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二種類の人類

二種類の人類

 

あまりの食生活の違いに二郎はねをあげだしていた。

「イングル、食材を買いに行きたいんだけど連れていってくれる?」

「もちろんよ。歩いて5分のところに大きなショッピングセンターがあるから、一緒に行きましょう。」

食材売り場には、野菜や肉の写真が貼り付けられたパッケージがたくさん並んでいた。例のごとく粘土のような固形状にされた食品ばかりだった。

「なんでみんなパッケージになっているの?野菜そのままの形をしたものはないの?」

二郎が不服を漏らす。

「新鮮さを保つために、すぐにパッケージにしてしまうのよ。」

「でもそれじゃ美味しくないと思うんだけど。。。。」

「ここまで野菜が到達するのに、時間がかかるからしかたないわ。」

「なんでそんなに時間がかかるの?野菜はこの大陸では栽培されてないの。」

「この大陸では野菜は育たないの。だから、隣の大陸で食料は生産されているのよ。」

「なんだって!」

思ったものは一切購入できずに、失意のまま二郎は食品売り場をあとにした。ショッピングセンターをでて、車に向かって歩いているときだった。ドドドドズーン。突如、大きな音がして、空気の振動が伝わってきた。二郎もイングルも身体が痺れた。そのあとに前方に見えていた大きなビルが崩れはじめた。

ドバドバドバ。煙にまかれてビルが形を失って行く。

「大変だ!あのビル、爆破されたんだ。」

「早く逃げましょう。」

2001年のワールドトレードセンターの崩れ方にそっくりだ。」

「ワールドトレードセンター?」

「君は知らないことだ。」

ワウワウワウワウ。大きな音が近づいてきた。

「あれは消防車のサイレンの音?」

「そうよ。思いだしてきたのね。」

「地球でも同じようなことが起きたから、多分そうだと思っただけだ。ということは、これもテロか?」

「まさか?この都市は警備が厳重だからテロなんて起きたことないのよ。」

「それはアメリカと同じだ。初のテロ攻撃で世界が変った。」

キーン。耳が痛くなるほど高い波長の音がした。小型ジェットが猛スピードで飛んできた。1、2、3。二郎は3機を数えた。

シュパー。そこからロケット弾のようなものが勢いよく飛び出した。二郎は凝視した。それは人間だった。黒いスーツと頭にとがったヘルメットをかぶっている。

「すげ~。バットマンのようじゃないか。でも、あのスピードで飛び出でて、どうやって着地するんだ。地面に激突してしまうよ。」

「バットマン??あれは対テロ特殊部隊の軍人たちよ。」

「へえ~。すごいんだ。それじゃ、やっぱりこれはテロの仕業なんだ。あの人たちはテロリストを追いかけているのかな。」

「そうかもしれないわ。恐いわ。早く行きましょう。」

「もう少し見せてくれよ。こんなのは映画以外では見たことない。」

バットマンに似た黒いスーツを着こんだ男たちは、やはりバットマンさながら最後に羽根を広げて空気を操りながら地面近くで体勢を整えた。

「すごい!でも地球の重力じゃ、これはできないだろうな。」

タッタッタッタッ。そのとき前方から猛烈なスピードで四つ足の動物が二匹かけてきた。

「危ない。逃げて!」

イングルが言った。

「どうして?あれは服を着た動物?なんか変だな。」

「あれは人間よ。爬虫類人間が逃げているのよ。」

「なんだって!ということは奴らがテロリストかな?」

「そうかもしれないわ。早く逃げましょう。」

「爬虫類人間は四つ足で走るのか?」

「もう!なんでもいいじゃない。危ないわ。とにかく逃げましょう。」

イングルが顔を赤くさせて二郎を引っ張る。

四つ足で走っている男たちのうしろから例のジェット機から飛び出した男が2人、低空飛行をして追いかけてきた。そのアクション映画さながらの光景に二郎は目を奪われた。二郎はただ立ち尽くしていた。イングルは仕方なしに一人でショッピングセンターの出入り口に向かって走った。

前方から走ってくる男の一人が少し方向を変えた。二郎はその男が目指しているものを目で追った。

やばい、イングルを狙っている。人質として捕まえようとしているのかもしれない。

二郎は走った。だが、身体が軽いのでいつものように早く走れない。一足、一足、力を入れるたびに体が高く飛んでしまう。だが、それでもイングルよりはだいぶ早かった。四つ足の男と同時にイングルに追いついた。

