恐竜の惑星
恐竜の惑星
二郎の住む場所は高層マンションの101階にあった。その惑星の居住区には軒並み100階以上の建物が立っていた。ビルの高さも敷地もニューヨークのマンハッタンの2倍くらいの規模だった。
部屋に入ると驚いたことに、本当にそこに自分が暮らしていた形跡があった。服も靴も二郎のサイズだった。この星の住人でないと疑う自分のほうがおかしいのではないかと思えてくる。ただ、一つ妙なところがあった。二郎の過去の写真が全くない。
ジー、ジー、ジー。聞きなれない音に二郎は首をかしげた。電話らしき形をしたものが鳴っている。二郎はそれを持ち上げた。
「もしもし、私、イングル。どうしてますか?」
「はい、まだなんかおかしくて。」
「そう。お医者様に見てもらいましょうか?」
「大丈夫です。そのうち慣れると思いますから。」
「そう。でもそれじゃ、お仕事はできないでしょう。」
「はあ~。仕事ってなんですか?」
「ほうらね。やっぱりお医者様にみてもらいましょうよ。」
「いいえ、大丈夫です。それよりも仕事場に連れて行ってください。そうしたら、思いだせるかもしれませんから。」
「わかったわ。それじゃ、10分後にマンションのロビーで会いましょう。」
二郎とイングルは車にのって職場へと向かっていた。車もバスもすべて超伝導で動く。タイヤはなく、車は道路との間に生じる磁力の反発作用によって浮き上がっていた。動力は小さなプロペラによって引き起こされる風力だった。
この星に着いてから二郎が感じた一番の違和感は重力の違いだった。全てのものが軽い。軽くジャンプしただけで、一メートル半は飛び上がれる。多分、それがこれだけ超伝導を発達させた理由なのではないかと思う。それはこの星が地球よりも小さいという証拠だった。
「あそこが私たちの職場よ。」
ビルに大きく―宇宙開発研究所―とあった。
キーをまわすと車の動力が弱まり、徐々に車体が下がって行く。パタン。小さな音をたてて車体は地面に着地した。
二郎はイングルに連れられてオフィスへ入った。
「サリバン博士。」
イングルがそう呼んだ男性は、メガネをかけて白髪の髭を生やした、いかにも博士らしい容姿をしていた。
彼を見て二郎は思った。この星の人間はみんな緑色の瞳をしているんだと。
「おお、いらっしゃい。待っていたよ。」
「水の惑星からの映像がとどいたんですね。」
サリバン博士はうなずいた。
「二人ともこっちに来てくれ。今から映像を映す。驚くよ。」
サリバン博士がボタンを押すと、部屋の照明がおちて縦横2メートル程度のスクリーンが下がってきた。
「イングルさん、これから見るのは地球、いや、シリアスに着陸した探査船から送られてきた映像ですね。」
「そうよ。」
探査船は人間が造りあげた文明を映しだすのだろうか?或いは、文明の入っていない秘境地帯か?しかし、そんな探査船が宇宙から飛来したとなれば、ニュースになると思うのだが?日本では聞かなかった。NASA(アメリカ航空宇宙局)のレーダーでとらえることができなかったのか?いや、そんなことを言ったら、こんな惑星が地球の近くにあることを知らないこと自体おかしくなる。どうなっているんだ。
スクリーンは地球の全体像を映し出した。
サリバン博士はポインターを地図上のひとつの地点に置いた。
「探査船を着陸させたのはここだ。」
それは北米大陸のテキサス州にあたる地点だった。
ジジジジ。雑音が混ざりながら映像が現れた。二郎とイングルは固唾を飲んで注目した。
