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メールを出してから二週間後。
麻衣は和也の胸に顔を押し付け、彼の体臭とブルガリのプールオムエクストリームが混じったこの世界で彼だけの匂いを、ゆっくり深く吸い込み、指先まで幸せに満たされ、我慢しないと意味もなく笑ってしまいそうな自分に気づく。今まで一度もそんな気持ちにはなったことがなかった気がして、からかうように、男臭い、と和也に笑いかける。和也は麻衣の柔らかい髪を撫で、ウルセと言って笑う。二人の笑いを追いかけるようにゴエモンが鳴いて三人のハーモニーになった瞬間、二週間前の自分が今までで一番正しいことをしたんだと、麻衣は確信する。
麻衣が一人暮らしを始めて半年経ったとき、つまり三年前の秋、生後一月も経ってないくらいの二匹の黒猫が、アパートの一階の階段の裏に捨てられていた。
その日の午後、麻衣はバイトを休んで子猫たちを獣医に連れて行ったが、着いたときには弱っていた子は既に息がなく、ゴエモンだけを連れて帰った。
近くのスーパーで子猫用のミルクや猫缶を買ってアパートに戻り、ゴエモンを洗ってタオルでゴシゴシ拭き、ベッドの上にそっと置いて隣に寝そべる。ふと、この子にはゴエモンという名前がぴったりだね、私と同じで兄弟を子供の頃に亡くしたんだね、ずっと一緒にいてあげるからね、と考えている自分に気づき、「お前の名前はゴエモンだよ、すごくぴったりでしょ?」と声に出して言う。
するとゴエモンはまだよく見えていなそうな目を開けて一声鳴いてよちよち歩きで麻衣に近づき、麻衣の鼻に頭を擦り付け、頭を撫でてやると指をくんくんと嗅ぐ。麻衣は起き上がってゴエモンをそっと抱きかかえ、きっとこれから一生、ゴエモンは私のそばにいるんだ、もう二度と独りにしないからね、と涙ぐみながら思う。
だから今、ゴエモンが和也の膝の上で静かに、満ち足りたように眠っているのに気づいて、麻衣は少し落ち着かない。上手く言葉にできないけど、何かこれまでと全然違うことが起きてしまったように感じる。もちろん初めて和也と寝た二回目のデートの後だって、人生がちょっとだけ方向を変えたように感じはした。けれど自分ではなく和也の手に頭をこすり付けているゴエモンを、二人から少し離れてまるで仲間外れにされているように感じながら見ている今の方が、ずっと強く、自分の生活がこれまでとは違ったコースに入ったんだと感じさせる。
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奥付
表紙写真・デザイン: browneyes
発行所 : ブクログのパブー(http://p.booklog.jp/)
運営会社:株式会社paperboy&co.
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じのん