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目次

「生きる目的」

第一章 学生時代

頭の痺れ

スリルを求める心

父の教え

似た者同士

出会い

グループ交際

暖かい手

敦子の瞳

親友の自殺

 

第二章     新たなる世界

大都会ニューヨーク

就職

予期せぬ出来事

人脈がもたらした富

マリオの教え

 

第三章 運命の世界

運命の巡り合わせ

復讐に燃える心

仕組まれた罠

陰の首謀者

親友の保護

最後の標的

新たな目的


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最終更新日 : 2011-05-21 15:51:26

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頭の痺れ

「頭の痺れ」

浅い眠りから覚めた。ベッド脇におかれている小さな時計のボタンを手探りで押した。緑色のランプがつく。六時四〇分。

まだこんな時間か。せめて七時だったらよかったのに。頭の痺れがいつもより強い。息をすることさえも面倒に感じる。

幸世はまた眠りにつこうとした。何も考えないようにして身体から力を抜く。そのまま三〇秒。

駄目だ、駄目だ。

バサバサ。幸世はふとんを蹴った。

こんなことをしていては、丸一日、起きられなくなる。

幸世はランニングパンツとシャツを着てマンションを飛び出した。

スタスタスタスタ。三分、走ったところで小さな階段を昇る。あがりきると川沿いの道が左手に続く。赤みがかった朝日を正面に受けて幸世は目を細めた。川から反射してくる光が目を直撃した。赤い光にまみれて幸世は走る。はるか前方にトライボロ・ブリッジが見えている。そこが幸世の一〇キロの折り返し地点。

これで今日も一日なんとか動けそうだ。

十一月下旬のニューヨーク。雲ひとつない青空が広がっていた。気温は三度。水筒を握っている手がかじかむが、右肩は太陽を受けているので熱くなる。橋のたもとに到達。金網にタッチして方向転換。遥か前方に摩天楼の群れを見る。

いつになったら、こんな面倒なことをせずに暮らせるようになるときが来るのだろうか。毎朝、普通に起きて楽しい時間を過ごせるようになりたい。

幸世の異常な症状が始まったのは、彼が小学五年のときのことだった。月曜の朝礼で突然倒れた。それまで風邪以外、病気などしたこともなく、きわめて丈夫な健康優良児だった。

“人間はみんないずれ死ぬ。なのに、なぜ生きるのか。”

ある日、そんな言葉が頭の中でまわりだした。その朝もそればかりを考えていた。すると、「キーン」という音が響きだし、鼻の下に汗がでだした。口の中が乾き、目の前が黒くなる。そして、校長の声が遠ざかって行った。

ドテッ。その音に周囲が驚いた。幸世は地面にたたきつけられていた。


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スリルを求める心

「スリルを求める心」

「何をしているの!」

教室に入ってきた担任の片山が血相を変えた。

無理もなかった。幸世が両手で窓からぶら下がっているようすを見てしまっては。三階の窓から落ちれば命はないだろう。

「早くあがりなさい。早く!」

片山は慌てて走り寄って幸世の手をつかんだ。

「先生、手をつかまないで!手をつかまれたら落ちるから。自分であがるから手を放して。」

片山は恐る恐る手を放した。

幸世は懸垂をして身体を持ち上げてから足を窓の枠にかけた。そして、教室へと戻った。

バシッ。強烈な平手打ちだった。片山が幸世の両肩をつかんで激しく揺さぶった。

「なんで、あなたはいつもそんなことをするの!落ちたら、死んでしまうのよ。」

片山の目から涙が溢れでた。

「ごめんなさい。。。。」

「なんでなの?教えてちょうだい。」

片山が幸代の目をのぞく。

「スリルを味わいたかったから。。。」

幸代は下を向いた。

「なんで、そんなこと。。いつもいつもあなたは。。」

ウッ、ウッ、ウッ。片山は泣き崩れた。

「先生、ごめん。でも俺、やめられないよ。やめたら、生きるのがつらいもん。」

 

――その後も、幸世の危ない行動は形を変えながらエスカレートして行った。

「ゆきや~ん」

クラスメートの大久保と白石がかけてきて息を切らす。

ハアハアハア。

「どうしたんだ?そんなにあわてて?」

「ゆきやん、俺たちの通っている塾に、すっげえ強ええ奴がいるぜ。三小の番長だってさ。昨日、二小の奴と喧嘩になって、ニ小の奴は殴られて鼻血だしたよ。」

白石が息を切らせながら言った。

「ふ~ん、そんなにそいつは強いのか?」

幸代は鼻くそをほじくりながら言った。

「つえ~よ。」

白石と大久保が口を揃えた。

「それなら、俺がやっつけてやるよ。塾は何時に終わるんだ。」

「六時半。」

大久保が言う。

「それじゃ、塾の前で待っているから、でてきたら教えろよ。」

ピンと幸代は鼻くそをはじいた。

 

