあさあ。どんな風に攻めるの?」

「やめなよ」みゆきが純の腕を掴む。

「いいじゃん、酒の席なんだから」梓がみゆきの手をどかした。

「女ってさあ。精神的なものを求めるじゃん。だから最初はソフトに攻めるね」

「女は演技もするよ」

「俺の場合は演技じゃないよ。100%の確率でメロメロにするよ」

みゆきはイライラしてきた。こんなセクハラを耐える必要があるのか。しかし二人は乗りまくる。いくら何でも合わせ過ぎだと思った。

「俺に攻められて無事だった女はいないよ」

「ホントにい?」

「梓チャン、お手合わせしようか?」

「ヤダ」梓は笑顔で引くそぶりをした。

「はしたないよ梓」みゆきが怒る。

「はしたないとか言わないでよ。おばあさんじゃないんだから」

みゆきを除いて皆はなぜか爆笑した。今がチャンスとばかりみゆきは席を立った。

「帰る」

「わかった、ゴメンゴメン!」

二人に掴まれてみゆきは強引にすわらされた。

「でも君たちもヘタな男は嫌いでしょ?」

「うまい人好きだなあ」純が不破野にビールを注ぐ。

「サンクス」

みゆきの顔が曇る。二人とも大人過ぎる。そう思っていると、不破野が話しかけてきた。

「みゆきチャンはさあ、感度いいほうでしょう?」

「はあ?」みゆきは激怒した。

「まあまあまあまあ」

純と梓がみゆきをなだめる。不破野はみゆきに睨まれても怯むことなく挑発した。

「君なら3分あれば落とせるね」

背筋が凍る。みゆきが立ち上がろうとすると、不破野は追い討ちをかけた。

「逃げんのかよ?」

「はあ?」みゆきも言い返した。「あんたもかわいそうな男ね!」

「やめなよみゆき」純が慌てて腕を触る。

「俺はかわいそうじゃないよ。女には不自由しないし、プレイで女の子はとことん喜ばすし」

「最低!」

「何マジになってんの?」

確かにそうだ。こんなバカ男の言葉に本気で受け答えする必要はない。みゆきは落ち着こうと思った。しかし不破野が突っつく。

「みゆきチャンは一度、本当のテクニシャンにかわいがってもらったほうがいいよ」

これほどのセクハラが許されるはずがない。

「くだらない。帰るわ」

「みゆき!」

 

 

 


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3

純と梓が立ち上がって止めたが、みゆきは怒って店を出て行く。本気で怒っているので、二人は言った。

「わかった待ってみゆき。あたしたちも一緒に帰るから」

「二人は残れば」

「みゆきだけ帰せないよ」

「あなたたちはあのバカ男にメロメロにされなさい」

みゆきの言葉に二人は怯んだ。

「みゆき・・・」

「バカ男とか言っちゃう?」

みゆきは怒りが治まらない。こんな不快な思いをするとは思わなかった。自分の直感をもっと信じるべきだった。気乗りのしない飲み会は参加するべきではない。時間の無駄。青春の無駄だ。

みゆきは駅に向かい、近道の路地裏を歩いた。

「みゆき」

あの声は。怖い顔で振り向くと、やはり不破野だった。彼女は全身に鳥肌が立った。もちろん悪寒だ。

「はあ?」

「みゆき。送ってくよ」

「あなた、もしかして、バカ?」

みゆきに軽蔑の眼で見られても、全く落ち着いている厚かましい不破野。みゆきはますますイライラが募る。

「みゆきはかわいいから変な男にナンパされたら困るじゃん」

「呼び捨てにするなって言ってるの!」みゆきは怒鳴った。

「じゃあ何て呼べばいい?」

「もう二度と会わないんだから必要ないでしょ」

みゆきが背を向ける。

「みゆき」

歩きかけたみゆきは立ち止まると、呆れた顔で振り向いた。

「あのですねえ・・・あああ!」

スプレー。顔に掛けられた。みゆきは吸い込んでしまった。まずい。急いで逃げようとしたが、足がもつれ、力が抜けた。

「あああ・・・」

急激に眠気が襲う。

「卑怯なこと・・・・・・」

不覚にもみゆきは、不破野の腕に支えられて眠ってしまった。不破野は不敵な笑みでみゆきの美しい表情をながめる。

「みゆき。俺にそんな態度取ったらどうなるか。たっぷり教えてあげるね」

みゆき。大ピンチだ!

