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1

真夏。
愛梨は、室内プールで気持ちよく泳いでいた。
そろそろ夕方になる。彼女はゆっくり上がり、プールサイドを歩いた。
二十歳の健康的な体。白のビキニ。愛梨は男たちの視線を感じていたが、悪い気はしない。
髪は明るい茶に染め、肩に少し触れるくらいの長さ。
愛らしく、魅力的な表情を見せるが、目力を思わせる目の強さが特徴的だった。

愛梨は更衣室に入ると、すぐにシャワーを浴びようと思った。
「・・・・・・」
だれもいない更衣室。この時間帯にしては珍しい。彼女は少し気になり、部屋を見渡した。何か気配を感じるのは気のせいか。
「どなたかいますか?」
怖いので声を出してみたが返事はない。
愛梨はシャワーを浴びるのをやめ、さっさと着替えて帰ろうと、ロッカーを開けた。
そのとき、ちょうど携帯電話が振動した。見ると店長からだ。彼女は居酒屋で働いている。
「はい」
『愛梨チャンか?』
「はい。どうしました?」
『明日休みになってるけど、出れる?』
店長の小林は優しい、きさくな40歳。一生懸命働く愛梨をいちばん信頼していた。
「大丈夫ですよ」
『良かった。蟻が十!』
愛梨は無視した。苦笑がウケたと勘違いして、また使いたがる世代だ。
『蟻が十でダメなら、センキュー、サンクス、月2回!』
「用件はそれだけですか?」
『滑った?』
「以前の問題だと思います」
『厳しい!』咳払いすると、小林は本題に入った。『実は前から言おうと思ってたんだけどさあ。ブログ見たぞう』
「嘘・・・」愛梨は赤い顔をした。「恥ずかしいですね」
『でも大丈夫か? あんなに有名漫画家とかバッサ、バッサ斬って。破れ傘の悪人狩りじゃあるまいし』
「・・・悪人?」
『生まれてないか。でも逆恨みとか怖いじゃん』
「風刺と言ってください風刺と」愛梨は誇らしげな笑顔で言った。「歪んだ考えを持った人が居酒屋の店長ならまだしも、漫画家とか作家だったらまずいでしょう」
『そうだな・・・て、居酒屋?』
「とにかく、あたしは自分のスタイルを変える気はありません。風刺しまくりますよ」
『・・・そのことは、また明日話そう』小林は渋い声で呟くと、電話を切った。
「ふう」
愛梨は携帯電話を置くと、Tシャツを掴む。音。ドキッとして振り向く。
「どなたかいます?」
(ちょっと、ヤダ)
彼女は足がすくんだ。唇を噛んで気配をうかがう。


 


 


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2

気のせいか。愛梨はロッカーからジーパンを出した。急いで帰ろうと水着を外そうとする。
「え?」
黒覆面が二人。
「きゃ・・・」
悲鳴を上げる前にプシューとスプレーを顔面に噴射されてしまった。全身の力が抜ける。強烈な眠気。
「あ・・・」
女がこんな格好で気を失ったらアウトだ。愛梨は黒覆面の腕を掴んだ。しかしガクッと首を垂れ、無念にも男たちの腕の中に体を預けてしまった。
「・・・・・・」
愛梨を床にゆっくり寝かせると、ロッカーの中の着替えやバッグなどを一人が全部持った。
「かわいいな」
白のセクシーな水着で無防備にも仰向けに寝ている愛梨。このままながめていたい気持ちを抑えて、一人が軽々と彼女を肩に担ぐと、更衣室から消えた。
愛梨。万事休すか。


「んんん・・・」
どれくらい眠っていただろうか。愛梨は目を覚ますと、すぐに異変に気づいた。猿轡を咬まされていて、声が出せない。
「んんん!」
愛梨はベッドに大の字の格好で手足を拘束され、全くの無抵抗。ビキニを取られていないのは武人の情けか。
「んんん!」
黒覆面6人に囲まれている。これは女の子にとって怖過ぎる。愛梨は激しく首を左右に振り、弱気な目で男たちを見た。
「お目覚めかな? お姫様」
「んんん!」
ボスらしき覆面男が、渋い声で迫る。
「女の子が水着姿で無抵抗って、結構スリル満点だろう?」
「んんん」愛梨は泣きそうな目でほどいてと訴えた。
「心配するな。ひどいことはしない。ちょっと話がしたいだけだ」
愛梨は落ち着こうと思った。相手は鬼畜ではない。言葉が通じる人間だ。話せばわかる。ヘタに騒ぐほうが危険な場合がある。彼女は深呼吸すると、男を友好的な眼差しで見つめた。
「最初に確認するが、名前は叶愛梨だな?」
「!」
愛梨は目を丸くした。かのうあいり。フルネームを知っている。ということは、計画的犯行か。あまりの緊張感に腰が引けた。


 