ユサユサと揺れる大きな木が見える。密林地帯のようだ。ギエギエ。奇妙な泣き声をあげながら不思議な形をした生き物が近づいてくる。二本足で歩く大きな鳥のようだった。その次ぎに、二本足で立つ大きなトカゲが早や歩きをしている。しばらくすると、ダン、ダン、ダン、地面が揺れてカメラが上下に小刻みに震動した。
ロア~。ロア~。爆発音のような大きな泣き声がして、舌と無数の歯が見えた。ドシャ。急に映像は途切れた。
「最後の映像がなんだったのかよく分からないが、これを見る限りではシリアスは爬虫類の王国のようだ。」
サリバン博士は言った。
二郎にはすぐに分かった。あれはチラノザウルスだ。間違いない、チラノが探査船をかじったのだ。なんということだ。チラノが生息していたのは白亜紀後期だったから、7000万年くらい前のことだ。俺は自分の生きていた年代からタイムスリップしてしまったらしい。
二郎に絶望感が押し寄せてきて涙が溢れだした。
「これは発表できないですね。」
イングルが言った。
サリバン博士がうなずく。
「これが世間に知れたら、まずいことになる。」
同意を求めようとして、イングルが二郎の顔を見て驚いた。
「どうしたの?アマン、泣いているの?」
「なんでもないです。でも、どうしてまずいことになるんですか?」
二郎は涙を拭きながら言った。
サリバン博士は驚いたように二郎の顔を覗く。
「あっ、サリバン博士、アマンは少々疲れ気味で健忘症にかかっているんです。一時的な記憶喪失の可能性もあります。すぐに治ると思いますから、気にしないでください。」
イングルが二郎と視線を合わせる。
「あとで説明するからね。」
二郎は小さくうなずいた。
――2時間後、研究所の会議室
「記憶が戻らないから、まだアマンじゃなくてジローと呼ぶわね。」
二郎はうなずいた。
「とても大事なことを一つ思い出してね。この惑星には二種類の人類がいるの。一つは哺乳類から進化した人類。そして、もう一つは爬虫類から進化した人類。私たち哺乳類の国がホンジェ。そして爬虫類の国がアンギラ。ホンジェの中にも爬虫類の人類が住む場所がところどころあって、共存しているのだけど、ときどき人種差別問題で小競り合いが起きているの。」
「隣の惑星が爬虫類の王国と知れたら、爬虫類の人類が優先権を取ろうとするに違いないということですね。」
「そう。私たちが住む惑星はだんだんと冷え込んできているの。もう生物が暮らせる星としての寿命はそれほど長くないというのが、多くの研究者達の一致した意見なの。」
「どうして冷え込んできているんですか?」
「それは星の大きさがあまり大きくないので、少しずつ大気が宇宙空間に逃げてしまうからなの。」
「重力が大気をひきつけておくには弱すぎるということですか?」
「そのとおりよ。だから、シリアス移住計画は人類の存亡をかけた一大プロジェクトなの。サリバン博士を中心とする我々のグループは、いち早くこの惑星の主要な生物をシリアスに移動させて、そこで生息可能かどうかを調べる計画をたてているの。私とあなたはそのスタッフなの。」
「だから、大気の成分云々と言っていたんですね。」
「そう。幸なことに、探査船から送られてきたレポートでは、酸素が濃いながら、私たちが生きて行くには支障のない大気と分かったの。これから計画は秒を追って早く進められることになるわ。」
7000万年も昔じゃ、戻ったところで俺の家はない。いったいどうしてこんなことが起きたのだ!
