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退行催眠


 退行催眠とは、本来は幼児期の状態に戻す催眠術の手法です。時間を過去に戻し、その当時の記憶を再現するように誘導していくのです。


 この技法を心理療法と融合して過去の歴史からトラウマとなった出来事を思い出し、当時の心理状態を追体験させるのです。


 トラウマとなった過去の出来事をぼんやりと覚えている場合が多いものですが、そのエピソードに伴う感情の記憶が抑圧され充分な意識化ができていないことがほとんどなのです。

 仮に、トラウマとなった過去の出来事とその時の精神的苦痛をはっきりと覚えていたとしても、その出来事が、その後の自分の人生に精神世界にどのように影響を残しているものなのかなど専門家としての知識がないと分かるものではありません。


 人は相性が良い相手と結婚できるとは限りません。また、結婚後に変化することもあるでしょう。


 夫婦間の不満による様々なトラブルは、夫婦の不満だけでは済まされずに、親達のそうしたドラマが子どもの成長に影響し、子どもの人生に深く絡んでくるのです。

 

 例えばこんな体験を3歳ぐらいの時にしていたとしましょう・・・。

 

  両親がいつもけんかしていて、言い争いの声が聞こえてくるとおびえるように様子を伺っていた子がいたとします。そんなある日、母親が父親と喧嘩して家を出 て行くと叫んで、荷物を整理しているその傍らでその子はじっと立ちすくんでいました。そうして、母が玄関を出ようとする時に、一緒に連れて行ってもらおう と抱きついても、「ここの家にいなさい!」と何度も払いのけられて母親が一人家を出て行ったとします。そうした昔の出来事を時が流れ、母は笑いながら話を し、成長したその子もそれを笑いながら聞いていたとしても・・・。

 

 こうした記憶が、その子の幼児期に1回だったか数回あったかも分からないくらいに記憶が残っていなかったとしても、この子の人生に大きな心の傷(トラウマ)を負わせている場合があるのです。

 

 この子が男の子でも女の子でもかまいません。どちらであっても、この子にとってこのトラウマが深刻なものであったならば、異性とのお付き合いや、結婚生活において、相手を異常に束縛してしまうようになります。

 本人は、明確な意識の中で相手を束縛しているのではなく、どうしてもそうしないとおれないのです。

 

 成長後に、当時の記憶が無く、あったとしても聞いた話で何となく覚えているような程度であったとしても、当時のこの子の心の深層に深い“不安”が植え付けられてしまっているのです。


 あなたがもし現在、何か自分ではよく分からない心情に振り回されていたり、苦しんでいたりしているとすれば、あなたをそうさせている何かが心の中に潜んでいます。


 退行催眠で過去を思い出したら、忘れていたような苦痛などが鮮明に思い出されて、その後に当時と同じ苦しみが襲ってこないだろうかという質問を受けることがよくありますが、そんなことはありません。

 

 過去のトラウマとなっている記憶は心の奥に抑圧して、忘れ去ろうと努力しても何かのきっかけで働きかけてきます。普段思い出さなくても、思い出さないようにしていても、その影響から逃げることは無理なのです。

 過去において記憶された情動記憶は触れないようにしておれば消し去ることは出来ないのです。


 むしろ、抑圧している記憶の全てに触れて、過去を積極的に乗り越えなければ、未来への影響を解消できません。

 逃げてはいけないのです。


 正しい心理療法の下で、過去の人生の記憶と向き合うことで、これまでの人生を見つめ直すことが出来ます。それは、未来にとって貴重なものなのです。

 過去からの多くのメッセージを受け取り未来の人生に多くの学びを得るのです。


 退行催眠療法とは、心の悩みや苦痛、病の症状を消し去るだけのものではありません。人生そのものを一度立ち止まって見つめ直すことで、今後の人生に必要な改善を行うことができるのです。

 自己の無意識を見つめ直すことは、人生に価値をもたらすものなのです。  


 あなたは静かに目を閉じて、子供時代のさまざまな出来事の中から、現在のあなたの心に抑圧され残っている、心の傷となっている記憶を見つけ出す必要があります。

 