四つ足で走っている男がジャンプしてイングルに襲いかかった。

二郎もジャンプした。身体が3メートルは浮いた。フワ~と落下しながら、二郎は四つ足の男を空中で蹴った。ドガッ。男は激しく飛ばされた。

ドーン。男は地面に激突した。

ぐわ~。ガブ、ガブ。悲鳴をあげながら男は口から血を吐き出す。

そのようすを見て、もう一人の爬虫類人が二郎に突進してきた。


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二種類の人類

「ジロー、危ない!」

イングルが叫んだ。

二郎はその男の両腕を握って巴投げをした。

ドン。男は背中から地面にたたきつけられた。

だが、すぐに立ち上がった。

パチン。男は二郎を殴った。

二郎は全く怯まずにその手を捕まえてひねりあげた。

ボキッ。骨が折れた音がした。

二郎はそれでもまだ危険を感じて、男の腹を蹴り上げた。ドスッ。

グエッ。男はうめき声をあげてその場に倒れてうずくまった。

これがテロリストか。なんて弱いんだ。赤子の手をひねるとは正にこのことだ。

「ジロー、あなたどうしてそんなに強くなったの?まるで、昔の私みたい。」

イングルがかけ寄った。

ヒュー。タン。対テロ特殊部隊の隊員二人がその場におり立った。

「ありがとう。驚いた。強いね君は。」

隊長格の隊員が二郎に話しかけた。

その間、もう一方の隊員は、二人の両手両足に手錠をかけて完全に動けなくした。

「ちょっと手を見せてくれないか。」

二郎は彼の前に手を差し出した。

彼はその手を見つめた。それから、二郎の腕を取った。

「私と力比べをしてくれないか?」

「いいですよ。」

二人はひじをつけずに腕相撲をするような格好になった。二郎が力を入れると、簡単に隊員の腕は倒れた。

「なんという力だ。思いっきりジャンプしてみてくれないか。」

「おやすいごようですよ。」

フン。二郎がジャンプすると身体が4メートル以上も飛んだ。

彼は見上げた。

「なんということだ。こんな力を持った人間はみたことがない。君は超人だ!」

こんな軽い重力のしたで生活していれば、力が必要なくなるのも無理はない。二郎はそう思った。

「私は対テロ特殊部隊のローレンスというものだ。君の名前はなんというのかね。」

その隊員の胸には5つの星マークが光っていた。

ジーーー。そのようすを遠くから望遠レンズを使って撮影している者がいた。

その日の夕刻、テロの首謀者は爬虫類人のマトヤ ミテルとケルタ シムリと発表され、二郎が2人と格闘しているシーンもメデイアをとおして流された。テロによる死亡者の数は現時点では約8000人と発表された。

人々は、公共の場がまた狙われるのではないかという恐怖で外出を控えた。ホテル、ショッピングセンター、レストラン、繁華街はひと気がなくなった。

 

――翌日、大統領執務室

大統領と副大統領の二人が密かに話し合いをしていた。

「困ったことになった。国民の怒りが奴らのテロ攻撃にたいして爆発してしまった。」

「これではアンギラと話し合いはできないですよ。」

大統領がうなずく。

「話し会いをして、先方が謎の天体のことを発表したら、世界中で大変なパニックになります。先方との共同作業はとうてい無理です。」

「しかし、プルトニウムを集めなければならない。それには先方の同意がどうしても必要だ。」

「あの独裁者から同意を得られると思いますか?」

「わからない。多分、だめだろう。」

大統領は首をかしげた。

「同意を得られない場合にはどうするのですか?みすみすガイアスが滅びるのを待つのですか?」

「それはできない。」

「それならば、同意を得られない場合には強硬手段にでるのですか?」

「それもしかたあるまい。」

「そうなれば戦争が始まります。戦争が始まれば、謎の天体の破壊などとうていできなくなります。」

「そうなるだろうな。」

大統領は腕を組んで天井を見つめた。

「それならば、我々が行うことはただ一つです。ガイアスの滅亡がかかっているときです。ガイアスを救うためなら、今は正攻法にこだわっていられないのではないのでしょうか。」

「副大統領、君の言うとおりだ。とにかく、ガイアスを助けてからその他のことを処理しよう。」

 


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戦争の序曲

戦争の序曲

 

