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第二の首都、セント・フェリーナ

 リップスは、セント・フェリーナ空港に着艦した。ボーディングブリッジを架けてもらい、船長は早速天候調査と称して、民間航空機会社、ビザリー・エアのスタッフルームに、旧知の友人を訪ねた。すると、早速スタッフのうちのひとりが、ジョマ・グリシアに向かって声を掛けてきた。

 

「おい、お前、ジョマ・グリシアでないの? いやあ、何やってんだこんな所で! 久しぶりだなあ……」

「や、やあ、準正規軍リップスの、船長をしている」

「マスコミ屋のお前が? 信じられない……おーい、みんな来い! 空軍にいた、へっぽこグリシア君が来たぞー!」

「なに? あの、へっぽこグリシアが? 本当だ!」

「やあ、どうもどうも。メルグヴィッツ市から、急患を運んだから、マッハ2.7で隣町まで来たので、そのついでに、ここでキャラバンを開くことにした」

「マッハって……無茶するなよー。で、機体は何だ?」

「陸軍のバトルシップ、ピッツリー7570の払い下げ品だ!」

「お前! よく事故らなかったな。無傷でいられるのが奇跡だぞ!」

「俺も、あの頃のような、へっぽこグリシア君じゃないよ」と、はにかみながら笑った。

「ま、まあ、天候調査に来たなら、折角だから、ブリーフィングをしよう。まあ、座れ。珈琲でも飲め飲め!」

「ああ、美味しくいただくよ」

「で、早速なんだが、お前が言ってた、4日後のセント・フェリーナ周辺の気候だが……」

 

 一方、ラルタ・ニーナは、早速開かれたキャラバンのレポートをしている。もちろん、カメラマンはナバス・クルク。

 

「皆様こんにちは。キャラバン、リップスに同行取材している、記者のラルタ・ニーナです。前回、私がメルグヴィッツ空港のロケで、これからビザリナ北部のブルコニッツ空港へ行く、と申し上げましたが、その後の天候調査で北へ向かえないことが分かり、急遽予定を変更して、いまわたくしは、ビザリナ南部、古都、セント・フェリーナ空港に来ております。セント・フェリーナは、敬虔な祈りと、古い文化遺産に満ちた街であり、一種独特の文化圏を形成しています。そんな静かな都、セント・フェリーナ市でも、このようにキャラバンのためのキャラバン、ジプシーのためのキャラバンとして、リップスが活発に商取引を行っています。意外な事に、スタッフの老人自ら店頭に立ち、骨董品の品定めに当たっています。ここでの滞在は今日から3日間。国内線28番ゲートのボーディングブリッジからもお越しいただく事が可能となっております。また、在庫限定品の海の幸、小麦製品などは、はるばるリズアーモからもたらされたものです。このチャンスをお見逃し無く。以上、ビザリーニューズ社の、ラルタ・ニーナが、セント・フェリーナ空港からお伝えいたしました」

「はい、カット!」

「ふー、スポーツドリンクを頂戴、クルク!」

「ほらよっと!」

「サンキュー! あれ、いま試写見てるんだけど、あたし、こんなにおでこ光ってた? いやー、恥ずかしい!」

「汗かいてたから、誰でもなるよ!」

「撮り直しも面倒だし……仕方ない、本社へ送信するわ……ぽちっと」

 

 一方、コックピットでは、イプス・カイザルが警備ついでに、いろいろな計器類のテストを行っていた。船が乗っ取られないように、常に警護しなければならない決まりになっている。カイザルがコックピットに座っているだけで、絵になるというか、頼もしい限りだ。

 

 その頃、ムーヴァーの格納庫では、つなぎの作業着に着替えたナバス・リームと、ビザリナ風の普段着に着替えさせられた、チャタ・ナーディルが、ちょっとした問答になっていた。

「どうなんだ、お前、親父さんところへ帰るのか、それとも、姉ちゃんと行動を共にするのか、はっきりしなさいよ!」

「うるせえなあ……姉貴に付いて行くしかねえだろ? ムーヴァーだって動力炉壊されて!」

「鉄道で帰れよ。協力する気がない奴を食わしていけるだけの余裕はないからね!」

「じゃあ切符くれよ!」

「それなら、カネ出せよ! ひ弱のお坊ちゃまが、生意気言ってんじゃねえよ。いいか、あの親父さんは、ファーナを溺愛し過ぎてる。お前も溺愛されすぎている。このままじゃ良くないと、お姉さんは思うのだ」

