| 作者 | ケニ―奥谷 | 状態 | 完成 | ||
|---|---|---|---|---|---|
| カテゴリー | 小説・ノンフィクション (SF) | 価格 | 400円(税込) | ページ数 | 29ページ (Web閲覧) 87ページ (PDF) |
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双子の惑星
双子の惑星
緑の瞳が俺を見ている。とても遠いいところから。
二郎は目を閉じて、その女性の存在を感じ取ろうとした。
見えるぞ。とても美しい人の目だ。すこし悲しげな眼差し。気が遠くなるくらい離れたところから俺を見ている。何を言いたいのだ。俺の助けを求めているのか。
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ。
バサッ。二郎は時計のアラームで目を覚ました。時計を見た。
2007年12月4日・火曜・5時25分
いけねえ。机の上で寝てしまった。由美子はもう約束の場所に着いてしまうころだ。また悲しい顔をされる。あの顔は見たくない。
二郎はあわてて家を飛び出した。
ハア、ハア、ハア、息を切らせながら、山手線の有楽町駅の階段をかけあがった。
あれ?由美子がいない。ここにいるはずなんだが。どこだ。
二郎は周囲を見回す。
うん、なんだあれ。あんなところで危なっかしいな!
よちよち歩きの子どもが一人でプラットホームを歩いていた。お母さんは乳母車に乗せた乳飲み子の顔を覗きこんでいる。
ねえ、危ないよ。あんたのお子さん一人でホームを歩いているよ。落ちそうだから、早く捕まえてよ。
トコ、トコ、トコ、「ウ~ワッ、ウ~ワッ」手を左右に振りながら子どもは無邪気に歩き続ける。前方から電車が入ってきた。子どもは黄色の粒粒ラインを超えた。
いけねえ!このままじゃ電車に跳ねられる。
二郎はダッシュした。子どもはよろけてプラットホームから足を落とした。二郎はヘッドスライデイングをして落ちてゆく子どもの身体を両手でつかんだ。セーフ!
ゴロリ。二郎は身体を反転させて仰向けになり、拾い上げた子どもを自分の顔の上に持ち上げた。そして、腕をさげて自分の腹のうえに載せた。
パ~~~ン。電車の汽笛が鳴った。二郎の身体は仰向けに寝たまま、肩から上の部分だけプラットホームからとびだしている。二郎は左を見た。目の前に大きな電車が迫っていた。子どもを持っているから両手が使えない。体を動かすことができない。
――日時不明、場所不明
あ~。大きなあくびをして、二郎は目を覚ました。まだあの恐ろしい電車の残像が残っていた。
おかしいなあ。俺の頭は電車に跳ね飛ばされたんじゃなかったのか?あれは夢だったのか?あるいは、もしかしてここは病院か?
二郎はぐるりと周囲を見回した。とても狭い寝室だった。布団も今まで見たこともないゴムのような繊維でできていた。
ここはいったいどこなんだ?
二郎はたちあがった。なんだか身体が軽い。ジャンプをしてみる。フワッ。身体がゆっくりと上がって落ちた。
どうしたというんだ。このへんな感触。
二郎は扉の前でもたついた。扉の開け方が分からない。
どこを押せばあくんだ?ここか?
二郎はガラスでできた手のひらサイズのでっぱりを押した。ズー。扉は左にスライドした。廊下にでて二郎は腰を抜かしそうなほど驚いた。廊下は一面ガラス窓だった。そして、窓の外は宇宙だった。
「信じられない!」それしか思いつく言葉はなかった。
俺は宇宙船に乗っている。どうなっているんだ。地球にはこんなものを造れる科学力はない。これじゃまるで映画か漫画の世界だ。とにかく歩いてみるか。。。。
二郎は廊下を歩き続ける。10メートルくらい歩いたところで、女性のうしろ姿が見えた。
なんていうことだ。緑色の髪をしている。染めているのか?或いは地毛か?
近づくと、女性の顔がガラスに映って見えた。
彼女だ!この緑の目だ。遠くから俺を見ていたのは!