謎の天体
謎の天体
――研究所内の食堂
二郎とイングルはサリバン博士と昼食を食べていた。食事は一つ一つパッケージで包まれている。パッケージの横にはカロリーと、中に含まれる栄養素が書かれていた。多分、人が生きていく上でもっとも栄養バランスのとれた食事になるように計算されているのだろう。それぞれのパッケージの蓋をはがして、粘土のような固形物をスプーンですくって食べるだけ。味はそれぞれ違うので飽きることはない。だが、二郎にとってはとても楽しめるような内容でなかった。
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ。サリバン博士の胸のポケットから音がした。博士は携帯電話らしきものを取り出して耳にあてた。
「ああ、ゲイジ博士。お元気ですか。フン、フン、フン、フン。」
彼はほとんど聞き役に徹していた。
「分かりました。すぐに調べてご連絡させていただきます。」
話しを終えると、彼は携帯電話の横のスイッチを押した。すると、それまで黒かった表面が急に明るい画面に変わった。
「どうしたんですか?」
イングルが聞く。
「ゲイジ博士が新しい天体を発見したらしい。猛烈なスピードで我々の軌道に近づいているということだ。」
「そんな!まさか衝突するとか。。。」
「そんな確率はとても少ないと思うが、一応、調べてみなければ。」
画面はゲイジ博士が発見した謎の天体の軌道を示していた。
「かなり大きな天体のようだ。ガイアスの2分の1くらいの直径がありそうだ。相当な引力になるだろう。綿密に計算してみなければ。」
サリバン博士の真剣な顔を見て、イングルは顔に不安を浮かべた。
「私にも軌道計算するの手伝わせてください。」
サリバン博士はうなずいた。
「よし、ランチが終わったら、さっそくはじめよう。」
――研究室の一角
三人は直径1メートル程度の丸いスクリーンが設置された大きなデスクの前にいた。スクリーンには太陽系が描かれていた。
それを見て二郎は質問を始めた。
「この星はなんですか?」
「それはシリアス、水の星よ。」
「それじゃ、これは?」
「ガイアス、私たちが暮らす星」
「それじゃ、これは?」
「それはサリウス、私たちの恒星よ。」
「ええと、サリウスが太陽にあたるわけだから。。。。シリアスがサリウスを一周する間に、シリアスは365回自転しますよね。」
二郎は聞いた。
「そうよ。分かっているじゃない。」
二郎は自分の想像が正しかったことを確認した。
やはり地球とこの惑星は双子惑星だったのだ。そして、二つとも自分が暮らしていた時代の地球の軌道上にある。ということは、これから7000万年の間に、このガイアスはどこかに姿を消したことになる。何があったというのだろうか?宇宙の歴史にすれば、7000万年などたいした時間ではない。この間に、この太陽系で何か大きな変動が起きたに違いない。
二郎は注意深くスクリーンに描かれた太陽系を眺めていた。
なにかが違う?俺の時代の太陽系とはどこかが違うのだ。。。。
「あっ!」二郎は思わず声をあげた。
「どうしたの?」イングルが驚く
「いや、なんでもない。」
二郎はとっさに「なんでもない」と言った。本当のことを言えば、この惑星に暮らす人々の避けられない運命を言ってしまうことになるからだった。
帰りの車の中で、イングルも二郎もほとんど話しをしなかった。計算の結果が二人を叩きのめしていた。なんど計算しなおしても、同じ結果しかでてこなかった。あと91日後に謎の天体はガイアスに衝突するという。
――翌日
サリバン博士とゲイジ博士は大統領と会っていた。大統領の顔はすっかり血の気を失っていた。
「まさかそんな一大事がこんなにも急に訪れるとは。それで、お二人はどうしたら、この危機を乗り越えられるというのですか?」
「なるべく遠いところで、謎の天体を爆発させて質量を減らすのです。」
サリバン博士が言った。
「素人考えで申し訳ないのだが、そんな大きな天体を爆破することが可能ですか?」