「じゃあ、どうすんだよ」

「お前、今日からあたしのメカニック手伝え! 剣も教えてやる! 腕っ節だって鍛えてやっから、付いて来いよ! 絶対に損はさせねえ!」

「畜生……しゃあねえな……メカ、教えてくれよ。あそこにぶら下がっている、オレのムーヴァー直してくれよ」

「うん、まずはそこから直そうか。いや、お前、みんなのムーヴァー、磨くとこから始めろ」

「はあ?」

「メカニックについては、あたしの背中を見て、技を盗んで覚える。当面はそうしよう。決まりだ」

「ちっ!」

「てめ! 舌打ちしてんじゃねーよ! さっさと磨く! あ、男手が必要になったら呼ぶから、お前、重いもの持てよ、いいな」

「か、勝手に決めんなよ!」

「おしゃべりはこれまでだ。お前の性根を鍛え直してやる! さあ、来い!」

「わかったよ……やりゃーいいんだろ、やりゃー」

「随分物わかりが良くなったな。お前を、この手で、一人前のメカニック担当にしてやる!」

 

 一方、ここは売る側のキャッシャー。レジスターが置いてあるところだ。そこで、ファーナがお客さんに向かって声を上げた。

「はーい、皆さん、キャラバン毎に1袋限定、お魚詰め放題セール! 塩漬けにしてありますので、オリーブオイルで焼くだけ簡単! 美味しく召し上がれますー。スタート!」

 群衆は我先に、魚をビニール袋に入れようとするが、なかなか上手く入らない様子。生魚を扱ったことがない人たちばかりだからだ。いつもは缶詰になっているので、勝手が違っていた。

 

 そして、こちらでは買う側のキャッシャー。長老と、ブリーフィングから戻って来た船長が、ビーム砲の品定めをしている。

「ええ、それはもう、状態の良い品でして、正規軍が使用しているものと同等品で、射程は最大200キロメートル。ジャンクにしておくのが勿体ないぐらいで……」

「いや、ジャンクは買えないなあ……。暴発されても何の保証もないんで。保証書の付いているものをお持ちの方! いませんかー?」

「いや、ジャンクも予備で買うのじゃ。スペアとしてな。但し、定価の十分の一でな」

「それで結構でございます。品物は確かなので、どうぞお納めください」

「はい、キャッシュ。お売りいただき、ありがとうございました」

「どなたか、7570につなぐことが出来る、正規品のビーム砲お持ちの方、おられますかー」

 とても忙しい。

 

 コックピットには、カイザルが座っていたが、ラルタ・ニーナと、ナバス・クルクが帰って来たので、カイザルはある事を訊いてみようと思った。

「クルク、あいつ……ファーナの弟はどうした?」

「あいつなら、リームに説教されてた。調教するつもりなんじゃない?」

「面白そうね。気が強い者同士、お似合いなんじゃないかしら?」

「ふうん……そうか……なら、良いんだがな」

 カイザルは、納得したのか、また黙った。が、次の瞬間……。

「いかん。オレとしたことが……。キャラバンに燃料を小売りするのを、忘れてた……」

 カイザルは早足で廊下を船の下弦へと歩いて行った。

「何で、カイザルまで張り切っているのかしら……もしや、売り上げ競争?」

「そういうこと。船長がおひねりを出すっつーから、みんな張り切っちゃって」

「それでファーナまで、あんなハイテンションだったのねー、欲っちいな……」

「僕も、ジャンクパーツ売りに行きますよ! 稼ぐぞ稼ぐぞ-、それ行けー!」

「クルクまで! やれやれ……さてと、レーダーの監視でもしますかね……珈琲淹れようっと」

 

 コックピットは静かになった。ニーナひとりがレーダーや、気象観測衛星、監視カメラ、メッセージや無線の送受信を行っていた。そこに、レマーユがやってきた。

 

「あれ、ニーナさん、おひとりですか? 兄はどこへ……」

「クルクかい? クルクなら、売り上げ競争だ、って言って、飛び出して行ったさ」

「私の喫茶店も、在庫が尽きちゃって……食器洗って帰って来ました」

「じゃあ、茶葉とか珈琲とか、この時期アイスクリームなんかも仕入れましょうか!」

「賛成です! あと、カップとソーサーが足りません。食洗機の洗剤なんかも」

「うん、わかった。お姉さんに任せて! こういう時の、人脈もあるのよ」

「人脈ですか……?」

「ビザリー・ニューズ社、セント・フェリーナ支局。ちょっと支局長に電話するわ」

「なるほどー! すごいですー」

 しばらくすると、ボーディングブリッジの方から、台車に食器やらスイーツやら珈琲やら紅茶などを積んだ、ビザリー・ニューズ社、若手社員が数名やって来た。

「よっ、待ってたぞ! こっちこっち!」

「ラルタ・ニーナさん……初めまして。ビザリー・ニューズ社、支局員若手有志です!」

「早速だけど、この娘のお店、地上のカフェテリアまで、それ全部持っていって、荷ほどきしてくんない? 棚への陳列もよろしく」

「それはもう、ニーナさんのご友人とあれば、何だってさせてもらいますよ」

「じゃあ、カフェテリアの運営の手伝いも、閉店までよろしくね! 私から支局長に電話で言っておくから、残業代付くわよ」

「はーい、分かりました! お前ら、行くぞー!」

「うん、結構、結構! レマーユちゃんにもご褒美が行きますように……っと」

 

 かくして、壮絶な売り上げ競争、第1日目、終了。


セント・フェリーナ空港、二日目!

