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縫い針

たっちゃんは 授業中 じっと していられない。


窓の外に
おや と思うものが 見えたら
そばに 行って 見たくなってしまう。


それは 信号が 青なのに 
まだ立ち止まってる人だったり

畑で しゃがんで 
何かをじっと みている おじさんだったり

体育館の軒下に ちらりと見えた子猫だったり

はらり と 降りだした 雪だったりする。



そして 何か 気になることがあったら
絶対 今すぐ 確かめてみたくなって 
先生の声が 聞こえなくなってしまうんだ。
 


ジャンバーのファスナーが 
どうして 噛み合って しまるのかとか

となりの席の子の 万華鏡型のキーホルダーの
中は いったいどうなってるのかとか

前の席の二人の女の子の 両方のかみの毛を
そおっと 3つの束にして取って
ふたり一緒にみつあみにしても 気づかれないかとか

そういう ことだったりする






小学校最初の担任の先生は 
よく校庭まで追っかけてきて
みんなが 待ってるから 教室に帰ろうと
抱っこしてでも 連れて帰った。

もう少し大きくなったときの 先生は
そんなに 勝手なことばかりしていたら
必要なことが 覚えられないよ
みんなから 置いていかれるよ
と言った。

他に 担任になった先生も
我慢を学ぶことも 大切だとか

いい加減にしないと 親御さんと相談しますとか

結局 自分のためにならないよ とか
いろんなことを 言った。



たっちゃんは 別に そういうことが
解らないわけじゃない。
最近なんかは ものすごく よく解るんだ。

でも 時々 たっちゃんには 
今 気になったことの方が ずっと ずっと大事に思えて
どうしても じっと授業を受けていることが
できなくなる時がある。




6年の担任の ハルミ先生は ちょっと変わってる。

他の学校から 先生が来るって わかったとき 
情報が早いリュウジが
「前の学校で、生徒をぶっ飛ばしたオンナ」だと言った。
尾ひれがついて とんでもない鬼ばばぁが 来ることになっていた。

だから やって来た先生が 
若くて小柄な 女の先生だったので 
みんなは あれれ と思った。

ハルミ先生は 最初のあいさつで
先生は 縫い物が好きなので 
みんなと家庭科の授業をするのが 楽しみです
と 言った。




ハルミ先生は たっちゃんの 様子を 
だいぶ 長いこと 黙って見てた。

どうして たっちゃんは そうするんだろう
って じっくり考えているようだった。

みんなが「たっちゃんって いっつもそうなんです。」
って説明しても しなくても 
あんまり 関係ないみたいで
たっちゃんの 様子を見てたんだよ。


そして ときどき たっちゃんに
「私の授業って そんなに 魅力ないのかなぁ」
って ちょっと情けない顔して 言った。


そして たっちゃんが 教室を出て行ったときは
何があったから 出て行ったのか
どうしても そのときでなくっちゃだめだったのか
たっちゃんと 長いこと 話してた。

そう 
ぶっとばしたりは 絶対に しなかった。



なあんだ ウソ情報だったじゃん
みんなが 思った。



だから 家庭科のときの事件には みんな びっくりしたんだよ。

それまでにも 理科の時間 たっちゃんは
試験管に 指突っ込んで 抜けなくなったり
観察のため って かえるを山盛り捕ってきて
教室に 放したり・・・・色んなことをした。

家庭科では 指の皮に 波縫いもしたし
何だかひとり 全然ちがう料理を作ったりもした。



たっちゃん、外に飛び出す回数は 減ったけど
ますます 色んなことを考えつくようになっていた。



だから 
実験で 混ぜちゃいけない液体 混ぜたり
バーナーの火で 火事起こしたりだって
時間の問題だぜって 

みんな ハラハラしていたんだ。

 

で、家庭科・・・。

誰かが 言ったんだ。

ミシン用のコンセントに ぬい針2本差し込んで
バチっと 火花起こす方法。



たっちゃんが やってみないワケがない・・。








 


たっちゃんが 2本の針を刺しこんだとき
何が 起きたかって?

たっちゃんが ぶっ飛んだ。

それは 火花が出たからじゃなかった。



たっちゃんには 何が何だかわからなかった。
突き飛ばされて 後ろの黒板の下に 
しりもちついて 転がったんだ。









ふたりっきりの 教室で ハルミ先生は たっちゃんに言った。

「命にかかわることだけは 
   先生は 絶対 絶対 許さないからね。」


そして

「先生は 家庭科が 大好きなのに
 針仕事が 大好きなのに

 こんなことで たっちゃんに もし 何かあったら  
 もう 針なんて 私 きっと 触れない。」


そう言うと わんわん 泣き出した。

おとなが こんなに 泣くなんて・・・・。
たっちゃんは 先生の目からポロポロこぼれる涙から
ずっと目が 離せなかった。






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