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3

「どうなんだ? 質問されたら答えなきゃ」覆面男が迫る。
愛梨は慌てて何度も頷いて見せた。
「よし」男は愛梨のおなかに手を置いた。
「んんん!」
男の手から逃れようと腰をくねらせる愛梨。そのセクシーなしぐさは、返って男たちの欲望を刺激してしまう。
「ホントにかわいいな。いい体してるし」
嬉しくない。
「愛梨。話がしたい。猿轡外すけど、悲鳴だけは上げるなよ?」
「ん」愛梨は目をパッチリさせて頷いた。
「悲鳴を上げたらスッポンポンにするよ」
「んんん!」彼女は慌てて首を左右に振る。全裸は困る。
ボスはやさしく猿轡を外した。
「お願いです、ほどいてください。男の人にはわからないかもしれないけど、怖くて喋れません」
「ほどいて欲しいか?」
「はい」
「わかった。ほどいてやる」ボスはビキニの紐をほどこうとした。
「何をするんです!」愛梨は怒った。
「ほどいてと言ったのはおまえだぞ」
愛梨は心底頭に来た。
「抵抗できないと思ってバカにして! あたし、泣き寝入りはしないからね。変なことしたら警察に言うわよ」
いきなり強気に出た愛梨を見て、ボスはほくそ笑んだ。
「なかなかいい度胸してるじゃねえか」
ボスは愛梨の顎を指で掴むと、グイッと上向かせた。
「あっ・・・」
「愛梨。そんなに全裸を晒したいか?」
まずい。ヘタに逆らわないほうがいい。愛梨はしおらしく答えた。
「わかった、やめて」
「よし。今度生意気な態度取ったら素っ裸にするぞ」
悔しいけど黙るしかなかった。



 


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4

ボスは、愛梨の腕や脚を触りながら話した。
「そろそろ本題に入ろう。愛梨。おまえはブログをやっているね?」
「・・・・・・」
愛梨は目を見開いた。小林店長が言っていたことが、こんなにも早く現実のものになるとは。
「どうなんだ?」
「はい」愛梨は緊張の面持ち。
「随分なことを書いているね?」
「え?」
「しかも名指しで批判は良くないよね?」
ボスが迫る。覆面をしていても目は見える。愛梨は腹筋に力を入れた。
「調子に乗ってるんじゃないよ女の子?」
怯えた表情をする愛梨に、ボスは顔を近づけた。
「パスワード。教えてくれるね?」
「・・・パスワード?」
「忘れたと言ったら全裸だよ」
「待ってください!」

愛梨は困った。パスワードを教えたら、この場でブログを消されてしまう。
「パスワードだよ」
暴力に屈したら、今までの勇気は嘘になる。それに、渾身の500ページを消されるのは辛い。
「ブログと体とどっちが大事だ愛梨チャン」
いやらしく内股を触ってくる。愛梨は慌てた。
「待ってください! 待って、触らないで!」
愛梨は呼吸を整えると、真顔で聞く。
「もしもパスワードを教えなかったら、ひどいことをするの?」
ボスは大きくため息を吐くと、後ろを振り向いた。
「おい。この子、まだ自分の置かれている立場をわかっていないみたいだ。教えてやれ」
「待ってました」
二人の覆面男が愛梨の水着に手を伸ばす。
「え?」
いきなりビキニの上下を剥がしにかかった。
「待って! 待って! 待ってください!」
待ってくれた。
「はあ、はあ、はあ・・・」
意地を張ったために取り返しのつかないことをされても意味がない。愛梨は答えた。
「言う通りにしますから、あたしの身の安全を保証してください」
「ハハハ」ボスは思わず笑う。「いいだろう」


 


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5

ボスはよほど触りたいのか、愛梨のおなかに手を置くと、迫った。
「許して欲しいか?」
「許してください」愛梨は身じろぎしながら答えた。
「よし、おまえはいい子だから勘弁してあげよう。その代わり、家に帰ったらすぐにブログを閉鎖するんだぞ」
「・・・はい」
表情を暗くして唇を結ぶ愛梨を見て、ボスはビキニの紐をいじる。
「え?」
「閉鎖していなかったら、次はないぞ」
「はい」
「よし。おまえら。彼女をほどいてやれ」
「嘘!」
ほかの覆面男たちは驚きの目をした。
「許しちゃうんですか?」
「言うこと聞いたら許すしかないだろ」
「警察に言わないように保険を掛けましょうよ」
「保険?」
「全裸写真を一枚撮りましょう」
愛梨はドキッとした。
「貴様は野蛮人か」そう言うと、ボスは愛梨を見つめた。「写真撮ってもいいか?」
「それだけは、それだけは許してください。一生のお願いですから」
血の気が引いた顔。ボスは僅かな慈悲心が芽生えたのか、子分を見渡した。
「女の子にとって写真を撮られるのは恐怖だ。それでゆすれるからな。俺は紳士だ。そんな卑劣なことはしない」
悔しいけど、今はこの男に助けてもらう以外にない。愛梨は尊敬の眼差しをボスに向けた。
「ほどいていただけますか?」
「おお」
彼女は手足の戒めをほどかれた。水着を取られなかったのは奇跡に近い。愛梨は正直にそう思った。

彼女は服を渡された。水着の上から急いで服を着ると、アイマスクで目隠しをされ、心底残念がる子分たちに囲まれながら、車に押し込まれる。
「心配すんな。変なところには連れて行かない」

ボスの声が助手席から聞こえ、愛梨はホッとした。子分だけでは怖い。
「・・・・・・」
「愛梨。警察に言いたかったら言ってもいいんだぞ」
「言うわけないじゃないですか。許してくれたんですから」愛梨も必死だ。
「よし、信じよう。言ったら次は容赦しないぞ」
「絶対言いません。信じてください」

しばらく車は走った。どこを走っているのか。目隠しされていると全くわからない。
「着いたぞ」
車が静かに停車する。愛梨はゆっくりアイマスクを外された。
「!」
彼女は愕然となった。自分のアパートの目の前ではないか。住居を知られているというのは恐怖だ。
「降りていいぞ」
「・・・はい」
愛梨が降りると、車は走り去った。彼女は呆然と立ち尽くした。


 



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