 セント・フェリーナ空港、二日目。長老、セペル・チェルダードが、作戦会議室(食堂)のホワイトボードの前に立ち、みんなに説明をしている。今日の販売体制の確認と、非常事態時のフォーメーションの確認をしていた。キャラバンのためのキャラバンは、今日もここ、古都セント・フェリーナ空港で行われる。

 

「今日は陸軍のお偉いさん……と言ってもワシの元部下じゃが、お偉いさんが商談に来るので、ワシとグリシアは、ビーム砲装置の正規品の商談に入るので、午後じゅうずっとかかりきりだ。レマーユは今日一日喫茶の用意を。グリシアは午前中、ビーム砲の必要スペックに関するレジュメを作り、昼までに提出するように。午後から商談に同行すること。ニーナはわしらにコーヒーと、ブリーフィングを共に。クルクとファーナはキャッシャー。カイザルはキャッシャーや喫茶などでの警備を。リームとナーディルは……まあ、いつも通り、メカの特訓じゃな。まあ、そういうわけで、二人抜けるので、多少忙しくなるぞ」

「はーい」っと答える女子軍団。

「ちーっす」っと答える男子軍団。

「ちっ、やれやれ……またこいつとかよ……」っとつぶやく、リームとナーディル。


グリシアが、昨日の売上報告をした。

「えー、昨日の売上第4位。料金単価が高いので、ジェット燃料を売った、カイザル!」

「おおー!」

 一同が声を上げた。意外そうだった。

「地味なのに……」

「そして、昨日の売上第3位。チャタ・ファーナ!」

 一同がどよめく。

「おおー!」

 ニーナがささやく。

「まあ、妥当な線かしらね、キャッシャーでひとり頑張ってたもの」

「恐れ入ります、ニーナさん」

「そして、昨日の売上第2位。ナバス・クルク!」

 一同が、声を上げる。

「さすがリーダー!」

「機械製品は単価が高いからね!」

「でも、1位は誰だろう……」

 グリシアが、ドラムロールみたいな口真似をして第1位を発表する。

「ジャン! 昨日の同率第1位は、レマーユとニーナに決定しました!」

 一同がざわめく。グリシアが続ける。

「これは、カフェテリアの収入だな。ニーナがビザリーニューズ、セントフェリーナ支局の手伝いもあって、修道女カフェは人気だったぞ! さあ、それぞれに賞金だ!」

 リームが遮る。

「ちょっと待って! あたいは?」

 グリシアが続ける。

「リームちゃんには、特別功労賞として、レーザー反射型、防弾型の赤い甲冑と寸志をやろう」

 リームが小躍りする。

「やった! 今までの甲冑、少し古かったんだ! おっしゃ、ありがとよ、船長!」

 レマーユが、グリシア船長に申し出た。

「あのー、こんな大金、わたし使うところがないので、お姉様と半分こしたいのですが……」

 グリシアが言う。

「そうだなあ、レマーユちゃんの好きにしていいよ!」

 がっちり赤い甲冑を決め込んだリームが、レマーユの肩に腕を乗せる。

「さっすが、あたいの妹、よくできてるわー」

「とんでもないです。いつもリップスを守ってくれるのは、お姉様の貢献あってこそです」

「ま、小遣いは多い方がいいからな。ありがたく頂戴するぜ!」

 ナーディルが、ちょっと待て! と言った感じで制止する。

「船長……僕のは?」

「うーん、長老、どうします?」

「ナーディル! お前は捕虜という立場を忘れたのか! 黙ってムーヴァーを磨くのだな。まずはその腐った根性から叩き直さねばならぬ! お金はあるのじゃろ? 贅沢を言うな」

 長老の、怒濤の迫力に気圧されて、すっかり意気消沈したナーディル。

「はああ……」

 ファーナが声をかける。

「ナーディル、おとなしくリームの言うことを聞いてるなら、少し分けてあげても良くってよ」

「ありがとう、姉さん!」

 リームがぼやく。

「ちっ、こんな奴、荒野のど真ん中に置き去りにするがいいさ」

 ナーディルがかみつく。

「何だとコラ! 甲冑女!」

「何だとてめえ! ま、待ちやがれ! 逃げても無駄だ!」

「こっちまでおいで、ベロベロバー!」

「こんのクソガキが! 待てー! 後でムチでしばいてやるからなー」

 