彼女は振り返って二郎を見た。緑の奇麗な瞳に二郎の心は吸い込まれた。
「よく眠れた?」
なんなんだ?この親しげな態度は。初めて会ったというのに。
「はあ、眠れたような、眠れなかったような。」
「どうしたの?」
「あの~、以前にお会いしたことありませんよね?」
「プッ。何を言っているの?アマンったら。」彼女は吹きだした。
「アマン?俺の名前ですか?それ。」
「そうよ。どうしたの?なんか変。まさか私の名前を忘れたとか?」
二郎は頭をかいた。
忘れたとか言われても困る。忘れたのではなくて、最初から知らないんだから。だが、そんなことは言えない。
「私の名前を忘れてしまったのね。私の名前はイングルよ。」
「ごめんなさい。イングルさん。」
二郎はガラスに自分の顔を映して、自分の顔かどうかを確認しようとした。そして、目を見張った。ガラスの向こうに青い星があったからだ。小さな頃から、テレビや写真で見慣れた星。そう地球だった。
事実は事実として受け止めなくてはならない。
二郎は手の甲をつねってみた。
痛い。やはりこれは夢ではない。人に話しをしたら狂人扱いされるだろうが、これは紛れもない事実だ。俺の顔はどうだ。焦るな、焦るな。
二郎はガラスに映った自分の顔を探す。
ああ、髪も目も緑色をしている。二郎は愕然とした。だが、ひとつ安心したのは、そのふたつ以外はすべて同じということだった。
「あの~、大変申し訳ないのですが、僕は竹内二郎という名前でして、アマンではないんです。どうしてこんな宇宙船に乗っているのか全く分からないのです。説明していただけないでしょうか?」
「おかえりなさい。」
「はあ~?」
「アマン、たぶんあなたは夢の中で旅をしていたのです。ジローという人になって。そして、今、夢から覚めたのです。」
「そんなバカな。ハハハ。」
「心配しないで。すぐに思い出すわよ。私も昔そんな気がしたことがあったわ。そんなことより、ほら見て、あの水の星、シリアスを。今日は特別にきれい。」
彼女は地球を指さした。
「あれは僕の住んでいる星で地球というんですけど。」
「そうなの?ジローさん。フフ。それなら話しは早いんですけどね。」
「どういうことですか?」
「あの星に移住できないかどうか、私たちは調査をしているところだから。あと、数時間したら、無人探査船から写真が送られてくるわ。そしたら、あの星に生き物が生息しているのかどうか、大気の成分がどのようなものなのかが分かるでしょ。私たちが暮らすことができる星かどうかわかるのよ。」
この人たちは地球を植民地にするためにきたエイリアンか?だとしたら、大変だ。こんな宇宙船を造り上げる科学力を持った人たちに地球人が敵うわけがない。
「移住って、あなたの星はどこにあるのです?遥か宇宙の彼方ですか?」
「そこよ。ほら、そこ。フフフ。」
彼女の指さす方向を見ると、地球に似たような星があった。だが、地球ほど青い部分が多くなく、茶色がかっている。大洋の面積が少ない証拠だと二郎は思った。
「そんな。。。それじゃ、あなたの星と地球は双子の惑星ということですか。」
そんな歴史は習ったことがない。どういうことなんだ。あれは地球じゃないということか?
二郎はまた注意深く水の星を観察する。見覚えのある大陸が見えていた。
あの形はアメリカ大陸だ。この惑星は絶対に地球だ。状況が全く理解できない。頭が変になりそうだ。
急に二人の前から宇宙空間が消えた。
「あれ、どうしたんですか?」
「そろそろ帰還の時間だわ。席にもどりましょう。」
彼女が二郎の手を引いた。
この壁。窓ガラスではなかったんだ。ここに外のようすを映していただけだったんだ。
二郎を乗せた宇宙船は彼女が住むという星に下降を始めた。
恐竜の惑星
恐竜の惑星
二郎の住む場所は高層マンションの101階にあった。その惑星の居住区には軒並み100階以上の建物が立っていた。ビルの高さも敷地もニューヨークのマンハッタンの2倍くらいの規模だった。
部屋に入ると驚いたことに、本当にそこに自分が暮らしていた形跡があった。服も靴も二郎のサイズだった。この星の住人でないと疑う自分のほうがおかしいのではないかと思えてくる。ただ、一つ妙なところがあった。二郎の過去の写真が全くない。
ジー、ジー、ジー。聞きなれない音に二郎は首をかしげた。電話らしき形をしたものが鳴っている。二郎はそれを持ち上げた。
「もしもし、私、イングル。どうしてますか?」
「はい、まだなんかおかしくて。」