 

 


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4

「んんん・・・・・・」

みゆきは静かに目を覚ました。

「ん?」

ここはどこか。ベッドの上。なぜか猿轡を咬まされている。声が上げられない。彼女は異変に気づいて暴れた。

「んんん!」

まずい。全裸だ。バスタオルを掛けられているから、恥ずかしいところは隠されているが、両手両脚を大の字に拘束されている。

手枷足枷でガッチリ固定されているから、自力で外すのは無理だ。みゆきは愕然とした。胸の鼓動が高鳴る。まだ頭がぼんやりしていて、思考回路が鈍い。

彼女は部屋を見渡した。ラブホテルのようだが、照明が暗くしてある。

「!」

みゆきは目を丸くした。不破野。しかも全裸だ。鍛え抜かれた野獣のような不破野が、怖い顔で近づいてくる。みゆきはすべてを思い出してもがいた。

「んんん! んんん!」

両目から涙を溢れさせて顔を激しく左右に振る。この男に弄ばれたら生きていけない。それだけは察して許して欲しかった。

不破野は勝ち誇ったような顔で歩み寄る。恐怖の底に沈むみゆきは、哀願に満ちた目で不破野を見た。ここはプライドを捨てて許してもらうしかないと思った。相手は獣ではない。話せば通じる人間であり、分別があるはずの医師なのだ。

「みゆき」

不破野が悪魔的に迫る。

「この体好きにしていい?」

「んんん!」みゆきは再び涙を溢れさせて首を左右に振った。怖くてたまらない。

「かわいい」

あれほど強気だった女の子が弱気になっている。不破野は満足の笑みを浮かべた。

「みゆき。お喋りの続きがしたいな」

「・・・・・・」みゆきは無理に尊敬の眼差しで不破野を見つめた。

「お喋りの途中で帰っちゃうんだもんな。キレないでおまえも反論すればいいんだよ」

呼び捨てにおまえ呼ばわり。悔しいが今は我慢だ。意地を張っために酷いことをされたら意味がない。

「みゆき。お喋りをしてくれるなら、猿轡は外してあげてもいいよ。どうする?」

「ん」みゆきは二度三度頷いた。

「悲鳴はダメだぞ」

「ん」かわいく頷く。

「悲鳴上げたら犯すよ」

「んんん!」みゆきは慌てて身じろぎした。

 


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5

不破野は猿轡に手をかける。

「あとねえ。ほどいてほどいてと騒ぐのもなしだぞ。最後はちゃんとほどいてあげるから」

みゆきは落ち着こうと思った。この危機から脱出できるなら演技もする。警察に言うのは自分の安全が確保されてからの話。今は無傷でこの部屋を出るのが彼女のすべてだった。

不破野は猿轡を外した。

「みゆき。みゆきって呼んでいいか?」不破野がわざとらしく聞く。

「はい」

「どうだ。大嫌いな軽蔑している男に捕まっちゃった気持ちは?」

みゆきはその質問には答えずに、慎重に聞いた。

「あたしをどうする気ですか?」

「どうして欲しい?」

「もちろん許して欲しいです」

不破野はいきなり怖い顔で迫ると、みゆきの顎を指で掴み、乱暴に上向かせた。

「あ!」

「みゆき。俺に散々生意気な態度取ったよなあ?」

悔しい。悔しくてたまらないが、今は忍耐だ。

「やめてください」

「生意気な態度取ったことは覚えてない?」

悪いことをしていないのに謝るのは悔しいが、仕方ない。

「ごめんなさい」

「かわいい」

不破野は指を離した。みゆきは神妙な顔で不破野を見ていた。

「みゆき。さっきの話の続きだけどさあ。みゆきなら3分で落とす自信あるよ」

みゆきはたじろいだ。こんな愚かな男に愛撫なんかされてたまるか。

「冗談に本気で怒ったあたしがバカでした。年上のあなたに失礼な態度を取ったことは謝ります。どうか許してください」

「誤魔化すなよみゆき」

「え?」

「だれも冗談なんか言ってないよ。おまえを3分でイカせるって言ってんだよ。反論しろよ」

罵倒したい気持ちをみゆきは必死に抑えた。こんなバカな男に裸を見られたくないし、触られるのは絶対避けたい。

「不破野さん。怒らないであたしの反論を聞いて欲しいんですけど」

「いいよ、聞くよ」不破野が笑顔で乗る。

「野蛮人ならいざ知らず。あなたは優秀なドクターです。何分でイカすとか、女性に対して凄く失礼な言い方だと思うんですけど」

「かわいい」

 



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