惑星ガイアスは3つの大陸からなる惑星だった。アンギラとホンジェと名づけられた2つの大陸に、それぞれ爬虫類から進化した人類と哺乳類から進化した人類が別れて生息していた。文明進化のスピードは哺乳類人類が若干早く、最初に航海技術を開発したのは彼らだった。約1200年前に哺乳類人がアンギラに入り込み、爬虫類人の土地を植民地として占領しだした。だが、ホンジェから航海技術が伝わったことで、爬虫類人もホンジェに入り込むきっかけをつかんだ。二つの種族は序所に小競り合いをしながらお互いの大陸に入り込み、それぞれの国で人種差別問題を引き起こすようになった。

パンジャと名づけられた3つ目の大陸には人類は生息していなかった。だが、食料およびエネルギー資源がたくさんあったので、常に二つの国はこの大陸の領土争いを繰り返してきた。若干早く入ったホンジェが肥沃な地帯パラレスを手にいれ、それが哺乳類人類に豊かな生活をもたらすようになっていた。

226年前に、両国とも水素爆弾の開発に成功し、核戦争によりガイアスが死の星になる危険が迫った。自滅を恐れた二つの人類は「核禁止条約」を締結して核兵器を凍結させた。その協定を受け入れる条件として、パラレスの一部をアンギラに譲るという約束がなされた。だが、最終的に与えられたのは、領土の20%にしかすぎず、その公平さを欠いた行為にアンギラは強い不満を募らせた。そして、それが両国を冷戦へと導くと同時に、哺乳類人類に敵対するテロ組織を育てる原因にもなった。

核禁止条約により、両国で製造されたプルトニウムはすべて回収され、南の海洋にある小さな島、プラトンに保管された。そこに現在も150万キログラムといわれる大量のプルトニウムが眠っている。

 

――プラトン沖

プラトンの沖21キロの地点に黒い潜水艦が一隻停滞していた。島の灯台の明かりが届かないぎりぎりの距離だった。

「これ以上近づくとレーダーにひっかかる。ここからは5人でゴムボートをこいで行く。残りのものは待機していてくれ。」

コスチュームの胸に5つの星マークをつけた男が言った。

8人いたうち5人がボートに乗った。

「隊長、この島に近づいたものはいるんですか?」

「この226年間、誰も島の頂に到達したものはいない。数回テロリストが接近した記録が残っている。だが、皆、失敗に終わっている。ホンジェとアンギラが当時の最高技術を提供しあって造った要塞だ。200年以上前の技術といえども、なめてかかるとやられる。我々がやられたら人類は死滅する。なんとしてもこのミッションは成功させなければならない。」

4人はうなずいた。

島の直径は約2キロ。高さ約500メートル。高さ250メートル付近の島の直径は約一キロと真ん中がへこんだ鼓のような形をしている。海からでも空からでも、周囲20キロ以内に近づくと、自動的に迎撃ミサイルを発射するシステムが作動する。迎撃ミサイルの探知機は金属に反応するので、大量の金属をまとわない魚や鳥などに発射されることはない。プルトニウムを得るには、島の断崖を登らなくてはならなかった。

5人は島に到着すると、その切り立った高い頂を見あげた。

「防衛設備なんて、この島ならいらないのかもしれないな。」

隊長と呼ばれた男は言った。

 

――ホンジェ国際空港

「ビザを見せてください。」

男は何も言わずにパスポートを開いた。監察官はパスポートと男の顔写真を注意深く交互に眺めた。名前はサン バンニ。国籍はアンギラ。

「はい。どうぞ。」

男はサングラスをかけて帽子を深くかぶった。そして、腰を曲げながら前傾姿勢で歩いた。

その男を遠くから見つめる男がいた。

「サン バンニが入国した。これからあとをつける。」

彼は独り言を呟いた。耳の穴に挿入された小さな無線機がそれを電波にして本部に送った。

「了解しました。必要な情報がありましたらいつでもご連絡ください。」

「頼む。」

男は空港からタクシーを拾った。

「イーストサイド、85ストリートにある宇宙開発研究所へ。」

「了解。」

男はノートパットを内ポケットからとりだしてスイッチを入れた。サリバン博士の顔写真がでてきた。宇宙開発研究所の住所と電話番号が記載されている。その脇に「シリアス移住計画第一人者」と書かれた文字が点滅していた。男は別のスイッチを押した。すると、「タラバン ゴン博士」とかかれた男の写真がでてきた。男はそれをしげしげと眺めた。