「そう。お医者様に見てもらいましょうか?」
「大丈夫です。そのうち慣れると思いますから。」
「そう。でもそれじゃ、お仕事はできないでしょう。」
「はあ~。仕事ってなんですか?」
「ほうらね。やっぱりお医者様にみてもらいましょうよ。」
「いいえ、大丈夫です。それよりも仕事場に連れて行ってください。そうしたら、思いだせるかもしれませんから。」
「わかったわ。それじゃ、10分後にマンションのロビーで会いましょう。」
二郎とイングルは車にのって職場へと向かっていた。車もバスもすべて超伝導で動く。タイヤはなく、車は道路との間に生じる磁力の反発作用によって浮き上がっていた。動力は小さなプロペラによって引き起こされる風力だった。
この星に着いてから二郎が感じた一番の違和感は重力の違いだった。全てのものが軽い。軽くジャンプしただけで、一メートル半は飛び上がれる。多分、それがこれだけ超伝導を発達させた理由なのではないかと思う。それはこの星が地球よりも小さいという証拠だった。
「あそこが私たちの職場よ。」
ビルに大きく―宇宙開発研究所―とあった。
キーをまわすと車の動力が弱まり、徐々に車体が下がって行く。パタン。小さな音をたてて車体は地面に着地した。
二郎はイングルに連れられてオフィスへ入った。
「サリバン博士。」
イングルがそう呼んだ男性は、メガネをかけて白髪の髭を生やした、いかにも博士らしい容姿をしていた。
彼を見て二郎は思った。この星の人間はみんな緑色の瞳をしているんだと。
「おお、いらっしゃい。待っていたよ。」
「水の惑星からの映像がとどいたんですね。」
サリバン博士はうなずいた。
「二人ともこっちに来てくれ。今から映像を映す。驚くよ。」
サリバン博士がボタンを押すと、部屋の照明がおちて縦横2メートル程度のスクリーンが下がってきた。
「イングルさん、これから見るのは地球、いや、シリアスに着陸した探査船から送られてきた映像ですね。」
「そうよ。」
探査船は人間が造りあげた文明を映しだすのだろうか?或いは、文明の入っていない秘境地帯か?しかし、そんな探査船が宇宙から飛来したとなれば、ニュースになると思うのだが?日本では聞かなかった。NASA(アメリカ航空宇宙局)のレーダーでとらえることができなかったのか?いや、そんなことを言ったら、こんな惑星が地球の近くにあることを知らないこと自体おかしくなる。どうなっているんだ。
スクリーンは地球の全体像を映し出した。
サリバン博士はポインターを地図上のひとつの地点に置いた。
「探査船を着陸させたのはここだ。」
それは北米大陸のテキサス州にあたる地点だった。
ジジジジ。雑音が混ざりながら映像が現れた。二郎とイングルは固唾を飲んで注目した。
ユサユサと揺れる大きな木が見える。密林地帯のようだ。ギエギエ。奇妙な泣き声をあげながら不思議な形をした生き物が近づいてくる。二本足で歩く大きな鳥のようだった。その次ぎに、二本足で立つ大きなトカゲが早や歩きをしている。しばらくすると、ダン、ダン、ダン、地面が揺れてカメラが上下に小刻みに震動した。
ロア~。ロア~。爆発音のような大きな泣き声がして、舌と無数の歯が見えた。ドシャ。急に映像は途切れた。
「最後の映像がなんだったのかよく分からないが、これを見る限りではシリアスは爬虫類の王国のようだ。」
サリバン博士は言った。
二郎にはすぐに分かった。あれはチラノザウルスだ。間違いない、チラノが探査船をかじったのだ。なんということだ。チラノが生息していたのは白亜紀後期だったから、7000万年くらい前のことだ。俺は自分の生きていた年代からタイムスリップしてしまったらしい。
二郎に絶望感が押し寄せてきて涙が溢れだした。
「これは発表できないですね。」
イングルが言った。
サリバン博士がうなずく。
「これが世間に知れたら、まずいことになる。」
同意を求めようとして、イングルが二郎の顔を見て驚いた。
「どうしたの?アマン、泣いているの?」
「なんでもないです。でも、どうしてまずいことになるんですか?」
二郎は涙を拭きながら言った。
サリバン博士は驚いたように二郎の顔を覗く。
「あっ、サリバン博士、アマンは少々疲れ気味で健忘症にかかっているんです。一時的な記憶喪失の可能性もあります。すぐに治ると思いますから、気にしないでください。」
イングルが二郎と視線を合わせる。
「あとで説明するからね。」
二郎は小さくうなずいた。