大統領が質問すると、ゲイジ博士が体を乗り出した。
「水素爆弾を使わなくてはなりません。なるべく多くの水素爆弾を地中深く埋め込み同時に爆発させるのです。それで質量が減れば軌道の流れが変わるはずです。」
「1番の問題はプルトニウムです。2番目は時間です。」
サリバン博士が言った。
「プルトニウムはどうしようもないとして、どのようなスケジュールで進めればいいのですか?」
大統領が言った。
「これから30日間で、必要な水素爆弾を積んだ宇宙船を出発させます。目的の天体にたどりつくまでに20日間。爆弾を仕掛けるのに10日間。そして、今日から数えて60日後に爆発させます。大きな破片がでた場合には、軌道計算をしてガイアスにあたりそうなものを一つづつ破壊します。」
「どれぐらいの水素爆弾が必要だというのですか?」
「200メガトン級の水爆を30箇所に設置します。地中の深さは500キロです。」
「500キロ!そんなに掘れるのですか?」
「あの天体の半径は約1700キロあります。最低でも500キロあたりまで潜らせませんと効果がでません。できるなら、800キロあたりまで入れたいところです。星の成分がガイアスと同じならば10日あれば可能なはずです。そのときの状況によって深さを決めます。」
「分かりました。」
「それと、破片がでたときのために、10メガトン級の水爆をたくさん用意しておく必要があります。それはミサイル搭載型とします。」
「大変な仕事量だ。だが、それが我々の生き残る唯一の方法というのであれば、やるしかない。しかし、これは国民には発表することはできない。すれば、パニック状態となり、どんなところで任務遂行の支障になるかわからない。極秘でさっそく取りかかろう。」
大統領はその場で防衛大臣に連絡をして、二時間後に打ち合わせに入った。
――4時間後
二郎とイングルはサリバン博士とコーヒーショップにいた。
「昨日の件だが、さっそく軍が動くことになった。30日後に謎の天体の質量を減らすために水素爆弾を搭載して10機の宇宙船が発進する。地中深いところで水素爆弾を爆発させて、しぼませてしまう作戦だ。国民がパニック状態にならないように、これはすべて極秘に行われる。誰にも秘密を漏らさないように頼む。」
「わかりました。」
二郎とイングルは口を揃えた。
「それと平行して、シリアスへの住計画もスケジュールどおりにすすめることになった。ガイアスの生き物をシリアスへ送って、生息して行けるかどうかを調べる。」
「はい。船は80日後に発進予定です。78匹の動物のつがいと102種の植物を乗せることにしてあります。」
イングルが言った。
ロボットのサーバーがコーヒーを運んできた。二郎は一口飲んだとたんに顔をゆがめた。
なんて渋い味なんだ。
「くれぐれも、爬虫類人類には極秘で行うんだ。」
「了解です。」
二種類の人類
二種類の人類
あまりの食生活の違いに二郎はねをあげだしていた。
「イングル、食材を買いに行きたいんだけど連れていってくれる?」
「もちろんよ。歩いて5分のところに大きなショッピングセンターがあるから、一緒に行きましょう。」
食材売り場には、野菜や肉の写真が貼り付けられたパッケージがたくさん並んでいた。例のごとく粘土のような固形状にされた食品ばかりだった。
「なんでみんなパッケージになっているの?野菜そのままの形をしたものはないの?」
二郎が不服を漏らす。
「新鮮さを保つために、すぐにパッケージにしてしまうのよ。」
「でもそれじゃ美味しくないと思うんだけど。。。。」
「ここまで野菜が到達するのに、時間がかかるからしかたないわ。」
「なんでそんなに時間がかかるの?野菜はこの大陸では栽培されてないの。」
「この大陸では野菜は育たないの。だから、隣の大陸で食料は生産されているのよ。」
「なんだって!」
思ったものは一切購入できずに、失意のまま二郎は食品売り場をあとにした。ショッピングセンターをでて、車に向かって歩いているときだった。ドドドドズーン。突如、大きな音がして、空気の振動が伝わってきた。二郎もイングルも身体が痺れた。そのあとに前方に見えていた大きなビルが崩れはじめた。