 取り残されたみんな。クルクがつぶやく。

「あーあ、行っちゃった。リームを敵に回すとキケンなのに」

 レマーユがつぶやく。

「新品の甲冑を差し上げて、私の報奨金を半分こにしたいのですが……」


     ◇ ◇ ◇


 レマーユが、ファーナに廊下で声をかけた。

「ファーナさん、今日は髪型変えました?」

「そうよレマーユちゃん。基本的には変えていないけど、カチューシャのところに、エクステ風にこうやって」

「そう……可愛らしくて羨ましい……私なんか、ずっとこの修道女スタイルでしょ? 退屈しちゃって……」

「あら、それはそれで可愛らしいわよ。なんか、永遠の思春期みたいで、つややかな黒髪! 素敵じゃない!」

「え、永遠の思春期ってファーナさん……思春期……ううむ……」

 リームが、二人に声をかけた。

「よっ、ファーナにいもうと! おっす! おまえらお洒落だなあ! あたいは、さっき甲冑磨いてきた!」

「……ザリガニ?」

「……ロブスター?」

「ひどい! こいつら失礼!」

 ニーナが、こちらに向かって歩いて来た。

「あらまあ、今日も立派な甲殻類ね、リームちゃん!」

「今度は甲殻類か……ろくな言われ方しねえな……」

「ねえねえ、ファーナちゃんにリームちゃん、レマーユちゃん! 今夜は女子会と洒落込まない? その前に、リームちゃんを女っぽくドレスアップしましょう!」

 二人「賛成ー!」

「ちょっと待って、ニーナさん! あたいは、そのー。甲冑脱ぐとあまり逞しくないんで、遠慮しときます」

「何言ってんの! ドレスアップとはいかないまでも、そのザリガニファッション、時には変えてみない?」

「じゃあ、決まりね! まずはその紅く染めた髪の毛から処理ね!」

「お姉様からバトルファッション取り除いたら……わたしに似るんじゃないでしょうか」

「おおー! それは楽しみ! バスルームに直行! 行きますよ皆さん!」

「ちょ……勝手に決めんなよ! おい、待て! 離せ!」

 

 リームは、まず、赤茶色に染められた髪を、脱色して栗毛色に染められた。そして、内巻きショートボブにするために、カーリーアイロンで形を整え、鏡に向かってみんなが発した言葉がこれ。

「誰?」

「誰? じゃねえよ、あたいだ! これじゃあ、弱っちく見えるんじゃね?」

「それがいいんじゃない。あら、眉毛は描いていたのねー」

「さあさ、甲冑外して外して……」

「おい! あたいを素裸にする気か! やめろ!」

「大丈夫、衣装部屋には商品含め、たくさんのストックが」

「諸君、ナバス・リームちゃんを、衣装部屋に連行だ!」

「ラジャー!」「はいはい」「って! 両腕を持つな! 逃げねえから!」


 衣装部屋の中で、リームたちがドタバタガサゴソ音を立てた後、やがて止んだ。

「中に……キャミソールなんて初めて着た……スカート……なんかスースーする……」

「素朴なファッションが、また良し! お姉さん感激!」

「女の子らしくなりましたね、お姉様!」

「うるせえよ!」

「磨けば光る天然素材! あとは、サンダルかな? あ、甲冑は倉庫に入れて施錠して」

「サンダルなあ……ヒールの高い靴は履いたことがねえ……って、施錠って何だよ?」

「この鍵は、明日まで、このわたくし、ラルタ・ニーナさまがお預かりします」

「なんだと? じゃあ、もし、突然ここでバトルが始まったら、こんなフリフリの衣装のままで出撃すると?」

「そうね、そういうことになるねー」

「後は、眉毛を描いて……ジャーン! クリームのようなリームちゃんの出来上がり!」

「……」

「すばらしい! お姉さん感激!」

「ファーナも感激! レマーユちゃんそっくり!」

「あ、まあ……な。いちおう姉妹だしな……」


 そこへ、リームを探しに武器庫から出て来たチャタ・ナーディルが姿を現した。


「あのー。レマーユさん、お姉さんを捜しているんですが……うわぁ!」

「あ゛あ゛~!?」

 リームとしては、ものすごく恥ずかしい。

「ひっ! 本物!?」

「誰がレマーユだと、コラ!?」

「ひえー、たっ、たっ、助けてくれええええー」

 脱兎の如く逃げ出すナーディル。

「ぜい、ぜい、ぜい……まさか本当にレマーユに間違えられるとはな……あたしとしたことが!」


ビザリナ陸軍とトップ会談

 一方、こちらは、商談中のチェルダード長老と、グリシア船長。そして一方、ビザリナ陸軍の女傑准士官、イエラ・ミラルディさん。そして“ラスボス”、カルバ・ラナリット陸軍大佐が、普段リップスに来ない、セント・フェリーナ軍管区の幹部である。あとは、部下を引き連れて、ピッツリー7570滑空式航空母艦内の応接室へとニーナが案内した。


