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小ぐまのきょうだい ケーキをつくる
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sigma vol.1.0
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アネモネ。
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魔法のぼうし
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プロローグ
ミドリとコンペイトウ
スーと家庭教師
サフラン
少し前のおはなし
ぼうしに頼っていた2人
素直になれない
ぼうし復活?
よろず屋にて
おとしもの
月夜
りんご
魔法使い
1日の終わり
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ニコニコしょうてんがい
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今週のキョムちゃん
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自虐的恋愛年表~なんだかすみません。~
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期末試験前也 上
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嘘つきの甥
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キュレーションの時代
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「期末試験前也 上」 
著者:新谷明弘

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 物語に書かれた英雄は正直者だが、現実の英雄は嘘をつく。おじさんが昔、そんなことを言っていた。
 おじさんは嘘つきだった。

 ぼくの母は実の弟であるおじさんを嫌っていたわけではないが、子どものころから冗談や出任せばかり口にして、長じても改善されないどころか、甥のぼくにもホラ話ばかり吹き込むので呆れ果てていた。
 ぼくが五つのときのことだ。玄関を開けるなりおじさんはこう言った。
「今日はヘリコプターで来たぞ」
 ちょうど、おじさんの向こうの空をヘリコプターが遠ざかっていくところだった。母のサンダルで外に飛び出したぼくは、門の段差で転んだ。いつもなら泣く場面だ。でも、飛んでいくヘリコプターの腹を見上げることでぼくはいっぱいだった。
「俺は大統領なんだ」ともおじさんは言った。
「G・G」と呼ばれる人物と誕生日が同じで、姓と名の頭文字が同じなのも同じ。「魂の双子だ」とおじさんは表現した。G・Gは、とある小国の大統領だった。同じ日に食あたりになり、同じ日に飛行機に乗っていたそうだ。「つまり、俺の行動次第でひとつの国が動くわけだ」という発言も、ぼくはまっすぐに信じた。
 いちばん色濃くぼくが影響を受けたのは「超な能力」についての話だ。
「超能力ってのは訓練によって使いこなせるようになる」とおじさんは言い切った。背が高く痩せ型で、ギョロ目の風貌には、たしかに人外の力を操りそうな妖しさがあった。
「人間の脳は七割が未使用で、そこに超な能力が眠っている。だから、これから教える秘密の特訓を毎日やるんだ。そしたらおまえにも使えるようになるぞ」
 手順は次の通り。
 最初に黄色いボールを思い浮かべる。触ると押し返してきそうなくらいリアルに描く。それが、超能力のタネとなる。
 頭に生まれたボールを頭の外に飛ばし、現実に存在する物にぶつけたなら、その物体がほんとに動く。すなわち、テレキネシス。
 ボールに想いを託して誰かに飛ばせば、心が伝わる。すなわち、テレパシー。
 ボールを隣の部屋にでも飛ばしたなら、そちらの様子が丸見えだ。すなわち、透視術。
「十年だ」おじさんは保証した。「十年毎日欠かさず訓練すれば、おまえにもできる」
「おじさんは? おじさんは使えるの?」
「俺か?」おじさんは背をかがめ、声を潜めた。「ちょっとだけならな。実は俺もまだ修行中なんだ」
「何年目?」
「六年」
「じゃあ、あと……四年!」
「ああ、おまえも早く追いつけよ。ふたりで超な能力者になったら世界平和に役立てよう」
「えー、もっと楽しいことに使おうよ」
「たとえば?」
「テレビ出てお金いっぱいもらう!」
 おじさんはぼくの頭を掌で包み、五本の指すべてに力を込めた。痛いよ、とぼくが振りほどくと、おじさんはいつになく真剣な顔つきで「つまんないだろ、そんなこと」と言い、「無理そうなほうが楽しいぞ」と諭された。
「だいたいおまえいくつだ?」
「ななつ」
「七つの子どもがお金なんかどうすんだ。もっとべつのこと考えろ。宝探しするとか」
「ないよ、そんなの」
「なくないよ、馬鹿だな」
 宝の地図が郵送されてきたのはその二年後。長く会ってもおらず、宝の話なんてほとんど忘れていた。それよりなにより、福岡に住むぼくが地図に示された北海道の公園まで行くこと自体ほとんど不可能で、九歳のぼくはおじさんを「愉快な嘘つき」と捉えるようになっていた。一方で、超な能力のための特訓を実は続けていた。

