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にくぅい

りえぞおは、子どもが嫌い。

今!窓から見える!家の前の道路で、英語で歌を歌っている、隣の太ったガキ!

あ、い、つ、が、にくぅい!

大人に媚びれば、何でも許されると思ってるずるさ。

可愛く甘えれば、何でも買ってもらえると知ってるあざとさ。

もう、なにもかもが憎いー!!!りえぞおは、一生子どもが大嫌い!!!

 

 

『りえぞお先生、相談です。彼女が…』

「そんな事より、相談です!

 息子が新しい絨毯にう○こして、その上でツイストを踊ってるんですが、

 どーしたらいいんでしょうか!」

 

あああああ、この絨毯高かったのにぃ!

息子は、う○こまみれになって、一仕事やり遂げた男の顔で笑っている。

子どもはずるい!私は、そんな子どもが…

 

 

「お母さん、あのね。今、ご飯が炊きたてだったの。だから、鮭を焼いておにぎりにしたの。

 だから、これは世界一美味しいおにぎりよ。食べてね。」

 

あああああ、私がこの世で一番好きな食べ物を作って、ベッドサイドまで運んでくれる娘!

私が何をしてもらったら一番喜ぶか知り尽くしている。

あざとい!私は、そんな子どもが…

 

 

そんな子どもが…

 

 

畜生!お母さん先生は、お母さん先生はなあ!そんな子どもが大好きだー!だー!だー!

 


女は3回説

女は3回説。女は3回生まれ変わるって説、ソースは私。

 

最初は女の子。

女の子は、親に愛される事が一番重要。

どうしたら褒めてもらえるか、どうしたら叱られないか、そればっかり考えてる。

それが世界の全て。

 

二回目は娘さん。

女の子は、そのうち娘さんになって、彼氏や夫に愛される事が一番重要になる。

どうしたら彼氏が出来るか、どうしたら結婚できるか、そればっかり。

それが自分の価値だと思ってしまう。

だけど、元は女の子で、親に愛されてたもんだから、

彼氏からも父親みたいに可愛がって、甘やかしてもらって当然だと思っちゃう。

二言目には「可愛いね。いい子だね。」って言ってもらえて、

ねだれば何でも買ってもらえて、自分が悪くっても泣いちゃえば許してもらえる。

そんな風に愛されて当然だと思ってる。

 

無理だよ、無理!

だって彼氏も、元…いや、現役の男の子でさあ。

彼女は母親みたいに自分を甘やかしてくれると思い込んでる。

だまっててもご飯が出てきて、片付けも洗濯もやってもらえて、

自分は寝転がって狩りでもしてたら、お小遣いを貰えるもんだって思ってる。 

「私はあんたの母親じゃない!」なんて叫んでも無駄。

世の中の女は全部そうするもんなんだと思ってるんだから、

「母親と同じ事を出来ないお前が出来損ない」って言う。

そんな奴と上手く行くわけないじゃん。

だから、上手く行かなくてストレスを抱えた娘は、皆、子どもが嫌い。

だって、子どもは何の努力もなしに愛されて、甘やかされてる。

こっちは必死で働いてご飯炊いて男養ってやってるってのに!ああ妬ましい。

これは、自分がまだ子どもを生む準備が出来てないから、子どもが嫌いになるメカニズム

…なんて奇麗事じゃない。 

子どもを卒業しなくちゃならなくなった子どもが、子どもに嫉妬してるだけ。

男を許せるようになるのは、自分の子どもを育て始めて、

子どもの世話は一人も二人も同じって悟りを開いてからかもね。

男を父親だと思うのが間違い。男は長男。

あいつらはもう、ゴミをゴミ箱に捨てる概念すらないんだから。

 

「ただいまー!」

ランドセル、ぽーい。上着、帽子、脱いだ靴下、ぽーい。

冷凍庫をあさって、アイスの袋を剥いて、ぽーい。

ああ、息子。今日も車に轢かれず、よくぞ無事に帰ってきてくれた!

かあさん、それだけでもうホっとして涙が出るわ。

 

…床に散乱する息子の私物を見下ろして、私はハッと気付いた。

 

しつけ忘れたー!!!!!

 

未来のお嫁さんごめんなさい!

今、お義母さんが突貫工事でしつけ直すから、

愛想尽かすのは待って!ちょっと待ってええ!

 

私は靴下を息子の鼻先に突きつけた。

「これは、汚いか、汚くないか!?」

「臭いー。」

「だったら、洗濯カゴに入れてきなさい!」

「あとでー。」

ピキピキ!