ドバドバドバ。煙にまかれてビルが形を失って行く。
「大変だ!あのビル、爆破されたんだ。」
「早く逃げましょう。」
「2001年のワールドトレードセンターの崩れ方にそっくりだ。」
「ワールドトレードセンター?」
「君は知らないことだ。」
ワウワウワウワウ。大きな音が近づいてきた。
「あれは消防車のサイレンの音?」
「そうよ。思いだしてきたのね。」
「地球でも同じようなことが起きたから、多分そうだと思っただけだ。ということは、これもテロか?」
「まさか?この都市は警備が厳重だからテロなんて起きたことないのよ。」
「それはアメリカと同じだ。初のテロ攻撃で世界が変った。」
キーン。耳が痛くなるほど高い波長の音がした。小型ジェットが猛スピードで飛んできた。1、2、3。二郎は3機を数えた。
シュパー。そこからロケット弾のようなものが勢いよく飛び出した。二郎は凝視した。それは人間だった。黒いスーツと頭にとがったヘルメットをかぶっている。
「すげ~。バットマンのようじゃないか。でも、あのスピードで飛び出でて、どうやって着地するんだ。地面に激突してしまうよ。」
「バットマン??あれは対テロ特殊部隊の軍人たちよ。」
「へえ~。すごいんだ。それじゃ、やっぱりこれはテロの仕業なんだ。あの人たちはテロリストを追いかけているのかな。」
「そうかもしれないわ。恐いわ。早く行きましょう。」
「もう少し見せてくれよ。こんなのは映画以外では見たことない。」
バットマンに似た黒いスーツを着こんだ男たちは、やはりバットマンさながら最後に羽根を広げて空気を操りながら地面近くで体勢を整えた。
「すごい!でも地球の重力じゃ、これはできないだろうな。」
タッタッタッタッ。そのとき前方から猛烈なスピードで四つ足の動物が二匹かけてきた。
「危ない。逃げて!」
イングルが言った。
「どうして?あれは服を着た動物?なんか変だな。」
「あれは人間よ。爬虫類人間が逃げているのよ。」
「なんだって!ということは奴らがテロリストかな?」
「そうかもしれないわ。早く逃げましょう。」
「爬虫類人間は四つ足で走るのか?」
「もう!なんでもいいじゃない。危ないわ。とにかく逃げましょう。」
イングルが顔を赤くさせて二郎を引っ張る。
四つ足で走っている男たちのうしろから例のジェット機から飛び出した男が2人、低空飛行をして追いかけてきた。そのアクション映画さながらの光景に二郎は目を奪われた。二郎はただ立ち尽くしていた。イングルは仕方なしに一人でショッピングセンターの出入り口に向かって走った。
前方から走ってくる男の一人が少し方向を変えた。二郎はその男が目指しているものを目で追った。
やばい、イングルを狙っている。人質として捕まえようとしているのかもしれない。
二郎は走った。だが、身体が軽いのでいつものように早く走れない。一足、一足、力を入れるたびに体が高く飛んでしまう。だが、それでもイングルよりはだいぶ早かった。四つ足の男と同時にイングルに追いついた。
四つ足で走っている男がジャンプしてイングルに襲いかかった。
二郎もジャンプした。身体が3メートルは浮いた。フワ~と落下しながら、二郎は四つ足の男を空中で蹴った。ドガッ。男は激しく飛ばされた。
ドーン。男は地面に激突した。
ぐわ~。ガブ、ガブ。悲鳴をあげながら男は口から血を吐き出す。
そのようすを見て、もう一人の爬虫類人が二郎に突進してきた。
二種類の人類
「ジロー、危ない!」
イングルが叫んだ。
二郎はその男の両腕を握って巴投げをした。
ドン。男は背中から地面にたたきつけられた。
だが、すぐに立ち上がった。
パチン。男は二郎を殴った。
二郎は全く怯まずにその手を捕まえてひねりあげた。
ボキッ。骨が折れた音がした。
二郎はそれでもまだ危険を感じて、男の腹を蹴り上げた。ドスッ。
