目次
パブー1周年に寄せて
目次
祝1周年 パブーの魅力をどどーんとお届け!パブー大賞発表!!
パブー 期待の作家さん
スタッフおすすめの作品
あの方もこの方も…パブーをご利用中です!
パブーで作られた雑誌たち
お試し読み
父ちゃんのタクシー(カラーVer.)
page 1
page 2
page 3
page 4
page 5
page 6
page 7
page 8
page 9
page 10
page 11
page 12
page 13
page 14
page 15
page 16
page 17
page 18
page 19
page 20
page 21
page 22
page 23
page 24
page 25
page 26
page 27
page 28
小ぐまのきょうだい ケーキをつくる
page 1
page 2
page 3
page 4
page 5
page 6
page 7
page 8
page 9
page 10
page 11
page 12
page 13
sigma vol.1.0
page 1
page 2
page 3
page 4
page 5
page 6
page 7
page 8
page 9
page 10
page 11
page 12
page 13
page 14
page 15
page 16
page 17
page 18
page 19
page 20
page 21
page 22
page 23
page 24
アネモネ。
page 1
page 2
page 3
page 4
page 5
page 6
魔法のぼうし
page 1
プロローグ
ミドリとコンペイトウ
スーと家庭教師
サフラン
少し前のおはなし
ぼうしに頼っていた2人
素直になれない
ぼうし復活?
よろず屋にて
おとしもの
月夜
りんご
魔法使い
1日の終わり
page 16
ニコニコしょうてんがい
page 1
1
2
3
4
5
page 7
page 1
page 2
page 3
page 4
page 5
page 6
今週のキョムちゃん
page 1
page 2
page 3
page 4
page 5
page 6
page 7
page 8
page 9
自虐的恋愛年表~なんだかすみません。~
page 1
page 2
page 3
page 4
page 5
page 6
page 7
page 8
page 9
page 10
page 11
page 12
page 13
page 14
page 15
page 16
page 17
page 18
page 19
page 20
page 21
page 22
page 23
page 24
page 25
page 26
page 27
page 28
page 29
page 30
page 31
page 32
page 33
page 34
page 35
page 36
期末試験前也 上
page 1
page 2
page 3
page 4
page 5
page 6
page 7
page 8
page 9
page 10
page 11
page 12
page 13
page 14
page 15
page 16
page 17
page 18
嘘つきの甥
page 1
page 2
page 3
page 4
キュレーションの時代
page 1
page 2
page 3
page 4
page 5
page 6
page 7
page 8
page 9
奥付
奥付

閉じる


<<最初から読む

174 / 185ページ

 歳月が流れ、ぼくは高校生になった。
 超な能力の訓練は癖になっていまさら止められなかったが、ほかのことは目まぐるしく変わっていった。おじさんは依然行方不明。高校進学のお祝いも届かず、ぼくもだんだんおじさんのことを考えなくなった。
 一学期の終わりごろのことだ。現代社会の授業中、教師がとつぜん「G・Gという人物をみなさんは知っていますか」とクラス全体に問い掛けた。誰も手を挙げず、ぼくも知らないふりをした。実際ぼくの知識はおじさんとの共通項くらいで、G・Gが外遊先で誘拐されたという過去の事件も初耳だった。それはぼくの生まれる前の出来事で、G・Gの安否は誘拐から二年ものあいだ不明のまま。まず間違いなく死んだものと思われたが、ある日、やつれ果てた姿で彼は帰還した。教師の持ってきた英字新聞のコピーにはギョロ目の、鬱蒼と髭を蓄えた男が写っていた。G・Gは自分が不在のあいだに大統領となった人物をまず処刑し、元の席に復帰した。そして、派手な虐殺を繰り広げた。一方で経済的成長と繁栄をもたらし、G・Gの統治は今に至るまで続いている。「日本ではあまり知られていませんが、世界の成り立ちを知るということに、皆さんはもっと自覚的であるべきです」と社会科教師は話を締め括った。ぼくは久しぶりにおじさんを思い出し、虐殺を指示する場面を想像してみたが、滑稽なだけだった。
 二学期が始まり、文化祭の準備を進めるなか、ぼくは同じクラスの女子と付き合いはじめた。
 ある日の放課後、ぼくたちは教室で窓際に椅子を向かい合わせて喋っていた。ほかに誰もおらず、ベージュ色のカーテン越しに夕焼けの色が染み込んできていた。グラウンドからのサッカー部員たちの声は窓ガラスを突き抜けてくる。おかげでぼくらは互いの声を聞き取るべく、ときどき顔を近づけあった。彼女の息を感じるほどの距離に来たとき、カーテンが包んでくれたならキスできるのに、と願った。その次の瞬間、ふっ、とカーテンが揺れ、ぼくたちをわずかな時間だけ隠してくれた。彼女は目を閉じていた。記憶に焼き付けるには、じゅうぶんな時間。あとで確かめたところ、窓はぜんぶ閉まっていた。テレキネシス。テレパシー。あるいは複合的な能力。なんだってかまわなかった。
 初めての恋人にぼくはおじさんの話を聞かせた。G・Gとおじさんの関係に、彼女は特に強い興味を示した。なぜかと思いきや、英会話部に所属する彼女は顧問であるあの社会科教師にG・Gの話を吹き込まれており、英字新聞の記事から正確な情報を得てもいた。G・Gが特定の宗教を信仰する国民を処刑するような人物であることも、ぼくは知らなかった。「粛正」という耳慣れない単語を恋人は用いた。迷信やオカルトなど目線ひとつで弾き飛ばすタイプの彼女が、おじさんとG・Gの話をおもしろがってくれるのは、それにしても意外だった。
「でも政治ってそういうものだって気がする。わたしたちみんなの生活が社会の一部で、世界の一部なんだから、G・Gとおじさんもつながりがあって不思議じゃないし、わたしとG・Gだってつながりはゼロじゃないでしょう」
 ぼくの勘繰りに、彼女はあっけらかんと答えた。
 以前、魂の双子を裏づける証拠として、おじさんは一冊のノートを見せてくれた。ページの真ん中に線を引き、左に自分の、右にG・Gの身に起きた出来事を並べて書いていた。それを彼女にも見せてやりたかったが、ぼくの手元にはなかった。
 ときどき、ぼくは恋人からG・Gの最新情報を聞き、その都度、おじさんの現在を推測した。
 G・Gが階段から落ちて右脚を骨折したことも彼女に教えてもらった。その晩、おじさんから連絡がないか母に訊ねたが、なにもなかった。
「近いうちに連絡あるかもよ」
 ぼくが言うと、母はあからさまに不機嫌な顔つきを見せた。
「やめてよね、そんな冗談」
 G・Gとおじさんの関係は、母も知っていた。親戚みんなが知っていた。

