
― その1 ― 事件
「漸く人並みに塾通いをするようになってくれましたか・・・」
家族は少しだけ胸を撫で下ろす。
「でも油断は出来ん」
「まっこと」
女衆は世の荒波に漕ぎ出した末弟が心配でたまらなかった。
一方、
・・・竜馬自信は塾に馴染み始めたかなと感じていた。
郷士の子息達とも、次第に気兼ねなく話が出来るようになったのである。
・・・少し嬉しい。
その楽しさも感じ始めていた矢先の事、・・・事件が起こる。
それはいつもの様に、塾内で上士の子が竜馬にちょっかいを出してきた事から始まった。
「どん臭いのう、アホゥがぁ!」
子供といえども上士は上士。郷士に対して高圧的なのだ。
それでも竜馬は、いつもの些細なからかい事と視線も合わせず、じっと我慢し続けていた。
「泣き虫竜馬ぁ、アホ竜馬ぁ」
「寝小便垂(よばあた)れのアホ竜馬ぁ」
竜馬は耐え続ける。
だが、その上士のからかいの輪に数人加わって、大きくなっていったから大変だ。
竜馬は亀のように頭を竦めて耐えていた。
「いつ泣き出すか」
誰もがそう思って見ていたのである。
しかし、
その日の竜馬はいつもと微妙に違っていた。
上士の子息達はそれに気付かず、相も変わらず無抵抗な竜馬を面白がって、竜馬の頭を小突き続けていたのである。
コツン、コツン・・・、コン、コン・・・。
何度も何度も、
コツン、コツン・・・、コン、コン・・・、コツン、コツン・・・。
意地でも泣かせんとして、
「きゃははは・・・」
それは止まなかった。
「・・・遂に泣き出すのか」
誰もが皆がそう思った時、
ブチィッ!
堪忍袋(かんにんぶくろ)の緒の切れる音がした。
「ええ加減にせいや!」
いつもなら言い返す事の無い泣き虫竜馬が、強い態度でその手を振り払ったのだ。
潜在意識に眠る血が瞬時に逆流したのだろうか。
ギロリ!
上士を上目使いに睨みつける。
すると上士堀内家の息子が絡んできた。
「郷士の分際がぁ!」
竜馬も黙っていない。
「やかましい!」
「何ぃ、上士に歯向かうがかよ!」
「うるさい、と言いゆうろう、黙っちょけ!」
郷士の泣き虫に言い返されて堀内はワナワナと震え出す。
そして遂に激昂し、腰の刀に手を掛けたのである。
「坂本ぉっ! そこになおれぇ!!」
竜馬も塾に馴染(なじ)み始めた。
郷士の子息達とも気兼ねなく話が出来るようになったのである。
そんな折、事件が起こる。
それはいつもの様に、塾内で上士の子が竜馬にちょっかいを出してきた事から始まった。
「どん臭いのう、アホゥがぁ!」
子供といえども上士は上士。郷士に対して高圧的なのだ。
それでも竜馬は、いつもの些細なからかい事と視線も合わせず、じっと我慢し続けていた。
「泣き虫竜馬ぁ、アホ竜馬ぁ」
「寝小便垂(よばあた)れのアホ竜馬ぁ」
竜馬は耐え続ける。
だが、その上士のからかいの輪に数人加わって、大きくなっていったから大変だ。
竜馬は亀のように頭を竦めて耐えていた。
「いつ泣き出すか」
誰もがそう思って見ていたのである。
しかし、
その日の竜馬はいつもと微妙に違っていた。
上士の子息達はそれに気付かず、相も変わらず無抵抗な竜馬を面白がって、竜馬の頭を小突き続けていたのである。
コツン、コツン・・・、コン、コン・・・。
何度も何度も、
コツン、コツン・・・、コン、コン・・・、コツン、コツン・・・。
意地でも泣かせんとして、
「きゃははは・・・」
それは止まなかった。
「・・・遂に泣き出すのか」
誰もが皆がそう思った時、
ブチィッ!
堪忍袋(かんにんぶくろ)の緒の切れる音がした。
「ええ加減にせいや!」
いつもなら言い返す事の無い泣き虫竜馬が、強い態度でその手を振り払ったのだ。
潜在意識に眠る血が瞬時に逆流したのだろうか。
ギロリ!
上士を上目使いに睨みつける。
すると上士堀内家の息子が絡んできた。
「郷士の分際がぁ!」
竜馬も黙っていない。
「やかましい!」
「何ぃ、上士に歯向かうがかよ!」
「うるさい、と言いゆうろう、黙っちょけ!」
郷士の泣き虫に言い返されて堀内はワナワナと震え出す。
そして遂に激昂し、腰の刀に手を掛けたのである。
「坂本ぉっ! そこになおれぇ!!」
― その2 ― 上士堀内
その瞬間、
竜馬は反射的に立ち上がった。
すると、その拍子に堀内は後方に倒れて、尻餅をついてしまったのだ。
醜態(しゅうたい)である。
「お、おのれえ!!」
堀内は逆上した。
郷士の落ち零れ竜馬に言い返され、その挙句に突き飛ばされたとあっては皆の手前、体面が悪い。
「きさまぁ、よくも!」
そして、あろう事か、
堀内は怒りに任せて、腰の刀を抜いたのである。
ギリッ・・・、
今にも切り掛からんばかりの剣幕で、刃の切っ先を竜馬の眉間に向けたのである。
緊張が走った。
だが郷士の竜馬はまだ刀を持ってはいない。
そこで驚くほど冷静且つ機敏な動きを見せていた。
「ふんぬ!」
傍(かたわ)らにあった手文庫の蓋(ふた)を手に取ってそれに備え、相手の眼をジッと見据えて構えたのである。
(おらは、いつまでも泣き虫ではおれんがやって! そんなんじゃ・・・、そんなんじゃ、母上が、心配ばっかりしてしまうがやきに・・・)
竜馬の中で強い変化が起こっていた。
決してその視線を外そうとはしない。
(外せばやられる)
二人は対峙したまま動かなくなった。
やがて、その様を見ていた上士格の塾生が、事の重大さを察し、慌てて堀内を取り押さえた。
「離せ!」
そして、
「堀内、やり過ぎだ、刀はアカン」
何とか収めさせる。
その一方で、郷士格の塾生は師・楠山を呼びに走っていた。
漸くして青褪めた楠山が跳んで来るなり、興奮する堀内と竜馬を引き離した。
事の次第を問い質(ただ)してみようにも、周りの塾生達が興奮気味に捲(ま)くし立てて、原因が掴めない。
それでも何とか事情を理解した楠山は、郷士仲間の塾生によくよく言い聞かせて竜馬を連れて帰らせたのである。
「坂本を連れて行け! それと、後から私が出向くと伝えておくように・・・」
そして楠山は子息を伴って堀内家に赴いた。
堀内家の主人に事の次第を話し、
「非は堀内にあり申す。相手が郷士とは言え、事が事だけに拗(こじ)れるとただでは済まぬでありましょう。喧嘩は両成敗。上士の体面もあろうが、ここは堪えて引くのが堀内家にとって得策かと考える」
退塾処分を申し出るよう伝えたのである。
土佐には予てより郷士との確執があるのだ。
堀内家としても、一つ間違えば忽ち取り返しのつかない事態を招くであろう事は察しがついた。
渋々納得し、子息の退塾を受け入れたのである。
次に楠山はその足で坂本家へと向かった。
奥付
竜馬外伝i‐4 少年竜馬・衝撃の章
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著者 : 中祭邦乙
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