――六時半

幸世は漫画の本を読みながら塾の前にいた。しばらくすると、がやがやと生徒がでてきた。

「ゆきやん、こっち、こっち。」

白石が手招きをしながら呼んだ。

幸世はゆっくり白石のところに歩み寄る。白石の横には大きな体格をした奴がいた。

「おう、お前が山岸か。三小の番長だってな。」

幸代がにらむ。

「誰だよ。お前?」

山岸が幸代の足のつま先から頭のてっ辺まで視線を二回はわした。

「俺は姿だ。山小の番長だ。それじゃいくぜ。」

ガツン。幸世はいきなり山岸を殴った。拳があごをとらえた。

ああああああっ。

山岸はあごを押さえてうずくまった。

「なんだよ。弱いなあ。泣くなよ。そんなくらいで。」

「なんだと~。このやろう!」

山岸は立ち上がって幸世をつかみにかかった。だが、幸世はすばやく右足で山岸を蹴り上げた。ドスッ。みぞおちにけりが入った。

ゲエ~。ゲエ~。ゲエ~。

山岸はうずくまりながら、なんども嗚咽をあげる。

「なんだよ。よわっちいな。それでも番長かよ。」

ポロリ。山岸の口から歯が一つ落ちた。

「おっと、やべえ。悪かったな。そこまでやるつもりはなかったんだ。許せよ。」

幸世は山岸の腕を引っ張って立たせようとした。だが、山岸は動かずにうずくまったままだ。

「許せよ。」

そう言って、幸世は自転車にまたがりその場をあとにした。

 

―――翌日の放課後

学校の正門の前に、学欄を着た二人の中学生と山岸がいた。

「おい、姿を連れて来い。さもないと殴るぞ!」

三人は下校する生徒を捕まえては、そう言って脅した。


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スリルを求める心

「大変だよ。大変だ~。」

白石が真っ青な顔をして、幸世のところに駆けこんだ。

「なんだよ。大変って?」

幸代は机の上に腰掛けていた。

「大変なんだよ。山岸が自分の兄貴とその友達をつれてきて、校門でゆきやんをさがしている。大久保が捕まった。」

「なんだって!」

幸代は机から降りた。

「昨日の仕返しをしにきたんだよ。相手は中学生だよ。」

「ふざけやがって~。自分が負けたからって、兄貴の助っ人をつれてきたってわけか。」

幸代はこぶしとこぶしをぶつけた。

「どうするんだよ。」

「どうするって、逃げるわけにはいかないだろうよ。」

「殺されるよ。相手は三人だよ。それも中学生だ。絶対に殺されるって!」

「俺が負けるときは死ぬときだよ。そしたら奴らも少年院行きさ。」

幸世は校門へとむかった。

「大変だ~。」

白石はそう叫びながら走りさって行った。

幸世は校門で三人と向かい合った。二人の中学生は、見た目、不良そのものだった。襟を広くあけて髪型はリーゼント。ぶかぶかのズボンに長い学欄。

一人の中学生に腕をつかまれて大久保が震えている。

幸世の背丈は一五〇センチ。中学生は二人とも一七〇センチ以上ある。

「お前が姿か。俺の弟をずいぶんとひでえめに合わせてくれたじゃねえか。」

「わるいって、あやまったじゃねえかよ。」

幸代は弟の山岸に向かって言った。

「ば~か。あやまってすむくらいなら、警察はいらねえんだよ。このくそがき。袋にしてやる。」

山岸の兄貴が幸世をつかもうとして手を伸ばした。

「やめなさい!なにやっているの!」

怒鳴り声がした。幸世の担任の片山が校舎から血相を変えて走り出てきた。

「中学生がよってたかって、小学生に乱暴していいと思っているのですか?少年院に行くことになるわよ。それでもいいの?」

「なんだよ、お前、先こうなんて呼んでくるなよ。根性ねえな。」

山岸の兄貴が言う。

「俺が呼んだんじゃねえよ。」

片山のうしろから白石が顔をだした。

「しかたねえなあ。今度、場所をかえて、やきいれてやるよ。」

「そんなこと許しませんよ。もしこの子に暴力をふるうことがあったら、警察に通報します。」

片山が山岸の兄貴をにらみつける。

プッ。山岸の兄貴は片山を睨みつけると唾を吐いて去っていった。

「姿君、いったい何をしたの?どうしてあんな人たちから待ち伏せされなくてはならないの?」

幸世は下を向いたまま何も応えなかった。

「応えなさい。姿君。」

片山がヒステリックに言った。

「たいしたことしてないよ。ただ、あいつが強いって聞いたから、殴りに行っただけだよ。」

「なんてことをするの!そんなの不良のすることじゃない。あなたは不良じゃないんだから。」

片山は幸世の両肩をつかんでなんどもゆすった。幸世はただ下を向いたままだった。

 

