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アナウンサー「皆さん、速やかに避難を……うわぁあああ!」

  悲鳴とともにアナウンサーが姿を消し、横倒しになったカメラ

  が惨状を映し続ける。

  巨大な足でビルを蹴り、家を踏み潰し、口から火を吐き瓦礫を

  焼き尽くす怪獣。見る間に街並みは廃墟と化し、すでに人の気

  配は無い。

  そこへ彼女が駆けてくる。怪獣の様子を伺いながら携帯電話を

  取り出し、素早くメールを打つと意を決したように怪獣の前に

  立ちはだかる。

彼氏「人……女の子?」

  ただただ様子を見つめるしかない彼氏の携帯電話にメールが届

  く。彼女からのものだった。

彼女メール「さよなら」

  彼氏はメールとTVとを交互に見比べ、驚愕の表情を浮かべる。

彼氏「……彼女だ」

  TVの中の彼女は勇敢に怪獣に立ち向かっていく。自分の10

  倍、いや20倍はあろうかという巨大な怪獣の蹴りや火炎放射

  をかいくぐり、蹴りや手刀で懸命に応戦する。携帯を手に呆然

  とTVを見ている彼氏。

彼氏「本当だったんだ、全部」

  怪獣の振り回した尻尾が彼女をとらえる。大きく吹っ飛ばされ

  て地に叩きつけられる彼女。その衝撃で懐から携帯電話がこぼ

  れ落ちる。

彼氏「ああっ!」

  彼女の危機を目にして思わず声をあげる彼氏。一心不乱にメー

  ルを打ちはじめる。

彼氏独白「正直言って彼女のことは未だによく分からない。むしろ

 余計に分からなくなってきたくらいだ。でも分かってることだっ

 てある。少し変なだけど真っ直ぐな性格。底抜けに明るい笑顔。

 そして彼女への俺の思い――」

  夢中で打ち終えた題名だけのメールを送信する彼氏。

彼氏独白「――届け!」

  くの字に倒れ、苦痛に悶絶する彼女。

  そんな彼女のもとに彼氏の携帯電話から発信されたメールが届

  く。這いずりながら落ちた携帯電話を手繰り寄せる彼女。

彼氏メール「ずっと、待ってるから」

  短いメッセージを読み終えると、黙って頷き笑顔を浮かべる彼

  女。全身の力を振り絞って立ち上がると、再び怪獣に立ち向か

  っていく。

  怪獣はゆっくりと彼女に近づいてくる。彼女は猛ダッシュで怪

  獣に接近し、飛び込むようにして怪獣の腹に頭突きを見舞う。

  そしてひるむ怪獣を両手で持ち上げると、そのまま高く飛び上

  がり、みるみるうちに空の彼方へと消えていった。


6(終)

彼氏独白「それからいくらかの時間が経った。あの事件をマスコミ

 が面白がってとりあげられるくらいには」

  ベッドに腰掛けて延々と携帯電話をいじっている彼氏。つけっ

  ぱなしのTVの中では、文化人たちがしたり顔で彼女について

  論じている。

彼氏独白「超人、怪物、ミュータント……偉い人たちは彼女に数々

 のありふれた名前をつけた。だけど俺にとっては彼女は彼女であ

 って、それ以上でもそれ以下でもない」

  彼氏の目から一粒の涙がこぼれおちるが、ぐっと我慢をしてい

  る。

彼氏「ずっと待ってるって約束したじゃんか」

  不意にチャイムが鳴り玄関のドアを開ける彼氏。そこには彼女

  の姿があった。呆然とする彼氏に、決まり悪そうにちょこんと

  手を挙げて挨拶をする彼女。

彼女「ただいま」

彼氏「おかえり……」

  立ち尽くす彼氏が手に持った携帯電話がメールの着信を伝える。

  彼氏がそれをたしかめると、彼女からのメールだった。

彼女メール「今から帰るお(^ω^)」

  思わず笑顔をこぼす彼氏。

彼氏「ちょ、メールより先に戻ってくるとか!」

彼女「遅くなってスマン☆」

彼氏「早すぎるくれーだよ」

  強い抱擁を交わす彼氏と彼女。

  彼氏が取り落とした携帯電話には、倒した怪獣を尻目に地球へ

  と戻っていく彼女の写メが映っていた。


(終)


この本の内容は以上です。


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