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飛翔

異変

「シファ、このパトロール計画は、いったいなんなんだ? 君らしくないじゃないか」
 航行中のシファに、連合艦隊旗艦〈ながと〉座乗の細萱連合艦隊司令長官が下問する。


「まもなくわかると思います」
「ミスフィまでなぜ」
 ミスフィは会釈するだけで答えない。
「だいたい君の指摘する時空探査機みどり3号は正常に軌道に投入されて」
 それを報告が遮った。
「みどり3号、予定軌道を離れました!」
「外宇宙探査機構、みどり3号の再制御を試行中。試行1,失敗! 続いて試行2」
「まさか」
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 その表示にみな、目を見開いた。
「あの外宇宙探査システムが、実は」
 連合艦隊旗艦ながとの士官たちが口を半開きにしたまま、表示を理解できないかのように硬直している。
「そうよ」
 シファは口を引き結んだ。
「皮肉な話ね。
 みどり3号に搭載されたP-3システム。
 それはまたの名をインフィニティ・システム。
 無限大を自由に扱える究極のエネルギーシステム。
 それは、私のBN-Xシステムと同じ。
 そしてそれは、人類どころか、すべてを支配している時空システム・アメノミナカシステムの半分を制御しているフォースジャスミンに騙された彼女、みどり3号の制御システム・MIDORIによって、今、地球に向けられようとしている。
 そして悲しいことに、MIDORIという制御システムは、私の妹、シファ級3番艦として計画されていた虚体、ホロウボディ」
「シファ、あなた」
「全部分かっていたわ」
 離陸したシファとミスフィは剣を取り出し、近接戦に備えた。
「分かっていても、さけられないことはある。
 愚かだと思っていても、そうぜざるをえないことはある。
 それが、この世界に生命を受けたものの定め。
 全ては定められた、逃れることのできないシナリオ。
 みなその上で、シナリオを書くと気取りながら踊らされている大根役者。
 それは私を含めて。
 ならば」
 ミスフィは同意の合図音を送ってきた。
「暴走させるしかない」
 その瞬間、戸奈実3佐は悟った。
「シファ!」

「アンジップ、リング・オブ・ディスティニー。
 エグゼキュート、フォーチュン・オブ・ワールド。
 ジオットシステム、全リミッター解除。
 ATS・ATC非常扱い」
「ダメよ!」
 シファは手順を進め、ワームホール内の武装ブロックが次々と接続されていく。
 巨大なカーボンの出力自動制限装置(ガイドライン)がそのブロックに対して立ちはだかり、ロックを掛ける。
「非常扱い、制限強制排除」
「シファ、嘘でしょ!」
 制限装置のカーボンがきしみ、そして凄絶な破壊音と共に爆発的にはじけ飛ぶ。
「出力制限装置解除完了。ジオット全火器自由使用モード起動」
 シファの目の前にホログラフィが浮かぶ。
「こんなことをして!」
「戸奈実さん、これまでありがとう。
 私はこれから、
 暴走する」
「やめて!」
 シファは剣を振るうと、一気に主インバータに指令してプラズマジェットを最大出力に叩き込んだ。
 強烈な加速度がシファを襲い、身体、バイオ筐体の血液が一斉に頭から足に移動し、うっ血しかかるところを補助血液循環ポンプが作動して強制循環させる。
 急加速で一気に音速どころか、光さえかすかに歪ませるほどの地球大気圏を突破したかすれかける意識の中、サファイアのシファの瞳が燃えている。