私は切れそうになっているこめかみの血管をさすりながら、床からアイスの袋を拾い上げた。

「これは、汚いか、汚くないか!?」

「えー?食べ物が入ってたんだから、綺麗なんじゃね?」

「ゴミだー!ゴミはゴミ箱!!!」

 

顔色は紫、目は菱形になった私の前に、

バーコード頭のバレリーナ親父がシャラランと現れた。

「あ、あんたは早期教育の精霊!?あんたなんかに、もう用はない!」

「そうだよ、奥さん。もう手遅れ。」

精霊は沈痛な顔で首を振った。

「いい、奥さん?生活習慣のしつけは6歳まで!この子は、もう手遅れ。」

「ひいいいい!」

私は耳をふさいで、聞こえないふりをした。

 

 

「お兄ちゃんは、だめねえ。」

眉を顰めて、娘が兄を眺める。

「あんたは、お兄ちゃんみたいな奴と付き合ったら許さないからね。」

「大丈夫。私は、イケメンの白人がタイプだから!」

「…それはそれで不安なんだけど…でも、予言するよ。

 お兄ちゃんはお父さんそっくりだから、

 あんたは将来、絶対お兄ちゃんそっくりの彼氏の部屋を掃除してるよ。」

 

『うおおおおお!僕の宝物ちゃーん!!!』

鴨ちゃんも娘バカだったからなあ。

男ってのは、妻の扱いは雑なくせに、娘は全身全霊をかけて可愛がる。

だから娘さんは、男は…少なくても父親に似た男は、

同じように自分を全力で可愛がってくれると思ってる。そんな訳ないのに。

男は男で、彼女は母親みたいに甘やかしてくれると思ってるんだから。

刷り込みって、本当に厄介。

 

 

ああ!いかん!昔の男共を思い出して、グルグルしてたら、話が逸れた!

3回目ね!3回目はお母さん。娘さんは子どもを産んでお母さんになる。

そうするとね、世界が変わるよ。子どもと一緒に、自分もお母さんとして生まれ変わる。

 

 

 


生まれたてマニア

「すいませーん!スナックかあさん、まだ開いてますかー!!!」

「開いてるけどさあ。何を練ってんの?」

「納豆!」

「……」

スナックかあさん、ママ友達がおかずを持ち寄って、今夜も営業中。

「今さあ、子どもが生まれたら、自分も変わるよなあって話をしてたわけ。」

「あー!あるある!」

ママ友は納豆パックをテーブルにおいて、駆けつけ3杯を飲み干した。

「最初の子が生まれた日の晩はさあ、母子同室じゃなかったから部屋に一人きりなの。

 暇だから国が妊婦に配ってる小冊子読んだのよ。

 『ママに会いたくて生まれて来たよ』みたいな。

 …号泣したね。もう、感動してわんわん泣いたね。」

「あーそれって、マタニティブルーでしょ。」

「そう、それそれ。もう自分が普通じゃないの。

 『うおお!生まれてありがとー!!!』って泣くの。」

 

「わかるわあ。そんで、それが落ち着いたら、授乳が始まるからね。」

「あれで、完全にノックアウトだよ。

 そろーっと持ち上げたら、柔らかくって、ちょっと湿ってて、ぐんなりぐなぐな。

 髪をくんかくんかすると、ミルクの香りがね。もうね、くわー!!!ってなるのに、

 首が据わってないから、ぎゅって抱きしめられない。このもどかしさが!」

「あの匂いは絶対フェロモンだね!匂いで、母親に自分を愛しなさいって指令を送ってるよ。」

「怖いねえ。匂いで親を操るなんて。」

 

私らは、生まれたてマニア。

生まれたてだけの、ぐなぐな感と、ほわほわ臭。

ああ、思い出しただけで体の力が抜けるぅ。

「私ねえ、本当はもっと産みたいの。」

ママ友は、娘さんのようにほほを染めて、恥ずかしそうに言う。

あんた、まだ産む気か!?