男はタクシードライバーに研究所の3ブロック手前で止まるように言った。男はタクシーをおりると、100メートルほど先にある宇宙開発研究所の建物を見上げて目を細めた。すると、ムクムクと顔の表面が動きだし、写真にあったタラバン ゴン博士の顔に変わった。男は曲がっていた腰を伸ばした。そして、正門へと向かった。


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戦争の序曲

「いらっしゃいませ。」

受付の女性がおじぎをした。

「サリバン博士にお目にかかりたいのですが。」

「お約束でございますか?」

「そうです。」

「お名前をいただいてもよろしいでしょうか?」

「タラバン ゴンです。」

女性は「今日のゲスト」とかかれたアポイントメント表をみて指を動かした。すると、タラバン ゴン博士の写真がスクリーンの中に現れた。彼女はその写真と目の前にいるゲストの顔が一致していることを確認した。

「タラバン ゴン博士。それでは、あちらの席で少々お待ちください。」

サン バンニはイスに腰掛けた。その間、彼女は電話で連絡を取っていた。

「お待たせいたしました。サリバン博士の事務所は18階にございますので、そちらまでお進みください。」

サン バンニはエレベーターホールへと向かった。その後、彼がエレベーターに乗ったことを確認して、彼を空港からつけてきた男が受付へかけ寄った。

「こういうものです。」

男は身分証明書を彼女に見せた。彼女は息を呑んだ。

「彼はどこに行きましたか?」

「サリバン博士のところです。」

「サリバン博士は何階にいますか?」

18階です。」

男はかけ足でエレベーターホールへと向かった。

ス―。エレベーターの扉が開いた。サリバン博士はエレベーターの扉の前で待っていた。

「いらっしゃい。タラバン ゴン博士。わざわざ遠くからありがとうございます。」

サリバン博士は握手を交わしながら話し続けた。

「アンギラのようすはどうですか?おはずかしながら、私はまだ一度も行ったことがないんですよ。」

「人種差別がひどくて、とても暮らしにくいですよ。哺乳類人には、なんでも2倍の値段になるんですよ。」

「そうなんですか。なかなか和解できないですね。」

「和解は永遠に無理じゃないですかね。」

二人は会議室に入った。

「私の助手二人をご紹介させていただきます。」

こちらの女性がEngle Ve(イングル ブー)。そして彼はAman Dam(アマン ダム)です。

「よろしくお願いいたします。」

二郎とイングルは同時に言った。

「それでは、無人探査艇から送られてきた映像をご覧いただきます。」

イングルは映像が入った細長いカプセルをカセットの中にいれてスイッチを押そうとした。

「ちょっと待った!」

突然、男の声がした。

「あなたは!」

二郎とイングルが同時に言った。昨日あったばかりの、対テロ特殊部隊のローレンス隊長だった。

「まさか君たちがここにいるとは。。。。」

「どうされたのですか?またテロですか?」

イングルが言った。

「アンギラの諜報部員がこの館の中に入り込みました。」

「そんな。。。こんなところにまで。」

「そうです。ですから、注意が必要です。」そう言いながら、隊長はタラバン ゴン博士に近づいた。

タラバン ゴン博士の顔が膨らみだした。ボコ、ボコ、ボコ。

「博士どうされたのです。」

サリバン博士が心配そうにタラバン ゴン博士の顔を覗いた。タラバン ゴン博士はサリバン博士の腕を握った。

「痛ッ」

「しまった!」ローレンス隊長は大きな声を出した。

サリバン博士が気絶して倒れかける。イングルと二郎は倒れるサリバン博士をあわてて抱きかかえた。隊長はダッシュしてサリバン博士の腕をとった。その間に、タラバン ゴン博士はカセットからカプセルを取り出した。

「カプセルが盗まれた。」

二郎が言った。

「博士を助けるのが先だ。これは猛毒なんだ。すぐに解毒剤を注入しないと助からない。」隊長は内ポケットから小さな袋を取り出した。そして、その中から飴玉のようなものをひとつつまんで博士の腕に押し当てた。その上に丸いバンソウコウを貼り付けて叩いた。ブシュ。中の玉は音をたてて潰れた。