――2時間後、研究所の会議室
「記憶が戻らないから、まだアマンじゃなくてジローと呼ぶわね。」
二郎はうなずいた。
「とても大事なことを一つ思い出してね。この惑星には二種類の人類がいるの。一つは哺乳類から進化した人類。そして、もう一つは爬虫類から進化した人類。私たち哺乳類の国がホンジェ。そして爬虫類の国がアンギラ。ホンジェの中にも爬虫類の人類が住む場所がところどころあって、共存しているのだけど、ときどき人種差別問題で小競り合いが起きているの。」
「隣の惑星が爬虫類の王国と知れたら、爬虫類の人類が優先権を取ろうとするに違いないということですね。」
「そう。私たちが住む惑星はだんだんと冷え込んできているの。もう生物が暮らせる星としての寿命はそれほど長くないというのが、多くの研究者達の一致した意見なの。」
「どうして冷え込んできているんですか?」
「それは星の大きさがあまり大きくないので、少しずつ大気が宇宙空間に逃げてしまうからなの。」
「重力が大気をひきつけておくには弱すぎるということですか?」
「そのとおりよ。だから、シリアス移住計画は人類の存亡をかけた一大プロジェクトなの。サリバン博士を中心とする我々のグループは、いち早くこの惑星の主要な生物をシリアスに移動させて、そこで生息可能かどうかを調べる計画をたてているの。私とあなたはそのスタッフなの。」
「だから、大気の成分云々と言っていたんですね。」
「そう。幸なことに、探査船から送られてきたレポートでは、酸素が濃いながら、私たちが生きて行くには支障のない大気と分かったの。これから計画は秒を追って早く進められることになるわ。」
7000万年も昔じゃ、戻ったところで俺の家はない。いったいどうしてこんなことが起きたのだ!
謎の天体
謎の天体
――研究所内の食堂
二郎とイングルはサリバン博士と昼食を食べていた。食事は一つ一つパッケージで包まれている。パッケージの横にはカロリーと、中に含まれる栄養素が書かれていた。多分、人が生きていく上でもっとも栄養バランスのとれた食事になるように計算されているのだろう。それぞれのパッケージの蓋をはがして、粘土のような固形物をスプーンですくって食べるだけ。味はそれぞれ違うので飽きることはない。だが、二郎にとってはとても楽しめるような内容でなかった。
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ。サリバン博士の胸のポケットから音がした。博士は携帯電話らしきものを取り出して耳にあてた。
「ああ、ゲイジ博士。お元気ですか。フン、フン、フン、フン。」
彼はほとんど聞き役に徹していた。
「分かりました。すぐに調べてご連絡させていただきます。」
話しを終えると、彼は携帯電話の横のスイッチを押した。すると、それまで黒かった表面が急に明るい画面に変わった。
「どうしたんですか?」
イングルが聞く。
「ゲイジ博士が新しい天体を発見したらしい。猛烈なスピードで我々の軌道に近づいているということだ。」
「そんな!まさか衝突するとか。。。」
「そんな確率はとても少ないと思うが、一応、調べてみなければ。」
画面はゲイジ博士が発見した謎の天体の軌道を示していた。
「かなり大きな天体のようだ。ガイアスの2分の1くらいの直径がありそうだ。相当な引力になるだろう。綿密に計算してみなければ。」
サリバン博士の真剣な顔を見て、イングルは顔に不安を浮かべた。
「私にも軌道計算するの手伝わせてください。」
サリバン博士はうなずいた。
「よし、ランチが終わったら、さっそくはじめよう。」
――研究室の一角
三人は直径1メートル程度の丸いスクリーンが設置された大きなデスクの前にいた。スクリーンには太陽系が描かれていた。
それを見て二郎は質問を始めた。
「この星はなんですか?」
「それはシリアス、水の星よ。」
「それじゃ、これは?」
「ガイアス、私たちが暮らす星」
「それじゃ、これは?」
「それはサリウス、私たちの恒星よ。」
「ええと、サリウスが太陽にあたるわけだから。。。。シリアスがサリウスを一周する間に、シリアスは365回自転しますよね。」
二郎は聞いた。
「そうよ。分かっているじゃない。」
二郎は自分の想像が正しかったことを確認した。