「大佐、こちらです」

「うむ。やあ、チェルダード元大佐、お元気そうで……」

「おお、カルバくんか。久し振りじゃのお……あ、これは、ビザリーニューズ社の社員で、リップスに人材派遣契約されている、船長のジョマ・グリシア。空軍フェリーナ基地で3年の兵役経験がある」

「どうぞよろしくお願いします、ラナリット大佐」

「うむ、うむ」

「では、お掛け下さい」ニーナが着席を勧める。取り巻きの兵士も、別室で控えている。


 応接室で、長距離レーザービーム砲を軍から購入しようとする商談が始まった。まず、イエラ・ミラルディ準正規軍総指揮官、陸軍准士官が口火を切った。他の男性たちは、西ビザリナ(バイザル皇国)と、東ビザリナ(ビザリナ共和国)を俯瞰した地図を囲んで腕組みをしていた。

「対するバイザル皇国軍は、地上部隊を増強、首都ジェンツや、アーツウォークなどのウルロア川沿岸に展開、それを、陸軍の空挺部隊と、空軍が空から叩いている、と言ったような状況がここ一~二年は続いています」

 

 カルバ・ラナリット陸軍大尉が、チェルダード元大尉に告げた。

「チェルダード元大尉、本気でレーザービーム砲で、皇国軍とやり合うおつもりか? 止した方が良い、あなたがたのような民兵組織には危険すぎる……荷が重い」

 

 イエラ・ミラルディ準正規軍総指揮官(准士官)が続ける。

「準正規軍を統べる立場から申し上げると、いま首都ジェンツでは、首都特別警察と陸海空軍合同で、バイザル皇国軍の首都侵攻を食い止めているところです」


 チェルダードが、切り出した。

「住民に食料や物資は行き渡っておるのかね、正直なところ……」

 カルバ・ラナリット陸軍大佐が、少し申し訳なさそうにつぶやく。

「それが、地下シェルターに住民をかくまっているような状態で、まるで戦争被災民のような有様でして……」

 グリシアが驚いて聞き返した。

「首都ジェンツが、そんなことに……」

 ミラルディ準正規軍総指揮官(准士官)が答える。

「対岸からロケット砲が飛んでくる有様でして、物資も尽きる頃だと……まあ、定期的に海軍がジェンツの港から物資を運んで、陸軍がシェルターに物資を運んでいるという有様で……」

 セペル・チェルダードは、ジョマ・グリシアに耳打ちした。グリシアは納得した様子で相づちを打った。チェルダードが切り出した。

「よかろう。是非この7570を完全武装化し、物資の空輸は私共にやらせていただきたい。お願いできるかのお……」

 ラナリット大尉と、ミラルディ准士官が耳打ちをする。そして、こう言った。

「よろしいでしょうか、命の保証はありませんよ」

 チェルダードが応える。

「我々は民兵といえども、訓練を重ねた精鋭部隊じゃ。むしろ、そういうところへ出かけて行って、一戦交えつつも、住民に物資を配りたい。ぜひ、払い下げ母艦を完全武装化して欲しい。危険を察知した段階で、急速に内陸部に待避する。これをお願いできんかのお……カネならはずむ。責任は自己責任で。これがこちらの条件じゃ」

 チェルダードが、懐から6000万ミントの小切手を差し出すと、ラナリット大尉と、ミラルディ准士官は度肝を抜かれた。ラナリット大佐が驚いて訊いた。

「こんな大金、どこで?」

「日々のキャラバンの結果じゃよ。キャラバンのためのキャラバン。我々は軍事訓練を積むと同時に、隊商を行っていて、どの空港に着いても感謝感激されとるよ」

 ラナリット大佐と、ミラルディ准士官が顔を見合わせ、耳打ちを相互にし始めた。いわゆるひそひそ話の類だ。それが3~4分程続くと、双方が頷き、ラナリット大尉が切り出した。

「いいでしょう。根負けしました。ここの駐機場で新型のバリア装置を2台、それから主砲1門に、レーザービーム砲10機、大至急工事に当たらせます。ただし行動に当たっては……」

「行動に当たっては?」

「あくまで無理をせずに、ジェンツの東側からジェンツ州の州境ウザビク基地に着艦し、ウルロア川には近づかないこと。それともう1つ。武器弾薬を積んで補給の応援をして欲しいということです」