「でも、分かる。生まれたては、ほんの一瞬だもんねえ。」

「ああ、生まれたて…ぐんなりほわほわ。

 すぐに固くなって、匂いもただの汗臭さになっちゃうのよねえ。」

「でもさ、その代わりに次の攻撃が来るじゃない?」

 

それは、笑顔。

ママ友は、うんうんと頷いた。

「動物をお世話してるつもりでいたら、あの笑顔…ずるいわー。

 夜泣きで寝不足でぼろぼろになった体に、あの笑顔は耐えられないわー。」

「ぼろぼろになっても、あの笑顔が見れるならって、頑張って、

 余計ぼろぼろになっちゃうんだよよねえ。」

「そんで、笑顔も見慣れて、悪戯が酷くなってさ。

 頑丈になったから、そろそろ本気で怒ってもいいかと思う頃に、最終兵器が来るわけよ。

 『おかしゃん。だいしゅきー。』…って。」

ああああ!皆が腰砕けになった。

「それは怒れんわあ。女の子は可愛いわねえ。」

「何言ってるの。男の子の方が、いつまでも子どもでお母さん大好きじゃない。」

「まあね。未だに5人全員、お母さんと結婚するなんて言ってるわ。

 この前、悪さを叱ろうしたら、寂しい兎みたいな目をして、

 『お母さん…さっきまで仲良しだったのに、僕の事嫌いになっちゃったの?』

 …って、怒れんわ!」

「子供はずるいよねえ。」

 

そう、自分が娘の頃は、そのずるさが許せなかったんだっけ。


 


しあわせのかたち

恨ミシュランの取材で訪れた三ツ星フランス料理レストラン。

煌く悪趣味なシャンデリアの下、りえぞおは叫んだ。

「あああ!ここまで辿り着くのに、何年かかったか!20数年だよ!

 なのに!あそこで座ってる6歳かそこらのガキ!

 なんの苦労も知らずに、生まれてたった6年でここに座れるなんて!にくぅい!」

 

私は、苦労を知らない子どもが嫌いだった。

 

 

「ねー、おかーさーん。早く日本に帰りたいよう。」

「お母さん、私もう虫食べるの嫌ー。」

「何言ってるの!これがお母さんの仕事なの!」

唾を撒き散らして叫ぶと、息子と娘は諦めて虫の素揚げをまりまりと食べ始めた。

聞き分けが良過ぎて、少し罪悪感を感じる。

「ごめんねえ。帰ったら、唐揚げいーっぱい揚げてあげるからね。

 素材の味を殺しまくった唐揚げ!何kg揚げようか?」

「俺、帰ったら速攻でとんこつラーメン食いに行く。」

「私は、ひき肉カレーを作るわ。

 お母さん、もう勝手に賞味期限切れの香辛料を入れちゃだめよ!」

「あんた達、母の味は!?唐揚げ食べたくないの!?」

「ラーメン。」

「カレー。」

三人とも口を尖らせて、むーんと拗ねて、またまりまりと虫を食べる。

 

そうだよね、三ツ星レストランのくそガキだって、来たくて来てたわけじゃない。

あの子なりに苦労してたはず。

訳のわかんないまま、親に連れてこられて、静かにしなさいって叱られて、

しかたなく座ってたに違いない。

だって、家族一緒でなきゃ、どんな三ツ星料理も美味しくない。

皆で食べたいから親は無理矢理連れて行く。

私なんか、よその国のわけのわからん露店まで。

だって、一人じゃつまんない。

 

「ほら、ちゃんと写真撮ってよ、カメラマン!」

「へーい。」

息子は鴨ちゃんのカメラを構える。

私と娘は、クモを咥えてピースする。

家族が揃えば、そこが家族の食卓。幸せの形。

 

自分が娘だった頃は分からなかったなあ。

子どものずるさも、あざとさも、子どもにとっては、

ただ、親に笑顔でいて欲しいから、必死でやってる努力なんだって事。

親にとっては、子供のずるさも、あざとさも、皆ひっくるめて愛しくてたまらないんだって事。

 

「お母さん。クモも意外といけるわね。」

「俺、あっちの屋台でジュース買ってくる!」

子供たちは、私に世界中を引き摺り回されて、どんどん逞しくなる。

 

三回目はお母さん。

誰かに愛して欲しかった女の子と娘さんは、

命を懸けて愛してくれる子どもを神様に貰って、お母さんになる。

そして、気付く。

自分の親は、今の自分が子どもを愛するのと同じくらい

全身全霊で自分を愛してくれてたんだって事を。

長男だった夫が、だんだん父親の顔になってく事を。

 

その幸せを全部を持ってきてくれたのが、子ども。

 

 

神様。

小さい頃から、りえこがでらためにお祈りしていた、でたらめの神様。

神様はでたらめだから、願い事を叶えてくれたり、くれなかったり。

どんなに連れてかないでってお願いした大切な人も、無慈悲に連れて行ってしまったりする。

でも、こんな幸せをくれるなんて、小さい頃は想像もしていなかった。

 

 

 

 

神様、私に子どもをありがとう。


 


この本の内容は以上です。


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