やはり地球とこの惑星は双子惑星だったのだ。そして、二つとも自分が暮らしていた時代の地球の軌道上にある。ということは、これから7000万年の間に、このガイアスはどこかに姿を消したことになる。何があったというのだろうか?宇宙の歴史にすれば、7000万年などたいした時間ではない。この間に、この太陽系で何か大きな変動が起きたに違いない。
二郎は注意深くスクリーンに描かれた太陽系を眺めていた。
なにかが違う?俺の時代の太陽系とはどこかが違うのだ。。。。
「あっ!」二郎は思わず声をあげた。
「どうしたの?」イングルが驚く
「いや、なんでもない。」
二郎はとっさに「なんでもない」と言った。本当のことを言えば、この惑星に暮らす人々の避けられない運命を言ってしまうことになるからだった。
帰りの車の中で、イングルも二郎もほとんど話しをしなかった。計算の結果が二人を叩きのめしていた。なんど計算しなおしても、同じ結果しかでてこなかった。あと91日後に謎の天体はガイアスに衝突するという。
――翌日
サリバン博士とゲイジ博士は大統領と会っていた。大統領の顔はすっかり血の気を失っていた。
「まさかそんな一大事がこんなにも急に訪れるとは。それで、お二人はどうしたら、この危機を乗り越えられるというのですか?」
「なるべく遠いところで、謎の天体を爆発させて質量を減らすのです。」
サリバン博士が言った。
「素人考えで申し訳ないのだが、そんな大きな天体を爆破することが可能ですか?」
大統領が質問すると、ゲイジ博士が体を乗り出した。
「水素爆弾を使わなくてはなりません。なるべく多くの水素爆弾を地中深く埋め込み同時に爆発させるのです。それで質量が減れば軌道の流れが変わるはずです。」
「1番の問題はプルトニウムです。2番目は時間です。」
サリバン博士が言った。
「プルトニウムはどうしようもないとして、どのようなスケジュールで進めればいいのですか?」
大統領が言った。
「これから30日間で、必要な水素爆弾を積んだ宇宙船を出発させます。目的の天体にたどりつくまでに20日間。爆弾を仕掛けるのに10日間。そして、今日から数えて60日後に爆発させます。大きな破片がでた場合には、軌道計算をしてガイアスにあたりそうなものを一つづつ破壊します。」
「どれぐらいの水素爆弾が必要だというのですか?」
「200メガトン級の水爆を30箇所に設置します。地中の深さは500キロです。」
「500キロ!そんなに掘れるのですか?」
「あの天体の半径は約1700キロあります。最低でも500キロあたりまで潜らせませんと効果がでません。できるなら、800キロあたりまで入れたいところです。星の成分がガイアスと同じならば10日あれば可能なはずです。そのときの状況によって深さを決めます。」
「分かりました。」
「それと、破片がでたときのために、10メガトン級の水爆をたくさん用意しておく必要があります。それはミサイル搭載型とします。」
「大変な仕事量だ。だが、それが我々の生き残る唯一の方法というのであれば、やるしかない。しかし、これは国民には発表することはできない。すれば、パニック状態となり、どんなところで任務遂行の支障になるかわからない。極秘でさっそく取りかかろう。」
大統領はその場で防衛大臣に連絡をして、二時間後に打ち合わせに入った。
――4時間後
二郎とイングルはサリバン博士とコーヒーショップにいた。
「昨日の件だが、さっそく軍が動くことになった。30日後に謎の天体の質量を減らすために水素爆弾を搭載して10機の宇宙船が発進する。地中深いところで水素爆弾を爆発させて、しぼませてしまう作戦だ。国民がパニック状態にならないように、これはすべて極秘に行われる。誰にも秘密を漏らさないように頼む。」
「わかりました。」
二郎とイングルは口を揃えた。
「それと平行して、シリアスへの住計画もスケジュールどおりにすすめることになった。ガイアスの生き物をシリアスへ送って、生息して行けるかどうかを調べる。」
「はい。船は80日後に発進予定です。78匹の動物のつがいと102種の植物を乗せることにしてあります。」
イングルが言った。
ロボットのサーバーがコーヒーを運んできた。二郎は一口飲んだとたんに顔をゆがめた。
なんて渋い味なんだ。
「くれぐれも、爬虫類人類には極秘で行うんだ。」
「了解です。」
二種類の人類
二種類の人類
あまりの食生活の違いに二郎はねをあげだしていた。
「イングル、食材を買いに行きたいんだけど連れていってくれる?」
「もちろんよ。歩いて5分のところに大きなショッピングセンターがあるから、一緒に行きましょう。」