 高校二年の夏、母方の曾祖母が亡くなった。百を過ぎていたので、集まったおとなはみんな荷物をおろしたような顔を見せ、ぼくの母は久しぶりに会った姉妹たちと、末弟であるおじさんを非難するのに忙しかった。誰も連絡をとれないらしく、おじさんは遂に現れなかった。通夜の席でぼくは黄色いボールを投げてみたが返事は無し。翌日の葬儀の最中にも試みを続けた。まぶたをしっかりと閉じ、イメージを膨らませる。黄色いボールが青空を飛んでいき、どことも知れない土地で下降を始めたが、誰にも届きはしなかった。
 葬式から二週間ほど後、つまらない喧嘩で恋人と別れた。成績は急降下し、おじさんからの連絡もなかった。ろくでもないことばかりが続いた。十年欠かさず訓練してしまった自分の間抜けぶりも笑えなかった。訓練を止めるのは、想像よりずっと容易だった。





「嘘つきの甥」 
著者:中山智幸

著者プロフィール:

感想はこちらのコメントへ

ブクログのパブー本棚に入れる


本作の続きはブクログのパブーでご覧いただけます。







キュレーション【curation】
無数の情報の海の中から、自分の価値観や世界観に基づいて情報を拾い上げ、そこに新たな意味を与え、そして多くの人と共有すること。


ジョゼフ・ヨアキムは生涯のほとんどを放浪者としてすごしました。黒人とネイティブアメリカン、そしてフランス系白人の血を引いた彼はアメリカのミズーリ州に生まれ、サーカス団に入ってアメリカ大陸を旅し、ヨーロッパにも遠征します。故郷に戻って結婚したのもつかの間、徴兵されて第一次世界大戦に出征し、そして戦争終結後もそのまま放浪の旅をつづけて、二度と故郷には戻りませんでした。
 大戦から世界恐慌へと進んでいく激動の時代。彼の人生はホーボーそのものでした。二十世紀初頭の荒々しいアメリカ社会に登場してきたホーボーはつまりは放浪労働者。インフラが整備されつつあった鉄道網を使って無賃乗車で全米を旅し、日雇いの仕事をしながら移動し続けた人たちです。北米の広大無辺な大地を移動していく彼らの生き方はある種のロマンを生み出し、のちに「さすらい」をテーマにしたさまざまな小説や詩、音楽、絵画をアメリカ文化の中に生み出しました。ジャック・ケルアックの小説『オン・ザ・ロード』。ボブ・ディランの名曲『風に吹かれて』。映画『イージーライダー』。みんなその系譜です。
 でもヨアキムは単なる放浪者。ミュージシャンでも作家でも画家でもありません。彼は人生のほとんどを市井の平凡な人としてすごし、家族やわずかな友人を除けばほとんどだれも彼に見向きもしませんでした。八十歳近くになるまで、ただの名もない人だったのです。
 でも彼は、ある一回だけの偶然の出会いから、いまにいたるまでに名前を歴史に残しています。


読者登録

パブーさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について