グエッ。男はうめき声をあげてその場に倒れてうずくまった。
これがテロリストか。なんて弱いんだ。赤子の手をひねるとは正にこのことだ。
「ジロー、あなたどうしてそんなに強くなったの?まるで、昔の私みたい。」
イングルがかけ寄った。
ヒュー。タン。対テロ特殊部隊の隊員二人がその場におり立った。
「ありがとう。驚いた。強いね君は。」
隊長格の隊員が二郎に話しかけた。
その間、もう一方の隊員は、二人の両手両足に手錠をかけて完全に動けなくした。
「ちょっと手を見せてくれないか。」
二郎は彼の前に手を差し出した。
彼はその手を見つめた。それから、二郎の腕を取った。
「私と力比べをしてくれないか?」
「いいですよ。」
二人はひじをつけずに腕相撲をするような格好になった。二郎が力を入れると、簡単に隊員の腕は倒れた。
「なんという力だ。思いっきりジャンプしてみてくれないか。」
「おやすいごようですよ。」
フン。二郎がジャンプすると身体が4メートル以上も飛んだ。
彼は見上げた。
「なんということだ。こんな力を持った人間はみたことがない。君は超人だ!」
こんな軽い重力のしたで生活していれば、力が必要なくなるのも無理はない。二郎はそう思った。
「私は対テロ特殊部隊のローレンスというものだ。君の名前はなんというのかね。」
その隊員の胸には5つの星マークが光っていた。
ジーーー。そのようすを遠くから望遠レンズを使って撮影している者がいた。
その日の夕刻、テロの首謀者は爬虫類人のマトヤ ミテルとケルタ シムリと発表され、二郎が2人と格闘しているシーンもメデイアをとおして流された。テロによる死亡者の数は現時点では約8000人と発表された。
人々は、公共の場がまた狙われるのではないかという恐怖で外出を控えた。ホテル、ショッピングセンター、レストラン、繁華街はひと気がなくなった。
――翌日、大統領執務室
大統領と副大統領の二人が密かに話し合いをしていた。
「困ったことになった。国民の怒りが奴らのテロ攻撃にたいして爆発してしまった。」
「これではアンギラと話し合いはできないですよ。」
大統領がうなずく。
「話し会いをして、先方が謎の天体のことを発表したら、世界中で大変なパニックになります。先方との共同作業はとうてい無理です。」
「しかし、プルトニウムを集めなければならない。それには先方の同意がどうしても必要だ。」
「あの独裁者から同意を得られると思いますか?」
「わからない。多分、だめだろう。」
大統領は首をかしげた。
「同意を得られない場合にはどうするのですか?みすみすガイアスが滅びるのを待つのですか?」
「それはできない。」
「それならば、同意を得られない場合には強硬手段にでるのですか?」
「それもしかたあるまい。」
「そうなれば戦争が始まります。戦争が始まれば、謎の天体の破壊などとうていできなくなります。」
「そうなるだろうな。」
大統領は腕を組んで天井を見つめた。
「それならば、我々が行うことはただ一つです。ガイアスの滅亡がかかっているときです。ガイアスを救うためなら、今は正攻法にこだわっていられないのではないのでしょうか。」
「副大統領、君の言うとおりだ。とにかく、ガイアスを助けてからその他のことを処理しよう。」
戦争の序曲
戦争の序曲
惑星ガイアスは3つの大陸からなる惑星だった。アンギラとホンジェと名づけられた2つの大陸に、それぞれ爬虫類から進化した人類と哺乳類から進化した人類が別れて生息していた。文明進化のスピードは哺乳類人類が若干早く、最初に航海技術を開発したのは彼らだった。約1200年前に哺乳類人がアンギラに入り込み、爬虫類人の土地を植民地として占領しだした。だが、ホンジェから航海技術が伝わったことで、爬虫類人もホンジェに入り込むきっかけをつかんだ。二つの種族は序所に小競り合いをしながらお互いの大陸に入り込み、それぞれの国で人種差別問題を引き起こすようになった。
