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イタリア銅版画

 フィレンツェの金工家達がデザインを記録、保存するために考案された転写技法がイタリア銅版画、凹版画の起源とされています。現在でも金工の職人達の工房やスタンぺリーアが軒を連ね、時と共に発達した驚くべき技術が受け継がれています。イタリア銅版画とは言っても、この本で紹介する技法はイタリア式をベースにしつつ日本の技術も取り入れた、いいとこどりの技法書です。実際フィレンツェの工房でも日本の道具や和紙は高級品として利用されています。それに伴った日本の技術もすでに定着しているのです。特に新しい物好きで、親日家の多いイタリア人達は日本の技術だけではなく世界中の良い物を貪欲に取り入れ、発達させてきたのです。

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アクアフォルテ

 直訳すると 強い水 酸性の腐食液のことを意味するが、腐食技法一般のことを指す。その中でもニードルを用いた線描の腐食技法のみの事をアクアフォルテと言う場合もある。日本では一般的にエッチングと呼ばれている最も馴染みのある銅版画技法ではないだろうか。
 ニードルで描いた線がそのまま腐刻されるので、線の表現にはとても使いやすい。ビュランよりもはるかに自由に手を動かせるので鉛筆やペンに近い感覚で製版出来る。彫る仕事は腐食液がやってくれるのだ。
まず銅版の裏にニスを塗るかプラスティック系のシールを貼る。裏側の腐食防止である。表にはグランドを出来るだけ均一に塗る。グランドの引き方はいくつかあるが、1.電熱器で温めた版に固形グランドをローラーでのせる。2.液体グランドを流し引きする。3.液体グランドを刷毛で塗る。どれかやりやすい方法でグランドを引いて完全に乾かす。自然乾燥でもよいが、電熱器等で熱してグランドの揮発成分を飛ばしてから水で急激に冷やすと、べたつかずキリッと固まって非常に良い。
 いよいよニードルで描画するのだが、筆圧はグランドが取れて銅が見えればよいのであまり強くする必要は無い。彫るのではなく描くのだ。彫るのは腐食液がやってくれる。コツとしては、一定の筆圧で一本ずつ丁寧に線を引くことである。ニードルが鋭過ぎると引っかかって描き辛いので、先端をペーパーで少し落とすとよい。
 ニードル以外でもグランドを剥がせる道具ならなんでも使えるので色々試してみてください。
 描画が終わったら次は腐食の仕事に移る。バットに腐食液を入れ、版を沈める。基本的に版は表を上にして入れる。硝酸はガスが出るので必ず表を上にする。塩化第二鉄液の場合は沈澱物が出るので、長時間の腐食のときは途中何度かバットを傾けて沈澱を流すか、表を下にして版を沈める。腐食の時間は数分の浅いものから1時間以上の深いものまで自由に調整できる。腐食液の状態や気温によって腐食の速さが変化するので研究してほしい。硝酸のほうが気温の変化の影響は大きいと思う。真冬の腐食は非常に遅い。

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プレス機 torchio

 凹版画の制作には欠かせないプレス機。小型から大型まで様々あるが購入するなら、ローラー幅40cm以上の中型から70~80cmの大きなものが良いと思う。始めは小さなプレス機で十分だと思っていても徐々に大きな作品を作りたくなるものである。注意したいのが、プレス機のサイズは制作する版のサイズではなく、摺る紙のサイズよりも大きくなければならない。もちろん置くスペースの問題があるので検討してほしい。摺りは大きなプレス機の方が安定感も有り楽である。日本で出回っているプレス機は、ほとんどが新日本造形か文房堂のものである。どちらも性能は良い。上の写真はイタリア、ボローニャのBendini社製ジョルジョ モランディ設計のプレス機。下は新日本造形製RX型
     

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ニードル punta

 左から、ニードル丸、ニードルだ円、ニードル平、ドライポイント用ツイストニードル、ドライポイント用木柄ニードル、スクライパー(超硬チップ)、ダイヤモンドポイント。

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版の準備

 一般的な凹版の材料として銅と亜鉛がある。イタリアでは、腐食の仕事を主とした作品は亜鉛版で、ブリーノやプンタセッカ等直接法を主とした作品は銅版で、というふうに使い分けているが、日本ではどちらも銅版で、というのが普通のようである。
 それぞれの特徴として、まず亜鉛は腐食液、すなわち酸に対する反応が敏感でかなり薄めた腐食液でも十分に製版可能であることがあげられる。特に薄めた硝酸を用いたアクアチントの階調の美しさやその他の腐食技法の表情の豊かさは亜鉛版の最大の長所であろう。柔らかい金属なので版の修正が比較的容易なのも挙げておきたい。短所は銅にくらべて脆いので直接版を彫る際にぼろぼろと崩れてやりづらいところである。また金属のまくれを利用した技法、ドライポイントやメゾチントには全く適していない。なぜならせっかく作ったまくれがほんの数枚摺っただけで磨耗し、効果が半減してしまうのだ。まくれの粘り、耐久性が全くないのである。
 一方銅の特徴はその万能さにある。全ての凹版技法に対応していて亜鉛よりは強い酸が必要だが腐食技法にも適しつつ直接法にも適している。銅の持つ強靭さと粘りがその特徴と言えるだろう。摺りには関係ないのだが、銅の色と光沢が持つ版自体の魅力も日本で凹版の代名詞となった原因ではなかろうか。
銅、亜鉛以外にもアルミ板やアクリル、塩化ビニールなどの樹脂板や丈夫な厚紙も凹版の素材になる。金属版のみ腐食技法が使える。
 さて、買ってきたばかりの銅板は表面に細かなキズが有り、断面は垂直のものが普通である。まずはこの断面を45度位の角度に削り落とさなければならない。なぜなら、角を落としていない版をプレスにかけると版画用紙やフェルトが切れてしまう恐れがあるからである。プレート用ヤスリで四辺全て削って、四隅は尖っていると危険なので少し丸みをつけておいた方がいいだろう。ヤスリで削っただけだとざらつきがあるので、仕上げにスクレイパーやバニシャ−で滑らかにツヤをだしておきたい。この四辺のふちの部分をプレートマークと呼ぶ。次に表、つまり絵を描く方の面の細かなキズを取っていく。1000〜2000番位の目の細かい耐水ペーパーで研磨する。はじめは曇ったように見えるが念入りに磨いていくとうっすらと光沢を帯びてくるはずだ。仕上げにピカール等の金属磨きをたらし、布で力いっぱい磨き上げよう。鏡のように顔が映ればOKだ。これで銅板が銅版になった。



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