 遠い昔の記憶と現在の心理的傾向や苦痛との

          因果関係を理解する必要があるのです。

 

 これは一つの例でしたが、人は様々な過去の出来事からの影響を現在の自分に気付かないまま受けてしまっていることが多いものです。

 

 そうした影響が、現在の生活に悪く働いていない場合は良いのですが、何らかの災いをもたらしていたとしたら、それらの影響からあなたの心を切り離す必要があります。

 

 あなたは、自分自身を深く見つめ直すために、これまで意識していなかった心の深層である無意識の世界を見つめるため、過去の生育歴を旅してみるのも価値あることです。


さあ、静かに目を閉じて、心の旅に出て、 

       貴重な何かを見つけてみましょう・・・。



幼児期の体験


 子供時代をどのような環境で育つことになるか、子供にとって選択権がないとみなすことが一般的判断でしょう。
 
 しかし後でくわしお話ししますが、子供が置かれる環境は子供自体の持って生まれた気質や特性によって、子供自身が無意識に方向付けているともいえるのです。

 しかしながら、ここではまだ幼い時の受け身としてしか育つことができない環境の中で、どのような影響を子供が受ける可能性があるかを考えてみましょう。

 たとえば、父親がいつも家にはいない、日曜日の朝に父親がいると、まだ布団に入っている時から、両親の喧嘩の声が聞こえてくる・・・。
 楽しいはずの日曜日が、おびえる気持ちとともに沈んだ暗い気分になってしまう・・・。
 
 両親の喧嘩はいつものことなので、「どうしていつも喧嘩しているの?」という思いよりも、子供としては、聞き耳を立てて様子をうかがい、早く終わることを心の中で願っているしかないのです。
 まだ幼いがゆえに、両親の喧嘩の理由について、「どうして?」という疑問符しかつかないでしょう。

 その結果、日曜日がダメになるというだけではなく、こうした両親の関係は、日常なストレスに母親自身も精神的にまいっています。それゆえに、母親が機嫌良く毎日を子供と過ごしているはずがありません。

 ここに問題が生じるのです。

 こうした両親の不仲が、生まれた時からだったのか、小学校時代から急に起き始めたのか、何歳ぐらいから経験するかによって、この子供のトラウマ(心的外傷)の度合いやその後の精神的・身体的影響の内容が変わってきます。

 もちろん、親は自分たちの日常的行為が子供の人生にどのように影響を及ぼすかなど知る由もないでしょう。ただ親は、自分たちの不満や思うようにならない感情をぶつけ合っているだけと言えるでしょう。
両親に、子供に対する罪悪感は微塵もないと思います。しかし、子供は傷付いて育っていきます。

 不幸な母親は、子供との関係において無自覚に感情をぶつけることが多くなり、子供は母親からの愛情に飢えて育つことにもなるのです。

 自分は親に愛されていない・・・。


 十分に愛情に満たされて育つことが出来なかった子供。こうした子供にとっては、自然に受け入れることになる低い自己評価によって、学校生活という社会の中で、自分自身に自信が持てずに、自己主張をすることも出来ずに、周りに気を使い成長することになっていきます。

 親に愛されない自分が、先生や同級生に愛されるはずなどあり得ない・・・。

 こうした自己認識は子供の心の深層に内在化され、その後の人生を決定づけていくのです!!

 人生は、様々なドラマに満ちています。そうした人間模様が織りなす展開は予測がつかないものといえるでしょう。
 親達がどのように子供に接してきたかによって、将来子供が発症するであろう心の病の種類が明確に予測できるものではありません。なぜならば、子供自身親とは違った気質や能力(DNA=遺伝子)を持って生まれているからです。
 しかしながら、将来子供に心の病が発症して、その症状や心理的な苦痛の相談を受ける時に、その人が歩んできた過去の人生や子供時代の環境が鮮明に見えてくるのです・・・。
 
 もちろん子供の心の病の発症前に、
  両親のどちらかが心の病へといたることも多くあります。

 心の病は、その人の生育歴を物語っているのです。
 そして、それを修正することで人生に価値が生じます!!