「これで解毒できるはずだ。博士を安静にさせてください。私はこれからあいつを追う。」

「あいつは何者なんですか?」

「アンギラ国の諜報部員サン バンニだ。」

ローレンス隊長はかけ出した。

二郎は窓を開けて下を見た。真下に出入り口がある。1秒、2秒、3秒、4秒。二郎は数えた。タタタタタタ。四つ足で走りでていくサン バニが見えた。二郎は一旦、窓から3メートルほどさがってからダッシュした。ダダダダッ。床を蹴って窓を超えて飛び出た。

「ジロ――、そんなの無茶よ!」

イングルは叫んだ。

ヒュ~ン。二郎は空を飛んだ。サン バンニに向かって空中を突進した。

とどけ、とどけ、もう少し。

二郎はサン バンニを背後から踏みつける格好で着地した。

ドカッ。サン バンニは腰をうえから押しつぶされて転がった。

ドン。二郎もひっくり返って肩を痛打した。

いててて、さすがにこの高さから落下したら痛いや。でもあいつの腰の骨は折ったはず。もう動けないだろう。

サン バンニは体を横たえながら二郎を睨んだ。彼の瞳は赤かった。二郎はその目の色と鋭さに寒気がした。

「あぶない、ジロー、そいつから離れるんだ。」

ローレンス隊長が走ってきた。プッ。サン バンニは口からなにかを飛ばした。二郎はとっさによけたが、頬を掠った。ジワ~。頬の肉が溶けていくのを感じた。

「いてえ~。」

二郎は頬を押さえた。すると、こんどは手の平の肉が火傷をしたようにひりひりしだした。

なんだこれは?硫酸か?

「これで消毒するんだ。猛毒だから。」ローレンスが平たい紙を二郎に渡しながら言った。

二郎はあわてて、その紙を頬に当てて液を吸い取った。

「こいつ~。よくも俺の顔に一生もんの傷をつけてくれたな!」

「待て。君には危険すぎる。離れているんだ。」

二郎はしぶしぶあとずさりした。

「カプセルを返すんだ。」

ローレンスが言った。

「すでにこのカプセルの内容は仲間に送った。」

「なんだと!」

サン バンニは胸から小さな黒い箱をとり出した。その中にカプセルが入っていた。

「しまった。カプセルの中身が送信されてしまった。」

サン バンニはそれをローレンスに投げつけた。彼がそれを受け取る間にサン バンニは走り出した。


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戦争の序曲

なんでまだ走れるんだ?腰の骨が折れているはずなのに。

二郎は不思議に思いながら、サン バンニを追って走りだす。スピードは二郎のほうが上だった。サン バンニはすぐに追いつかれた。

サン バンニは振り向いて二郎に蹴りを繰り出した。しかし、二郎の足は逆にサン バンニの足を蹴り返した。ガッン。サン バンニの顔が痛みで歪む。

どんな毒を持っているかわからないから、うかつに捕まえられない。どうしたらいい。

二郎は慎重に距離を置いた。

サン バンニの口が少しとがった。二郎はフットワークを軽くして、そこから飛び出てくるであろう物に備えた。

プッ。緑色の豆のようなものが飛び出した。二郎は首を振ってよけた。そして、すかさずダッシュ。サン バンニの顔を殴りつけた。

サン バンニは2メートル近く飛ばされて、完全に失神状態になった。

うしろからそのようすを見ていた、ローレンス隊長が言った。

「君はこのまま普通の生活をするのは勿体ない。わが隊に入らないか?」

 

――プラトン島

隊長は肩から掛けていた銃の先に細長いカートリッジを取り付けた。それを頭上、約50メートル離れたところにある岩盤に向かって発射した。

バシュッ。スクリュー型をした細長い弾丸が回転しながら岩盤に突き刺さった。弾丸と銃はとても細い糸のようなワイヤーでつながっていた。隊長はワイヤーを銃から外してなんども強く引いて、岩盤から外れないことを確認した。

「これで大丈夫だろう。」

隊長はワイヤーを取っ手のついたリールに通した。ボタンを押すと、シュルシュルとワイヤーが巻きあげられ、ゆっくりと隊長は斜面を登った。30メートルほど上がったところで、下にいる4人に合図をした。

4人も同じようにして、ワイヤーのついたスクリュー型の弾丸を岩盤に撃ち込んだ。全員が同じ高さまであがったところで、隊長は一人の隊員の肩に手を置いて、再びカートリッジを銃に取り付けた。そして、また50メートルくらい上にある大きな岩盤を目掛けて弾丸を撃ち込んだ。それからワイヤーをリールから外した。それまで自分を引きあげてきたワイヤーがダランと垂れた。そして、今撃ち込んだワイヤーをリールに取り付けた。シュルシュル。ワイヤーは隊長を上に引きあげだす。