 中学にあがったとき、おじさんからお祝いが届いた。現金で十万円。「いくらなんでも多すぎる」と母は憤慨したが、薄手の札束を結局はぼくに寄越した。テーブルに置かれた紙幣はおじさんの話とそっくりで、本物と思えなかった。短い手紙も同封されていた。
〈このお金をどんなふうに使ったのか、教えてくれ〉
 初めての預金口座を作るのに使わせてもらった。母の助言に従った結果だが、使い途を伝えようにもおじさんの住所は不明で、仕方なくぼくは、まだ「超」ではない能力でボールを飛ばしてみた。
 元来、おじさんは流浪の人だった。寅次郎のほうがマメだと親族に揶揄されるほどで、周囲の心配はとっくに底をついていた。
 高校を卒業したおじさんは遠く離れた北海道の牧場に住み込みで働きだし、いくつもの土地と職を試着でもする勢いで次々乗り換えていった。大阪でラジオのDJもやっていたし、ぼくの生まれた年には四国のどこかで市議会議員に立候補したという。ミコノス島に住んでいた時期もあるらしく、知れば知るほど、その経歴はとてもひとりのものとは思えなくなった。G・Gという人物も実はおじさん本人かもしれないと想像することもあった。
 歳月が流れ、ぼくは高校生になった。
 超な能力の訓練は癖になっていまさら止められなかったが、ほかのことは目まぐるしく変わっていった。おじさんは依然行方不明。高校進学のお祝いも届かず、ぼくもだんだんおじさんのことを考えなくなった。
 一学期の終わりごろのことだ。現代社会の授業中、教師がとつぜん「G・Gという人物をみなさんは知っていますか」とクラス全体に問い掛けた。誰も手を挙げず、ぼくも知らないふりをした。実際ぼくの知識はおじさんとの共通項くらいで、G・Gが外遊先で誘拐されたという過去の事件も初耳だった。それはぼくの生まれる前の出来事で、G・Gの安否は誘拐から二年ものあいだ不明のまま。まず間違いなく死んだものと思われたが、ある日、やつれ果てた姿で彼は帰還した。教師の持ってきた英字新聞のコピーにはギョロ目の、鬱蒼と髭を蓄えた男が写っていた。G・Gは自分が不在のあいだに大統領となった人物をまず処刑し、元の席に復帰した。そして、派手な虐殺を繰り広げた。一方で経済的成長と繁栄をもたらし、G・Gの統治は今に至るまで続いている。「日本ではあまり知られていませんが、世界の成り立ちを知るということに、皆さんはもっと自覚的であるべきです」と社会科教師は話を締め括った。ぼくは久しぶりにおじさんを思い出し、虐殺を指示する場面を想像してみたが、滑稽なだけだった。
 二学期が始まり、文化祭の準備を進めるなか、ぼくは同じクラスの女子と付き合いはじめた。
 ある日の放課後、ぼくたちは教室で窓際に椅子を向かい合わせて喋っていた。ほかに誰もおらず、ベージュ色のカーテン越しに夕焼けの色が染み込んできていた。グラウンドからのサッカー部員たちの声は窓ガラスを突き抜けてくる。おかげでぼくらは互いの声を聞き取るべく、ときどき顔を近づけあった。彼女の息を感じるほどの距離に来たとき、カーテンが包んでくれたならキスできるのに、と願った。その次の瞬間、ふっ、とカーテンが揺れ、ぼくたちをわずかな時間だけ隠してくれた。彼女は目を閉じていた。記憶に焼き付けるには、じゅうぶんな時間。あとで確かめたところ、窓はぜんぶ閉まっていた。テレキネシス。テレパシー。あるいは複合的な能力。なんだってかまわなかった。
 初めての恋人にぼくはおじさんの話を聞かせた。G・Gとおじさんの関係に、彼女は特に強い興味を示した。なぜかと思いきや、英会話部に所属する彼女は顧問であるあの社会科教師にG・Gの話を吹き込まれており、英字新聞の記事から正確な情報を得てもいた。G・Gが特定の宗教を信仰する国民を処刑するような人物であることも、ぼくは知らなかった。「粛正」という耳慣れない単語を恋人は用いた。迷信やオカルトなど目線ひとつで弾き飛ばすタイプの彼女が、おじさんとG・Gの話をおもしろがってくれるのは、それにしても意外だった。
「でも政治ってそういうものだって気がする。わたしたちみんなの生活が社会の一部で、世界の一部なんだから、G・Gとおじさんもつながりがあって不思議じゃないし、わたしとG・Gだってつながりはゼロじゃないでしょう」
 ぼくの勘繰りに、彼女はあっけらかんと答えた。
 以前、魂の双子を裏づける証拠として、おじさんは一冊のノートを見せてくれた。ページの真ん中に線を引き、左に自分の、右にG・Gの身に起きた出来事を並べて書いていた。それを彼女にも見せてやりたかったが、ぼくの手元にはなかった。
 ときどき、ぼくは恋人からG・Gの最新情報を聞き、その都度、おじさんの現在を推測した。
 G・Gが階段から落ちて右脚を骨折したことも彼女に教えてもらった。その晩、おじさんから連絡がないか母に訊ねたが、なにもなかった。
「近いうちに連絡あるかもよ」
 ぼくが言うと、母はあからさまに不機嫌な顔つきを見せた。
「やめてよね、そんな冗談」
 G・Gとおじさんの関係は、母も知っていた。親戚みんなが知っていた。

 高校二年の夏、母方の曾祖母が亡くなった。百を過ぎていたので、集まったおとなはみんな荷物をおろしたような顔を見せ、ぼくの母は久しぶりに会った姉妹たちと、末弟であるおじさんを非難するのに忙しかった。誰も連絡をとれないらしく、おじさんは遂に現れなかった。通夜の席でぼくは黄色いボールを投げてみたが返事は無し。翌日の葬儀の最中にも試みを続けた。まぶたをしっかりと閉じ、イメージを膨らませる。黄色いボールが青空を飛んでいき、どことも知れない土地で下降を始めたが、誰にも届きはしなかった。
 葬式から二週間ほど後、つまらない喧嘩で恋人と別れた。成績は急降下し、おじさんからの連絡もなかった。ろくでもないことばかりが続いた。十年欠かさず訓練してしまった自分の間抜けぶりも笑えなかった。訓練を止めるのは、想像よりずっと容易だった。

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