| 作者 | じのん | 状態 | 完成 | ||
|---|---|---|---|---|---|
| カテゴリー | 小説・ノンフィクション (恋愛, 文芸) | 価格 | 100円(税込) | ページ数 | 9ページ (Web閲覧) 14ページ (PDF) |
| タグ |
恋愛短編性 |
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あるキャバ嬢とその客の恋のお話です。
* 一部性的表現があります。ご注意ください。
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1
街から車で十分程の伊織の部屋。梅雨が始まったばかりの五月下旬。ユウジは伊織の膝の裏に舌を這わせ、伊織はため息をついてユウジの指を探る。雨の音が六畳の部屋に静かに満ちて伊織が漏らす音と重なり、ふたり分の湿り気が空気を重く、柔らかくする。
ユウジの指は、初めて体を合わせたとは思えないほど、何もかもわかっているように伊織に触れる。その張り切った乳房、固く充血した乳首、ふっくらと柔らかい肉のついた腰。それがどこでも、彼の指先が触れるたびに、肌が薄く剥がれ、快楽が自分の真ん中を通って甘い息となって漏れる、伊織はそう感じる。
ユウジは伊織から漏れる声を聞くたびに、心臓の鼓動が一段ずつ速く強くなっていくのに驚く。初めて抱く女だからとはいえ、どこか怖い。あともうちょっとで理性という理性から抜け出し、目を剥いて言葉を失い、獣になってしまうという恐れ、あるいは憧れが膨れ上がり、伊織に腰を打ち付ける。
伊織の肉に分け入り、奥の壁に、これ以上はないほど硬く熱くなったものを、突き当てる。伊織がそのたびごとに腹の奥から、甘い匂いの息と切ない音を漏らす。ユウジはその匂いのすべてを、ひとかけらも残さないように深く吸い込む。それと同時に、自分を揺さぶり、奥へ奥へと導く伊織の声が耳の中で何度もこだまする。
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2
ふたりが出会ったのは一日と数時間前の金曜の夜。伊織はある交差点で豊かな胸の谷間を晒し、背中の開いた黒いドレス姿で立っていた。そこがもし、ごった返す歓楽街ではなかったとしても、一見してキャバクラの呼び込みだとわかる派手派手しく安っぽい女の姿。ただ、色とりどりの女たちの中でも、輝くような白い肌を見せつけていた伊織は、十数メートル前からユウジの注意を惹いていたし、伊織自身もなぜかユウジが自分の方に来るという確信を抱いていた。それがすぐに現実に変わって、伊織は所在なげにおろしたままの小さな呼び込み用の看板を胸の前に持ち上げ、笑顔を作って自分からも一歩、ユウジに近づいた。
それは毎日何千何万回と繰り返される客と客引きの出会い。本当ならすぐに顔も会ったことすらも忘れてしまう出会い。その時もいつもと同じように、伊織はユウジに、すごく安いの、こんなに安いところないよ、と声をかけ、ユウジは値段を確認して彼女について行く。
ユウジは一人っきりのキャバクラなんて初めてだと思いながら、笑顔を浮かべて何かと話しかけ、質問する伊織を見、彼女がどこか、高校の時に片思いだった女に似ていることに気づき、よかったら俺についてくれない? と聞いてみる。と、伊織はほんの少しの間ユウジを見つめ、呼び込み代わってくれる人いたらなぁ、と答える。
数分後、伊織が隣に座り、ユウジは一時間の予定を二時間に延ばしてお互いのことばかりを話し、聞く。それは不思議と、久しぶりに会った友達同士のように落ち着く時間で、ユウジは終わり頃につい、上がったら来てくれないか、と言って名刺を渡し、近くのファミレスで待った。が、伊織が上がるはずの二時半を二時間過ぎても彼女は姿を見せなかった。その日の午後の便で東京に戻る予定だったユウジは、ホテルでぎりぎりまで眠った。だが結局ユウジは、飛行機をキャンセルして次の日に振り替え、また伊織の店へと向かい、昨日と同じ場所で呼び込みをしていた伊織に近づく。
伊織はユウジの顔を見て、一瞬とても強い喜びを感じたことに自分で驚きながら、帰るって言ってたやん、と、わざといぶかしげに言う。ユウジは別に急ぎじゃなかったからと言って、また俺についてほしい、と言う。色は同じだが、昨日よりも少し肌を隠した作りのドレスを着た伊織は、ちょっと考え込むように口に手を当て、今日はまだ呼び込みできる子来てへんねん、無理やわ、と言う。
「その子あとどれくらいで来る?」ユウジが聞く。
「二時間くらいかなあ」
「じゃあその頃また来る」
そう言ってユウジが歩き出すと、伊織は追いかけて腕を取り、「そこの角曲がってしばらく行くとxxxって店があるねん、そこで待っててくれへん? 電話入れる」と言う。
それから約三時間後、ジーンズ姿の伊織が店に姿を現す。カウンターに座ったユウジの隣に、ほんとに待ってた、とぼそっと呟いて座り、早引けした、と言って笑う。
「そうか、来てくれてありがとう」ユウジが言う。
「どうして帰らんかったん?」伊織が聞く。
「寝過ごしたから」ユウジが言う。
「そう」伊織が言って、黙ってたばこに火をつける。
「昨日、待ってたの?」伊織は煙を真横に吐いてから聞く。
「うん、まあな」ユウジは汗を袖で拭いながら答える。
「バカやね」と言って伊織はシャネルのバッグからハンカチを取り出し、ユウジの額の汗を拭った。
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奥付
伊織の部屋
2008/6/14 脱稿http://p.booklog.jp/book/25350
著者 : じのん
Facebook:http://www.facebook.com/jinon.jp
表紙写真・デザイン: browneyes
運営会社:株式会社paperboy&co.
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