「ワイヤーはもどるときに利用するから、このまま残しておき、帰りに引き抜く。証拠が残らないようにな。」

「了解」4人は口を揃えた。

2回、3回、4回と同じ作業を繰り返して、4人は250メートル付近にまでたどりついた。ここからは斜面が反り返っている。足の踏み場がない。ただワイヤーにぶら下がるだけとなる。もし岩盤が落下したら、自分もその下敷きになる。

「ここからは、それぞれ違う岩盤を利用しよう。5人の重さで岩盤が落下しないようにな。」

「了解。」

隊長は大きな岩盤が隣あわせになっている場所を探した。そして、その一つを狙ってスクリュー弾を打ち込んだ。

「アラン、私が君のワイヤーにぶら下がれるように、隣の岩盤にスクリュー弾を打ち込んでくれ。」

「了解。」

バシュ。彼はスクリュー弾を撃ち込み、二人がぶら下がる準備が整った。

「さあ、岩盤が落ちないことを祈って行こうか。」

隊長が足を離すとワイヤーは振り子のように揺れた。

「どうやら大丈夫なようだ。」

「アラン、君の番だ。」

アランも足を離した。岩盤は落ちなかった。

スルスル。二人は50メートルあがり、300メートル付近にまで到達した。残りは200メートル。のこり3人の隊員も無事に通過した。

「さて、ここからが問題だ。岩盤が二人の体重に耐えられるかどうかだ。」

隊長はワイヤーをゆすって、アランの肩に捕まった。

「あそこに二つ岩盤が隣同士になっている。あれを使おう。」

「了解。」

隊長は銃にカートリッジを取り付けてスクリュー弾を打ち込んだ。そして、それまで使っていたワイヤーをリールから引き抜いて、新しいワイヤーを取り付けた。その間、数秒だったが、1本のワイヤーに二人の体重がぶら下がった。

同じことを繰り返しながら、5人は最後の50メートルにまで迫った。

「さあ、最後だ。ここが一番の山場だ。あまり頂上近くにスクリュー弾を打ち込んだら、岩盤が落下しやすくなる。だからといって、近くでなければ頂上にたどりつくのが大変だ。」

ワイヤーにぶら下がりながら隊長は皆に言った。

そのときだった。ビクン。アランのワイヤーが変な動きをした。

「隊長!」

「アラン、どうした?」

「ワイヤーが揺れました。」

「なんだって!」

「落ちるかもしれません。」

ガックン。アランのワイヤーがまた大きく揺れた。

「あわてるな。アラン。俺がそっちに行くから、俺のワイヤーにぶら下がれ。」

隊長は自分をゆさぶった。ブ~ラン。ブ~ラン。ブ~ラン。序所にアランに近づいて行く。

ガクン。アランのポジションが1メートル近くさがった。小さな石がたくさん降って来た。

「駄目です。隊長、もうまにあいません。」

「あきらめるな!アラン、つぎ俺が近くに行ったら、俺に向かって飛べ。」

ブ~ラン。隊長がアランのそば1メートルに接近した。アランは鉄棒にあがるときのように両足を一旦顔の前まであげて前に蹴る、蹴上がりの要領で前方に飛んだ。その振動に耐えかねたかのように岩盤は落下しだした。ゴ――。

アランは隊長の足をつかんだ。二人の真上から3メートルもある岩が落ちてくる。

ゴ――。

2人の身体が落ちてくる岩の空域を脱出するのが先か、或いは、岩が2人に激突するのが先か、傍観している3人は息を止めて2人のタイミングを祈った。

ゴ――。岩は2人の横30センチ程度脇を通過した。

ふ~。5人は溜息をついた。

「アラン、早く別れたほうがよさそうだ。ここも危ない感じがする。」

「どうしてですか!」

「今、変な振動があった。アラン、あの岩に向けてスクリュー弾を打て!」

アランはすぐに狙いをつけて弾を撃った。そして、敏速に隊長から離れた。隊長も岩を狙い銃を構えた。だが、ゴトゴト、ドスン、ゴ――。間に合わず、岩は落下し始めた。ヒュー!隊長は岩とともに落下して行く。

「隊長~!」

アランが叫んだ。

「任務遂行を頼む――」

隊長は大きな声で叫んだ。


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