―――平日のゲームセンター

「なんで、今ごろ、君はこんなところにいるんだ?」

背後から声をかけられて、ビクッとした。振り向くと警察官だった。

「。。。。。」

幸世はなにも言わなかった。

「学校をさぼって遊びにきたんじゃないか?」

「。。。。。」

「そうなんだな。一緒に交番に行こう。」

そう言って、警官は幸世の腕をつかんだ。


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スリルを求める心

引きずられながら幸世は逃げるチャンスを探していた。交番につくと、警官は幸世の腕を放して、机に座ろうと一瞬だけ背を向けた。そのすきを見逃さなかった。幸代は脱兎のごとく走り出した。振り向いて、幸世がいないことにあわてた警官は交番から飛び出した。まず右を見る。幸代はいない。左を見る。いた。

「待て、待て~。」

警官は大声をだした。

幸世はうしろを振り向いた。すでに警官との距離は二〇メートル。幸世は走ることには自信がある。逃げられると思っていた。

だが、警官の声を聞いた、通りすがりの若い男が急に走り出して、幸世の襟を背後から

引っ張った。幸世の喉がつぶれ、あまりの痛さに幸世は足を止めた。

「なにするんだよ。ばかやろう!」

幸代は男をにらみつけた。

「ほら、おとなしくするんだ!」

「放せよ。」

幸代は肩を大きく揺すぶった。

「なにか悪いことしたんだろ、お前。」

「なにも悪いことなんかしてねえよ。」

ドスッ。幸世は男の股座を蹴り上げた。

ぐ~。男は唸りながらうずくまった。すきをついて幸世はまた走りだす。だが、男はうずくまったまま手を延ばして幸世の足首をにぎった。

ドテ、ドテ。幸世はつんのめりに転んだ。そこへ警官が到着した。

「こら!」

警官は転んだ幸世を背後から取り押さえた。幸世の右腕は背中でL字型にたたみこまれた。

「はなせよ。はなせ!」

手が痛くて動きが取れなかった。

「駄目だ。おとなしくしろ。」

ゴツン。警官はこぶしを幸世の頭に振り落とした。

「いて~な。ちきしょう。」

「大丈夫ですか?」

警官がうずくまっている男に声をかけた。

「。。。。」

男は声もだせない状態で体をくの字型に曲げている。

「ばか!こんな酷いことをして。ほら、お前の責任だぞ。あやまれ!」

警官が幸代を怒鳴り飛ばした。

 

――――校長室

「なんで、君はそんな悪いことばかりするんだ!」

校長の唐沢が怒りの形相で怒鳴った。

「。。。。。」

幸世は応えない。

「姿君。どうしてなの?ねえ理由を教えてよ。」

担任の片山が優しい口調で聞いた。

「前にも言ったよ。」

 

小さな声だった。

「え?前に?なんて言ったの?」

片山が首をかしげる。

「スリルを味わいたいからって。」

「ばか者!そんなつまらない理由で、みんなに迷惑をかけて。」

校長が顔を真っ赤にして叫んだ。

「理由を言えって言うから、本当のことを言っただけだよ。それで文句があるなら、聞かなければいいのに。」

幸代は二人をにらみつけた。

怒りのあまり校長が手をあげようとしたところに片山が割って入った。

「待ってください。校長先生。もう少し姿君の話しを聞きたいのです。」

片山は振り返って幸世と目を合わせた。

「覚えているわ、その言葉。どうして、そんなにスリルを味わいたいの?」

片山が幸代の顔をのぞきこむ。

「どうしてって。。。。人間はみんな死んでいくだろ。俺だって明日死ぬかもしれない。だから、いつもわくわくすることをしていたいんだ。わくわくがないと生きるのがつらいんだ。生きていてよかったって思えないんだよ。」

「スリルを味わうことで、そのわくわくした気持ちを得ようとしているのね?」

幸世はうなずいた。

「分かったわ。それなら、そのわくわくは格闘技で味わいなさい。」

「格闘技?」

「そう、私の兄が空手の教室をしているの。そこでみっちりと味わえばいいわ。」

 

―――空手との出会いは幸世を変えた。幸世は空手にのめりこみ、一年もたたないうちに小学生の部の大会で優勝を果たした。そして、スリルを味わうために危険を冒すこともなくなった。

 


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