「兄さんは一服の清涼剤のような人だったからね。蒸すと思って一雨くれたんだよ」という叔母の声が聞こえてきたので由美は、ほっとした気持ちになった。そこで親族達の会話は途切れたが、暫くすると再び話し声が聞こえてきた。
「――哲弥に子供? 子供は由美一人だけだろう」
「兄さんは真面目を絵に描いたような人だったからね」
「それも、そうだが。ずぶ濡れでさ」と訳の分からない会話が断片的に聞こえてきた。訝しく思いながらも、由美は羊羹の皿をお盆に載せ、茶の間に運んだ。すると親族達の会話が途絶えた。
「今日は、有難う御座いました。父は羊羹好きでしたが、糖尿病になってからは羊羹断ちをしていたんです。今日は供養だと思って食べてやって下さい」由美がそう言うと、親族は哲弥の羊羹好きは知っていたので、一同は哀悼の意を捧げながら羊羹を受け取った。
「兄さん、悪いな。頂くよ」と由美の母方の叔父が言うと、叔母が目頭を押さえた。皆、味わうように羊羹を食べた。
「そういえば、哲さんはよく日本人は賢い。羊羹の色と緑茶の色の輝きは日本人の美学だといつも言ってたな」
「必ずそう言ったね。もう聞けないんだな」一人がぽつりと呟くと、場に沈黙が流れた。
「ところで、さっき話していた子供って何の話ですか」と由美が沈黙を破った。すると、叔母が説明をし始めた。
「兄さんの葬儀の時に、半ズボンに白いワイシャツ姿の小学生くらいの男の子が来ていたそうなんだけど、知っていたかい?」
「いいえ」
「俺も見たんだ。俺の視線に気が付いて、その時は庭から出て行ったんだよ。だから、通りすがりの子供が興味本位に覗いたのかなと思ったんだけどね、哲弥さんの親友の北島さんも、夕立の中で濡れながら葬儀を見ていた子が居たというから気になってさ」そう言われても由美には全く心当たりがなかったので、首を傾げる他なかった。
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岸塚康子