 


理性に働きかける心理療法


 「なぜか分からないけど、そうしてしまう」[どうしても、そうしないとおれない」ということや、何かに感動したり不快に感じたり好きになったりする心の衝動や感動は無意識の働きから起こっているということを前に書きました。

 わたしたちのそうした無意識の働きかけを理性で捉えておく必要があるのです。

 心の病に至るほど悩んでしまう原因をしっかりと把握する必要があります。

 心理療法とは、心理的に何かの問題を抱え苦しんだり悩んだししている(不適応)状態にある人との対話などによって認知と行動に働きかけ、そこに望ましい変容をもたらすことを目指すものです。とは言っても、対応策や解決策を直ちに提示するよりも、相談者が主体的に問題や悩みに対し、どのように向き合い対処するべきかという新たな知見や洞察、認知へと自然と気付きをもたらせることが目的の1つです。


 そのためにも、心理療法の理論と技法によるカウンセリング中の会話によって、本人から必要な情報を聞き出しながら、その人の無意識内に潜むトラウマを推測できる貴重なヒントをより多く得る努力をしなければなりません。
 もちろん、そのためには専門知識や多くの臨床経験が必要です。
 
 心理療法は、いっけんおしゃべりにしか思えない様な会話によって、相手に必要なことを分からせようとしていきます。
 さらに、心の奥に意識されないまま潜んでいる多くの情報を引き出し、必要なものを意識化させるためのおしゃべりです。

 しかし、相手の心理的反応や、非協力的な心理状態の時には、あえてどうでも良い話や、相手が興味がある話を行いながら、こちらの話を聞く気持を作っていく場合もあります。

 心の悩みにしても病にしても、それを治すためには、なぜそうなったのかという因果関係を正しく理解する(意識化する)必要があるのです。
 
 なぜ苦しんでいるのかという因果関係の理解を与え、治すための知識を与えることで、相談者は“安心”を得ることができます。

 悩みにしろ心の病にしろ、「自分はどうなってしまったんだろう?」「このまま治らないのでは?」とか、薬を飲み続けながら副作用なども含めて不安がっていると、だんだんと症状は悪化していきます。

 治すためには、不安を取り除き希望を抱かせる知識を与える必要があるのです。
そのための心理療法というおしゃべりも必要なのです。

 心理療法は、おしゃべりをしながら、多くの情報を集め、因果関係を見つけ出し、不安を取り除き安心を与えることを“理性”に対して行います。

 いわゆる、「理性の理解、感情の納得」のひとつ、
 心理療法は主に“理性の理解”のために必要なのです。


感情に働きかける催眠療法


 「理性の理解、感情の納得」という言葉をぜひ覚えて頂きたいと思います。
 催眠療法は、“感情の納得”のために必要なのです。
  
 催眠療法という言葉を使うと、今はまだ多くの誤解を生みます。

 いかがわしいものとして捉えられたり、そこまで尽くす手立てを失ったのかというような、どうにもならなくなった人が、ワラをもすがるような手段としての認識で受け止められていることも多いです。

 もちろん、現在いかがわしい所や、幼稚な知識と手法で実施している所が多くあるので仕方ないでしょう。

 アメリカは催眠療法が国家資格としての位置づけにあります。日本は、そうした国家資格として資格を出す環境が整っていません。なぜなら、明治期以降に西洋学問を輸入した際から始まって、現代に至るまで心理学界と医学界が別々に定着したからです。

 現在日本にある「催眠学会」は、心理学系と医学系に別れていて融合することが当面はないでしょう。

 しかしながら、心の諸問題に無意識が関わっていることは明白です。

 さらに現代は、脳科学の急激な発展で、心の病や状態というものが脳の機能の実態によって生じていることが明確になり、心=脳ということはもはや誰も否定できなくなっています。

 したがって、心の働きは、脳の働きであり、心の無意識は、意識されない脳の領域ということになります。

 私たちの脳内には、生まれてから経験された多くの感情が脳の無意識領域に蓄積されています。(実際は、胎児のときから、感情の記憶を行う脳の扁桃体は完成していますので、母親の経験する感情を共有しています)

 そうした感情の記憶は全て大脳辺縁系という無意識領域で処理されているのです!!