「うん、うん、それでこそ我が元部下、話が早いのお……」

「ありがとうございます、船長としても、身の安全が図れて安心致しました」

「安全には留意し、こちらの准士官の指揮命令系統に従うこと。これが最後の条件」

「商談成立よ、グリシアくん、気をつけて。私たちの言うことを聞いて!」

「分かりました、ミラルディ准士官さま!」


 カルバ・ラナリット大佐は、控えの兵士およそ30名を応接室に呼び、呼集をかけた。そして、約束通り、中古のバリア装置を外し、2台に増強し、主砲1門を据え付け、レーザービーム砲10機を取り付けることを命じた。完全武装への始まりだ。


     ◇ ◇ ◇


 キャッシャー付近では、中小のキャラバンでごった返していたが、突然の兵士の出現、そして船体に着々とクレーンで運び込まれ、据え付けられる主砲やレーザービーム砲などの工事場面を見て、「うわー」と言った面持ちで、みんな機体の方向を見ていた。あるキャラバン関係者のつぶやき。

「あの主砲、軍事用じゃないか。あんなもの取り付けてどこで何をするんだろう……」

「さあ、分からん」

「まさか、国境地帯に行くとか……」

「そんなはずネエだろ、さあさ、商談の続きだ! 兄ちゃん! この塩幾らだい?」

「1袋15ミントになります」

「じゃあ、10袋おくれ!」


 ナバス・クルクは、商品を売りながらも、実は武装化されて行くピッツリー7570が気になっていた。着々と滑空式航空母艦に備え付けられて行く装備、いやが上にも緊張が高まって行った。

 ナバス・レマーユも、カフェで同じようなことを考えていた。戦争に巻き込まれるだろうキャラバンの行く末を祈って、こっそりとカウンターの中で、胸に十字を切った。


セント・フェリーナ空港、三日目!

 セント・フェリーナ空港、三日目。毎度の事ながら、朝8時。ジョマ・グリシア船長のブリーフィングが行われていた。朝食兼用で。
「昨日の軍人さんとの会議、交渉の結果、既にこの艦の完全武装化は終わっている。誰と戦うというと、不意に海上などから急襲をかける、バイザル皇国海軍や、物資を略奪しようとする略奪者だ。これから本艦は、北へ12000キロ先の、陸軍ウザビク基地へ向かい、首都ジェンツに送り届ける各種物資を前線に補給する。途中、メルグヴィッツ空港に立ち寄り、燃料の補給を行う。各員においては、緊張感を持って事に当たること」
「分かりました」「異議なーし」「了解」「傭兵の頃を思い出して、腕が鳴るよわたしは」「そんな、リームったら」「神様……」

 ラルタ・ニーナから補足事項があった。
「いま、首都ジェンツでは、みんなが地下シェルターに入り、また、難を逃れるために、故郷へ帰る人たちが続出しています。放送局はアンテナが破壊されていて、ビザリー・ニューズ本社機能は、次第にセント・フェリーナ支局を仮の本社として移転し、近日中に使用する予定です。幸い、地下のケーブル網は生きているので、シェルターの中の人にも、こちらの画像は見てもらえる状況です。食料は、陸軍ウザビク基地から、陸海空軍がそれぞれシェルターに輸送して、今のところは補給路は無事ね」
「ひどい……」「マジで?」「了解」「物騒になって来たな」「首都がそんなことに」「神様……」

 チェルダードから補足事項があった。
「なお、フラン・ドレイク大統領ら、政府高官も、ここ、セント・フェリーナに疎開政府を設けることを昨日宣言した。近日中に、ここに政府機能が仮移転する」

 全員が無言になった。ジョマ・グリシアが続けた。
「いいかみんな、我々は物資の補給の、後方支援を行う。ジェンツ州には一歩たりとも入るな。あくまで、陸軍ウザビク基地まで。それより西側に行くと、我々の手には負えない、軍事的に。そこで、我々の味方となる、陸軍准士官、準正規軍総指揮官の、イエラ・ミラルディさんの指示に従うこと。いいな」
「はい」「了解」「神様……」「レマーユな、お前、さっきから、それしか言わないのな」「でも怖い……」

 ジョマ・グリシアがファーナに向き合って話した。
「そして、ファーナさんの弟の処遇だが、密閉型の人員輸送カプセルに乗せて、ファビルシティーに自動的に送還してもいいのだが……ファーナさん、どう思う?」
「それは……弟次第だと思います。リーム、どう思う?」
「そうだなあ、最近は真面目にムーヴァー磨いてるし、舎弟を手放すのは惜しいなあ」
「グリシアさん、後ほど、弟と直接話をしてみてください。帰るのか、帰らないのか」
「うーむ、それもそうだな。後で話をつけてくる。士気にも関わることだけにな」
「お願いします」
「じゃあ、ブリーフィング終わり! どうしたみんな、フォークが止まっているぞ! 食える時に、食っておかなきゃ、準正規軍は勤まらない! 食え、食え」

