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たずねてくる仔猫

友人が手を伸ばした小さな命への散文


一時期は犬のブリーダーをやっていたくらいで犬を多数飼育する彼女。
猫も嫌いではない、いや、好きなんだけど、ご主人は猫アレルギー。
そんなAさんちに通うようになった生後数ヶ月と思われる仔猫がいた。
飼いたいけれど家の中に入れられない。
仕方がないから、首輪も予防接種もして完全な外での飼育。
猫なら飼育経験が数多いから色々と訊かれた。
名前も付けてほしいといわれて、名付けが苦手な私は困惑した。
ただ要望はあって、我が家の虚弱猫……
獣医に「生きていることが奇跡」と言われ続けて5年になる猫と似た名前が欲しいといわれた。
この虚弱猫は虚弱であるが故に「小さいから、ちい」と呼び、生き続けて欲しいから「千生」と書く。
「ちい」と呼べるような名。
仔猫は、空腹だの、水が欲しいだのと何度も裏口にやってきたから飼育に踏み切られた。
何度も訪ねてきた
……
何度もたずねて……
文字が違うけど「千尋」と付けさせて頂いた。
「ちひろ」なら「ちーちゃん」と呼べる。
私には、何か「尋ねているようにも思えていた」というのは内緒だ。
「どうして、家の中に入れないの?」
「どうして、私は一人で遊ばないといけないの?」
「ねぇねぇ、どうして
……
本当に、よく鳴く仔猫だった。

「今朝から帰ってこないの」という連絡を貰ったときは、予感を通り越して覚悟した。
友人の家の傍には大きな道路。
友人の家は角家で、大きな道路を横断する仔猫を何度も見ていた。
夕方、犬の散歩の途中で歩道に横たわる小さな遺骸を見つけたと連絡が入った。
「何処も傷が無くてね、血も流してなくて
……綺麗なままで良かった」
友人は、そういって仔猫を忘れた。

何度も訪ねてきた仔猫。
何度も食事を貰って、彼女は「心地よい場所」を見つけたと思ったのだろう。
あるいは、良いエサ場だったのかもしれない。
弱い仔猫がエサ場を確保するのは難しい。
道路の向こうにねぐらを見つけ、渡った先に餌場があれば
彼らは狭い視界で横断する。
……猫は視界が狭い。
道路を渡る……という目的に集中すると車に気づけない。
経験の浅い生まれて数ヶ月の命
危険より先に、半端に甘える場所を得てしまった。

私は名付け親だ。
だから、多くの看取ってきた命と共に覚えておこう。
何度も、この世を訪れるがいい。
今度こそ長く生きて人の中にも暖かさがあることを知ってくれ。
千尋、お前の問いかけに答えて上げられなかったことを侘びよう。
私の手は小さいんだ。
18匹の猫と4匹の犬で精一杯だったんだ。
けれど零してしまった命に後悔するのはイヤなんだ。
どんな形でもいい。
また現れてくれ。
今度は零さないように抱いていよう。
私のものだと、私が守るのだと声をあげて叫んであげる。
だから……
もう、痛くは無いんだ。
もう、寂しくは無いんだ。
熱いアスファルトの上で冷たくなった千尋
さようならは言わなかった。

何度も尋ねて来ればいい。
今度こそ零さずに拾い上げて見せるから!
何度でも、何度でも、お前が大切なんだと答えてあげるから。
おかえりと迎えて見せるから……。

この本の内容は以上です。


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