パンジャと名づけられた3つ目の大陸には人類は生息していなかった。だが、食料およびエネルギー資源がたくさんあったので、常に二つの国はこの大陸の領土争いを繰り返してきた。若干早く入ったホンジェが肥沃な地帯パラレスを手にいれ、それが哺乳類人類に豊かな生活をもたらすようになっていた。
226年前に、両国とも水素爆弾の開発に成功し、核戦争によりガイアスが死の星になる危険が迫った。自滅を恐れた二つの人類は「核禁止条約」を締結して核兵器を凍結させた。その協定を受け入れる条件として、パラレスの一部をアンギラに譲るという約束がなされた。だが、最終的に与えられたのは、領土の20%にしかすぎず、その公平さを欠いた行為にアンギラは強い不満を募らせた。そして、それが両国を冷戦へと導くと同時に、哺乳類人類に敵対するテロ組織を育てる原因にもなった。
核禁止条約により、両国で製造されたプルトニウムはすべて回収され、南の海洋にある小さな島、プラトンに保管された。そこに現在も150万キログラムといわれる大量のプルトニウムが眠っている。
――プラトン沖
プラトンの沖21キロの地点に黒い潜水艦が一隻停滞していた。島の灯台の明かりが届かないぎりぎりの距離だった。
「これ以上近づくとレーダーにひっかかる。ここからは5人でゴムボートをこいで行く。残りのものは待機していてくれ。」
コスチュームの胸に5つの星マークをつけた男が言った。
8人いたうち5人がボートに乗った。
「隊長、この島に近づいたものはいるんですか?」
「この226年間、誰も島の頂に到達したものはいない。数回テロリストが接近した記録が残っている。だが、皆、失敗に終わっている。ホンジェとアンギラが当時の最高技術を提供しあって造った要塞だ。200年以上前の技術といえども、なめてかかるとやられる。我々がやられたら人類は死滅する。なんとしてもこのミッションは成功させなければならない。」
4人はうなずいた。
島の直径は約2キロ。高さ約500メートル。高さ250メートル付近の島の直径は約一キロと真ん中がへこんだ鼓のような形をしている。海からでも空からでも、周囲20キロ以内に近づくと、自動的に迎撃ミサイルを発射するシステムが作動する。迎撃ミサイルの探知機は金属に反応するので、大量の金属をまとわない魚や鳥などに発射されることはない。プルトニウムを得るには、島の断崖を登らなくてはならなかった。
5人は島に到着すると、その切り立った高い頂を見あげた。
「防衛設備なんて、この島ならいらないのかもしれないな。」
隊長と呼ばれた男は言った。
――ホンジェ国際空港
「ビザを見せてください。」
男は何も言わずにパスポートを開いた。監察官はパスポートと男の顔写真を注意深く交互に眺めた。名前はサン バンニ。国籍はアンギラ。
「はい。どうぞ。」
男はサングラスをかけて帽子を深くかぶった。そして、腰を曲げながら前傾姿勢で歩いた。
その男を遠くから見つめる男がいた。
「サン バンニが入国した。これからあとをつける。」
彼は独り言を呟いた。耳の穴に挿入された小さな無線機がそれを電波にして本部に送った。
「了解しました。必要な情報がありましたらいつでもご連絡ください。」
「頼む。」
男は空港からタクシーを拾った。
「イーストサイド、85ストリートにある宇宙開発研究所へ。」
「了解。」
男はノートパットを内ポケットからとりだしてスイッチを入れた。サリバン博士の顔写真がでてきた。宇宙開発研究所の住所と電話番号が記載されている。その脇に「シリアス移住計画第一人者」と書かれた文字が点滅していた。男は別のスイッチを押した。すると、「タラバン ゴン博士」とかかれた男の写真がでてきた。男はそれをしげしげと眺めた。
男はタクシードライバーに研究所の3ブロック手前で止まるように言った。男はタクシーをおりると、100メートルほど先にある宇宙開発研究所の建物を見上げて目を細めた。すると、ムクムクと顔の表面が動きだし、写真にあったタラバン ゴン博士の顔に変わった。男は曲がっていた腰を伸ばした。そして、正門へと向かった。

ケニ―奥谷