 余りにも重い事実を告げられた後の事だ。みんな同様に、表情がなかなか冴えない。

     ◇ ◇ ◇

 ナバス・レマーユが、ふと、立ち上がって食事を届けに行くところだ。チャタ・ナーディルのもとへ。グリシアが彼女を呼び止める。
「レマーユ、どこへ行くんだ? ナーディルのところか? 一緒に行かせてくれないか?」
「ええ、喜んで」
 廊下を、ナーディルの居室まで静かに歩いて行った。レマーユは、軽く扉をノックすると、扉は向こう側から自動的に開いた。
「ナーディルさん、例の修道女です。お食事をお持ちしました」
「ありがとう……親父、選挙に落ちた……ははっ、はははは……」
「どういうことだね、ナーディルくん?」
「グリシアさん、親父がね、外遊のしすぎで、ファビオ上院の選挙で敗れたよ」
「どこで知ったんだ?」
「親父から、直接、ビデオレターで」
「チャタ・ディルジアさんが落選、それはどういうことだ……」
「だから、外務政務次官でもなんでもなくなったんだよ、ケッサクだろう? 保守党が敗れて、ただの田舎貴族に戻ったんだとさ、ははっ」
 ナーディルは自嘲気味に笑った。
「まあまあ、残念ですわ……お食事置いておきますね」
「上院選挙は、中道右派連合が勝利か……親父さんのところへ帰らなくていいのか?」
「遠慮しとくよ! あんな腰抜け親父なんか大嫌いになった」
「なんなら、密閉型の人員輸送カプセルに乗せて、故郷へ強制送還してもいいのだが」
「ちょ、ちょっとやめてくださいよ、グリシアさん、オレはここのスタッフになりたいんです、どうか、お願いします」
「きゅ、急にお願いされてもだなあ……長老やリームが何て言うか、お願いしてみないとなあ」
「伯父や姉には私からもお願いしておきます」
「助かるよ、行くとこ無くて困っていたんだ」

      ◇ ◇ ◇

 コックピットまで戻って来たグリシアとレマーユを、みんなが迎えた。
「ど、どうした、そんな弱り切った顔をして……」
「あいつ、また何かしでかしやがったんだな! 叩き斬って来る!」
「ちち、違うんだ! チャタ・ディルジアさんがファビオ上院に落選し、ただの民間人に戻ったというビデオレターがご本人からあって!」
「ファーナさんの弟さん、行くとこ無くて困っているんです。スタッフになりたいって!」
「うそ! お父さん落選したの?」
「長老、船長、間もなく、チャタ・ディルジアさんからの無線通信が入ります、スタンバイ!」
「わかった」

 画面の向こう側には、すっかりやつれきった、チャタ・ディルジアの顔があった。
「どうも、リップス責任者、セペル・チェルダード元陸軍大佐……」
「話は大体聞いておる。まずは、残念じゃった……」
「はい、先般の襲撃、お詫び致します。故郷ドリアーゴの屋敷に籠もってしばらくは生活をしたいと思います。お願いですから、ファーナ、ナーディルの事は宜しくお願いします」
「うん。でなあ、あなたがたお貴族じゃろ? ひとつ相談が……」
「と、いいますと?」
「ビザリナのどこかの、ジェット燃料の貯蔵タンク、満杯にして、油を買ってくれんかのお……燃料について、大変困っておるのじゃが……」
「それはお安いご用です。早速秘書にメルグヴィッツ空港のタンクを手配させます。貯蔵タンク2個分なら、リップスさん専用にできるかと。わたくしの方からも石油会社に連絡いたします」
「ありがとう。お礼を言うよ、ディルジアさん。お子さんには皇国軍に指一本触れさせません」
「同盟国のお役に立てるなら、それは本人達も本望でしょう。宜しく頼みます」
「じゃあ」「では」
 画面の映像は、プッツリと切れた。そして、椅子をくるりと回転させて、チェルダードがほくそ笑んだ。
「うっしっしっし、まんまと燃料をせしめてやったわい!」
「って、長老!」
「済まないのお、ファーナさん、親父をだまくらかしてやったぞ」
「もう、長老さんったら!」
「ナーディルもごめんなあ……」
「それぐらいしてもいいよ、あんな親父だったら……」
「我が伯父ながら、本当に汚い! 意地汚い! ああ、いやだ!」
「まあまあ、クルクったら……」
「よし、何万ガロンといったジェット燃料が我がリップスにもたらされた!」
「素晴らしいです、船長さん!」
「じゃあ、あたいらがカネに困ったら、チャタ・ディルジアさんを頼ろうぜ!」
「もう、リームったら……」
「転売しても……利益は出るなあ……」
「カイザルまで!」

パウダールームのヒロイン争い!!