 そうした脳の無意識領域内の感情の記憶に働きかけ、修正したり調整したり、コントロールする手段として、催眠は非常に価値があるのです!!

 心の病に至った人が、こんなことして治ったとか、あるきっかけが救いになったなどのいろんな体験談が語られています・・・。
 しかし、心の問題は、自分の心の見つめることで治すことが、再発することもなく、何よりも人間として精神的に向上していけるという貴重なメリットがあるのです!!

 心の病や悩みは、自己向上の“貴重な糧”、“貴重なチャンス”だともいえます。

 催眠療法としての催眠状態は、深い催眠状態になる必要はありません。
 なぜなら、催眠状態で語ったり聞いたりした内容を覚えておく必要があるのです。
 いわゆる意識がしっかりとある状態が必要なのです。
 これは理性の理解を補い、感情の納得も深めてくれます。
 意識を保っていることが催眠療法には必要不可欠なことなのです。


催眠療法の疑問


 「私は催眠にかかっている感覚がよくわからないのです。いただいて聞いている催眠暗示CDで効果が出ているのか、先生が私に催眠をかけた結果として、暗示が無意識に入り、内容を理解し効果が出ているのかがわからないのです。上手く説明できませんが、お気を悪くしないで下さい。ちゃんと効果が出ているのですから、私はとても嬉しいのです。ただ疑問に思ったのでご質問しました」

 

 といった様な内容の質問を受けることがたまにあります。特に不安傾向が強い方にみられます。

 それは、催眠で治してもらうという意識が強すぎて、もし自分が本当に催眠に入っていなかったのなら、治っているのではなく、一時的に思い込んで治っているように勘違いしている「一時的現象」なのではないだろうかという不安感が背景に起こるからです。一時的現象だと、再発するのではないかという不安が伴うのでしょう。

 

 催眠療法を、催眠術のショーを見ている様に催眠術にかけられて操られている現象と重ね合わせてはいけません。そうしたイメージで考えると、催眠に入ったという強い自覚がないと治らないのではないか、自分は変わっていないのではないかという不安が生じてくることになるでしょう。

 

 心の問題を改善する催眠状態の役割は、その人の無意識に働きかけて無意識の情動領域を適切に調整(修正)することです。それが催眠療法の本懐ともいえるのです。

 

 そうした目的を満たす為には、「さあ、これから催眠に入れますよ」といったような、または「私はいま催眠状態に入っている」といったような境目を感じさせる必要はないのです。また、催眠に入っているという自覚もないまま無意識領域に暗示としての言葉を送り込むことも出来ます。そうした気付かせないテクニックが重要なのです。


 相談者は気付いていないけれども、確実に必要な暗示を無意識内に刻み込んでいくことや、最適な心理療法としての認知の修正をおこなうことが、催眠療法家としての技量が問われるところではないでしょうか。


 心の問題を扱う時に、相当な個人差があります。それは、個人の持って生まれた脳の機能に依存しているからです。そうした個人差を適切に認識し、その人に合った最適な療法を進めていくことが要求される重要な世界なのだと思っています。

 

 これ以上の説明はここではやめましょう。こうした深い知識は催眠療法家になる為や心というものを専門的に勉強される方にとっての必要課題であり、一般的には必要ありません。

 「治った!」という結果だけを期待して、全てを専門家に任せて取り組んで頂く姿勢の方が重要なことだと思っています。

 

 催眠療法は、心理療法を背景としておこなうべきだと説明してきましたが、その意味をしっかりと理解してもらえれば安心していただけると思います。

 

 もっと詳しいことは、3冊目の著書(現在題名は未決定:出版社で編集作業に入っている段階です)で心に働きかけて人が変わっていく為のテクニックと理論の詳しい説明に取り組んでいますので、そこで学ぶことができます。




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