食材売り場には、野菜や肉の写真が貼り付けられたパッケージがたくさん並んでいた。例のごとく粘土のような固形状にされた食品ばかりだった。
「なんでみんなパッケージになっているの?野菜そのままの形をしたものはないの?」
二郎が不服を漏らす。
「新鮮さを保つために、すぐにパッケージにしてしまうのよ。」
「でもそれじゃ美味しくないと思うんだけど。。。。」
「ここまで野菜が到達するのに、時間がかかるからしかたないわ。」
「なんでそんなに時間がかかるの?野菜はこの大陸では栽培されてないの。」
「この大陸では野菜は育たないの。だから、隣の大陸で食料は生産されているのよ。」
「なんだって!」
思ったものは一切購入できずに、失意のまま二郎は食品売り場をあとにした。ショッピングセンターをでて、車に向かって歩いているときだった。ドドドドズーン。突如、大きな音がして、空気の振動が伝わってきた。二郎もイングルも身体が痺れた。そのあとに前方に見えていた大きなビルが崩れはじめた。
ドバドバドバ。煙にまかれてビルが形を失って行く。
「大変だ!あのビル、爆破されたんだ。」
「早く逃げましょう。」
「2001年のワールドトレードセンターの崩れ方にそっくりだ。」
「ワールドトレードセンター?」
「君は知らないことだ。」
ワウワウワウワウ。大きな音が近づいてきた。
「あれは消防車のサイレンの音?」
「そうよ。思いだしてきたのね。」
「地球でも同じようなことが起きたから、多分そうだと思っただけだ。ということは、これもテロか?」
「まさか?この都市は警備が厳重だからテロなんて起きたことないのよ。」
「それはアメリカと同じだ。初のテロ攻撃で世界が変った。」
キーン。耳が痛くなるほど高い波長の音がした。小型ジェットが猛スピードで飛んできた。1、2、3。二郎は3機を数えた。
シュパー。そこからロケット弾のようなものが勢いよく飛び出した。二郎は凝視した。それは人間だった。黒いスーツと頭にとがったヘルメットをかぶっている。
「すげ~。バットマンのようじゃないか。でも、あのスピードで飛び出でて、どうやって着地するんだ。地面に激突してしまうよ。」
「バットマン??あれは対テロ特殊部隊の軍人たちよ。」
「へえ~。すごいんだ。それじゃ、やっぱりこれはテロの仕業なんだ。あの人たちはテロリストを追いかけているのかな。」
「そうかもしれないわ。恐いわ。早く行きましょう。」
「もう少し見せてくれよ。こんなのは映画以外では見たことない。」
バットマンに似た黒いスーツを着こんだ男たちは、やはりバットマンさながら最後に羽根を広げて空気を操りながら地面近くで体勢を整えた。
「すごい!でも地球の重力じゃ、これはできないだろうな。」
タッタッタッタッ。そのとき前方から猛烈なスピードで四つ足の動物が二匹かけてきた。
「危ない。逃げて!」
イングルが言った。
「どうして?あれは服を着た動物?なんか変だな。」
「あれは人間よ。爬虫類人間が逃げているのよ。」
「なんだって!ということは奴らがテロリストかな?」
「そうかもしれないわ。早く逃げましょう。」
「爬虫類人間は四つ足で走るのか?」
「もう!なんでもいいじゃない。危ないわ。とにかく逃げましょう。」
イングルが顔を赤くさせて二郎を引っ張る。
四つ足で走っている男たちのうしろから例のジェット機から飛び出した男が2人、低空飛行をして追いかけてきた。そのアクション映画さながらの光景に二郎は目を奪われた。二郎はただ立ち尽くしていた。イングルは仕方なしに一人でショッピングセンターの出入り口に向かって走った。
前方から走ってくる男の一人が少し方向を変えた。二郎はその男が目指しているものを目で追った。
やばい、イングルを狙っている。人質として捕まえようとしているのかもしれない。
二郎は走った。だが、身体が軽いのでいつものように早く走れない。一足、一足、力を入れるたびに体が高く飛んでしまう。だが、それでもイングルよりはだいぶ早かった。四つ足の男と同時にイングルに追いついた。
四つ足で走っている男がジャンプしてイングルに襲いかかった。
二郎もジャンプした。身体が3メートルは浮いた。フワ~と落下しながら、二郎は四つ足の男を空中で蹴った。ドガッ。男は激しく飛ばされた。
ドーン。男は地面に激突した。
ぐわ~。ガブ、ガブ。悲鳴をあげながら男は口から血を吐き出す。
そのようすを見て、もう一人の爬虫類人が二郎に突進してきた。