 ここは、キャラバン「リップス」の船内。船と言っても、何故か空を飛んでいる。それもそのはず、SFによくありがちな、メインのバトルシップ。つまり「滑空式航空母艦」な訳でして、空母などという、軍事用の船の入手の経路はさておき、ここは船室を改造して作られた広間、パウダールーム。通称「女部屋」の素顔をちょっとだけ拝見することにしましょう。賑やかですよー。うるさいぐらいに。それはもう、はい。

 

・ファーナさん(隣国ファビオのお嬢様)
・リームさん(主人公の姉で女剣士)
・レマーユさん(主人公の妹で修道女)
・ニーナさん(現役ジャーナリスト)

 

<天の声>

「さあ、君たちの中で、誰が一番ヒロインに相応しいか、競争してみるがいい。私はこれで去る。では、がんばってくれ給え」

 

「あん? 今、誰か何か言わなかったか?」

 リームさんは野生の本能があるらしく、天の声がきちんと届いたようだった。屋内にいても、風呂の時以外は、重たい赤いスーツというか、赤い甲冑を常に身につけている。

「あ、あたしも聞こえたみたい。この中から、ヒロインに相応しい人は誰でしょう、ってお話が」

 ファーナさんは、天性の勘というか、第六感が働くらしく、確実に天の声を聴いていたようだった。まあ、天然、と言ってしまえばそれまでだが……。

「おい、レマーユ、何念仏唱えてるんだ。今はヒロイン争いの時間だぞ!」
「……さあ……祈りに夢中で、何も気づきませんでした」
「まったく……祈ったところで、神様は
何もご褒美くれやしねえぞ!」
「実は、私も聞こえたの、って、原稿送信完了っと」

 ロン毛の年長者が、情報端末の前からくるりと皆の方を向き直った。そして、やおら言い放った。

「ヒロインは、副船長でもある、この私ね。あなたがたとはキャリアが違うしスキルも違うわ。伊達に、長年ジャーナリストしていないもの」
「ちっ、馬鹿馬鹿しい。そんな事務方みたいなヒロインがあって堪るかってーの。やっぱ女は度胸と強さだ。なので、アタシの勝ち。不戦勝ってか」
「待ちなさいよねー。何勝手に言ってるの。ヒロインは、このファーナさまでしょ。格式が違うのよ、庶民とは。こーんな赤いザリガニみたいなのがヒロインなんて、絶対あり得ない」
「コラ!! アタシを指さして、ザリガニとは何だよ。失礼だなあ! アタシに謝んなさいよ!」
「筋肉バカがえらっっそうに」
「バカたあ何だ!!」
「なによー? スウォードで勝負する気?」
「上等じゃねえか!! だいたい普段から、鼻持ちならないお貴族風情が気に入らねえ」
「ちょ、ちょっと、やめなさい二人とも。ここは、穏便に。ファーナさん、ザリガニ発言を撤回してちょうだい。そうすれば、丸くおさまるから、ね、ね」
「誰がこんな甲冑女に謝るものですか。だいたい普段から、筋肉バカっぷりが嫌で嫌いで」
「なんだとこらああ!!」
「もう、いい加減になさい。これ以上やると、私も我慢の限界というものがあるので、喧嘩はおよしなさい」
「ばっきゃろー!! 年増は引っ込んでろ!!」
「そうよそうよ、なに保護者面してるの、バカみたい」
「な、なんですってええええ!! きいいいいー」

 三人とも、SFによく出てくる、レーザー光線系の剣を取り出して、構えた。そうして、ファーナがリームめがけて剣を振り下ろした。そこへ割って入るニーナ。


「乱暴はやめてって!!」
「うるせえ!! 謝るのが、先だろう!?」
「まだ懲りないのね、あんたたち!!」
「まず張本人のお前が謝れ!!」
「絶対に嫌!!」


 命がけの内輪もめだ。ギリギリと光の剣は迫り、頬を青白く染める。そこへ、窓際で祈っていたレマーユが、開いた呪文の書の上に十字架を置くと、なにやらつぶやきはじめた。すると、三人の脚は下から急速に凍って行き、やがて、熾烈なレーザー光もぷっつりと止んだ。

 そう、出来上がったのは、瞬間冷凍ヒロインたちだった。そうして、レマーユが呪文を終えると、面倒くさそうに本を閉じ、十字架を首からかけ、収納した。

「お姉様方、しばらくアタマを冷やしてください。真のヒロインは、レマーユさまー。ばんざーい。さて、晩ご飯の支度をしなければ……」

 と、低エントロピーな声でつぶやきながら、そそくさと部屋を後にした。

 

 さて、彼女たちは、いつ解凍されるのだろう。それだけが気がかりだ。



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